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洛中魔界・洛外迷宮  作者: 影宮芯二
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幸いというべきか、二匹の怪物は古川伊代に完全に気をとられていて、時生の存在になど、全く気をかけていなかった。


卑怯とか、そんなことは無関係だ。


一匹は不意打ちで、簡単に仕留められた。

敵を斬る、この感触には慣れそうもない。慣れたくもないのだが。


「あ、ありがと」


「どういたしまして」


生返事気味に返事を返したのは、残った一匹の注意が時生に向いたからだ。

しかし、二匹を倒した今では、正面から対峙しても、それほど恐ろしい相手とは考えなくなっていた。


今度は、パターンのように襲いかかってくる、敵の腕を、時生は狙った。


やはり腕も首と同じように、斬るのは難しくなかった。

タイミングだけが、課題だったと言える。


右腕、左腕、そして、首。


リズミカルな動作で、時生は敵を、冷酷なまでに処分した。やらなければ、やられるのはこちらだ。


「あとは!」


大型の怪物だけを残している。

この敵は、サイズだけではなく、多少は知恵もまわるのか、ジャージ男と攻防の入り交じった戦闘を展開している。


だが、後ろががら空きだ。


時生は、素早く忍びよると、背中を目掛けて斬りつけた。


「硬い!」


可能性は想像できていたので、そこまで驚きはなかったが、大きさが違うだけの個体にしては、あまりにも体の硬度が違いすぎた。こっちは、肉を、特に筋肉を切ったという手応えがした。


致命傷は与えられなかった。


怒りの咆哮とともに、そいつは時生に向きを変える。


「だめ、逃げて!」


伊代の声がした。

しかし、後ろを向いて遁走するというような間合いでもない。まずは、回避か、防御。敵の動きを見て、対応を決めようと、時生は集中力を切らさないよう努めた。


そんな必要はなかった。


「お前の相手はこの俺だっ!」


今度は、ジャージの男が、時生と同じように、そいつの背中に斬りつけた。

これが致命傷になった。

腕力の差は歴然だ。


派手な音をたてて、怪物の体が時生の前に倒れた。


時生のつけた傷の上から、より深い傷が入っている。

ジャージ男は、倒した怪物を挟んで時生と向き合うと、ニヤリと笑った。


「やったな」


「まあ、なんとかね」


「感謝するよ。俺ひとりでは、危ないところだった。えっと‥」


「芳田時生君よ。私は、古川伊代ね」


何故か、伊代が代わりに自己紹介をした。

彼女は時生の刀と自分のを見比べて、しかめ面をしている。


「私もそのくらいの長さにしとくんだったな。こっちは重すぎ。おかげで助かったよ、芳田君」


「ハハハ、俺は、山村司(やまむらつかさ)だ。よろしくな」


時生は差し出された右手を、いかにもスポーツマンだなと、思いながらも握り返す。


「怪我は?」


「ああ、まあ、痛い」


やがて、助けたところの四人組と、離れたところにいた二人の女子とが合流した。時生が、置いてきた刀と鞘も、持ってきてくれている。

戦いの終わった安堵から、それぞれ、労ったり、名乗りあったりをした。


しかし、まだ、安全が確保されたわけではない。

依然として、まだ距離があるものの、南の方角から来る怪物の集団は迫りつつあった。


「けど、なんか遅くないか?」


山村が疑問を口にした。

確かに、密集した集団だからなのか、その進軍は遅々として進みは重い。


「あれはまだ、俺たちは見えてないぞ」


パーカーの男子が言った。彼は、駒木雄大(こまきゆうだい)だ。


「あいつらかなり視力が悪いみたいなんだ」


「へえ。なるほどな。だが、どのくらいで見つかるのかを試す気はないな。歩きでいいから進もう」


山村が促すと、反対する者はなく、北にむけて全員が歩き出した。


北の方角には、ビル群が存在するのが見え始めている。このまま、中世日本の町並みが続くわけではないようだ。

時生は背後を眺めた。

京都タワーは、遠ざかり始めていた。


「どうしたの?」


古川伊代が、時生の顔を覗き込んできた。


「いや、なんでもないよ」


「ふうん。なんでもないんだ」


彼女が、時生の表情に何を見たのかはわからない。たぶん、不安とか、恐怖とか、そのあたりだろう。

逆に、伊代の表情からは、何かが読み取れるだろうかという発想が、時生の脳内を巡り、彼は、試してみることにした。

伊代はまっすぐな視線を返してくる。

ただ見つめ会うような格好になってしまい、時生は顔を赤くした。


「ど、どうしたの?」


「なんでもないよ」


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