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碧の死神 "Beyond heat haze"  作者: dispense
微かな記憶
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出動

 悪夢の始まり……苦しみは巡り、深淵の底が騒ぐ。

 春に移り変わる前の冷たい風。よく晴れた真っ青な空に浮かぶ太陽。季節が変わろうとしている空。そんな群青を横切る輸送ヘリが1機、160km/hで巡航し、東京の空を羽ばたいている。



「作戦領域まであと1分。総員、投下準備」



 ヘリパイロットが3人の同乗者へ通知する。それに従い、彼等は自身の装備を確認した。暗い機内で妖しく光るフルフェイスヘルメットのバイザー。3人とも形状が異なっており、第1世代の旧式ヘルメットを被るハーベスターがハッチに近付く。首に巻かれたタンカラーのストールが目立つ彼の名前は"トン・モーザ"。階級は中尉。

 その横には蜘蛛の目玉のようにカメラが複数個光った第2世代のヘルメットの上にフードを着用した男、"ケルディー・カーベック"少尉は掌の上でナイフをペン回しのように弄んでいる。



「カーベック、遊ぶのはもうやめろ」



 モーザ中尉が彼に注意した。一つ息を吐いてカーベックはナイフを鞘に戻す。

 その様子を見ていた第3世代の最新型ヘルメットを被る青年"高那 翠(たかな みどり)"准尉は黙々と手に握る突撃銃"Mk.5"の薬室に7.62mm弾を装填する。装着するボディーアーマーに貼り付けられた夥しい量のポーチの中身を確認し、鋭いV字のバイザーが輝くヘルメットの通信ジャックを外す。

 3人とも立ち上がり、取っ手に掴まりながらハッチが開くのを待つ。



「目標座標到達。総員、投下開始」



 その言葉と共に輸送ヘリのハッチが開いた。遠目で見ると繋ぎ目があるようには思えない横腹に亀裂が入り、スライドしているかのようだった。

 明かりの少ない機内に射し込んでくる外の光。風に煽られながら、モーザはヘリから飛び下りた。彼に続いて残り2人も一気に飛び下りる。高度100mからパラシュート無しでの降下。ひたすら加速する落下速度に身を任せ、高度40mを切ったところで姿勢を着地体勢へ切り替える。

 3人とも順に着地し、反動を受け流すようにそのままスプリント。バイザーの残光が引きそうな勢いの全力疾走だ。


 車が散乱し、黒煙が上がる狭い道路を走る3人に託された任務はタイプBファントムの駆逐。数は5体、一般人の避難は完了している状態だ。

 今から2時間前、ファミレス店にてファントムが発生。6名の犠牲者と12名の負傷者が確認されている。駆け付けた装甲機動隊と現場にいた警察が避難誘導をした後、タイプBに応対するが2名の殉職者を出してあえなく撤退。タイプBのファントムは体長190cmの人型だ。異常なまでに発達した腕に長細い足、特徴として頭部に該当する部位が無く、胴体に口のような裂け目が入っている。まさに異形と呼べるタイプBは強靭な腕力で容易く骨を砕き、筋肉を引き裂く。

 この圧倒的な怪力を誇る化物に抵抗できるのはハーベスターのみである。そして今、ブルーリーパーが出動しているという状況だ。

 速度36km/hのスプリントで現場に到達した3人。目の前に広がる地獄のような光景。窓ガラスは破れ、看板は吹き飛ばされ、車は廃車と化している。近くに機動隊の装甲車が駐車していたが、エンジンが破壊されて煙を上げている。



「カーベックと翠は左に回れ」



 モーザ中尉が命令。言葉通りに2人は左へ回る。道を塞ぐ数台の軽自動車を超人的な跳躍力で軽々と飛び越え、射撃体勢を取る。その間にモーザ中尉はそのまま走り抜けて、虚空に向かって叫び続ける2体のタイプBへ発砲を開始。同時に翠とカーベック少尉も援護射撃。サプレッサーを通した独特な銃声が響く。

 こちらの接近に気付かなかったタイプBは超能力エネルギーが付着した7.62mm弾の集中砲火を受ける。肉が抉れるように風穴が空き、致命。

 車体の上につけていた膝を伸ばし、立ち上がるカーベック。



「ターゲット・ダウン。次はどっちだ?」

 


 カーベックがモーザへ。



「外にはいない。残りは店内だ。突入するぞ」



 そう返答してモーザは突き破られた窓へ近付く。穴の大きさからして人が投げ飛ばされ、そのままガラスを破って外へ飛び出た跡だろう。乾いた血がべっとりと垂れている。



「行くぞ」



 モーザがその窓を体当たりで粉々に壊し、フラッシュグレネードを投げながら店内へ突入。翠とカーベックはそれに続いて店内へ押し入る。

 ヘルメットを着けていても聞こえる炸裂音と強い発光。高性能カメラは高速で処理を行い、適切な視界を装着者へ映し出す。ディスプレイに映る3体のタイプB。モーザの予測通りだった。

 電灯が破壊されて店内を照らすのは日射しのみ。そんな中、モーザは一番自分に近い位置にいるタイプBへ飛び掛かる。ナイフを大きく振りかぶり、エネルギーが付着して青色に光る刀身が巨体の胸に突き刺さる。勢いを殺さず、そのまま押し倒す。

 右側に立っていた1体はモーザに殴りかかるが、彼は近くに転がっていた椅子を振り回し、叩き付けて怯ませる。その怯んだ1体にカーベックと翠は容赦なく7.62mm弾を撃ち込んだ。

 残るは奥にいる1体のみ。しかしモーザが立ち上がろうとした瞬間、その最後の1体がモーザを吹き飛ばして、拳を振り上げながら翠の方へ突撃してきた。勢いに怯む翠。

 しかし、呆気なく倒れこんでうずくまる。隣にいたカーベックが正確な射撃で足を破壊したのだ。



「流石だ。カーベック」



 ゆっくりと起き上がりながらモーザが喋る。



「良い歳こいて派手なことしてんじゃねえ。バリアドレスがぶっ壊れるぜ」



 カーベックが愚痴を溢す。



「上官に対する態度じゃないぞ」



「知るか。任務は完了だ。さっさと帰ろうぜ」



「翠は大丈夫そうだな、任務完了」



 旧式ヘルメットの通信ボタンを押しながらモーザは2人の元へ。更に惨事と化した店を抜け、ゆっくりと降下してくるヘリにサインを送った。

「対超常物体戦術駆逐軍」


・ 通称ブルーリーパー。203X年に設立。アメリカ合衆国を最大の本部とし、全国に支部を置いている。日本では東京に支部を置き、更に細かく様々な地方に駐屯地が存在している。

 人類を守る為に軍事力を行使する条約の元に、唯一超常物体(通称ファントム)に抵抗できる「ハーベスター」を集め、超常物体の殲滅を目標としている国際軍事組織。アメリカ軍から支援を受けて様々な兵器の開発と共に超常物体への対策を進めている。

 作戦の主戦力となるハーベスターは少数のチームを組み、必要時にはすぐに現場に駆け付ける。作戦時には特殊なスーツとヘルメットを身に付ける。

 軍事階級を使用し、最前線で行動するハーベスターは准尉以上の階級に身を置く。

 事実上の軍隊であり、陸上自衛隊よりも所属人数が多い。左翼政党はこの状況について日本の軍事国家化が進んでおり、支部を解体して日本から撤退するべきという理由で強く批判している。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 練られた設定と、それを無理なく展開しつつ繰り広げられるアクションシーン。 ミリタリーに詳しくない私でもするりと入ってくるのは、文章力に裏打ちされてのことと思います。 あとがきで用語を小出…
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