19話 追憶の日 [その5]
一日が長いなぁ…(遠い目)
次でレヴィ加入のあれこれは一応決着します。する予定です。
これで本来の目的の修行編に入れる…。
「ルールは簡単。この天守閣にある物なら何でも使って構わない。先に行動不能になった方の敗け。私が負けた場合は発見宣言を受けるわ。あ、あと位置解っちゃうからミルラ先生に教わった『転生回数』を消す魔法をかけさせて貰うわ」
「ん。開始の合図は?」
「そうねぇ…Creation"Fireworks"。せっかく和風なんだからこれでどう?」
チートにも程がある対物魔法で精製されたのは尺玉――つまり花火だった。
「お前そのチートスキルで商売やった方が良いんじゃないのか…? ほら、向こうじゃそういうのはやってたじゃん。銃なんかのこっちでは未知の火器も創れるんだし…」
「何のためにこっちに来たと思ってるのよ。あんな爆弾を沢山持ってた方が勝ちなんてクソッタレな世界を作るために来たんじゃないのよ」
「あー…それは言えてるかも…」
二人して心底うんざりした面持ちで打ち上げ花火をセットする。更にミルラ先生直伝の魔法をクロエが詠唱すると頭上から「1」の表記が消えた。準備が整い、花火を挟んで再び対面。
「それじゃあ、打ちあがったら行くわよ」
「分かった」
クロエの初歩的な空気から火を創造する対物魔法が打ち上げ花火の導火線を焼き、焦がす。
…そろそろかな。僕が取れる初手はたった一つ――、
ひゅるる~……ドォーン!!!
――逃げ一択!! 範囲指定無しの強化で目くらまし! クロエの魔力が上がってしまうが初手で負けるよかましだ!
その隙にクロエから視認されないよう鯱がある真下、横から城を見ると白い三角形になっている部分へ逃げ隠れる。
城が崩れてしまいそうな程がようやく鳴りやんだ。その傍迷惑な音が鳴ると同時にクロエは高速詠唱、溢れんばかりの重火器を展開していた。あんなの全部撃ち込まれたら穴あきチーズにされてしまう!
「そんなに警戒しなくても良いじゃない。安心しなさい! 全部ゴム弾にしておいたから!!」
「安心なんか出来ないから! メル戦で見たけどゴム弾でも結構吹っ飛ぶだろ!? 落ちたら死ぬぞ!?」
「その時は非常に残念だけど永遠に私の勝ちね! そして、居場所をわざわざ教えてくれてありが…とうっ!!」
ジャキン。音がした方向、上方を見上げると立派な鯱が見えなくなってしまう程ぎっりりと配備された無数の銃口が僕をじっと睨んでいた。
「や…っばい…!」
咄嗟に屋根から飛び降り、城内と繋がっている部分に乗り移る。危なすぎだろ…。今のも失敗してたら一瞬で潰れたトマトだ。
「も~逃げてばっかじゃつまらないな~」
降りてくるのが億劫なのか、姿が見えない僕を警戒してか、クロエはそれ以上は追撃してこなかった。
さてここからどうするか…まず魔法の差が歴然過ぎる…。
クロエが持っている武器の材料のストックがどれだけかは分からないがあの様子じゃまだまだ余裕だろう。魔力の方は強化が効いてるだろうから枯渇を狙うのは厳しいだろうし…何よりそれを狙う時間なんかない。
三十秒ほどその場で息を殺し途方に暮れていると、何やら階段が騒がしくなってきた。
ドンドンと二、三段飛ばしで登ってくる急ぎよう。誰だろ…?
「はぁはぁ…あ~やっぱもう始まっちまってたか。…ん? ライト? まさかもう負けたのか?」
そうとう急いで上がって来たのだろう。息も上がり、ラピスとの戦闘でボロボロの服がさらに露出度的に大変な事になっているレヴィが駆け上がってきた。
(今隠れてるの!)
(お、そっか。いや~ライト。話は変わるけどあのラピスって子は良い子だな。嫁さんにした方が良いと私は思うぞ!)
(な…っ! こんな時に何言ってるんだよ!)
ラピスとの戦闘で一体何を感じ取ったのか、僕の慌てようにもお構いなしに話を続けていく。
(嫉妬深いのが玉に瑕だが、あれほど優しい子はそうそう居ないぜ。良いガールフレンドもってんな~)
何だこいつ! お正月によく来た親戚のおっさんかよ!
見ろよこの状況を! そんな脳内にお花畑を咲かせている暇なんてないんだって!!
(お、邪魔しちまったかぁ? 何なら手ぇ貸してやろうか?)
耳元で囁かれる甘い言葉。
確かにレヴィはこの天守閣に居るから利用しても誓約上は問題ないけど…、
(いや、僕一人で戦う。レヴィはここで見ててよ)
(けひゃひゃ! お前も十分いい男だよ! じゃあ見せてくれよ。あの時のお前を!)
(今は誰の力も借りないから前より不細工かもしれないけど…)
(気にすんな。行って来い!)
屋根上の足音からクロエの大まかな位置を概算する。
そこから逆側、死角となる方に回り梯子からじゃなく落下防止用の柵に登って聞こえないよう小さく詠唱、
(大いなる風を操る力を我に――!)
不格好な覚えて間もない初等対物魔法で上昇する風を生み出して、先程隠れていた場所と同じ、鯱の真下へと復帰する。
勝負は一回限り、クロエがあの位置に立った時の一度きり…!
カン…カン…カン…クロエの靴と屋根がぶつかる音が僕と情報の鯱を挟んで一直線に並ぶ。更にあの位置は丁度屋根の中央、二匹の鯱の中点!
今だ!
鯱は火事避けのまじないだから少々罰当たりかもしれないけど、そうは言ってもられない!
まずは思いっきりジャンプ。同様に詠唱を始め、風魔法で上昇。するとこの体でもすんなりと鯱まで手が届く。慣性を得たまま尻尾を掴んでさらに上へ。
狙い通り屋根の中央に立つクロエが嬉しそうに上空の僕を見上げてくる。
「へぇ…いつの間にそこまで来たのか…まるであの時みたいね」
クロエの両手には拳銃が一丁ずつのみ。この距離まで詰められたら範囲射撃をするよりそっちの方が対応しやすいと判断しての事だろう。スコープを覗かないスナイパーライフルとかも一人称視点のシューティングゲームではあるあるだけど、どうやらゲームと現実の区別はちゃんとできているようだ。
…ここまでは概ね僕の読み通り。今までの身のこなし、重火器の扱い方から元の世界かこちらの世界で少なからず戦闘経験があったと踏んで、それと昔のある経験から組み立てた作戦。
案の上クロエはセオリー通りの対応を取ってくれた。
「まだまだこれからだっ!」
鯱の背に着地し、銃口を恐れずに直進する!
まず片手で一発ずつ二発。これもあの時と同じ足狙い。
クロエの指先にタイミングを合わせて少し早めに小さく跳ぶ。ゴム弾は鯱の両の目を抉った事だろう。
にやり。クロエもここまでは想定内だったのか空中に浮かび突っ込んでくる僕を見て小さく勝利を確信して口元が緩む。
今回こそは勝ってみせる、と。
反動をいなす勢いのまま左手の銃を捨て、確実に狙う為に両の手で銃を構える。
――奇しくもそれはかつてクロエと無双しまくった電子世界での一対一と同じ状況だった。
和風のステージでどちらが上手いか決めようとなり、残り時間数秒でお互い同じポイント。残弾が尽きた僕はナイフで接近戦を試みて今と全く同じ状況まで持ってきた。
ここまでの誘導もきっとクロエなら同じ状況へ持ってくるだろうと踏んでの事。なぜならあの時クロエは予想外の奇襲で動揺し、銃弾を外して僕に切られ負けたから。
…負けず嫌いなお前の事だから絶対にここは決めたいよねぇ?
さて、つまりここからが真の読み合いになる。ここで読み勝てばそのまま勝ちへ繋がる。下手は打てない…。
当り前だがあの日と同じ様にクロエが外してくれる訳が無い。かといって律儀に何のひねりも無く当てに来るだろうか?
クロエは今日このかくれんぼで同階層に隠れるだろうという僕の予想ををさらに予想して、わざと五階に潜伏していた。
つまりこいつはいつも僕の予想の一つは上を行っている。
さあ、どう出てくる…!?
「…これで終わりよ」
クロエの人刺し指が力を帯びて――、
「っ! 大いなる風を操る力を我に――!」
パパァン!
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「おーい、ライトー? 真っ黒毛のお嬢ちゃんー? 二人とも大丈夫かぁ?」
ペチペチと、頬を優しく叩かれて意識が戻る。
はっ…やられた…っ!! 隣で気絶しているクロエを見ることで直前に起きた出来事を思い出す。
詠唱、魔法が効力を持つとほぼ同時に放たれた弾丸は――二発だった。
まず一発目。クロエの手の銃から放たれたゴム弾は、魔法によって僕の体を横薙ぎに払った風の影響を若干受けつつもほぼ直線的に鯱の尻尾へ着弾。僕の狙い通り、跳弾したゴム弾がクロエの額へ直撃した。
――のは良いのだが、二発目。クロエは必要ないと捨てたはずのもう片方の拳銃を遠隔操作。僕が避ける方向を読んであの一瞬で偏差射撃を行った。当然僕がそこまで読み切れるはずも無く。勝利を確信した後、強烈な衝撃が脳天を襲う。ヘッドショット。
「レヴィ…! どっちが先に気絶した?」
「あー? 流石にそれはわかんないぜ。アタシはライトが吹っ飛んで屋根から落ちそうだったから助ける為にお前しか見てなかったからよ」
「ふふ…やるじゃない…ゆ…ライト。今回は…そうね。引き分けってことにしましょう。ここで勝ち逃げしたら更に強くなるかもしれない貴方と戦うのを躊躇っちゃうかもしれないから」
クロエは悔しそうに右腕で目元を覆っていたが、決して泣いている訳では無かった。むしろ凄く楽しそうな口元。…笑ってやがるよ…。僕としてはもう命削ってまで戦いたくないんだけど…。
「って、そうだ、そう言う事なら発見宣言! まだ間に合うか!?」
「あと…十秒ね…結局全員見つけられちゃった――」
「うおお!! クロエ見っけ!!」
…どうだ? やったか!?
「…おめでとう。かくれんぼは貴方の勝ちよ…また勝てなかったなぁ」
「おー全員見つけられたんだな! 良かったじゃねぇかライト!」
「生きた心地がしないよ…もう当分はルールも守らないお前らとかくれんぼなんてしないからな!」
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クロエとレヴィと三人で五階へ向かうともう皆が集まっていた。教師陣は…フルール先生だけ居ないな…。
あっ。ヤダなーラピスさん? そんな睨まないでほしいんだけど…。ぷーっと膨れ上がったラピスのほっぺが空気の抜けた風船みたいに小さくなったかと思うと、今度は口パクで「夜お話があります!」と伝えてきた。読唇スキルとか無いけど流れ的にもこれで多分あってるはず。これは…拒否権はなさそうですね。
「おーライトお帰りー! 凄いな! ちゃんと全員探し出すなんて…そしてそれと同時に俺だけお仕置きが確定したんだが…」
「探すも何も自分から出てきた奴ばっかだったぞ! 皆リリィを見習いなさい! そしてジョシュ。僕にはそっちの世界はまだ早いと思うからごめんな」
激しい怒りと心にもない謝罪をつらつらと並べ、報告する為に先生たちの元へ。
僕達三人を見つけたアーシェ先生が不思議そうに首をかしげる。
「あれ~そっちの子はどなたですか~?」
えっと…どうしよ…。適当に誤魔化した方が良いか? レヴィを知っているのはリリィ、クロエ、事情を聞けば理解できるのがラピスか。ルフト君はレヴィが最初姿を偽装していたから誰だか解って無いみたい。
案の上レヴィがここに居た事を知らないリリィは口をパクパクさせている。今にも指さして大声で襲い掛かって来そうだったので、その前に場を制す。
「この城で迷子になってたみたいなんでちょっと送ってきます。従者さんに聞けば道は分かると思うんで僕だけで大丈夫ですよ!」
「えっと~良いですかねフレイデル先生?」
「まあ良いんじゃないか? あっちの城へ行けば人が居るから迷子になる事はあるまいし」
「じゃあ~ついでにアリス先生達も連れてきてもらえるとありがたいです~。あ、後フルールちゃんが迷ってたらここへの戻り方を教えてあげて下さい」
…? どうしたんだろう。アリス先生を呼びに行ったまま帰って来ないとか?
「了解です!」
「あたしも行く!」「私も行きます!」「私もついて行こうかしら」
「は?」
いやいや、来なくていいからお前らは。リリィとか特にややこしくなりそうだし。これ以上は肉体的にも魔力的にも精神的にもトラブルはごめんだぞ。
「良いでしょ先生? 多い方が迷わないわよ!?」
「え…えぇ、まあ構いませんよ~」
やだ、この先生押しに弱い!
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「「さあ、ちゃんと説明して」」「よね!」「ください!」
「何でこの女がここにいるの!?」
「何でレヴィ…ちゃんと一緒に住むなんて言いだしたんですか!?」
「え? ちょっとラピスそれどういう事よ!」
「私だって知りたいですよ! ライト!」
まあ…こうなるのは当然だよね…。
幸いにもここにいるのは「転生」に理解を示している者のみ。
思い切って全て話した方が手っ取り早い。取りあえず誰も居ないことを確認してから、従者さんたちが居る城の空室に五人で入る。
やや興奮気味のリリィとラピスを宥めつつも、レヴィとの出会いから現在に至るまでの流れを簡潔に説明した。
「――ライトが言うことだから信用はするけど…本当に大丈夫なの?」
いつになく不安そうなリリィ。きっと同じ家に住むにあたって、メルやラピスに危機が及ぶことを懸念してだろう。
「…絶対に安全とは言えないかもしれない。レヴィの元の仲間が攻めてくる可能性が無い訳じゃないし…。でもこのままレヴィを学園側に渡すのもあまり良くない気がするんだ…」
「それは先生達を信用できないってこと?」
「いや、そうじゃないんだけど…。レヴィの扱いを聞くとあまりにも酷い気がして…。今はレヴィは『怒りの魔法』を使えなくなってるんだし…ここはちゃんとアリス先生と話し合わなきゃいけないかな」
どうも認識がズレている気がするんだ。
僕が甘いだけかもしれないけどレヴィは決して絶対悪じゃない。一度は過ちを犯したけれど、本人が改心し、罪を償う意思を持っているなら僕はそれを尊重したいというか――やっぱり甘いのかもなぁ…。
「…あんたらしいわね。ラピスはどう? 納得?」
「……」
ここまで一言も口を挟まなかったラピス。目を瞑って声だけ聴いていたけど…、
「リリィが言う通りです。ライトは『超』お人よしです。思えば私の時もそうでした…ですから納得です」
――レヴィ…ちゃんはそこまで悪い人じゃないですし…。
な、なにをしたんだ!?
思わず隣に座るレヴィを見てしまう。あの戦闘中に洗脳系の魔法とか使ったんじゃないだろうな!?
僕の問い詰める視線に気が付いたレヴィはわざとらしくそっぽを向く。
さて、どうだろぉなぁ? そんな声が聞こえてきそうだ。
うわぁ…天守閣で軽く流したけどあの会話の内容といい、二階で何が行われていたのかが凄く気になる。はたしてジョシュに聞いたところでちゃんとした状況を教えてくれるだろうか?
「ふ~ん、じゃあ話を纏めるとアリス先生達の返答次第では貴方達は学園側と対立すると、そういう事ね?」
ここらが会話の収束点だと判断したのか、一応このレヴィを取り巻く騒動から少し引いた立場に位置しているクロエが会話を纏め始める。
「いやぁ…対立するって程じゃないけど…でもまぁそうなるか。決して敵対する訳じゃないけど」
「つまりレヴィさんの扱いを『怒りの魔法』が使えないという点から改めてもらおう、と後は外部から攻撃への対策とかも聞く感じかしら」
うんうん。クロエとレヴィ以外の三人で頷く。
その合意を受け取りクロエは立ち上がる。
「それじゃあ意見も纏まったっぽいし、行きましょうか。色々知っている大人たちの所へ」
お疲れ様です!
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5m勇者魔王シリーズこと「Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?」もぜひ目を通して頂けると幸いです!
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