表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/42

5話 襲撃の日

ホラー苦手です。

おもらし回です。

????年(五年目)九月 三日


 ――気が付いたら僕は深い森の中にいた。

 

 周りは開けていて少し先には湖があった。

 木々の隙間から差し込む光が幻想的な雰囲気を演出している。

 湖底まで見えるだろうか。

 とても澄んだ透明色は揺らぐこともせず森と一体化しているようにも思えた。

 

(こんこんっ!)


 おや? 向かいに誰かいる。

 向こうは僕に気付いているのか何もせずただこちらを見ている。

 

(こんこんこんこんっ!!)

 

 なぜだろう。進んでも進んでも前に進んでいる気がしない。

 地面をとらえた足は空を蹴って元に戻る。


(どんどんどん!!………………バキッ!……ガチャ)


 ――…て、おきて、起きてライト!! もう、べちっ!!

 痛っ!! 頬の鋭い痛みによって一瞬で覚醒する。

 僕の目に映るのは森ではなく涙目の女の子だった。

 寝過ごしたのかと思ったが、窓の外は闇に包まれ鶏一匹鳴く様子もない。


「痛ったいなぁ…。何するんだよ!てか何時だと思ってるのさ!」

 

 僕を叩き起したのはリリィだった。

 下着の上に黒いネグリジェだけという大胆な服装のまま、自室を飛び出してきたらしい。


「お、お化け…」


「はぁ?」


「あたしのへやにお化けが出たの!! 

 いきなり窓が割れてへやの中をふよふよ飛んでるのよ!」


「で、びっくりしてすぐ近くの僕の部屋に逃げてきた、と」

 

 果たして本当にお化けか? 

 窓を割るという物理干渉ができるお化けって何だよ?

 ひとまず興奮気味のリリィを落ち着かせるため、頭を撫でてベットに座らせる。

 ん? なんだか心なしか、下半身をもじもじさせているような。

 

「どうした? そんなに怖かったのか?」

 

 そう尋ねるとビクッと体を跳ねさせてそっぽを向き、揺らめく炎のような髪を背に、僕の疑いの視線から隠れようとする。 

 

「さては何か隠してるな? 怒んないから正直に言ってみようか」


「ぜったいに怒らない?お母さまやサラにも言わない?」


「何やらかしたんだよ。大丈夫言わないから」

 

 もじもじ。勿体ぶるリリィ。


「ん…その……お、おもらししちゃった…」


 !! 幼女の聖水来た! とか前世だったら間違いなく言ってただろうな。

 しかし今は少しも嬉しくない。そりゃ五年も生活してたら当然なのだが。

 相当驚いたんだろうな。

 こう見えて、普段は不遜な姉も実は結構小心者なのかもしれない。 

 

「はぁ。部屋と廊下は大丈夫か?」


「だいじょうぶ。安心したからちょっと出ちゃっただけよ」


「え!? 今出したのかよ!? なんでベット座った!」


「すわらせたのライトじゃない!」


「あー…」

 

 その通りです。これから毎日姉のお小水ベットに体を預けることになるのか。

 しゃーない。自分がやったことにして明日サラに変えてもらうか。


「それでどうする? 今日は一緒に寝るのか?」


「ねないわよばかっ! もう一度へやへ行くわ!」


「あっそう。じゃ頑張ってなー」


「あんたも行くのよ!!」

 

 こうなると思ったよ…。

 部屋から出たとたん言い出しっぺは完全に委縮して俺の後ろに隠れるし。

 

 それもそのはず。

 深夜の廊下には、いつも僕たちが暮らしている暖かさは何処にも無かった。

 ただひんやりと、僕らの小さな体を飲み込むように闇が辺りを覆っている。

 リリィが僕にすがるように、僕も彼女の温もりにすがっているのかもしれない。

 

 なるべく皆を起こさないように抜き足差し足で移動する。

 姉の部屋は姉弟だからだろうか、僕の部屋のすぐ隣だ。

 それでも普段なら十数歩の距離の移動は、夜の静寂によって引き伸ばされた。

 ふー。眼前の扉を前に一つ深呼吸。


(リリィ開けるぞ。いいな)

 …コクリ

 

 彼女の了承を確認してからそっとドアノブを捻り、まずは数センチ分の視界を確保する。

 部屋の中も廊下同様、完全な黒の世界に包まれていた。

 何かが動いている様子さえも伺えない。

 このままここで手をこまねいている訳にもいかない。

 思い切って開けよう。速攻で決める。

 再び息を吸い、吐く。と同時に!


 バンッ!  

 

 まずは照明だ!相手の姿が見えないんじゃどうしようもない。

 くそ、リリィめ相当慌てて逃げてきたな!

 部屋の中はごちゃごちゃでどこに蝋燭があるかわかりやしない!

 想定外の事態に手をこまねいていると、


「むぐっ!」


 顔面に何やらモフモフしたものがまとわりついてきた!

 これは例のお化けの攻撃か!? 

 何やらピーピーと甲高い奇妙な音を発している。


「ライト! へやからロウソク持ってきたわ! これで!」


 ナイスリリィ! とっさの判断は大したものだな!

 顔面の障害物を引きはがし部屋の様子を一瞥する。

 散らかった部屋には一面中に真っ白な羽根が散乱していた。

 

「ライト、あしもとっ!」


 言われて先ほど引きはがした足元のモフモフに視線を向ける。

 そこにはフクロウより一回り大きい位の真っ白な鳥(?)がのびていた。

 ここまでの緊張が嘘だったような肩透かしを食らい、自分自身で安堵しているのがわかる。


「何だこいつ? こいつがお化けの正体なのか?」


「すっごい大きい鳥ね。しかももっさりしてておデブさんね」

 

 リリィの評価が心外だったのか、白い球体はノーモーションで彼女にとびかかった。


「きゃ! や、止めてってば! こら、ちょっとライトぉ、とめてぇー!」


 あーあー揉みくちゃにされてるよ。

 復讐に満足したのか僕の肩にどっしり構え、眼下の敗者に向かって誇らしげな顔をしている。

 

「ぐぬぬ。このわたあめ鳥めぇ……」


 鳥に負けて地面を這う五歳児。

 悔しそうに上目遣いで睨みながら捨て台詞を吐く。

 そういえばこういう時は炎出さないんだな。一応手加減してるのか?

 

 ふと違和感に気が付く。この鳥、全く重さを感じない。

 そこに居ないのではと錯覚させるほどの軽さだ。

 やっぱり異世界お約束の魔物やら幻獣やらなのか?

 

「リリィお嬢様! 何かあったのですか!?」


 ここでサラが騒ぎを聞きつけやってきた。

 ありゃ、さすがに起こしちゃったか。申し訳ない。


「一体何事ですか! もしや賊!?」


 予想以上の部屋の散らかり具合に、ならず者の存在を思い浮かべたらしいサラは、どこから取り出したのか銀のナイフを三対ほど手に取り、

 僕らの盾となるべく前に出る。

 しかし、そんな者の影はどこにもないことに気が付いたのか、もしくは部屋に散乱する羽に気が付いたのか、リリィがもう一度出してしまいそうになる位の殺気を引っ込める。

 サラってもしかしなくてもちょー強い?

 

「これは……鳥? ですか?」

 

 むっ!っとリリィが指し示す先に目をやることでようやく、その羽の所有者に気が付いたようだ。


「驚いた。ここまで気配を消しているとは。ライト坊ちゃま大事ないですか?」


「あ、僕は平気だよ。それよりも膀胱の方が…」


 そう言いつつ横目でリリィを見ると、言ったら燃やすと周囲に炎をちらつかせ訴えていた。おお怖い。


「ぼう…? まあ危害が無いなら安心です。それにしても大きな鳥ですね。まん丸と肥え太って…」


 焼いたら美味しそうだ。と言わんばかりのサラのメイドとしての矜持を含んだ視線に縮んでいく白い鳥。


 するとなんだか階下が騒がしいのを聞きつけたのか、母さんまで起きてきた。


「何事よぉ夜中に、ってあら? その鳥……、珍しいわね、エピオルニス…ロック鳥の近縁種ね」

 

 ライトが気に入ったのねー、

 と問われると肩の鳥は耳元でピュイと楽しげに鳴く。

 なんでこんなになついてるんだよ…。

 

「母さんこの鳥知ってるの?」


「結構なレアものよその子。このまま飼うんだったら大事になさいねー」


「え、飼うこと前提なんだ」


「この鳥が飼い主を選ぶことは滅多にないのよー。

せっかくなんだから飼っちゃったらいいじゃない」

 

「いいなーペット!ライトだけずるいー!」

 

 とかいうリリィは放っておいて、そこまで言われるなら飼うかぁ。

 ペットとか小学生のころ飼ってたハムスター以来なんだが大丈夫だろうか。

 

「心配しなくても、多分その子一人で生きていけるわ。餌も要らないはずよー」

 

 あ、マジでそういう感じなのか。改めてファンタジーすげー。

 

・ 

 

 四人で協力しリリィの部屋を取りあえず綺麗にしたところで、解散ということになった。

 

 マスターもとい飼い主になった僕は、純白の鳥を引き連れ十数歩先の自室へ戻る。


「純白の鳥…って、名前がないと不便だな…」


 名前、か。

 ネトゲのキャラネームですら電子機械のランダム性に頼っていた僕に、ネーミングセンスなんてあるわけがないわけで。


「おまえ確かエピオルニスっていうんだっけ? エピオル、オルニス…うーん」

 

 どれもいささかこのずんぐりむっくりとした白い毛の集合体の名前にしては格好良すぎる。

 もっとこう、ふわっー、っとした感じのスイーツ成分多めのが好ましい。


「ピオだな、うん。ビビッと来た。これなら愛され系マスコットキャラ化間違いなしだ!」


 案外その名前が気に入ったのかピュイピュイと飛び跳ねるピオ。

 ぽろっ、その振動によって何かがピオの体から振るい落ちる。

 

 ひらひらと宙を舞うそれは――。リリィのパンツ(黒)だった。


 ……リリィにやられないよう強く生きるんだぞピオよ。

 

 などとなんともアホなやり取りを済ませたところで、

 やるべきことを一通り終えたと体が悟ったのか、一気に眠気が脳の思考を犯した。

 ピオの温もりと手触りが、ここ小一時間で刺激された精神をを優しく撫でまわす。

 

 僕はそのまま、新たな家族を抱えたまま、

 二度目の睡眠に入るために瞼を塞いだ……。 

  

  

 ……翌日、ベットのおもらしがサラに見つかり、

 五歳にもなって、という憐みの目を向けられた。

 ……リリィのパンツが見つからなかっただけまだマシなのかもしれない。

※エピオルニスは実在していた鳥ですが、ピオと姿かたちは大きく異なります。

 もっとゴツイです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング  ←登録してみました。よろしければポチッとしてもらえると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ