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General Seeker  作者: 千崎桜子
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第六話


 念のため、再度事情を詳しく尋ねたクレインであったが、大して目新しい情報は出てこなかった。

強いて上げるとするならば、彼らが同志を募り始めたのは4日ほど前の事であって、今日に至るまで知り合いを片っ端からまわり、あの演説を繰り返したということらしい。

付け加えると、その悉くに体よく断られてもいるということが、言外に感じ取ることが出来たのも新情報と言えるかもしれない。

半ばうんざりした気分で、クレインは口を開いた。


 「おい」

 「はい?」

 「何が『我らが大将』だ。お前らさんざ断られて、最後に俺らのところに来たんじゃねぇか」

 「いやいや、昔から言うじゃろ。主役は遅れてやってくる、と」


 調子のいい奴だ、とキースをまた小突きたくなったが、よくよく考えるとこのデコっぱちも初めは部外者であったはずなのである。

セラミテの言から察するに、最初に、そして唯一協力を申し出てくれたのがキースであるということらしかった。

弁の立つお調子者、程度の認識しかもっていなかったが、存外義理堅い男なのかもしれない。或いは、ただの野次馬根性か。

キースの出自を考えれば、どちらかというと前者に近いであろう。

何にせよ、このあたりの事情を鑑みれば、セラミテが先程泣き出したことも腑に落ちたし、それほど彼の恋心の本気具合を推し量ることも出来た。

さて、そうなると、困ったことにクレインとしてはもう引くことが出来ない。そういう性分であった。


 「それはいいとして、具体的にどうする。前の状態に、なんて言ってたが。ミラを何らの遺恨もなくセラミテの家に戻すのはかなりの無理筋だろう」


 クレインがそう発言すると、先程までの浮ついていた雰囲気から一変、今度は水を打った様に静まり返ってしまう。

話を持ち掛けられた時点で、クレインの中では、恐らくこうするしかないだろうという意味での、一応の着地点は見えていた。

しかしながら、情熱はあれど、具体的な実現の方法を持たない彼らにとって、頼りになる協力者の助言はそのまま自分の結論となってしまう可能性が高かった。

主役である本人の意向を無視することは褒められたものではないし、その意向を誘導することもすべきではないと、クレインは理解していたのである。


 「とにかく、まずは状況を確認しましょう。セラミテが何をしたいのか、この状況で何ができるのか。一度、整理して一緒に考えましょうよ」

 「何がしたいか、だけじゃなくて『できるか』か。そうだね、確かにそうするべきだね」


 どうしたものか、と思案に暮れていると、義弟が助け舟を出してくれていた。

応じたセラミテも、いつになく落ち着いているように感じられる。


 「そうだな、この場合状況による制約、というのか。俺たちの範囲で出来ることは限られている。ファリドのレクセンテール一門と、セラミテのハノーバー一門の対立はどうすることもできんし」

 「東方政策の方向性の違いによるものだからな。お前のところ、セントライト一門はどちらに対しても積極的な立場ではないようだが」

 「ファリド、そいつはまた別の話だぞ。まあ、そんな立場の違いがあっても子息たる我々はこうやって一堂に会しているわけだ。そのことについては喜ぶべきことだと、無一門の私、キースは思うがね」

 「ああ、そうか。すまない、含むところは無い。気を悪くしたなら申し訳ない」


 キースの茶化した風なたしなめを受けて、ファリドはわずかに動揺した様子で、すぐさま謝罪の言葉を口にした。


 「問題ないさ、今は現状確認の場だから。周知の情報でも、一旦並べることで何かしらの糸口に繋がることだってある」


 自分の一門がどうこうと言われても正直なところほとんど興味は無かったし、せいぜい行事毎に顔を合わせる親戚程度の認識であって、その点幼少期と何ら変化は無かった。

加えて、ファリドの指摘は事実そのものであるのだから、わざわざ謝る必要性もクレインには感じない。

セントライト一門は種々の対立のある問題で、よく言えば中立、実際は態度を明確にしない一門として度々揶揄されていた。

レクセンテール一門に於けるグランベル卿の様な、実力者というか顔役となる人物がいないことが大きな要因なのだろう。

東方遠征の費用負担を拒否した人物もいれば、クレインの父アーノルドの様に喜び勇んで従軍し、年に数日しか戻らない変わり者もいた。

要するに、他の一門達と比較して繋がりがごくごく希薄なのである。

自分が一門という枠組みに対して先述の様な認識を有しているのも、この気風が原因なのだろうとクレインはぼんやり考えていた。


 その様に思考が若干遠出してしまったクレインを見て取ってか、トールが次の句を繋げる。


 「先程までの話を再度まとめると、ミラさんがファリド家からグランベル卿に引き取られ、セラミテと引き離された。その原因は、各一門の対立によるものらしい。そして近々ミラさんは同門の奉公人と結ばれるらしい。」

 「こうして改めてキース以外の他人の口から聞くと、ずいぶん『らしい』が多いねぇ」

 「それもそうだ。俺達が実際に体験したり目撃したりしたのは一点目の部分だけで、後は俺の親父からの伝聞や噂話がほとんどだからな」

 「当然、幾らかは伝聞に頼るしかないこともあるさ。ただ、ミラがいつ、誰とどこで神に宣誓するのかくらいは掴んでおかないとな。恐らくその日がリミットだ」


 リミット、とセラミテがぽつりと呟き、自らの手をぎゅっと握りしめる。

友人のその仕草を認めたクレインは、多少のいたたまれなさを感じつつも、一同を見回して続ける。


 「とにかく、情報が足りないことは分かったと思う。ミラの式の件は最優先として、それ以外でも三人はグランベル卿や一門に関する事を何でもいい、調べてくれ。俺もトールも別口で動く」


 クレインの指示に、ファリドはわかった、と短く、トールはいつもの調子で返し、セラミテは深々と頷く。

その後、それまでを含めてもさほど長いやり取りではなかったが、次回の日程を決めたところで一旦は解散となった。


 恐らく、残された時間はそれほどないだろう。明日一日が勝負だ。

三人が岐路に就いた後、自らに言い聞かせるように呟いたクレインに、大丈夫、とトールは応えた。


 意図せずに出た独り言を聞かれ、何だか気恥ずかしさを感じたクレインは、しばらくトールをねめつけていたが、ついに堪えきれずにふっと微笑んでしまった。

トールの側はというと、既に初めから微笑んでいるようなものである。


 奉公人のイレイヌが晩餐の時間を伝えに来た時、クレインは先程まで感じていた肩の荷がすっかり軽くなっていることに気づいた。


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