表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

トモダチ☆パニック

作者: ヒロウミユウ

トモダチ☆パニック



   1



「あたしと野村さんでやります!」


 ……え? わ、私?

 いきなり名前を呼ばれて、顔を上げて隣を見ると、星川さんと目があった。



 今日のロング・ホームルームで、文化祭のクラス代表を決めることになってた。

 文化祭とか体育祭とか、そういうイベントに参加するのはキライじゃないけど、私は、みんなの中心や先頭に立ってまとめる性格じゃない。

 だから、クラス委員の東屋さんが前に立って話し始めた時も、ボーッとしてた。

 去年は食事系は抽選で外れて出来なかったから、今年はやってみたいな、とか。

 メイド喫茶とかどうかな? とか。

 そう言えば、あのマンガのネタでシンデレラ喫茶なんてのが、あったっけ。とか。

 そうしたら、隣の席の星川さんが立ち上がって……そんなとんでもないセリフが聞こえてきた。


 な、なんで?

 星川さんは、まるで友達に向けるような笑顔で私を見てる。

 同じクラスで、席も隣だけど、接点はそれしかない。

 話しかけたことも、話しかけられたこともないし、もちろん、会話らしい会話をしたこともない。

 それなのに……どうして?

 何で、私と?

 しかも、クラスの代表だなんて……いったい、何がどうなってるの?

 戸惑ってるのは私だけじゃなかった。東屋さんもそうだし、他の子も同じだった。クラス全体が、微妙な空気に包まれてた。


「えっと、野村さん……どうするの?」


 そんな空気を破ったのは、東屋さんの発言だった。

 それをきっかけに、周りの人たちもヒソヒソとしゃべり出す。


 ――どうするんだろうね?

 ――星川さん、どういうつもりなのかな?

 ――あの二人って、仲良かったっけ?


 みんなの視線が私に集まって……恥ずかしくて、顔を上げていられない。

 なんで? 

 なんで? なんで?

 いくら考えても答えが出てこない。

 星川さん、どういうつもりなの?

 どれだけ考えても、答えは出なかった。

 どうすれば、いいんだろう……。


「野村さん! 一緒にがんばろう!」


 誰かが私の手を握った。

 ハッと顔を上げると、星川さんが表情な表情で、私を見てた。

 何でなのか分からないけど、でも、本当に真剣な顔だった。

 ……もしかしたら罰ゲームなのかもしれない。

 暗くて、オタクな私と文化祭のクラス代表をやるようにって。

 そうじゃなかったら、オシャレで、明るくて、クラスの中心の星川さんが、私の手を握って……。


「ダメかなぁ……」

 

 すぐ目の前にある星川さんの顔がしおれていくようだった。

 校庭の、秋を迎えたひまわりのように。

 そんな悲しい顔を見た瞬間。

 胸の奥で何かが跳ねた。

 だから。


「う、うん……」

「ホント! よかったぁ~」


 パッと、いつもの明るい笑顔に戻った。

 たぶん……いいんだよね。

 いろいろ考えなきゃいけないこととか、やらなきゃいけないことがたくさんある気がするけれど、今はこれで良かったんだって。

 星川さんは立ち上がって、クラスのみんなに、がんばる、とか、楽しもうね、とか言ってる。

 でも、左手はいつまでも私の手を握ったままだった。

 その手が熱くて、その熱が心まで染みてきた気がした。

     2



「野村さん。早く、行こッ」

「え……あ、はい……」


 ロング・ホームルームが終わって、あいさつをして、みんなが帰り始めたとき、星川さんに話しかけられた。

 この後、視聴覚室で簡単な説明会があるんだけど、そんなに急がなくても大丈夫な気が……。


「ほら。バッグ、持って」

「あ、うん……わッ!」


 待ちきれなかったのか、星川さんは私の手を握ると、そのまま教室を出た。

 ……な、何か、みんなの視線が痛いんですけど。

 握られた手にドキドキしながら、私は引きずられるようについて行く。

 他のクラスはまだ終わってないみたいで、廊下の人通りは疎らだった。

 視聴覚教室のある東棟に入ったところで、星川さんが歩くスピードを緩めた。

 でも、手は握ったままだった。


「楽しみだね」

「え?」

「あたし、好きなんだ。文化祭とか体育祭とか」

「そ、そうなんですか……」


 ちょっと意外だった。

 偏見かもしれないけど、星川さんみたいな人たちって、行事とか好きじゃないイメージがあったから。

 中等部の時も、合唱コンクールとか、総合学習の発表会とか、とにかく、何かと理由をつけてサボってた。

 その割には、歌い終わった後に、感動したー、とか言ってた気もするけど……星川さんは少し違うタイプなのかな。


「野村さんは?」

「え? あ、その……」

「騒がしいのって、もしかしてキライだった?」

「あ、いえ……キライではないです……」


 私はすぐ隣にいる星川さんを見た。

 ゆるーいウェーブのかかった栗色の髪。

 ほっそりした眉毛。

 パッチリした目。

 唇もプルンとしてるし、頬は白くて透明感があって……とても同じ女子高生とは思えない。

 私は伸ばしっぱなしの真っ黒な髪を一本の三つ編にしてる。

 乾燥してくればリップクリームぐらいはつけるけど、メイクなんて一度もしたことが無い。美容院のサービスで眉毛を少し整えてもらう程度だ。

 オシャレに興味が無いわけじゃないし、それなりにダサくない程度にはしてるつもり。

 でも、私はお金や時間を、ラノベやマンガやゲームに使いたいって思ってる、オタクな女の子の一人だった。

 だから……オシャレでイマドキな星川さんは、遠い憧れの存在だった。


 他にもキレイな人とか、カワイイなって思う人はいるけど、星川さんはちょっと違う。

 遠い存在なんだけど、別世界の人なんだけど……壁が無いような気がする。

 九月になって席替えをした時も。

「よろしくね」

 って、挨拶してくれた。

 他のオシャレな人たちは、私たちみたいなオタクグループは無視するのに。

 もちろん、それ以降、私と星川さんが話しをする機会なんてなかったけど。

 でも、何となく星川さんからは、あっち行け、みたいな空気は感じられなかった。

 だからって、近づけるワケはなくて……。

 星川さんと一緒に、しかも手をつないで歩いてるなんて、昨日の私に伝えてもバカらしっ、て言われるだけだと思う。


「ところでさ」

「は、はいッ!」

「何で敬語なの? 同い年じゃん」

「えッ! あ、はい……」

「ほら、また。何で?」

「な、何でって……」


 グループの違い?

 緊張?

 憧れ?

 何をどう説明していいか分からなくて、それでマゴマゴしてるうちに、視聴覚室に着いた。

 部屋の仲には四人ぐらいしか人がいない。

 どこに座ればいいんだろうって思う前に、空いている後ろの席に連れて行かれた。


「ここでいいよね?」

「え? あ、はい……」


 そう話しながら座った時、手が離れた。

 ずっと握られてたせいか手のひらが熱い。

 胸がドキドキしてる。

 別に女の子同士で手を繋ぐのは珍しいことじゃないけど、でも、同じ学校で手を繋ぐほど仲の良い子は、私にはいない。

 小学生以来かも。誰かと手を繋ぐって。

 こんなに、ドキドキするものだっけ?


「そうだ。野村さんって、朋美って名前だよね?」

「え……。あ、うん。知ってたんだ」

「そりゃ、同じクラスだし、当たり前じゃん?」


 私の名前を知ってるなんて、ちょっと意外だった。

 たったそれだけのことなのに、また胸の奥がちょっぴり温かくなった。


「朋ちん、トモ、ともっち……」

「あ、あの……」

「何て呼ぼうかなって。『野村さん』じゃ距離があるし」

「え……」

「やっぱり、朋ちゃんかな。……うん。朋ちゃんってカンジがする」


 一人でウンウンとうなずく星川さんを、私はただぼーっと眺めてた。


「じゃあ、朋ちゃん。宜しくね」

「え……は、はい!」

「あたしの名前、知ってる?」

「星川梨奈……さん」

「そう。あたしのことはリナでいいよ」

「え! で、でも……」

「ダーメ。星川さん、なんて呼ばれたら調子くるっちゃうし。それに、敬語で話すなんて、トモダチじゃないじゃん」

「……え」


 時間が止まった気がした。

 ウソだよね?

 聞き間違いだよね?

 だって、あの星川さんが、私のこと、そんなふうに思ってるはずがないもん。

 で、でも、確かに、そう言った気がする。

 ハッキリと、その、トモダチって……。

 あ! でも、クラスメートって意味かもしれない。

 そうだ。きっと、そう。

 ダメよ、思い上がっちゃ。

 でも。


「どうしたの? 朋ちゃん、具合悪いの?」

「え……う、ううん。違うけど……」

「あ、そうそう。番号とメアド教えて。赤外線って使える?」

「え? あ、ケータイの?」

「うん。だって、連絡しあったりすること多くなるだろうし、仕事以外のメールとか電話とかしたいし」

「あ、う……うん……」


 私はバッグからケータイを取り出した。

 星川さんは既に準備してる。

 お互いの番号やメアドを交換してる時。


「朋ちゃん。じゃあ、言ってみて」

「え? な、何を……」

「だから、あたしの名前」

「星川、梨奈さん……」

「そうじゃなくって、リナって呼んで欲しいなぁ……」


 そう言って星川さんが顔を上げる。

 そこにはさっきの、あの、しおれた顔があった。

 な、何で?

 私が名前を呼ばないだけなのに……。

 いったい、どうなってるの?


「朋ちゃん、他の子だと名前で呼び合ったり、あだ名で呼んだりしてるじゃん」

「あ、うん……まぁ」

「やっぱり、あたしみたいな、バカでウルサイ子はキライ?」

「え……! そ、そんなこ……と」


 思わず立ち上がりかけて、慌てて座った。

 今頃気づいたけど、結構、人が集まってた。

 何人かの人は、立ち上がって大声を出した私を何事かと見てる。

 顔が熱くなるのをカンジながら。


「そんなこと、無いけど……」

「じゃあ、名前で呼んで欲しいな~」

「う……」


 いつの間に戻ったのか、星川さんがニコニコと私を見てる。

 もう何がなんだか分からなくて。

 頭がグルグルしてきちゃって。

 ……言わなきゃダメなのかなぁ。

 たった二文字だけど、でも、その言葉が出てこない。

 心の中で練習してみようって思っても、「リ」の字すら出てこない。

 どうしよう……言えるワケないよ……。


「それでは、説明会を始めます。わたしは……」


 ハッとして前を見ると、教卓のところに誰かが立ってた。

 それまでペチャクチャと騒がしかった視聴覚室が、潮がひいたようにシーンとなった。

 ……良かった。

 前の席から送られてきたプリントを受けとって、こっそり、小さなため息をついた。

 とりあえず、この場はナントカなった。

 とりあえず今は説明会に集中してよう。

 って思ったのに。


「……朋ちゃんって、照れ屋さんなんだね」

「え……」

「まぁ、そんなところもカワイイんだけど」

「……えぇッ!」


 あッ、と思った時には遅かった。

 みんなが大声を出した私を見てる。


「どうしましたか?」

「あ、いえ、その……ごめんなさい!」


 もう恥ずかしくて、恥しくて、頭の中が真っ白になった。

     3



「朋ちゃんって、地下鉄? JR?」

「えっと、地下鉄だけど……」

「じゃあ、一緒だ。あたしも地下鉄なんだ」


 そんなことを話しながら、私たちは教室まで戻って来た。

 説明会が終わった時、私はお弁当箱を教室に置いてきちゃったことに気づいて、それを星川さんに言ったら、一緒に戻ることになった。

 いつも一緒にいる友達とか、待っているのかなって思ったんだけど、教室には誰もいなかった。

 お弁当の入った小さなバッグを持った時。


「ねぇ。この後、ヒマ? 何か用事ある?」

「え……その、別に……」

「それじゃ、どこかで何か食べよう。のども渇いたし」

「で、でも、寄り道は……」

「ウソ! 朋ちゃん、寄り道したこと無いの?」

「地元ではするけど……」


 本屋さんとかツタヤとかブックオフとか……学校の帰りによく行くけど、もちろん地元のだ。

 校則では寄り道は禁止されてるし、停学にはならなくても、反省文を書いたり、生活指導室に呼ばれたりはする。


「朋ちゃん。地下鉄だよね。ドコまで?」

「え……新木場までだけど……」

「じゃあ、有楽町に行こう。そこなら大丈夫だって」

「で、でも……」

「リサーチとか必要だと思うんだ。どんなお店やるかとか。ほら、食べ物系は競争が激しいから、ちゃんとした企画書を出さないとダメだし。

それに、食べ物系じゃないなら、お客さんが来そうなのとか、自分たちが楽しいって思えるのをやりたいでしょ?」


 ……す、すごい。

 星川さん、そんなに真剣なんだ。

 文化祭とか好きって言ってたけど、でも、ここまで真剣なんだって思ってなかった。

 何か、意外だった。


「あれ? 朋ちゃん?」

「あ、ううん……その、スゴイなぁって」

「え? 何が?」

「だって、文化祭のこと、真剣に考えてるし……それに比べて、私は自分のことばかりで……」

「え? 自分のこと?」

「だって……あッ!」


 しまった、って思ったときには遅かった。

 星川さんが不思議そうな顔で私を見てる。

 ごまかさなきゃって思ったけど、どうすればいいのか分からなくて。

 無言の、イヤな空気が私たちの周りにある。


「……朋ちゃん。やっぱりイヤだった?」

「え……」

「ごめんね。ムリヤリ誘っちゃって……」

「え……ッ!」


 ほろほろと、涙が零れ落ちていく。

 キレイな星川さんの顔が、少し歪む。


「あたし……朋ちゃんと仲良くなりたくて……でも、きっかけが無いと難しいから、これだって閃いちゃって……」

「え? ええッ? な、何で? わ、私みたいなのと?」

「だって……好きになっちゃったんだから……仕方ないでしょ?

 気づいたら、朋ちゃんともっと仲良くなりたいって……そう思ってたんだもん」


 言葉が出なかった。

 それだけじゃない。

 言葉そのものも理解できなくなってるらしい。

 だって、星川さんの口から。

 私と仲良く、とか。好き、とか。

 あ、ありえない。

 そんなワケない。

 だから、きっとウソなんだ。

 夢なんだ。

 それにしてはリアルだけど。

 でも、こんな現実があるワケがない!


「ごめんね。朋ちゃ……野村さん。ヘンなこと言って」

「……う、え、あ……」

「文化祭のことは、他の子に頼むからいいよ。朋……野村さんは、大丈夫だから」


 鼻をすすりながら、目を真っ赤にして。

 でも……キレイだなって思った。

 泣いてもカワイイなんて、ズルイって思った。

 だけど、笑ってる方がもっとカワイイ。

 それなのに、今は泣いてる。

 その原因は私なんだ。


「じゃあ……」

「ま、待って!」


 私の横をスルリと通り過ぎようとした星川さんの腕を、反射的に掴んでた。

 理由は分からないけど、何故かそうするべきだって思った。


「……何で?」

「な、何でって……」


 星川さんは私の方に顔を向けないまま喋った。

 そんな寂しい後姿に、どうしたらいいか分からなくて。

 分からないけど、でも、キチンと伝えないとって、思った。


「わ、私……イヤじゃない、よ」

「……ホントに?」

「う、うん……だ、だって、私も……リ、リナと仲良くなりたいって思ってたから……」


 思ったよりもスラリと名前が言えた。

 その言葉に反応したのか、リナがこっちを向いた。


「朋ちゃん……本当に?」

「う、うん。で、でも……私なんか……何で?」

「いつからかなぁ。でも、気づいたら、朋ちゃんのことばかり考えてた。他の子と遊んでる時も、朋ちゃんとだったらどうなのかな、とか」

「で、でも、私、こんなだよ? オシャレとか全然してないし」

「そんなこと無いよ。元がいいから、あたしがもっとキレイにしてあげるよ」

「そ、それに、私……その、オ、オタクだし……」

「別にいいんじゃない? 誰に迷惑かけてるワケじゃないし」

「そ、それに、えっと、えっと……」


 何か言おうとしたけれど、それ以上、何も言えなかった。

 だって、唇が塞がれたから。

 ……これって、キス、だよね。

 すぐ間近に、リナの顔がある。

 リナの体温を感じる。

 柔らかい唇の、初めての感触。

 ……気持ちいい。

 手を繋いだ時も思ったけど、何でだろう?

 そんなことを考えていたら、唇が離れた。

 リナの吐息が顔にかかる。


「これでも疑う?」

「疑わない、けど……」


 あまりにも予想外すぎて。

 でも、悪い気はしなかった。

 嫌悪感も無かった。


「私も同じなのかも」

「え? 同じって……」

「リナのこと、好きなんだって。ちょっと気持ちの整理がまだだけど、イヤじゃなかったもん」

「朋ちゃん……!」

「わッ!」


 リナが抱きついてきた。

 私もリナを抱きしめた。

 ……すごく、気持ちよかった。

 心の底から、温まるような、安らぐような、でも、ちょっぴりドキドキする不思議な気持ち。

 これが「好き」っていう気持ちなのかも。

 そう思ったら、ちょっと恥しかったけど。


「……ん……」


 キスしたら、恥しさよりも、嬉しさの方が強くなった。

 私たちは、当番の先生が来るまで、教室にい続けた。

Fin

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ