序章・共通シナリオ
「やっぱり……無理なのね」
私は錬金術を使おうとしても酷く頭痛がして命に関わるから禁じられた。
必要な知識はあっても、体がそれについていかない。
「アルラ様、家庭教師のレッスンをサボって錬金術の鍛練ですか」
「うう……」
ここは王立国家“アヴァンニウム”錬成金術の王から始まり、民のほとんどが錬金術士で構成された国。
――錬金国家に生まれがらそれ使えない。しかし私はこの国で第一王女に生まれた。
権威を持つのは親が王だからだ。
民は錬金術を学びそれを使って他国で稼ぎ、豊かな暮らしをしていたが、それは長くは続かなかった。
錬金術には資源がある。
近々その資源が、尽きそうなのだ。
原因は隣国で敵対関係にある科学者の国“ゲノイウム”
錬成金術に強い嫌悪感を持つ彼等ひいては王が、有害薬品を開発し、それ使って、資源を減らした。
そのせいで暮らしは一変したのだ。
それをどうにか解決するために、思い付いたのは貴奴等を止めること。
良い手はないものか、従者の“サイケデリク”に訪ねたところ―――――。
「下女?この私が!?」
『敵国にメイドの格好で潜入して、こっそりゴーレムを放ってしまいましょうよ』
と、馬鹿みたいな返答を寄越された。
「まあまあそう声を荒げないでくださいよ」
「だからって、この勝ち気で高慢でプライドエベレストの私が下女?」
「自覚はあるんだねぇ」
「迷惑きわまりない程の性悪が! 誰かにつかえる。なんて、ありえないわ!」
「今度は自虐?」
●1私が女中?
「ここがゲノイウムね……」
国を救うべくして私は立ち上がる。
もちろんメイドの姿で。
他に良い手がなく、結局こうなってしまった。
両親が資財調達で遠出している今、私が城を任されていたが……サイケデリクに国の雑用を頼んだ。
私には兄がいるが、他国“アヴェンジャル”で働いている。
あちらの国では科学者も働いているらしいし、兄も大変だろうし、頼ることは出来ない。
――――例え一人でも私は目的を果たす。
「そこのおまえ、見かけぬ顔ですね」
(早速みつかったあああああ)
「こちらに来なさい」
長髪の身なりの良い優男が、こちらをじっと観察している。
こんなときどうすべきかしら。
【素直に従う】
【だが断るわ】
→【無言】
「おや……
言葉を話さぬ人形に、声をかけたわけではないはずですよ?」
立ち尽くしていたところ、向こうからすっと、身を寄せられた。
「おまえ、ただの女中……ではないでしょう」
やはりバレた。内なる高貴なオーラは衣服では隠せないらしい。
(そうよね、プリンセスの私がいくらメイドの服を着てもバレるわよね)
「まあ
……それについては、どうでもいいです」
男は話を終えると、すぐに私から離れた。
「……おまえから深く染み込んだ
レアメタルの匂いがしました」
「……」
「……なんて、嘘ですよ」
「は?」
「さあ、持ち場へ戻りなさい。今なら仕事を疎かにしたことをメイド長には黙っていてあげますから」
「……あ、ありがとうございます。お気遣い、痛み入りますわ(よかった。なんとか切り抜けられそう)」
「おまえは……大方、アヴァンニウムから来た錬金術士でしょう」
「な…なぜそれを……?」
『おまえからレアメタルの匂いが……』
やはり、そう簡単には逃げられないらしい。
「おやおやカマをかけただけなのに、その動揺ではっきりと決まりましたね」
(……しまった)
このままシラを切れば、まだギリギリ間に合った模様。
残り一パーセントの否定要素を粉々に砕いて消し去ってしまった。
「おまえは何か目的があって城に忍び込んだのでしょう」
「……」
墓穴を掘りすぎた。もう何も答えないほうがいいか。
「まあ……十中八九、この国の陥落でしょう」
「そうよ!!」
――――終わった。
国を救う役目を全うできないどころか、更に国を脅かす事態になった。
互いに兵力はもたないため、膠着状態ではあるが、城を攻めたとなれば薬品型兵器で攻撃されるのは明らかだ。
ただでさえ資財がなく錬金術に頼れない今、城を護る力など皆無に等しい。
アヴァンニウムがまだ守られているのは、兄が中立国のアヴェンジャルの錬金術士長だから。
―――さすがに今回のことが公になれば、争いは避けられない。
「……協力、してあげましょうか」
「え……?」
思いがけない言葉。
「――――私はラクティス、この国の宰相です」
●2科学者は敵である
――――私がこの国を攻めようとしていることを、宰相のラクティスに知られてしまった。
敵のしかも王の次に偉い立場のものが、まさかの味方。
変な話ではあるがたなく彼についていき、部下だという学者長の元へ向かうことになった。
「……失礼いたしまぁす」
私は新人女中<メイド>らしく可愛らしい声をつくる。屈辱だわ。
―――ドアは開かない。
宰相が、私を罠にかけたのだろうか。
「グセメド、いるのならばこの扉をお開けなさい。さもなくば……」
ラクティスはカチャリとピストゥルを構えた。
あれは銃の国でしか作られていないもの。
入手がむずかしく、単価も高い。
およそ500000コエマドゲルポする。
サイケデリクも入手した日は自慢していた。
「待てよ!! 開けりゃいいんだろ!」
ラクティスが打つ前に、瞬時に、男がドアをあけた。
なんだか、科学者らしくない。
そこらのしたっぱ兵士なみに乱暴そうだ。
「……なんかお前とははじめて会った気がしねーなあ」
グセメドという男は、私のまわりをじろじろと観察する。
あまりの無礼に睨み付けそうになるが、たえる。
「……女中を引っ掛ける暇があるなら
成果を上げてくださいね」
ラクティスがピストゥルをグセメドの頭につきつけている。
清々しいほどの笑顔だ。
「へーへー」
「彼女は今日から私の世話係になりました」
ラクティスは私を後ろに下げた。
もしかして挨拶しなくて済むように、気を使って?
そんなこと、彼がするわけがないか。
会って間もないのに、気遣いという言葉がとても似合わない男だという印象をすぐに受けた。
「ほー。アンタが女人に興味あるたぁ意外だな」
グセメドがニヤニヤと馬鹿にしたような顔をする。
「それは、嘲りですか?」
ラクティスはかろやかにグセメドの背後にまわって再び頭にピストゥルを向ける。
彼はグセメドの部屋を去るようなので、私もそれに続いき退室。
次は何処へ連れていくつもりだろう。
「……内密な話があるので掃除をするフリで宰相室に来なさい」
「わかったわ」
とりあえずホウキを持って入る。
「なぜ私が協力するか、理由が知りたいでしょう?」
ラクティスは椅子に座り、私に問う。
「別に、協力してくれるというなら理由なんてなんでもいいわ」
今さら、協力すると見せかけて捕まえることはないだろう。
そんなことをする意味がないし。
「そうですか? まあ話しますけれど」
最初から話すつもりならなぜ聞いたのだろう。めんどくさいわね。
「早い話がつい先ほど、王を消して私が新たに国を統治したいと思い始め、策を考えていたのですが」
―――思い付いた?
「……そこに偶然私がいたから、あ、使えそうだ。と思った?」
「そうです。よくわかりましたね」
ラクティスが機嫌よさそうに笑う。
「じゃあ王陥落の計画は?」
「そんなもの、あるわけないでしょう」
話を聞いていると、ラクティスが王を陥落させようと思ったのは、私と出会う少し前だと断定できる。
「あなた、よく宰相になれたわね」
親のコネか、呪詛に近い魔術の類いなにかを使ってなったのではないかと疑いたくなる。
「その目はいかにも、親が宰相だからその階段式でなった。とでも言いたげな雰囲気ですね」
すごく的確に当てた。やっぱり皆そう思うのね。
「いっておきますが、私の実家は本来、どう足掻いても宰相になどなれない下級貴族ですよ」
―――なら魔術かしら。
「……まだ疑っているようですね」
「まさか」
――私は目をそらす。
ええそうですね。なんて言ったら、協力してくれなくなりそうだ。
「まあ、良いでしょう。とりあえず貴女には王をたらし込んでもらいますか」
「え!?」
「冗談ですよ。」
―――――二人は距離をとりつつ城の廊下を歩いている。
「目的のためには、優秀な味方を増やそうと思うのです」
と、真顔でラクティスは言った。
アルラがひきつった顔でラクティスのいる方を向く。
「……それは、私が優秀な仲間じゃない。と、遠回しに貶しているわね?」
「そうなりますね」
――――――
私はラクティスとわかれ、仲間になりそうな人材を探すべく、城の内部を調査することになる。
なにかあったら【宰相のお気に入り】と言えばいいとラクティスが言っていた。
方便なのだし、恥じることなどない。旅の恥はかきすてと、古きより文献にもある。
どうせこの国の民は滅ぼす者達なのだ。
遠慮なくその台詞を使わせて貰おう。
道を歩いていると、誰かにぶつかった。
「……あ、失礼」
ぶつかったのは黄土色の淡い髪色の青年。
「僕に近づかないで……」
手を差し出すと、即座に後退された。
「……」
「なんというか、女中らしくないね」
――怪しまれている。
「……もうしわけありません」
「別に商品に傷はないからいいよ」
――自分より商品のほうが大事、変わってるわね。
「……陛下のところまで案内して貰える?」
「僕はジレーム=ルパルゴーン。宝石売りだよ」
―――宝石商は名のるだけ名のって立ち去った。なんだかよくわからないが、気は合いそうにない相手。それだけはわかる。
●3男脳女脳
「調子はどうです?」
ラクティスは様子をうかがいにきた。私が裏切っていないかどうかの確認も兼ねているのだろう。
「宰相……なぜこちらをじっと見ているのよ?」
「聞かないんですか?」
「なにを?」
「おや……随分とドライな反応ですね」
―――は?
「書物に登場する女人はなにかにつけて、理由を知りたがっていましたよ」
「随分極端な話をするのね。私はなにかにつけて無意味な嘘をつく男や、理由を知りたがる女の感情。
どちらも好きじゃないわ」
彼の言いたいことは結局なんなのよ。
用はないといわれ
私は腹立ちながらも冷静になり、移動することにした。
「!」
「もうしわけありません……」
うっかり通行人とぶつかってしまった。
「そこのお前、ちこう寄れ」
この男、貴族だと思うがいきなり私にぶつかってきて何様のつもりかしら。
「お前、なにをやっているんです?」
そこへラクティスが現れる。私は一応メイドなので黙って目線をやる。
「ラクティスよ。そなたの女中、気に入ったぞ」
と男が言い出しているので、どうにかしてちょうだいよラクティス。
しかしなぜか彼は口を挟まない。
「どうぞ、そのメイドは貴方のものです陛下」
―――陛下?ということはこの男、ウィロン=ゲノイウムなの!?
この国の王がなぜ私に、まさか素性バレたのだろうか。
しかしこまったわ。このままだと計画が――――
「まあそんなに固くなるな、冗談だ」
「え?」
「気がついていました」
「浮いた話のないラクティスになにやらメイドがいると聞いたのでな。
顏を拝みにきたついでにからかうつもりがこんな反応ではつまらんな」
王は去る。私はラクティスの仕事部屋にいく。
「やれやれ、陛下にもこまったものだ」
ラクティスは殺す対象のことを言うにしては、保護者や気の知れた仲のような目線だ。
「で、どういうこと、私の正体は知られてしまったの?」
「たんにからかわれただけでしょう」
●4皇子は隣王のお気に入りを奪う
「おはよう私の可愛いメイドさん。ちょっとよろしいですか?」
ラクティスが人気の多い場所で、わざとらしく私に声をかけると話をしだした。
「いきなりですが、明日隣国アンヴァートから皇子が来るそうです」
「ええ!?」
いきなりすぎやしないだろうか。
「仲のいい国というわけではありませんがこちらの陛下と向こうの皇帝が従兄弟だそうです」
「そうなんですか」
だがいきなり来るなんてさすがに不躾すぎやしない?
◆◆◆
「あの女中は?」
「ああ、あれは…陛下のお気に入りと噂の女錬金術士です」
「ほう…隣国の王が寵愛するのが錬金術士の小娘か、我々の国で言う後宮、ハレムの籠姫でも在るまいに、面白い噂ではないか」
身形の良い男は嘲笑った。
「だがあの女はたしか姫であろう?」
「正体を偽って潜伏中のようです」
「何故そのような真似をしている?」
「おそらく……いいえ十中八九、敵対国だからでしょう」
「ならば引っ掻きまわしてやろう」
◆◆◆◆◆◆
翌日になり例の皇子が来た。
あまり人気のないところでいると、呼び止められる。
「なっ……なんでしょう?」
「単刀直入にたずねます。貴女はアヴァンニウムのアルラ姫でしょう?」
――――なぜバレているのだろう。まさか、この男は初めから私に気がついていて、だからこんな突然この国へやってきたのだろうか?
「なんのことでございましょうか?たしかに私めはアヴァンニウムの民でございますから、錬金術を多少は扱えますが……」
「そうか、しかしアヴァンニウム国の錬金技術は素晴らしいと聞く」
こいつ私に気づいている。納得したと見せかけ脅すつもりなんだわ。
「我が国でも錬金術を使いる故、ぜひそちらのテクノロジーやシステム等を拝見したいのだよ」
錬金術の国アヴァンニウムと敵対するこの国の王と親戚でありながら錬金術を使うとはにわかに信じがたい。
人がやってきたので、逃げるなら今だ。
「もうしわけございませんが女中の私など皇子様にお声を頂ける立場では……」
「そうか、残念だが仕方ない。この国と同盟がある限り私はアヴァンニウムには近づけないのでついな」
嘘だらけだと思っていたが、アヴァンニウムに来たいというのは本心だと思った。
「ではもしいつか、敵対関係がなくなる日をお祈りいたします」
私は動機と恐れを悟られぬように去る。
●パーティー
城内が何やら慌ただしい。使用人が世話しなく走り回る。
「皆はなにを慌てているんですか?」
一応人前なのでラクティスにへりくだりつつたずねた。
「王子が来たことで、今夜はパーティーが開かれる。その準備です」
王子のことは忘れようとしていたが、パーティーか……。
【参加したい】
【参加したくない】
【ふーん】
私が考えていると、ラクティスはクスリと笑い始めた。
「まあメイドがダンスに参加など無理ですが」
もし参加したとして、私は誰と踊りたいかを考えた。
【ラクティスをみる】
【誰とも踊らない】
【私いまメイドだしね】