第十五話
未だに、この作品を見ていただいている人がいることに驚愕を隠せません。
ありがとうございます。
新しい作品を書きたいなぁ、、と思っているうちについに書きあげました。
「いくぜッッ!!」
勇の叫びと同時に、「ヒュウッ」という鋭い風切り音。豪快な横一文字の薙ぎ払いだ。
三尺三寸にもなる大太刀の間合いは、およそ5mほど。その刃は、すでに俺の首へと迫っていた。
普通なら、全力でバックステップをするところ。しかし、そうはしない。
俺が選択したのは、前に滑りこむように避けることだった。
長物は、その特性上懐に入り込まれると刀身が長すぎて攻撃を当てにくくなる。リスクはあるが、前へ避けるほうが次の攻撃へ繋げやすくなる。
「ヒュッ」という鋭い風切り音が頭の上を通り過ぎるのと同時に、立ち上がって前へ走りながらダガーを構える。
そのまま、攻撃をしかけようとする。しかし、視界の端に写る影。
「おらァ!!!」
「キィィン!」と激しい金属音とともに火花が起きる。咄嗟にダガーで受け止めた。振りぬいたと思っていたが、まさかの二連撃。
咄嗟に受け止めたはいいが、このまま受け止め続けてはダガーが折れてしまう。なので、ダガーを滑らせて受け流す。
受け流すと同時に、バックステップ。ついでに、仕込んでいたスローイングナイフを二本投げる。
勇は迫るナイフを、大太刀の広い刀身で「カン、カン!」と叩き落した。
「やるなぁ。結構本気で振ったんだが、よく避けるぜ」
「、、、まったく馬鹿力だな」
受け止めた手には、まだ強烈な痺れが残っている。正面からやりあうには、ダガーでは心もとない。
最も、正面からやりあう必要はない。いつだって、そうしてきた。
「お、目つきが変わったな」
勇も、大太刀を構える。勝負は、一瞬でつくだろう。覚悟を決めて、走り出す。
正面から放たれた、今日一番の鋭い縦一閃。
まともに受ければ、鋼鉄のダガーとてへし折られかねない質量と速度。
(――重い。だけど、単調だ)
それを正面から受け止める愚は犯さない。左手のダガーの刃を斜めに滑らせ、大太刀の軌道をわずかに逸らす。同時に、右手の逆手持ちのダガーで勇の懐へ潜り込もうとした。
「甘ぇッ!」
勇が吼える。大太刀の長い柄が、信じられない速度で跳ね上がった。俺の顎を狙った強烈な柄での打撃。咄嗟に顔を引いたが、鼻先を鋭い風がかすめていく。
さらに勇は、そのまま大太刀を強引に横へと薙ぎ払ってきた。
完全に、間合いを潰された。バックステップでは絶対に間に合わない。
「これで終わりだッ!」
勝負あった。勇の目がそう確信した瞬間、僕は自ら姿勢を崩し、地面へと倒れ込むように滑り込んだ。
頭上を、三尺三寸の硬質な風が通り過ぎていく。
視界が上下にブレる。背中が地面に擦れる感覚。
体勢を崩したのではない。自ら、最も迅速に攻撃を回避できる形を選択しただけだ。
地面を転がりながら、俺は躊躇なく左手のダガーをその場に捨てた。空いた左手で、三本のスローイングナイフを引き抜き、勇の顔面、胸、そして太ももへ向けて同時に放つ。
「チッ……!」
勇の顔から余裕が消えた。
体勢を崩しながら放たれた、およそ「綺麗な武術」とはかけ離れた、泥臭く、しかし精密極まる三条の閃光。
勇は咄嗟に大太刀の広い刀身を盾にし、火花を散らしながらそれを弾き落とす。
カカン、と金属音が響く。
そのわずか一瞬。ナイフを弾くために、勇の視界から僕の姿が消えた。
「――しまっ」
勇が気づいた時には、すでに全てが終わっていた。
背後から、静かに忍び寄る影。
気配も、足音もない。まるで最初からそこにいたかのような錯覚。
ピリ、と冷たい感触が勇の肌に走る。
勇の首筋、頸動脈の真上に、僕の右手に握られた逆手のダガーが正確に添えられていた。
「…………」
「…………」
中庭に、張り詰めた静寂が落ちてくる。
勇の額から、タラリと冷や汗が流れ落ちた。
俺がほんの数ミリでも右手に力を込めれば、彼は今ここで命を落としている。それは勇自身が一番よく分かっているはずだ。
ゆっくりとダガーを首筋から離し、僕はふぅ、と息を吐いて「啓介」の顔に戻る。
「……僕の勝ち、でいいな?」
勇はしばらく呆然と自分の大太刀を見つめていたが、やがて「ハハッ」と力なく笑って、刀を鞘に収めた。
「参った。完敗だ。……おいおい、なんなんだよお前のその動き。まっとうな武道じゃねえぜ」
勇は首筋をさすりながら、どこか戦慄をはらんだ目で僕を見てくる。
「まぁ、正々堂々ではないのは否定はしないさ」
「まぁ、勝ったやつが偉いしな。結奈様が惚れるのもわかるぜ」
「それはどうかなぁ」
居間に戻って、再度お茶を飲む。戦った後のお茶が、また美味いんだ。
そういえば、気になっていることがあった。
「そういえば、勇のメイン武器って大太刀じゃないよね?」
大太刀では、まず誰かを守るような戦い方をするには難しい。
「ん?そうだな」
そういって、寝かせておいた刀を手に取る。
「代々伝わる刀ではあるんだけどな、使いにくいのよこれが」
一対一では面白いんだけどなーとぼやく。やはり、メイン武器ではないらしい。
「ま、いつか見せてやるよ。それに、啓介だってそうだろ?」
「それはそうだね。お互い様か」
僕だって、仕込んでいたものはあるものの、メインにつかっていたダガーは借り物だ。
「さて、そろそろ結奈様たちを迎えにいくとしますかねぇ」
勇がそう言うと、ドアがあいてスッと執事の黒沢が入ってきた。
「お二人とも、お疲れさまでした。素晴らしい死合いでございました。結奈様たちは、ショッピングモールに滞在しておられます」
「お、サンキュー。そんなに距離はないし、歩いていくかぁ」
「そうだね、もう少し身体を動かしとこうか」
僕たちは、ショッピングモールへ歩いて向かうことにした。あ、そういえば。
「すみません、ナイフも頂けたりしますか?」
「もちろん、お任せください」
さすが、勇の家だ。なんでもあるらしい。
ショッピングモールでは、なにもないとは思うのだけれど、、、用意は常に万端でなくちゃね。




