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洛中魔界・洛外迷宮  作者: 影宮芯二
10/11

10

 山村はしばらく握っていた、細凪の手をやっと離した。


「よし、そうと決まれば、長居はできないが、あっちの怪物集団からは距離がまだあるな。二、三分で、俺たちも必要な物資をいただくとしよう」


 山村がそう言って、店に入っていくのに続いて、時生と駒木も後を追った。

 ふと、気付いたように、駒木が振り返る。


「細凪だったか、お前も、さっきまでついて来る気がなかったなら、色々、要るものがあるだろ?」


「う、うん。そうだね」


 細凪も、伴った四人でコンビニに入店した。

 時生は伊代に一声掛けておくことにした。


「何かあったら、すぐに教えて」


「ん、わかった」


 時生は後ろで、伊代が他の女子に「悲鳴は「キャー」よね。ね?」と、言っているのが聞こえた。


 店内はすべての照明が消えているため薄暗い。冷蔵庫なども、作動音がなくて静かではあるが、まだほんの少し、冷えているのがわかった。


「エナジー系のドリンクがねえな」


 駒木が文句を言っている。


「2003年当時はまだ普及してなかったみたいだね」


 細凪が説明をする。

 人に知識をひけらかすのが好きな人種の口調だと、時生は思った。


「そうなのか? あれがないと俺は戦える気がしないな」


「国産系の栄養ドリンクならあるよ」


「ビンのやつだろ。割れないように気を付けるのが、めんどくせえなあ」


 そう言いながらも、駒木はビンを集めている。細凪に「どうせなら、箱入りのいいやつにたら」と言われて「早く言えよ」と返しながらも、アイテムのチョイスを切り替え始めた。


 時生は、誰もいないレジカウンタに、現金が幾らか小山を作って置かれているのに気付く。伊代たち、女子の誰かが置いたのだろうか。この状況で、律儀なことだとは思ったが、むしろこの状況では、現金を持っている価値の方が疑問なのだから、妥当な使い方かもしれなかった。


「でもよ、こういうのはあんまり飲んだことねえから、身体に合わないかもしれないよなあ」


「まあ、学生で飲んでる人はレアだよね」


「なんかだいぶ重くなるからなあ。ちょっと、減らそうかな。お、これは必要なんじゃねえの、もしものときの備えによ!」


 完全に冗談を言う調子で、駒木が時生たちに何かを見せてくるものだから、何かと思えば、カラフルなパッケージの男性用避妊具だ。男子高校生だと、こういうやつはクラスメイトに一人はいるものだ。


「おう、駒木は思っていたより思いやりがあるんだな。見直したぞ」


 山村が予想外の反応を示すので、他の三人は凍りついた。付き合いが短いせいか、冗談か、本気か、判別がつかないが、多分、本気なのだろうと思わせる何か、そんな雰囲気はある。


 駒木は、持っていく気はなかったようなのだが、戻すにも戻しにくくなったようだ。


「や、山村、よかったら、お前、持っててくれないか?」


「なんだ恥ずかしいのか? しょうがないやつだな。わかった、俺が預かっとくから、要るときがきたら言ってくれ」


 そう言って、山村はそれを受け取ると、無造作に白乳色半透明のビニールに突っ込んだ。


「そろそろ、潮時だろう。きりがないから、こんなもんにしよう。みんないいよな?」


「お、おう」


 誰にも、今、山村に反対する者はなかった。


 結局、時生が集めたのは、ペットボトルのミネラルウォーターが一本と、携帯栄養食、ゼリー飲料、ウェットティッシュ、ペンライトとそれに合う単3電池を幾つかというものだった。


「行くぞ」


 号令を掛ける山村に、三人が続く。


 幸いにも、外の面々には何事もなかったようだ。

 女子同士は少しずつ打ち解け会いつつあるように、時生には思われた。


「みんなまた北にむけて歩こう。まだ、何もわからないことが多いが、はっきりしている危険からはなるべく逃げた方がいい。他に、もっとみんなのためにいい案があるなら教えてくれ」


 そう言って、山村はみんなを見回す。

 ずっと、こういうリーダーシップが備わるような学生生活を送ってきたのだろう。やることが板に付いていた。

 駒木はといえば、山村のビニール袋のなかの避妊具が女子に見つかるんじゃないかと、ソワソワしているのがわかった。

 野田の顔に、駒木の挙動不審さに「?」がついている。


「よし、今は誰もないな。いつでも、誰でも、気付いたことがあったら教えてくれ」


 山村が先頭にたって歩き始めると、みんなが続いていく。


「駒木と野田で、悪いが最後尾を警戒してもらえるか? 先頭には、俺と芳田が立つ」


「お、おう、任せとけ」


 それを聞いた伊代が、山村と時生に近づく。


「あのね、女子だって戦えるのをお忘れなく」


 伊代の後ろでは、永島千帆が右手に持った刀の鞘で、右肩を軽く叩きながら山村を見ている。

 伊代と同じことが言いたいらしい。


「すまん、考え方が古風なのは育ちかたのせいだ。じゃあ、古川は右を、永島は左を警戒するようにしてくれるか。横路や建物には何が潜んでいるかわからないから、なるべく道路の真ん中を進むようにするから」


「了解」


 伊代は山村の指示どおり隊列の右についた。

 なるほど、甘いものがなくなると、少し落ち着いた人格に戻るようだと、時生は変な感心をした。

 永島も言われたことに忠実に、左を守り始めた。


 こうして、時生たちはまた進み始めた。

 どこに向かって進んでいるのかはわからない。この先がどうなっているのかも見当がつかない。

 だが今は、進むしかなかなかった。



コンビニのくだりが思ったより長くなりました。

この舞台設定で、なぜ、そこを。

まだジワジワ、書いていこうと思っていますが、楽しんでいただければ幸いです。


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