Day1 アヴァンPart6
何だか本当俺キルケ先生に迷惑をかけてばかりだなぁ。今日だってキルケ先生が見つけてくれなければこうして学園に到着しなかったわけで。
「ここが我々の教室だ。さぁ、入ろうか」
キルケ先生は1-Cと書かれた表札の扉を開いた。
中には約30人近くの生徒が。教室の後方から前方にかけて段差があり、黒板を見やすいようにと配慮がなされている。三人が一つの机に座れるようになっていて、それが縦に四列、横に三列あり、最大で三十六人座れるらしい。
「さて、二人は・・・ちょうど真ん中の前の席があいている。あそこに座りたまえ」
『はい』
クラスメイトの視線を受けながら席へと向かう。視線の半分、男子生徒の視線は一斉にリンカへと向けられている。それから少しして俺へと嫉妬や憎悪にの混じった視線へと変わる。恨まれて当然か、俺、ははは。
そしてもう半分の視線は女子生徒のもの。それはもちろん俺にではなく・・・キルケ先生へと注がれていた。キルケ先生はというとそれに一切気づいていない様子。
俺たちが着席をするのと時同じくしてキルケ先生も教卓へと辿り着いた。隣の眼鏡をかけた、副担任の先生らしき人物と少し話をした後に、キルケ先生は生徒全員を見回し、口を開いた。
「初めまして、諸君。はじめに謝罪を。君たちを誘導するのは私の役目であったが、まぁ、私情でね。レアリー先生にいろいろと任せてしまった。レアリー先生、生徒諸君にお詫びを」
先生が頭を下げた。「違います!」と言い出そうと俺もリンカさんも動いたが、キルケ先生は他の生徒には勘づかれないようにと目配せをしてきた。「気にするな」というサインなんだろう。俺らの責任を押しつけるようになってしまって悪い気がするが、でもいい先生だなぁ、キルケ先生は。
そんな中、後ろの女子生徒たちのひそひそ話が聞こえてき。聞き耳を立てずして聞こえてきたのは、かっこいい、クール、紳士といった単語。確かにキルケ先生の評価にふさわしい言葉であった。
頭を上げてキルケ先生は再び話を始めた。
「さて、まずは自己紹介を。私の名前はキルケ・クワエツェ。今年教職に就いたばかりの新人教師だ。それ故諸君らに迷惑を掛けるかもしれないが、君たちに魔術の知識、そして技術を授けられるように鋭意努める所存である。これから一年、もしくは二年、三年という付き合いになっていくであろうけれども、どうぞよろしくお願いする」
教室中からは拍手がわき起こった。それから隣の副担任の先生が一歩前に出た。それを横目に確認したキルケ先生はその場を渡した。
「えっと、多くの皆さんはもう既に名前を知ってらっしゃいますが改めて。私はこのクラスの副担任のレアリー・ケアンです。一応この職について5年経っているのですが・・・私なんかよりずっとキルケ先生のほうが優秀な先生なので、私は副担任なんです、ははは・・・」
なんだか重い話に生徒一同困ってしまう。そこにキルケ先生が「いえいえ」と相槌を打ったことで、立ちこめた思い空気は取り払われた。仲睦まじく話す二人を見て、なんだか後ろの女子たちはレアリー先生へ嫉妬の視線を・・・あ、睨まれた。気をつけよう。
「さて、今日のこの時間はあくまで顔合わせがメインだ。時間的にもそれくらいしか出来なさそうだったけれどね。明日の連絡をしておこうか。明日からガイダンスも兼ねて授業が始まる。君たちはなにも心配せず登校してくれればそれでいい。君たちの中には既に魔術の知識を得ている諸君もいるようだが、そうでない生徒もいるであろう。だが、なにも問題はない。ゼロからでいい。私が君たちをその道へ誘おう」
一応レーンから教わったことがあるにせよ、正直実戦でしか魔術を知らない。しっかりと座学も受けないと!
「――さて、今日はこれくらいにしようか。何か質問はあるかな?」
先生がそういうと何人かの生徒が手を上げた。先生は前の方の生徒を指した。眼鏡をかけた黒い髪の男子生徒は立ち上がり、キルケ先生に質問をした。
「ええと、噂で聞いたのですが、キルケ先生はあの伝説を残した先生なんですか?」
うん、伝説?
「一体何のことをさして伝説なのかはわからないのだけれど・・・詳しく聞いても良いだろうか?」
キルケ先生本人もわからない様子。それを見計らって生徒は続けた。
「風の噂なのですが、セリス最難関試験をたった三日で突破した超エリートがいると・・・」
なんだその噂。キルケ先生は少し悩みながら答える。
「確かにそうだが・・・アルめ、余計なことを吹聴したか」
「キルケ先生?」
「いや、なんでもないよ。確かに私は三日で突破したかもしれない。けれど私としてはそのような事実に興味も関心も誇りも抱いていないとだけ伝えておこうか」
アルという人物は先生のご友人なのだろうか?ともあれ先生がすごい人物なのはわかった。セリス王国の数ある資格の中でも、この学校の教員資格は取得難易度が高いと聞く。周りもざわついているけれど、キルケ先生は実力者で間違いないだろう。
眼鏡の生徒は感謝をのべ、質問は次の生徒に移った。後方の女子生徒、やけにキルケ先生に熱い視線を送っていた茶髪の生徒。彼女が次にキルケ先生へと質問をした。
「あのあの、キルケ先生って交際なされてたりしますか?」
そんな質問聞くか、普通。周りのざわめき具合は先ほど以上となる。だけれどその質問はほかの女子生徒も気になっていたらしく、あたりからグッジョブなどの言葉も聞こえてくる。それにキルケ先生は顔色を変えず答えた。
「なるほど、教師はやはりこのての質問を受けるのか・・・、まぁ、隠すことはないけれど、現在そう親密な間柄の異性はいない。きっと私は人に好かれないタイプであろうからね」
教室全体がどよめきの色を呈した。キルケ先生の隣にいるレアリー先生すら上残としている。きっと誰もが思っている。「好かれないわけない」と。
俺はと言うとリンカが少し気になってちらりと横目で彼女を見た。するとリンカは教室の空気に流されず窓から外を眺めていた。
教室からは中庭が見えた。美しい花々が咲いており、この学校の格式の高さに貢献しているようだ。さらに奥には繁華な町並みが広がっている。歩いて来てわかったことに学校は駅から左に曲がってまっすぐな方向に位置していた。こんな単純な道がわからないなんて、俺も大概だな。
「では、質問の時間は終了だ。今日のところはこれで予定は終了。気をつけて帰るように」
『はーい』
生徒一同は声を合わせて言った。そしてそれぞれ帰り支度を始める。キルケ先生とレアリー先生はと言うと早々に教室を後にした。
さて、俺も帰ろうか――
「ちょっと待つんだ、そこの君!」
立ち上がろうとしたところを肩を掴まれ思わずズテンと椅子へと腰を打つ。何事かと思い振り返る。
「あはは、悪いね。えっとこの後用事ある?ちょっと話しないかな?」
そこにいたのは深い紫の髪をしたクラスメイト?であった。
「えっと、俺に何か・・・はっ!」
用事なんて一つだろう。そうだ、そういうことか!きっと彼はこのクラスを代表して俺に。
「えっと、なにをそんな焦っているの?ただちょっと遊びに――」
「いや、悪いのは認めるけれど事故のようなもので・・・へっ?」
遊びに?えっと、なにを言っているんだかよくわからない。
「いやさ、なんか君、わけありそうじゃん?だからオレ、君と関わろうと思って」
あれ、俺ただ誘われているだけ?美少女リンカと一緒に歩いてきたことに関して責任追及しようとかそういうことでないのか?
ふう、と思わずため息が漏れた。俺、先走りすぎたのかな。
「わけありって・・・別にそんなことないとは思うんだけどね」
「そう?まぁ、そこの子と一緒に来た時点で敵作りはしたけどね」
「っ!!」
やっぱりそうか!というか当たり前だよなぁ。こんなにかわい――
「ゲフン!」
「えっと、大丈夫?」
いけない、いけない。また思考が暴走するところだった。深呼吸をして気持ちを整える。
「名前、聞いてもいい?」
「アヴァン。そっちは?」
俺の名前を聞いて彼は一瞬キョトンとした。しかしすぐに笑みを浮かべ、彼は答えた。
「オレの名前はエノ。よろしくな、アヴァン!」
そう言って彼は手をさしのべてきた。それに俺も手を差し出して握手をする。
「エノ!終わった?」
今度は俺の後ろから女子生徒の声が聞こえた。振り返るとそこには黄緑色のショートカットの女の子が。そして隣には・・・リンカっ!
「おう、レイ。えっとアヴァン、あいつはレイ。オレの連れだ」
「そうそう。えっとアヴァンって言うんだね、これからよろしく」
「よ、よろしく」
二人のテンションにだいぶ気圧されてしまう。でもそれはリンカも同じようでもじもじとしている。
「まっ、そんなに堅くならなくていいぜ、アヴァン」
「そうだよ、リンカ、これからクラスメイトなんだから、気楽にね!」
内心圧倒されながらも、前行くエノとレイの後を俺とリンカはついて行った。