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碧の死神 "Beyond heat haze"  作者: dispense
微かな記憶
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変化

 駅前通りのファミリーレストラン店がファントムに襲撃された事件から一週間。ミニチュア模型を薙ぎ倒したように荒れた道路は交通が可能なレベルまで回復するが、現場の店舗はブルーリーパーの調査部隊によって閉鎖された。その空間だけ世界が違うといえば良いのか、緊迫感が続き、調査部隊の武装車両が常に駐車している。一般歩兵装備の隊員達が記録用端末を忙しなく操作し、夜中になってもヘルメットの光が消えることはなかった。


 作戦を終えて休暇を貰った翠達は日本最大の支部である"プルートー基地"にて身を休めていた。プルートー基地は東京に設立された世界的にもトップクラスの戦力を保有する支部だ。本部と米軍の援助を受け、最新の技術が満ち溢れている。

 そのロビーにて、翠は生体認証による戦闘員優遇を使い無料で購入した清涼飲料を飲んでいた。



「お前もそれを買ったのか」



 横からカーベックの声。彼も同じ物を手に持っていた。翠の隣に雑に座りこみ、缶の蓋を開ける。



「明日から高校だろう?」



 清涼飲料を一口喉に通してからカーベックが話しかける。



「一年遅れの入学なんて、そこまでするなら高校なんか行かずに完全兵役してしまえよ。その方が楽だぜ」



 翠はカーベックの方を向く。



「そうはいかない。手足を無くして退役させられたとき、再就職するのに困るだろう」



「達磨になってまでお前は仕事をする気なのか」



「そうじゃない。両腕か両足のどっちかさ」



 翠はそう言ってカーベックの左手を小突く。そう、彼は義手を着けているのだ。戦闘用に設計された頑丈で武骨な機械腕。ハーベスターの常人を遥かに越える身体機能を損なわないように、精密に調整されている。



「維持費は安くないぜ」



 その言葉を聞いた翠は眉をひそめる。



「いうほど高そうには見えんが」



「俺もコイツの金額を見たときは驚いた」



 缶の中身を飲みきったカーベックは椅子から立ち上がり、ごみ箱へ空になった缶を投げ入れた。



「今日で休暇は終わりだ。お前は学校生活を満喫することだな。きっと死んだときに派手な葬式ができるぜ」



 そう言って彼はロビーを後にする。残された翠は、半分以上残っていた清涼飲料を一気に飲みほし、彼と同じように空き缶をごみ箱へ投げ捨てる。

 ハーベスターと判明した超能力者は、出生時に報告を受けた政府が該当者の中学卒業時に勧誘をする。そのまま入隊すると一年間の訓練を終業し、一年遅れて高校生になるのだ。もっとも、最終試験のパルクール検定に合格すればの話ではあるが。

 基地を出た翠は自宅であるアパートで気力を無くしていた。自宅といっても、先に住んでいた彼の従姉"高那 百合音(たかな ゆりね)"のアパートである。彼女は放送局の仕事を終えて酒を浴びていた。仕事の特性上、休日に休みを貰える時があまりない。故に日曜日の夜中に缶を二個も開けることが出来るのだ。



「そういえば明日学校よねぇ。やっと軍人から学生に戻れるのかしら」



 百合音は皮肉混じりにソファで横たわる彼に呟く。しかし翠は顔を上げない。もう冬は完全に過ぎた。少し運動すれば暑いと感じる季節になってしまった。かといってクーラーは付けれない。



「また空気にやられたの?」



 呆れたような口調で翠に話し掛ける。



「少し、頭が痛い」



「もう、華奢なんだから。よく兵隊さんになれたわね」



 翠はやっと身体を起こし、彼女へ返答する。



「スーツはまだ乾いてない?」



「4着とも明日までびしょ濡れよ」



 それを聞いた翠は再びうずくまる。生気が薄い。彼はバリアドレススーツの体温調節機能に身体が慣れてしまい、まともに自律神経が機能しなくなってしまった。しかし元からハーベスターは常人を越えた身体機能を持っている。数週間の間、薬を服用するだけで麻痺した身体は戻せる。彼は薬をもらうタイミングが悪かった。



「そんな調子で学校に行けるのかしら」



 百合音は明日が休日なのを良いことに、三本目の缶を開ける。アルコールの匂いが狭い部屋に漂う。

 翠が通う高校、私立藍深山高等学校は東京にあるごく普遍的で特質もない学校だ。格別に偏差値が高いわけでもなく、何か特別な行事もない。少し勉強すればもっと華やかで良い高校へ行けるため、あえてここに入学することはない。滑り止めに受験するような、そんな学校だ。しかし、翠はブルーリーパーに所属する特殊部隊の一員。身を縛られるような行事に参加することは出来ない。だからこの学校を選択したのだ。

 制服と私服のどちらかを選択して登校できる珍しい高校でもある。日本の教育が見直され、様々な改正が行われた今、制服が残っている学校は数少ない。そういう意味では特別な学校といえるだろう。


 翠はバリアドレススーツで登校するつもりでいたが百合音に止められた。買ってあげたんだから制服を着ていけの一点張りで押しきられてしまった。

 心の中で自分は制服を着たいなんて一言もいってないと愚痴を溢すのだった。

「ハーベスター」

・超能力という特殊なエネルギーを生み出し、それを操る事が出来る人間。超常物体が出現したのち、後を追うように現れた人間。アメリカが203X年に正式に発表した。

 非常に希少な存在であり、常人を越える身体機能、思考力、技術を持つ者が殆どで、出生時に検査を受けてハーベスターと判明した場合は国へ報告しなければならない。

 中学校卒業前、ブルーリーパーへ入隊する書物が届けられるが任意制であるため断る事が出来る。

 入隊した場合は一年間の訓練を終業したのち、准尉の階級が与えられ部隊に配属される。

 しかし履歴上の学歴は中学校で止まることになり、再就職が困難となるため高校または大学への通学が許可されているが、必要時には授業中でも出動しなければならない

 故に行動が制限される特定の学校行事に出ることは禁止されている。

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