10
山村はしばらく握っていた、細凪の手をやっと離した。
「よし、そうと決まれば、長居はできないが、あっちの怪物集団からは距離がまだあるな。二、三分で、俺たちも必要な物資をいただくとしよう」
山村がそう言って、店に入っていくのに続いて、時生と駒木も後を追った。
ふと、気付いたように、駒木が振り返る。
「細凪だったか、お前も、さっきまでついて来る気がなかったなら、色々、要るものがあるだろ?」
「う、うん。そうだね」
細凪も、伴った四人でコンビニに入店した。
時生は伊代に一声掛けておくことにした。
「何かあったら、すぐに教えて」
「ん、わかった」
時生は後ろで、伊代が他の女子に「悲鳴は「キャー」よね。ね?」と、言っているのが聞こえた。
店内はすべての照明が消えているため薄暗い。冷蔵庫なども、作動音がなくて静かではあるが、まだほんの少し、冷えているのがわかった。
「エナジー系のドリンクがねえな」
駒木が文句を言っている。
「2003年当時はまだ普及してなかったみたいだね」
細凪が説明をする。
人に知識をひけらかすのが好きな人種の口調だと、時生は思った。
「そうなのか? あれがないと俺は戦える気がしないな」
「国産系の栄養ドリンクならあるよ」
「ビンのやつだろ。割れないように気を付けるのが、めんどくせえなあ」
そう言いながらも、駒木はビンを集めている。細凪に「どうせなら、箱入りのいいやつにたら」と言われて「早く言えよ」と返しながらも、アイテムのチョイスを切り替え始めた。
時生は、誰もいないレジカウンタに、現金が幾らか小山を作って置かれているのに気付く。伊代たち、女子の誰かが置いたのだろうか。この状況で、律儀なことだとは思ったが、むしろこの状況では、現金を持っている価値の方が疑問なのだから、妥当な使い方かもしれなかった。
「でもよ、こういうのはあんまり飲んだことねえから、身体に合わないかもしれないよなあ」
「まあ、学生で飲んでる人はレアだよね」
「なんかだいぶ重くなるからなあ。ちょっと、減らそうかな。お、これは必要なんじゃねえの、もしものときの備えによ!」
完全に冗談を言う調子で、駒木が時生たちに何かを見せてくるものだから、何かと思えば、カラフルなパッケージの男性用避妊具だ。男子高校生だと、こういうやつはクラスメイトに一人はいるものだ。
「おう、駒木は思っていたより思いやりがあるんだな。見直したぞ」
山村が予想外の反応を示すので、他の三人は凍りついた。付き合いが短いせいか、冗談か、本気か、判別がつかないが、多分、本気なのだろうと思わせる何か、そんな雰囲気はある。
駒木は、持っていく気はなかったようなのだが、戻すにも戻しにくくなったようだ。
「や、山村、よかったら、お前、持っててくれないか?」
「なんだ恥ずかしいのか? しょうがないやつだな。わかった、俺が預かっとくから、要るときがきたら言ってくれ」
そう言って、山村はそれを受け取ると、無造作に白乳色半透明のビニールに突っ込んだ。
「そろそろ、潮時だろう。きりがないから、こんなもんにしよう。みんないいよな?」
「お、おう」
誰にも、今、山村に反対する者はなかった。
結局、時生が集めたのは、ペットボトルのミネラルウォーターが一本と、携帯栄養食、ゼリー飲料、ウェットティッシュ、ペンライトとそれに合う単3電池を幾つかというものだった。
「行くぞ」
号令を掛ける山村に、三人が続く。
幸いにも、外の面々には何事もなかったようだ。
女子同士は少しずつ打ち解け会いつつあるように、時生には思われた。
「みんなまた北にむけて歩こう。まだ、何もわからないことが多いが、はっきりしている危険からはなるべく逃げた方がいい。他に、もっとみんなのためにいい案があるなら教えてくれ」
そう言って、山村はみんなを見回す。
ずっと、こういうリーダーシップが備わるような学生生活を送ってきたのだろう。やることが板に付いていた。
駒木はといえば、山村のビニール袋のなかの避妊具が女子に見つかるんじゃないかと、ソワソワしているのがわかった。
野田の顔に、駒木の挙動不審さに「?」がついている。
「よし、今は誰もないな。いつでも、誰でも、気付いたことがあったら教えてくれ」
山村が先頭にたって歩き始めると、みんなが続いていく。
「駒木と野田で、悪いが最後尾を警戒してもらえるか? 先頭には、俺と芳田が立つ」
「お、おう、任せとけ」
それを聞いた伊代が、山村と時生に近づく。
「あのね、女子だって戦えるのをお忘れなく」
伊代の後ろでは、永島千帆が右手に持った刀の鞘で、右肩を軽く叩きながら山村を見ている。
伊代と同じことが言いたいらしい。
「すまん、考え方が古風なのは育ちかたのせいだ。じゃあ、古川は右を、永島は左を警戒するようにしてくれるか。横路や建物には何が潜んでいるかわからないから、なるべく道路の真ん中を進むようにするから」
「了解」
伊代は山村の指示どおり隊列の右についた。
なるほど、甘いものがなくなると、少し落ち着いた人格に戻るようだと、時生は変な感心をした。
永島も言われたことに忠実に、左を守り始めた。
こうして、時生たちはまた進み始めた。
どこに向かって進んでいるのかはわからない。この先がどうなっているのかも見当がつかない。
だが今は、進むしかなかなかった。
コンビニのくだりが思ったより長くなりました。
この舞台設定で、なぜ、そこを。
まだジワジワ、書いていこうと思っていますが、楽しんでいただければ幸いです。




