9話「漸くのスープ」
-体が冷える。日は登り始めたがまだ森は冷える。今はスープを作ってよかったと感じる。それにしても少女は大丈夫だろうか。これがグレアスなら戦いによる遅れだろうが確実に遅いと怒られている。
「おい、もう出てこい。戦いは終わったし飯にすんぞ。」
逞しい声が響き少女は姿を現す。心配そうな表情だった。
「ヴェルさん!心配しましたよ!あっ!腕に傷が、今手当をしますね!応急処置は!…」
彼女は至って普通に、そして大袈裟に心配してくれる。彼の兄を知る自分としては意外であって喜ばしく、そして安心した。
「もう急に戦いになってもう泣きそうでしたよ…」
そう言いながらも泣きべそを我慢し、彼女は腕に包帯を巻いてくれた。
「すまねぇな、だがこの通り勝ったんだ。俺は負けねぇよ。」
「むぅ…兄もそう言っていましたよ。でも…だからこそ、その言葉は信用ならないんですよ…」
「…」
言い返せなかった。確かにこの言葉は信用ならないのかもしれない。負けない人間など存在しないからだ。この空気はまずいな。
「まぁ、俺の傷はもういいから飯にしようぜ。せっかくのスープが冷めちまう。」
「そうですね、頂きます。」
彼女も察してくれたようだ。
「ん、このスープお兄ちゃんが作ってくれたのに似てる…おいしいなぁ…」
彼女はヴェルのこだわりに気づく。
「ああ、グレアスの味付けを真似たからな。」
これは疲れているであろう彼女に対する気遣いだ。よろこんで貰えて何よりである。
彼女はそんなスープを夢中に頬張っていた。なかなかの食いっぷりである。そして彼女は口の中のものを飲み込むと質問をしてきた。
「そう言えばヴェルさん、今回の軍の人知り合い何ですか?」
「ああ、軍にいた時の同僚だ、とはいえあの時の俺より4つ下で16くらいの学生でな。何方かと言えば師匠と弟子に近かったかもな」
「そうなんですか。でもかなり嫌われてませんでしたか?ヴェルさん。」
「…色々あったんだよ、色々な…」
三十年も生きれば何かと物語はあるものだ。特に軍で働き国家転覆人とまで呼ばれる俺にはほかの人と比べれぬほどにある。正直話したくはないが、これから共に何かを成さねばならぬ間柄になるかも知れない以上、話さざるを得ないのかも知れない。
「なぁ…お前聞きたいか?なぜ俺達がこんな状況になったかを…」
「はい…話していただけるならば。」
彼女の目付きが変わる。朝食の暖かい空気とは正反対の真剣な空気になる。
「そうか…なら話そうか…」
-俺達の物語を-
次からは一時、十年前の回想編です