表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それが彼らの魔術黙示〈リベレーション〉  作者: 太郎
第一章 かくして始まる魔術譚
7/29

Day0 キルケPart1

 セリス王立魔術学園、魔術学園とだけ約されるこの職場に来てからはや三日。二日後に迫った入学式に備え私は職員室にてあれこれ準備に追われていた。

 隣に座る桃色の髪をした女性、レアリー先生は今年で教員五年目だそうだ。本来ならば私が持つ1年C組は彼女が担任となるはずだったのだが・・・校長の意向により彼女は副担任となった。私としては彼女に申し訳なく、校長に異議申し立てをしたが、レアリー先生が「副担任でかまいません」と言ったために、結局新参者の私が一クラスを持つこととなった。

 私は彼女の手ほどきを受けながら必要な書類の作成、授業計画の確認を行っていた。そんななか彼女へ念話術式がかかってきた。思えばこの念話術式、通称念話という魔術は便利なものだ。特定の相手との会話、もしくは特定の場所に声を届けることが出来る。詠唱者がこつさえおさえているならば、これほど便利なものはないだろう。彼女が応対しているのを横目に、私は書類の作成を続けていた。


「キルケ先生!大変です!新入生がMPのお世話になったそうです!」


 なにやら焦りのある表情のレアリー先生より報告を受けた私は、彼女が何を言っているのかよく理解できなかった。MPのお世話?ずいぶんと元気な生徒さんのようだ。


「代わりましょう」


 レアリー先生の念話を私に譲渡してもらい、今度は私がMPの方との会話を試みる。


「代わりました。事情をもう一度お聞かせ願えますか」


 担当の方――まぁ知り合いではあるが――その人より伝え聞いた情報はこうであった。二日後から私の生徒になる者が魔術法第6条一項「公認魔術師以外の魔術講師が許可なく魔術を行使した場合、裁判所の追認を認められない場合処罰をうける」に抵触することをしたらしい。詳しいことは署にて、とのこと。

ふむ、なかなかおもしろ・・・いいや切羽詰まった状況らしい。速く助けに行かねばならないだろう。


「レアリー先生、今日の仕事はここで切り上げてもかまわないだろうか?」


「あっ、はい。あの、私もいったほうが・・・」


 心配そうな瞳を向けるレアリー先生に、私は首を横に振る。


「問題ありませんよ。あそこならば、私が行けばなんとかなるでしょう」


 レアリー先生は困惑した表情を浮かべたが、すぐに私を見送りしてくれた。



 魔術学園からは徒歩15分。王都センター駅の前方にMPの庁舎は立地している。全8階建てのこの建物の防御システムは本当に強固である。魔術による結界までもが張られている。MP――魔術警察Magic Policeの頭文字から取られている。MPはここ数十年の内にできた警察組織。昨今急増している魔術を利用した犯罪、その他一般犯罪を包括的に取り締まるのがこの組織の役割だ。構成員の多くは公認魔術師であり、その道においてのエリートは多いが・・・どうにもマニュアルに従う人間が多い。柔軟さを欠くのは実戦において致命的だと思うが・・・まぁ、そのことは今、どうでもいいことであろう。

 生徒、確か名前はアヴァン・ベアトリッヒと言ったかな。彼が待っている。

 私は署へと入り受付へと向かう。


「失礼するよ、私の生徒がお世話になっているようで」


 ここの人たちとは顔見知りであるからか、出てきた教師が私と言うことに受付の表情に動揺が浮かんだ。しかしすぐに彼の拘留されている部署と連絡を取り次いでもらえた。案内を提案されるがその必要はない。よく知った場所であったからだ。階段を上り7階を目指す。何か事件があるとはじめにその被疑者はここへ通される。そして私は彼のいる部屋の扉を開けた。


「えっ、キルケさん?なんで・・・」


 部屋を開けて真っ先に動揺したのは私の元同僚、ブラウンズ。数週間前とまるで様子が変わっていない。


「なんでと言われても私はこうとしかいえない。教師だから、と」


 はじめは「?」と表情にでていたが、すぐに私の発言を理解してくれたようで顔つきに威厳が戻る。そうだ、彼ならば調度いいか。

 彼が私の前をどいたことで、ようやくその生徒が視界に入った。赤い髪に群青の瞳。王都の住民の普段着とはどこか一線を画すような衣服。地方の出身なのだろうか?

 彼の瞳をじろりと見る。ふむ、そうか。君の瞳は――


「えっと、あの・・・」


 気まずそうに生徒は口を開いた。凝視してしまっていたからそれが嫌だったのであろう。そうだな、こういう時はまず挨拶をすべきかな。


「君がアヴァン君で間違いないね?私はキルケ。二日後から君の担任となる者だ」


「キルケ先生・・・ですか」


 緊張した面持ちで、彼から目線を合わせてはくれない。

 私はアヴァン君の向かい側に座り、ブラウンズから差し出されたブラックのコーヒーに口をつけた。


「もしも君が悪い生徒だったらと少し心配していたのだけれど、どうやら違うらしい」


「悪いことをしたつもりはないですが・・・その、どうしてそう思うんですか?」


 その疑問はもっともかもしれない。交わした言葉の数なんて数えるほどだ。けれど私は自信があった。私は多くの人間と関わりを築いてきたからだ。


「君の瞳。その眼差しに曇りはない」


「瞳、ですか?」


 流石になにを言っているか理解してもらえていない様だ。私は話を続ける。


「確かにまだ何の身分でもない君が魔術を公共機関の中で使ったことに関して、法律上は問題があるかもしれない。だけれども、そうだね、何か事情があったのだろう?」


「ありました。えっと、キルケ先生にもう一度お話しします」


 「もう一度」ということは、聴取は既に終わっていたのか。それより『先生』か。なるほど、小気味よいものだ。


「俺、列車に乗っていて、乗組員の人にカタギに見えない男達が迫っているのを見たんです。それ見ていたら気が気じゃなくて、そいつらを止めに掛かったんです。それで思わず魔術を行使して・・・」


「ふむ・・・」


 表面的にしか情報は掴めてはいないけれど、つまりはこういうことであろう。彼は列車に乗っていて、乗り合わせた列車において乗組員が襲われた。それでアヴァン君はその乗組員を守るために魔術を行使した、と。


「ブラウンズ、いいだろうか」


「はっ、はい、キルケさん?」


 私はブラウンズを連れていったん部屋を出た。



「まぁ、というわけだから。彼に責任はない。それに二日後には彼は魔術学園の生徒だ。だから彼を釈放してくれないだろうか?」


「はぁ、キルケさんがそうおっしゃるのであれば・・・」


 無理矢理ではあるが話はつけた。アヴァン君の待つ部屋へと戻る。


 この場にいるのが彼にとって辛いことだというのは一目瞭然であった。そわそわとして落ち着きがない。よし――


「帰ろうか、アヴァン君。もう君はここにいる必要はない」


「・・・え?」


 まるで鳩が豆鉄砲を喰らったかのような表情をしている。無理もないかもしれない。


「この後少し時間はあるかな?ああ、お代は私が持つよ。少し君と話がしたいのだ。できればよりコーヒーがよりおいしい場所でね」


 未だきょとんとしているアヴァン君であったけれど、私は彼を引き連れてなじみの喫茶店へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ