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それが彼らの魔術黙示〈リベレーション〉  作者: 太郎
第一章 かくして始まる魔術譚
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Day2 ルーフォンスPart2

「魔術法典の奪取?」


「ええ。頼まれてはくれませんかね?」


 昨日自分に依頼を頼んだおじいさん、の友人、のお孫さんという特に知り合いでも顔見知りでもない人物。その人物が町中で自分を見つけて話しかけてきた。名前はゲインというそうだ。気さくそうな青年だが、昨日の一件もあって、なんだか嫌な予感を肌に感じながらも彼について行き「Mellow」という喫茶店へ。着席しコーヒーを一服。そして彼から出た言葉はまさかの『魔術法典』。

 魔術師ならそれを知らぬ者はいないであろう。それがどれほどの代物かは周知のことだ。時は遥か昔。まだ神様がいたとされる時代。神より魔術の叡智を授かったエルフの大老は魔術の研究をたった一人で進めたという。大老はその晩年いくつかの著作を執筆した。それこそが『魔術法典』だとされる。故に『魔術法典』は「魔術の叡智の結晶」、「魔術の根源」、否定的な意味合いでは「禁断の書」やら言われている。実際に確認されている『魔術法典』は確か二、三冊だったかな。そのうちの一冊は王国が所持していると聞いたことはあるが・・・


「いったいどこから奪えと?まぁ、魔術法典なんていうたいそうな品物があるのはきっと王城でしょうけど。しかし、流石に王城への侵入とかはごめんですよ」


「わかっていますよ。ああ、一つ訂正を。えっと、ルーフォンスさん。『魔術法典』の写本についてはご存じですか?」


「写本・・・ああ、『寓歌の書』、でしたっけ?」


 いつだかの新聞で読んだことがある。王国は魔術研究のさらなる発展のために、保有する魔術法典の一冊からいくつかの写本を作成したそうだ。いったいどうやって写本を作ったのか、はたしてその写本にどの程度の魔力が備わっているかについては定かではない。と、言っても王国が管理しているということは――だが。


「写本はどうやら五冊あるそうでして。その内の一冊が、今日から博物館に展示されるようなんですよね・・・」


 言葉はそこで終わったが、それは自らの意図を組めということであろう。すなわちそれを盗め、ということに違いない。


「理由をお聞きしても」


「理由、ですか。とても単純なことですよ。実際にそれを見て、触れてみたいからですよ」


 ゲインは淡々と語るが、こちらとしては複雑な思いを抱かざるを得ない。確かに自分たちは王国に頼めないことを代行する裏の仕事人。だからといって、このような依頼を承っていいのだろうか?


「あまり気が進まないようですね・・・それならば――」


 そう言ってゲインは横に置いてある鞄から書類を取り出した。そして机に置くと、スイっとすべらせ、自分の前へと差し出した。


「何ですか、これは?」


「まぁ、ご覧くださいよ」


 それを手に取りさっと目を通す。これは――


「あなた方がホームと呼ぶ場所に関する資料です」


「どうして……こんな物を?」


 口から漏れたのは素直な感想であった。自分たちのホームについてこれまで外部に漏れたことはなかった。なのに、何故――?


「昨日の夜、偶然墓場を通りかかりまして」


「!?」


 あの場所を。あぁ、そうか、そういうことか。この男、中々に用意周到らしい。


「どうやら多くを話す必要はありませんね」


 自分はゆっくりと頷いた。

 大雑把に彼の意図するところをまとめるとこうなるだろう。この男はお爺さんを利用し、そして自分を墓場へと向かわせた。魔術行使の証拠隠滅を自分はしなかった。それゆえMPに報告すれば自分を検挙することができるであろう。しかしそれ以上に価値ある情報を彼は手にいれた。ホーム。無警戒に帰った自分の後を追ってその場所を突き止めた。自分たちにとってホームは縁と言っても過言ではない。そんな致命的な情報を握るのだから従え、と。


「恐れ入りますよ、ゲインさん。あんたはどうやら手練れらしい」


「いえいえ、私はただの善良な国民ですよ。むしろこういうことはあなた方の手合いでしょう?」


 確かにそうである。本来なら自分たちは仕掛ける側だ。国にばれじと行動してきたが、まさか同業者に寝首をかかれるとは考慮していなかった。はぁ、一体この男、何者なのだろう?


「さぁ、どうしますかルーフォンスさん!」


 どう考えても不利な状況。さて、どうしたものか。怒りに任せてゲインに殴りかかる?そんなことは自分らしくないし、それで一件落着とはならないだろう。ではここから逃げる?それは全くの解決策ではない。

 本当にここのところ運がない。そういえば今週のはじめ占い師のおばあちゃんに「気をつけなさい、今週はあんた危険よ」と言われてたっけ。自分はあまり風水の類いは信じないけれど、こうも不運が重なると信じてしまう人の気持ちもわかるかも。


「さて、お返事をお聞かせ下さい」


 したり顔でこちらをみるゲイン。自分は彼の向ける視線から目をそらし続けてきた。しかしもう腹を決めねばならない時のようだ。


「まぁ、いいですよ。うまいこと盗み出してあなたの所に届けます」


「そうですか、よかった。ではこちらに届けて下さい」


 ゲインは別の紙を差し出してきた。するとそこには住所が。自分が承諾することも計算ずく、と。

「では、期待しています。がんばってくださいね!」



 笑みを浮かべながら席を立つゲイン。きっととても気分がいいだろう。人に厄介ごとを押しつけて、それで望みを叶えられるのだから。

 対して自分は虫の居所が悪い。かと言ってやつあたりするのは違う気がする・・・けれどこのまま従うだけで済ますのは、嫌だよね。

 少し考えてみる。この状況、打つべき一手は何か。ゲインの機嫌を取ったうえで、さらに彼を貶める、最善策は――


「そうだ、そうしよう」


 我ながら最高の策を思い浮かんだ、これなら。


「ふふふ、ははははは・・・」


 思わず声が漏れてしまい、マスター含め周りの客たちが自分を気味悪そうに見ているが、今の自分にはそのような些細な事はどうでもいい。さて、善は急げだ。



「それで、依頼を受けたのね」


マフィンを右手に、例の資料を左手に、そして口をもぐもぐさせるレアナ。

この手の(やばい)ことは、本当はレアナには話したくはなかったけれど・・・今回の自分の計画には彼女が必要なのだ。


「それで今回の依頼に協力をしてほしいわけさ、レアナ」


「私に?」


 特段嫌気を見せずに話しを聞いてくれているのにはワケがある。

マフィン、もっと詳しく言うなら王都北西の『マフィンズクラブ』の一つ500Gもするマフィン。レアナはこれに目がない。基本的に甘い物をそう好きじゃない彼女だけれど、何故かこれだけは違う。自分が計画を話している間、彼女はそれをほむほむとほおばり、プレーン、チョコレート、ストロベリー、シナモン、チーズと計五種類を完食した。


「うーん。まぁ、こんなに買ってきてくれたわけだし、別にいいけれど」


――かかった。


「よし、そうとなれば自分は計画をブラッシュアップするから、その間マフィンを食べて待っていて」


「はひ」


 まるでリスのように頬を膨らませるレアナを見て、「ちょろいな」と思ってしまった。いつもの勝ち気なレアナであれば、あんな強引な依頼を受けたならお依頼先に乗り込み、そして何をしでかすかわからない。だからこうして静かに事が進んだことは行幸と言えよう。

レアナは理不尽が嫌いだが、自分だってそうだ。手段を問わなければ、断ろうと思えば断れた。けれどそうしなかったのにも、また理由があるわけだ。

 『魔術法典』、その写本。マフィン10個×500=5000Gを叩いた価値は十分にある。

 お依頼先にもレアナにも悪いけれど、この賭け、勝たせてもらおう。


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