4.5話 花冠の日 After
4.5話です。
「わお、まさかとは思ったがこりゃ驚いた」
右手に添えられた二つの装飾品を眺めながら、一人、部屋ででわざとらしくおどけてみた。
今日はこの腕輪と指輪をもらってからちょうど一週間。
だというのに、元は何の変哲もない野草だったであろうこれらは、一向に萎れる気配がないのだ。
むしろ前よりも生命力に溢れている気さえする。
そーいやリリィとメルにあげたのは二日目くらいで萎れたっけ。
なんでライトのだけーって何も悪いことしてないのにリリィは数時間口を訊いてくれなかったな。
「一体母さんは何者なんだ?」
「うふふー、母さんは母さんよぉ」
「おわっ!!」
噂をすればなんとやら。
何年も歳を取っていないと言われても納得の若さを保つ母が部屋の入口に立っていた。
神出鬼没すぎだろ!全くドアを開ける音しなかったぞ今。
「もう母さん! ドアノックくらいしてくれよ!」
あらあらーごめんなさーい。
と、現代では何回やったかも覚えていないやり取り。
やはり母という生き物はどこの世界でも勝手に部屋に入ってくるようだ。
「それで私がどうかしたかなぁ?」
「いやいや、どう考えてもおかしいだろこれ!」
そう言ってマリーの眼前に右腕を突き出す。
「わぁ綺麗ねー。よかったわねーライト」
「よかったわねー、じゃなくて!一体どんな魔法使ったんだよ!」
「教えなーい。というか教えられなーい」
芝居がかった動きでそれはできない、の意を示す母。
「だって私生まれた時からこれ出来たんだもん」
もんじゃねえよ!そんな口調でも許される見た目なのが余計に腹立つ!
まてよ、ってことはこの世界の魔法は先天的に宿るものなのか?
「これ以外のこともできたりするの?」
「うーん、やったことないから。でも多分出来ないかなぁ」
「僕も使ってみたいんだけど、魔法」
「だーめ。ライトにはまだ早いわ」
ちっ、初魔法習得のチャンスだったのに…!
「でも、きっとあなたもいつか使えるわ。その時は――」
そう言いかけてふとどこか遠くを見据える母さん。
「――その時はあなたがあの子を守ってあげてね。あの子の魔法は少しばかり特殊だから…」
あの子? リリィのことだろうか。
母さんがリリィの魔法に気付いていたのには驚きだ。
リリィは僕にしか魔法を使わないから、てっきり気づいていないものと思っていた。
「あ! いっけない。サラの洗濯を手伝うって約束したんだったぁ」
まるで小学生みたいな口調で慌てて出ていく母さんは、先程とはまるで別人だった。
一体何だったんだ…。
まーた一つこの世界の謎が深まっちゃったよ…。
生きている間に僕はこの世界のことを知り尽くせるのだろうか。
…………母さんの正体といい、
なんだかそれはとてもとても果てしない事のような気がしてきた。