2. 栗本舞香のこと 1
栗本舞香は、重たそうな二重まぶたをしている。
そのせいで、顔がとてもゴージャスに見える。ゴージャスと言ったがそうとしか言いようがない。
舞香がミスコンのドレスを着てみると、胸とお尻が豊かに突き出してるが、腰はキュッとくびれている。
トランジスタグラマーとはこういう女の子のことを言うのだろう。
このミスコンテストの最終候補者の中では、一番のグラマーかもしれない。
でも私は、その美しさをゆっくり鑑賞しているヒマはなかった。
なにしろ忙しいのだ。
ミスコンの事務局スタッフという仕事は、かなりヒマなように松本ヨシノブは言っていたが、そんなことは全くなかった。
すべてが初めてのことばかりで、倉庫係でつちかったノウハウなど何の役にもたたない。
さらにミスコンテストの本選はまだまだ先のことだった。
それまでは、候補者たちは研修やらイベントやらに駆り出される。忙しいのだ。そしてその世話をする私も忙しいというわけなのだ。
最終候補者も私も、すべてが初めてのことで、私に限らずてんてこまいの毎日を過ごしている。
その中で、私は頼られる立場ということになっていた。
その私がオタオタしていては、彼女らを不安にさせるだけだ。しっかりしなければならなかった。
そう自分に言い聞かせている。
そんな毎日の中で、特に栗本舞香は私を頼りにしているようだった。
なんであっても、しきりに龍造寺さん龍造寺さんと言ってくる。
それでも舞香に使われている感じはなく、単純に不安だから私を頼っている感じは伝わってくる。
まあ、悪い気はしない。
「隆一郎さん。」
「えっ。」
ある日いきなり下の名前で呼ばれて、私はとまどった。
そんなの全く気にしないように、舞香はゴージャスな笑顔を見せた。
A4サイズの書類を私に見せた。直筆で書き込んである。
「この書類書いたんですけど、見てもらえますか。」
今度のミスコンに必要な申請書類の一つだ。
もっとも申請書類と言っても、私が適当に作った書式なのだが。
「ああ、これね。見てみようか。
えっと、ここはちょっと書き直して。あとは問題ないよ。このまま提出してもらえれば。」
「新しく書き直したほうがいいんですか。」
「そんな必要はないよ。こうやって二重線引いて・・・」
そう私は対応する。
舞香は私の手元をのぞき込んでくる。顔が近づいてくる。女の子と顔をこんなに近づけたのは何年ぶりだろう。いや何十年ぶりだろうか。
舞香の家はかなり裕福らしい。いや大富豪と言っていい家庭のようだ。家は芦屋であの六麓荘らしい。父親は有名な会社のオーナー社長だ。
金をふんだんに使ったから、こんなに美人に育ったということか。
別の日には、舞香からもっと違うことを相談したりされた。
舞香はちょっと物思いに沈んだ表情で、私に近づいてきた。
「私、自信がないんです。ミスコンの当日アガらないかって。」
舞香の声は、いまどきの女の子の声とちがってキンキンした感じではない。低音が豊かでセクシーな音がする。
「そんなこと、皆そうだよ。気にしないで自信をもってやればいいんだよ。」
「隆一郎さんがそう言ってくれると、勇気が出ます。」
舞香はそう答えて笑顔をみせてくれた。
私のありきたりすぎる言葉のどこが、そんなに舞香に勇気を与えるのか、自分でもさっぱりわからなかったが、とにかく彼女は喜んでくれたようだった。
こんな毎日を、私は舞香やほかの候補者の女の子と過ごしていた。