2話 誕生の日
自分が生まれた時の記憶がないです。
????年一月?十八日?
光が俺を包む。いつもと違った開放的で暖かい光。
あれからどれくらい経っただろうか。
永遠のような一瞬のような不思議な感覚から目覚める。
重い瞼を開けるとそこは整頓された綺麗な部屋のベットの上だった。
どうやら俺は生まれ変わったらしい。
窓から差し込んだ光が、目の奥を刺激する。
…ぉぎゃぁ、ぉぎゃあ、おぎゃあ!
耳をつんざく赤ん坊の泣き声。
俺のではない? 別の子供もいるのだろうか?
上手く動かない首を必死に動かしながら声の主を探ってみると、そこには生まれたばかりであろう赤ん坊がいた。
どうやら一足先に取り出されたらしい。ってことは双子なのか。
今まで兄弟居なかったから素直にうれしいな。
あ、ついてない。ナニがかは言わないがついてない。
よろしくお願いしますお姉様。
「ach―!――――Mary―。おto―のこ――女nna―子の――ですよ!」
微かに声が聞こえる。
日本語なのか? いろいろな言語が混ざっているような……。
「お嬢様!元気な双子ですよ!よかったですね!」
お、今のは理解できた。
お付きの人かな? メイドっぽい服装で喜びを露わにしている。
さっきのは言語の変換がまだ終わってなかったってことだろうか。
相当便利だな、転生システム。
するとお嬢様と呼ばれた女性が俺たちを見て安心したような優しい顔で微笑む。
え?てことはこの人お母さん?
すっげー若いんですけど!? 二十歳も行ってないだろ!
絶対J○だぞこれ! 下手したら○Cだろ!!
「よかったわ……。本当に、本当に生まれてきてくれてありがとう…!」
これが美少女の標準装備だと言わんばかりの繊細で可憐な声で感謝を述べる母親。
相当な難産だったのであろうことが見て取れた。
ふと、脳裏に元の世界の母のことが蘇る。
母とは卒業以降接触を避けていたため疎遠だった。
かといって特別仲が悪かったわけでもないが。
あぁでも、母さんもこんな思いで俺を生み育ててきたのか。
結局何も言わず来ちゃったな。
会っても気持ちは伝えられなかっただろうけど……。
ぐわっ!っと感傷に浸る俺はお構いなしに重力に反する動きを強要され、俺は母親らしい美少女の腕の中に預けられた。
あぁ何と暖かいんだろうか。
長らく感じなかった数年来の人のぬくもり、居てもいいんだという安心感に目の奥から自然と暖かいものがこみ上げてきた。
「あらあら、あなたはお姉ちゃんと違って静かに泣くのねぇ」
とても幸せそうな笑顔。
人ってこんな風に笑えたんだと思わせるほど彼女の笑顔は幸せに満ちていた。
所詮別世界の人間から生まれる、と思っていた俺が恥ずかしい。
もうこの瞬間から彼女にとって俺「子」で、俺にとっても彼女は「母」なんだ。
「お名前はどうします? お嬢様」
「ふふ…、そうねぇ、男の子と女の子かぁ」
そう言いながらどこか切なげな視線を窓の外に投げる母さん。
「庭のユリ、今年は遅かったですがそれでも綺麗に咲きましたね」
メイドさんのつぶやきを受け、母さんと同様に庭に目をやる。
視線が上がっているため窓の外の景色は少しだけ見ることができた。
そこには一面に色とりどりのユリが咲いていた。
数十、いや百は優に超えているなあれは。
こんな大きな花畑は前世でも見たことがなかったな。
中でもひと際白いユリの花だけは、外の黄昏時の夕焼けに照らされて、オレンジ色の花よりも鮮やかに色づいて目立っていた。
「まるでこの子たちのようだわ。儚くて、でも私にとって大きな希望」
「ではライトとリリィは如何で御座いましょう? トワイライトからライト、ユリの花からリリィです」
「夕」焼けの黄昏でライトか。
成程、あの男の子の言ってた通り魂が似ているのも妙に納得だ。
「それいいわサラ! この子たちにぴったりね。これからよろしく、ライト、リリィ」
先ほどの表情から一転、ぱあっと笑顔を咲かせる母さん。
その笑顔に応えるべくまだうまく動かせない口でぎこちなく笑う。
こちらこそよろしく、母さん。リリィ。




