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4話 花冠の日

内容的に実は一番お気に入り。

????年(五年目) 八月 二十日


 五歳にもなるとリリィやメルが流暢に話すようになってきた。

 今まで喋りたくてもそれが許されなかったので、その呪縛から解放されて心から嬉しい。

 しみじみとしながら苦悩の数年を振り返っていると、


「らいとおにーちゃん、なにしてるのー?」


 と、昼食が終わるや否や、メルが駆け寄り話しかけてきた。

 

 メルもこの数年で可愛らしく成長した。

 肩までかかる二つ縛りのブロンドの髪に、一点の曇りもない金色の瞳を持つ彼女。

 彼女はとてもおしゃれ好きで、フリフリと髪を束ねる二対の白いリボンは、彼女がサラと一緒に生地から作ったものらしい。

 加えて年相応のあどけなさが残る口調なので、かなりグッとくるものがある。

 おっと、勘違いしないでくれ。俺は断じてロリコンではないぞ。

 

「ん?僕?そーだなあ、強いて言うなら妄想かなぁ」

 

 喋れるといってもこの通り、転生による不自然さを残さないように一人称は僕で統一している。

 メルならまだしも、母さんやサラの前ではなおさら気を付ける必要があるのが今後の課題だ。

 …一応「俺」はもう世界にいないんだからな。

 なるべく普段から「僕」慣れしておいたほうが無難かもしれない。頑張ろう。


「もうそうってなーに?」

 

 幼女に何妄想してるんだ、と問われる元二十歳男性。

 これ以上は完全に事案である。

 母さんも食後の紅茶を片手に椅子に腰かけながら、「あらあらー」などとのたまっている。

 サラに至っては、食器を洗いながら苦笑いである。怖い。


「あっ!そうだメル!一緒に外で遊ばない?」

 

 我ながら下手くそな話の逸らし方で恥ずかしい。


「うん、いくいくー!いっしょにお花のかんむり作ろう!」


 それでも通用しちゃうから子供ってホント純粋だと思う。

 こんな時代がお…僕にもあったのかなぁ。

 ともあれちょっとした危機を回避しつつ、メルとともに玄関へ向かう。

 

 食堂はこの家の一番奥に位置する。

 階段、メルの部屋、僕の部屋、そしてリリィの部屋を通り過ぎようとした時、部屋の主に呼び止められる。

 

「ちょっととまりなさい!」


「げ、見つかった」

 

 ドアの向こう側で我が姉君が頬をぷくーっと膨らませ不満を露わにしていた。

 

「なんでいつもあたしをおいてくのよ! 今日もおいてくならお母さまに言いつけてやる!!」


 彼女は深紅の髪をなびかせ、燃え盛るような色の眼に涙を浮かべながら僕に連れて行けと訴える。

 リリィはメルと真逆で随分と過激な少女に育った。

 おもちゃを取られれば、おもちゃごと僕を打ちのめし、(ちなみにこのおもちゃはメルのものだった)

 三人で外へ出れば僕らはまるでしもべのように扱われる。

 幼児期の熱風はさらに強化されてちょっとした火になるし全く困った姉である。

 良く言えば天真爛漫、言い換えるなら暴君である。

 

「じゃー今日はおとなしくする? 花冠ちぎらないでよ?」


「ふふん。まかせなさいよ。あたしをだれだと思っているの?」


 この調子である。

 まだ発達もしてない薄い胸板を大きく張って見せる姿だけ見れば、

 文句なくかわいい部類なのに……。

 まあ涙目の幼女を放置するなんてことは流石に僕には出来ないわけで。

 

 新たな仲間を引き連れ(リリィが)最後にサラの部屋の前を通り抜け玄関にたどり着く。

 子供には少し大きめのドアを二人がかりで開け、豊かな自然の空気を体内に取り入れた。 


 ここゼーレンブルグはものすごい田舎である。

 恐らく他の町からかなり離れている位置に存在している。

 元居た世界で例えるなら…。

 そう、西欧の森林地帯や、「赤ずきん」という童話の舞台を思い浮かべると分かりやすいかもしれない。

 とにかくこの家以外には草原や森林しかないため、ここ一帯は全て僕たちの遊び場なのだ。

 森の方はサラに「絶対に入ってはいけませんよ!」と口酸っぱく言われているためまだ入ったことはないが、家の周囲ならあらかた探索し終えたし安全である。

 

 念のため家からあまり離れていない原っぱに僕とメルは腰を下ろし、野草や花を集め始めることにした。

 その様子をリリィは不思議なものを見る目でに眺めている。

 

「ねぇ。いったい何がたのしいの?」


「きれーなお花のかんむり作るのたのしいよ? りりねーちゃんもいっしょに作ろ? ね?」


 流石のリリィもメルの純粋な視線に負けたのか、まったくしょーがないわね!とかぶつくさ言いながらも花を集め始めた。

 今日は何とか穏やかに遊べそうだ。でかしたぞメルよ。

 さて、僕もそろそろ組み始めますか!




「らいとにーちゃんはじょうずだねぇー」

 

 作業を始めて十五分位経っただろうか。

 一つ目の冠を完成させた僕にメルが話しかけてきた。 

 どうやらメルも一つ完成したみたいだ。

 頭の上にはかなり小さ目の白い冠がちょこんと乗っている。

 あらかわいい。性格や雰囲気も相まって絵になるなぁ。童話に出てきそうだ。

 

「メルのも綺麗な色してるじゃん。ちょっと小さいけど」


「んー、ちょっとまちがえちゃったかも」


「じゃあハイ。これでぴったりだ!」


 そう言って、彼女の小さな頭に自作の冠をかぶせる。

 おお! 自分でも完璧な出来栄えに驚愕だ。

 こっちの世界に来てからこんなことばっかりしていたため、一種の特技になりつつあるのかもしれないな。

 花冠作りが趣味な元大人ってわけがわからんな…。


「え!? いいのおにーちゃん? せっかく作ったのに……」


「いいよいいよ。元々あげるつもりだったから」

 

 そういうとメルはぱあっと表情を明るくし僕の冠を手に取っていろんな角度から眺めては、えへへー、などとだらしない笑顔を見せてくれる。

 そんな彼女を微笑ましく見ていると、何を思いついたのかメルが自分で作った冠を僕の右腕にかけてくれた。

 

「これでおあいこ! おとこのこにかんむりはヘンだもんね!」

 

 あー可愛すぎてやばい。娘ができたらこんな感じなんだろうなぁ。

 できたら…。うん。

  

「ありがとう。大事にするね」

 

 などというやり取りをしていると、隣から奇妙な唸り声が聞こえてくる。


「ぐぅうー……むぐぐー!」


 どうやら姉君は悪戦苦闘中のようです。

 って周り燃えそうだから落ち着けって! 

 全く、素直にメルに作り方聞けばいいのに…。

 まあ一人だけ無いのも可哀想だし、今日は珍しく大人しいからリリィにも一つ作ってあげようか。 



 でーきた。

 メルのは白を基調にしたけど、こっちは鮮やかな赤色をコンセプトにしてみた。


「む、む、む、むきゃー!」

 

 どうやら丁度限界が来たようだ。


「ほら落ち着いてリリィ、これやるからさ」


「へ? 良いのライト? ………あ、ありがと」


 あれおかしいぞ?

 なぜかこの鬼畜系姉が可愛く見える。何か赤くまでなっちゃってるし。怖い。


「じ、じゃこれ、あげる! メルのマネだからね!」


「おっ、おうありがと」


 そういわれて握らされた手のひらを開けると、

 そこにはメルのよりも小さな、

 というより指一本通すのがやっとなぐらいの一本の赤い花で作られた花指輪があった。

 わぁー超不格好。でも嬉しくないって言ったらウソかな。

 この姉が珍しくデレたんだから、ありがたく貰っておこう。


「はい!じゃあ次は私のあそびね!まずは『わがりょうち』の『しさつ』よ!」


 おお、いつものリリィに戻った。てかどこで覚えたそんな単語。



「そろそろご飯にしますよー!!」

 

 家の方から響くサラの声。

 いつの間にか僕らは時間がたつのも忘れて遊んでいたみたいだ。

 あー今日はいっぱい動いたからお腹減ったぞ。

 さてさて夕飯は何かなー!



 その日の夜。珍しく母さんが僕の部屋にやってきた。


「よっぽど気に入ったみたいねぇライト。モテモテで母さん妬けちゃうわぁ」


「あ、気づいてたんだね母さん。いやさ、メルはともかくリリィまで珍しくくれたからさ」


「あの子も素直じゃないわねぇ。ライトちょっとこっちおいで。母さんが魔法をかけてあげるわぁ」


 魔法? 母さんも使えるのか?

 不思議に思いながら近づくと、母さんは僕の右手を手に取った。

 

「とっておきのおまじない。……心優しき我が子ライトに自然の加護を与えん――。」

 

 すごくそれっぽい詠唱をした母であるが、

 これと言って何か変わった様子はない。

 もしかしたら本当におまじないなのかもしれない。一家の言い伝え的な。

 

「はい。終わり! 急に来て悪かったわね。おやすみなさいライト」


「うんお休み。あ、あとありがとう」

 

 どういたしましてー。

 そうお別れを言い残して母さんは部屋に戻っていった。


 んー何だったんだろな?


 ランプを消すと月光に照らされた白い腕輪と赤い指輪は、

 一層明るく煌々と輝いていた。

Thanks for reading!!


後は特になしー。

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