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碧の死神 "Beyond heat haze"  作者: dispense
微かな記憶
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蹂躙

 特殊部隊としての自分と、高校生としての自分。翠は日常と戦場の乖離に悩み、首を締める。

 午前11時41分。街角の外れにある賃貸事務所にてタイプAのファントムが出現。数は4体。現場の職員は全員死亡。駆け付けた装甲機動隊がバリケードを作り、タイプA達が町へ出るのを何とか防いでいるといった状況だ。

 タイプAは図体こそ巨大ではないが、目が潰れた蜥蜴の頭部にそのまま手足が生えたような不気味なシルエットで、巨大な鉤爪と強靭な脚力も持ち、最大の脅威として体内で形成した槍状の固形物を口内から射出する。時速160km/hで射出される槍は返しのない洗練された単純な形状で、容易く人体を貫く。

 出動したハーベスターは二人。高那 翠とケルディー・カーベック。事務所の前に設置された何重ものバリケードの裏で現場の装甲機動隊に情報を聞いている。



「数は本当に4匹だけか」



 カーベックは盾を持った隊員に聞く。



「4匹だけです。こちらは再突入する準備は出来ています」



「いや駄目だ。機動隊はこのままバリケードで逃げ道を塞げ。何があろうと外へ逃がすんじゃない、いいな」



「了解」



 会話を終えたカーベック。彼はバリケードから離れ、事務所全体を見渡すように歩き出す。目の前の賃貸事務所は2階建ての長細い作りだ。1階の玄関は機動隊のバリケードで見えない。



「翠、上からだ」



 彼は翠の肩を叩き、2階の窓を指差す。



「入れるのか?」



「大丈夫だ、俺についてこい」



 カーベックはそう言って走り出した。建物と建物の間に建築された事務所は、丁度両側に壁が出来ている。彼は右側の建物の方へ跳躍し、コンクリートの壁を蹴る。斜めから事務所の二階の窓を突き破った。それを見た翠は彼と同じように壁を蹴り、すでに破壊された窓を潜り抜けて侵入する。突入した部屋の様子は、まるで惨状を絵に描いたような光景だ。至るところに血がこびりつき、死体で床が埋まっていた。デスクには生々しい爪痕が刻まれている。


 自動小銃のMk.5を構えながら二人は散らかった障害物を飛び越え、一階へ続く扉へ向かう。廊下には一足のヒールが落ちており、近くに40歳前半と見られる女性の死体が転がっていた。

 二人は滴った血と死体で地獄絵図の踊場を抜け、階段を下り、一階ロビーの扉へ近付く。先導していたカーベックは壁に沿うようにしゃがみこみ、音響グレネードをグレネードポーチから取り出す。扉を開け、僅かな隙間にそれを投げ入れた。


 ヘルメットの聴覚保護機能越しでも聞こえてくる瞬間的な大爆音。カーベックは扉を蹴り飛ばして突入した。真横に構えていた翠も続いて走り出す。

 ロビーには情報通りタイプAが4体。そのうち1匹が音響グレネードの効果でその場に倒れて気絶している。

 翠は玄関近くにいる2体へ発砲。カーベックは気絶したタイプAに飛び掛かり、ナイフを振りかざした。マガジンの弾数が尽きそうになるまで発砲したところで2体は超能力が付着した7.62mm弾で破壊される。倒れていた方も容赦なく刃が突き立てられ、一撃で致命。

 そして最後の一体は天井にいた。



「あ…!」



 翠に飛び掛かったタイプA。薙ぎ倒すように振られた凶悪な爪で吹き飛ばされる。狭いロビーの中を舞った身体は、振り下ろされた爪で地面に叩き付けられる。ヘルメットのバイザーにバリアドレスの稼働警告が表示される。

 再び爪が振り下ろされようとした瞬間、その腕がえぐられて千切れる。その後、身体中に風穴が空いて、翠に覆い被さるように倒れた。

 床を転がり、すぐに体勢を復帰させた翠。目の前にはカーベックが銃を構えていた。



「反応が遅かったな。バリアドレスは壊れてないか?」



 片膝をついていた翠はゆっくりと立ち上がり、強く打ち付けてしまった肩を撫でる。



「助かった」



「俺に感謝しろよ。これで任務は完了だ」



 彼はわざとらしくグットサインを翠に見せ付け、玄関でバリケードを作っていた機動隊を退かして外へ出る。翠は彼の後を追って、道路へ。

 これは、大きなヘマをした。翠はそう思って反省する。あの距離なら避けれたし、落ちてきたところへナイフを突き刺せていた。それが出来なかった。これは単純に自分の戦闘センスが足りていない、そういうことだ。

 通行止めされたがら空きの道路に座り込み、カーベックと共に回収ヘリを待つ。



「随分と動きが悪かったな、翠」



 ヘルメットをカラビナに引っ掛けながらカーベックは翠にそう言った。その言葉を聞いて、顔を伏せる翠。



「俺はこの仕事を6年もやってる。あと2、3年で三十路だ。頭で考える実現可能な動きと、不可能な動きは全て把握してるつもりだぜ。お前は頭の中じゃ完璧な行動を思考できるんだろうが、それに身体が追い付いていない。そうだろう?」



 彼は説教する口調ではなく、咎める雰囲気でもない。ただ翠に純粋な問い掛けをしている感じだった。翠はヘルメットを脱いで、地面に置いてからそれに応える。



「その通りだよ」



「だろうな。その表情からして、相当悔しいと感じてるんだろう?」



「後々考えてみると、自分の判断力、反射神経、運動力全てが足りていなかったって分かる。それを反省しているつもりなのに、いざ実際にその状況に直面すると出来もしない動きをやろうとしてしまう。僕の欠点だ」



 翠の自白。



「いつか慣れるさ。と言いたいが、俺達ブルーリーパーは悠長に成長を待ってられるほど甘ったるい組織じゃない。ひたすら努力することだな」



 カーベックはそう言った。その言葉の重みは、翠にとってとても重たい物だった。翠は高校生でもあり、ブルーリーパーの隊員の一人でもある。日常と戦場の境目に立っている存在だ。しかしこれは翠だけがそういう問題を抱えている訳ではないのだ。他にも翠と同じく学生でありながらハーベスターとして活動する隊員は存在している。それを分かっているつもりなのに、ただ憂鬱になってしまう。

 ……迎えのヘリが来た。

「自動小銃 MK.5」

・米陸軍が使用している自動小銃を基に開発したアサルトライフル。使用する口径は7.62x51mm NATO弾でガス圧作動ロテイティングボルト方式。装弾数は25発。

 超能力エネルギーの付着を前提に設計されており、ハーベスターの運動能力によって真価を発揮する。

 ブルーリーパーの通常歩兵隊は任務によって5.56mm弾を使用するモデルと使い分ける。本モデルの銃身長は308.1mmである。

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