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53歳の私にくるはずがないのにモテ期  作者: くりはらまさき
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2. 栗本舞香のこと 2

「隆一郎さん。」

ある日、舞香は私に特に深刻な表情をして言った。低音の声もいつになくシリアスだ。

なんで舞香が私を姓ではなく名で呼ぶようになったのか、定かではないのだが、最近はずっとそうなのだ。

「ちょっとお話があるんです。」

「話? 何?」

「ここではちょっと・・・」

「そうか。」


私は舞香と話をするために、どこに行こうかと考えた。

その時、私はミスコン事務局のある3階建てのビルの3階にある事務所にいた。

普通ならこういう時、気の利いた店とかに行くのだろう。私はなにぶん倉庫係ばかりやっていたせいで、そんな店に行ったこともない。

なにしろ女性と付き合った経験もほとんど無いもので。


そこで私が思いついたのは、ビルのトイレの裏だった。そこなら人もこない。

「じゃ、裏のトイレのところに行こうか。」

舞香は素直についてきた。

そこに着いても舞香は話だそうとしなかった。

「どうしたの?」

「いえ・・・」

「なんでもいいから話してごらん。誰にも言えないようなことなら、私は決して人に言ったりしないよ。」


突然、舞香は泣き出した。

かなり深刻そうな表情だったので、泣き出すことは予想していなかったわけでもないのだが、やはりうろたえた。

どうしていいのかわからず、私は思わず舞香の肩を抱いた。

セクハラになったりしないだろうか・・・

「私、どうしても人に言えなかったことがあるんです。

舞香はありがたいことに、セクハラとは感じていないようだ。騒いだりはしない。

「どんなこと。」

「子供の頃のことなんです。」

「うん。」


「私、小学6年生だった頃、担任の先生に変なことされたことがあるんです。」

そんな話がはじまるとは予想していなかった。

舞香の話だと、彼女は小学校から私立の名門女子校に通っていた。その当時、小学6年の担任だった男性教師に、数回にわたって性的ないたずらをされた。

要するにそういうことだった。


「誰にも言えないことだったんです。」

「誰かに相談したりしなかったの?」

実は、舞香は他の先生にこの話をしたらしい。その結果、校長にまで話が行ったようだ。ところからそこから先がひどい話で、学校としてこれは不名誉なことだと考えた校長は、舞香を呼び出して堅く口止めしたらしい。

その時、舞香もこんなことになるとは思ってはおらず、校長に口止めされたことで強いショックを受けた。


「ひどい話だなぁ。」

「ずっとトラウマみたいになっていたんです。」

「親は知ってるの?」

「話してないです。校長先生が親にもいわないようにって言うので」

私は心から目の前にいる美女に同情した。同情という言葉でしか表せない感情だった。


「きっと時間が解決してくれるよ。いつか忘れてしまうもんさ、心の傷ってものは。」

私はやっとそれだけ言えた。54年も生きてきて、こんな程度のアドバイスしか出来ない自分が情けない。


だけど舞香はやっと笑顔をみせた。

「優しいんですね。隆一郎さんは。

きっと私の話を聞いてくれるとおもったんです。」

バラの花のような笑顔で舞香はそう言った。

「お礼です。大好きよ。」

そして舞香は私の唇にキスをしたのだった。


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