8話「レジアという奴」
-確実に避けたはずだった。レジアが繰り出す身体強化からの速攻、それはプライドなど関係なしに掠めてもいなかった。しかし、俺の腕からは鮮血が流れていた。
「おいヴェルよ、本当に腕が落ちたか。今のが避けれないなんてな。」
レジアはえらく落胆した面持ちだ。
「…偶然当たっただけで調子に乗り過ぎだぜ。」
「そうですか…ならもっと貴様を痛ぶってやる。」
その掛け合いの束の間、再び嵐のように迫る剣による一突き。その激しさは瞬きすら許されない。
顔の横、二の腕、脇腹、体の至る所を掠め取っていく。そして痛みに加え、空気を割く音が恐怖を誘う。それにしても激しい音だ。
- 音?-
「当たってないのに傷がつく理由が分かったぜ。」
「ほう?」
その言葉と共にレジアの動きが止まる。
「お前は加速だけでなくそれに伴い、巻き込んだ風を衝撃波にしている。違うか?」
「…さすが歴戦の猛者と言ったところ。正解だよヴェル!だが分かった所でどうする。いくら貴様でも見えない刃は避けれまい!」
確かに奴の言う通りだ。但し"普通の人間ならばな"
「軍式魔術 制圧されし風」
その掛け声共にヴェルの周りの草が舞い出す。
風が体を包んでいるのだ。
「たかが風属性最弱魔法で何が出来るんだ!俺を舐めるな!」
レジアは先程の牛頭目の如き威圧を放ち一直線に迫ってくる。それを巧みに避け、改めて武器を構える。
「何故だ?何故ダメージを負っていないんだ……直撃ではなくても衝撃波の射程圏内のはず……」
「悪いな。この風でお前の衝撃波は打ち消させてもらった。そろそろ反撃と行こうか。」
「くっ…だが、貴様は俺の速度には着いてこれまい!」
「それも想定内さ!」
再びレジアは猛烈な速さで突っ込んでくる。しかし…
「なっ…!」
その瞬間レジアの体制が一瞬揺らめいた。
「足元がおろそかなんだよ!」
次の瞬間ヴェルの剣がレジアの脇腹を切り裂く。そのままレジアは体勢を崩し、"泥の中"に体ごと突っ込んだ。
「チェックメイトみたいだな。レジア。」
レジアが敗れた理由、それは朝露に濡れた地面が限界だったからだ。激しい動きを繰り返すレジアの動きは濡れた地面を削り辺り一面を泥濘みにしていた。先の狩りで地面の状態を知っていたヴェルはこのイレギュラーを狙っていたのだ。
「クソぉぉぉぉ!…」
自らの加速もあだになったのかレジアの傷は深く辺り一面、血で染まっていた。
「レジア様!今我々が向かいます!」
おそらく俺との対面は1体1でやりたいと言い部下を置いてきたのだろう。遠方で眺めていた彼の部下は焦りや地面の悪さもあって中々近づけない。
「おい、ヴェル貴様何故国家転覆を考えた…」
虫の息の彼は問いた。
「良いから黙っとけ。今すぐ兵を撤退させろ。仲間と一緒に帰ればまだ助かるだろうよ。」
「ふっ…相変わらずだな私には何も話してくれない訳か…力を付けた今も…」
「そうだ…。お前は信用出来ないからな。国に帰ったあと言いふらされたらたまらん。」
「そうか、私は軍時代、割とお前を信頼していたんだがな…」
それは予想外な言葉だった。確かに軍時代共に行動することはあったがそんな素振りは1度と無かったからだ。
「それは嬉しいね…なら俺からも手向けだ…」
-もう黙りな-
俺はレジアの神経に一撃加え気絶させる。
そしてレジアの部下に気絶した上司を引き渡す。
既に兵に戦意は無いのか、副長の様な人が撤退命令を出す。よほど奴は部下に信頼されていたんだろう、レジアより強い相手には勝てないと直ぐに判断し、奴の息があると知れば仇の前でも撤退する。素晴らしい関係だと思う。しかしそんな戦いの余韻に浸る暇は無い。
「早く移動しねぇとな。」
おそらくあいつはこの場所は語らないだろう、それは奴の俺への執着を見て感じた答えだ。しかし油断は大敵だ。それにしても…
-スープは冷めていないだろうか?-
レジア良い奴だった。