騒動2
「ちょっ……ちょっと、シオン! 本気なの!?」
テーブルを一つ叩いて、どこか焦った樣子でソフィアが聞いてくる。
「男に二言はない!」
ルージュさんに噛みついた勢いそのままに、断固とした意志があると示すように言い放った。
そんな俺の態度に、グッと気圧されたソフィアだったが、テーブルから身を乗り出すように、顔を寄せてくる。
「意地になってるだけじゃない! 修行なんてシオンには無理よ!」
「失礼な、俺だって修行ぐらい出来る」
「そういう事を言ってるんじゃなくて……!」
なにやら焦れた樣子のソフィアは、そのままもどかしそうに呻いている。
どうやら、俺を修行に行かせたくないみたいだ。何か理由があるのかもしれないが、俺にも引けない理由がある。ここで修行に行かなければ、一生Gランクで薬草摘みの簡単な仕事のまま。
もちろん、母さんとルージュさんも、本気で俺にその仕事を一生続けさせるような事はないと思う。
だけど、何年後にその呪縛が解かれるかわからない。
五年後なのか、十年後なのか。もっと短いのか、長いのか。
まったくわからない。
だったらここで、一年間修行に出てしまうのが最善だ。
そう、最善なはずだ。ルージュさんの小馬鹿にする態度に、ちょっとイラッとして勢いで答えたけど、冷静に考えればそれでよかったのかもしれない。
たぶんだけど、母さんとルージュさんは、初めから俺のことを修行に出すつもりだったんだ。
そもそも、ルージュさんはノックして反応が無かったら、家に入ってこない。俺の声がうるさくて中にいることがわかってたとしても、余程の緊急事態でなければ許可なしに勝手に入ってくるような人じゃない。
その証拠に、母さんはルージュさんの登場に全く驚かずに、すぐさま呑気に挨拶をしてる。俺はもちろんだけど、父さんもソフィアもルージュさんの突然の訪問に、驚いた表情をしていた。
そして、一番おかしいのは、母さんが素直に賛成している事だ。
そもそも、モンスターに襲われて怪我をした俺を心配して、ランクの高いクエストに出るのを反対してるのに、どうして修行は大丈夫なのか。
修行だって、モンスターと戦うだろうし、怪我だってするだろう。それなら、真っ先に母さんが反対するはずだ。
それなのに、母さんは真っ先に賛成してた。ゴブリンと戦うのは反対で、修行をするのは賛成。誰が、どう考えたっておかしい。
だから、俺を修行に出すことを、前々から母さんとルージュさんで話し合っていた。そう、考えるのがしっくりくる。
未だに呻いてるソフィアから視線を外して、横目で母さんとルージュさんに視線を送る。
テーブルを挟んで意見を交える俺とソフィアを、椅子を三つ綺麗に並べて、劇を鑑賞するかのように座っている三人。
こっちは真面目に話してるのに、そんなことしてるのはどうかと思うが、愉しんでるのは母さんとルージュさんだ。父さんは、二人の押しに負けて、為す術なく座らされているらしい。なんとなく、ニコニコ笑う二人とは違って、心配そうな表情で座ってる。
そうやって眺めていると、俺の視線に気づいた母さんが手を振り、ルージュさんが声を出さずに口だけ動かして『がんばれ』と言ってくる。
何をどう『がんばる』のかわからないけど、たぶんこのまま修行に行けるようソフィアを丸め込めってことだろう。
そんな、勝手に修行を決めて、厄介事を押し付けてくる二人に心の中で文句を言いながら、ソフィアに問いかける。
「ソフィアは、なんで反対なんだ?」
「えっ?」
「俺が修行して強くなったほうが、ソフィアも安心だろ?」
「そ、それは、そうなんだけど……」
「なら、意地でもなんでも、俺がやる気ならそれでいいじゃないか」
「ち、違うんだよ……そういう意味じゃなくて……」
そう言うと、ソフィアはまたもどかしそうに呻き始めた。
全然、ソフィアの気持ちがわからん。
でも、ただ単に心配してくれてるのとは、ちょっと違う気がする。そうなら、そうってはっきり言うと思うし。
だけど、なんでそこまで俺を行かせたがらないのか、皆目検討もつかない。俺が修行に行くと、何かソフィアに不都合があるのか?
いや、ない……。何もない。悲しいが、完璧なソフィアには、長年連れ添う幼馴染の俺が居なくなったとしても、何も不都合がない……!
くそっ! せめて、一つぐらいはあれよ! 何でなにもないんだ!
腕を組んで、必死に俺が居なくなってソフィアが困ることを考えていると、椅子が床に擦れる音がする。
音がした方を見ると、ルージュさんが立ち上がって、意味深な笑みを浮かべていた。
「ははぁ~ん、さては、ソフィア……」
「ああー! ダメダメダメ!! お母さんは黙ってて!」
呻いていたソフィアは、ルージュさんが意味ありげにそう言うと、慌てて遮るように声を出して口を塞ごうとする。
「落ち着きなさい! 大丈夫よ」
手を伸ばして口を塞ごうとしてくるソフィアの頭を、パチンと一発叩いたルージュさんは、鎮めるように声をかける。
それで動きを止めたソフィアは、叩かれた頭を抑えながら、涙目でルージュさんを睨んだ。
そんな態度に呆れたような顔をしたルージュさんは、そっとソフィアの耳元に口を近づけて、何事かを呟いている。
それを聞いたソフィアは、大きく目を見開いて呆然とルージュさんを見つめる。それに、ルージュさんはニッコリと笑って答えた。
「すごく気になるんですけど?」
手を挙げて、質問をするようにルージュさんに問いかける。
「残念だけど、女の子同士の秘密よ」
そう言って、横を見たルージュさんが片目をつぶると、その相手であるソフィアがブンブンと上下に首を振って頷く。
なにやら、ルージュさんにはソフィアが俺の修行に反対していた理由に、思い当たるフシがあるみたいだ。教えてくれないのは残念だけど、秘密なら仕方がない。俺もいっぱい秘密があるから、秘密って言われると弱い。
だけど、これだけは言わせて欲しい……。
「ルージュさんは、“子”じゃないでしょ」
肩を竦めてそう言うと、ルージュさんがニコッと笑った。
「そうね、ごめんなさい」
「まったく、しっかりして下さい。
ルージュさんは、可愛らしさのある“子”の方じゃなくて、美しさを表現する“人”の方ですよ」
額に手を当てながら首を振って、ヤレヤレといった風に言うと、ルージュさんが微笑む。
「やっぱり、シオンくんと話してると楽しいわね」
「それ、めっちゃ嬉しいです!」
「あら、そう? それならよかったわ」
ルージュさんからの衝撃的な言葉に、思わず声が大きくなってしまった。
俺の嬉しそうな反応に不思議そうにしながらも、ルージュさんも頷いて微笑んでくれる。
よかった……本当に、よかった! ルージュさんも楽しいと思ってくれてたんだ……!
『面倒くせーな、このガキ』って思われてなくて、本当によかった!
やべー、めっちゃ嬉しい。今まで不安だったから、すっごくホッとした。
思わずスキップしたくなるぐらい浮かれていたら、母さんがトコトコ俺の側までやってくる。
「シオンくん! あたしは? あたしは?」
「ん?」
なんだかキラキラした瞳で嬉々とした表情を向けてくる。ピョコピョコと跳ねて、必死に自分をアピールしているみたいだ。
「母さんは、“子”かなぁ~」
「やった! かわいい? かわいい?」
見た目だけで答えると、ますます嬉々とした表情を強めた母さんが、更に聞いてくる。
「う~ん、前に“幼い”が付くけどね。
でも、かわいいから、男に声掛けられるんでしょ?」
さすがに目の前で、『かわいい』なんて言ったら、マザコン決定なのでぼかしながら答える。
「シオンくんも、声掛ける?」
そう言いながら、肩下まで伸びる黒髪を指でクルクルと巻いたり、手で靡かせるようにファサッとしたりしている。
「いや、俺は掛けない」
「ええっ!?」
即答すると、母さんは眉をハの字にして残念そうに驚いた。
「母さん、見た目も中身も甘えん坊だもん。
俺、甘えられるより甘えたいタイプなんだ」
「っ!? ガーン!」
口をポッカリ開けながらショックを受けていた母さんは、そのまま半回転してトボトボと離れていき、父さんに抱きついた。
そんな母さんを、父さんが慰めるように頭を撫でると、すぐに笑顔になる。
もう、二人でどっか行っててくんねーかな?
「シオンは甘えたいタイプだったの!?」
ため息を吐きながら両親を見ていると、ソフィアが驚愕とした樣子で聞いてきた。
どことなく意外そうな雰囲気で、目を丸くしている。
「どちらかと言うと、そうかな~」
考えながら、自分の周りに居る女性陣を思い出す。
思い出すといっても、交流のある女性陣の殆どがここに集結しているので、それほど意味は無い。
ただ、薬草摘みのクエストで薬草を摘んでいる最中、ひょっこりと顔を出す少女も、談笑できる程度には仲がいいので、その子の事を思い出した。
俺が住んでいる町よりも、馬車で半日ぐらい掛かる距離にある、そこそこ大きな街に住んでいるらしい少女も、可愛い系の女の子だ。
その子も、甘えん坊とは違う人懐っこい子だけど、タイプとは違う気がする。
「う~ん、難しいけど、やっぱりそうかなぁ~。
ルージュさんみたいな、綺麗な女の人に惹かれるし」
「そ、そうだったんだ……」
「あらあら、ありがとね。ふふふっ」
俺の女性のタイプを聞いて、首を下げて脱力するソフィアと、口元で軽く片手を握って微笑むルージュさん。
「でも、それならシオンくんに朗報よ。
修行の稽古をつけてくださるお師匠様は、麗しい女性の方だから」
「ゴクリ……!」
そう聞いた俺は、思わず生唾を飲み込む。
マ、ジ、か!
修行をつけてくれる人なんて、厳格そうな爺さんのイメージしかなかったから、想定外の展開だ!
「物腰も柔らかい人で、優雅で気品も持ち合わせている素晴らしい方よ」
「おっしゃー!!
すぐに行きましょう! もう、行きましょう! さあ、行きましょう!」
ルージュさんから聞いた情報に、興奮が最高潮に達した俺は、急かすように叫んでルージュさんに近寄る。
興奮しながら近寄る俺に落ち着けと言うように、ルージュさんは頭を一発叩いてきた。
「そんなにすぐ行けないでしょ、準備だってあるのだから。
詳しく話すから、聞いて頂戴」
冷静さを欠いてる事を諭すようにそう言ってくる。
それで目の覚めた俺は、ルージュさんに謝る。ついでに、隣から不機嫌そうに睨んでくるソフィアにも謝っておく。
ルージュさんは気にしてなさそうだが、ソフィアはプクっと頬を膨らませたままだ。
俺は、女性をフグにする特殊技能を持っているらしい。まぁ、ソフィアと母さんだけだけど。
そんな使い道のない特殊技能に気づいてから ルージュさんが修行について詳しく教えてくれる。
ルージュさんが紹介してくれる修行の地は、聖ナカル法国。
俺達が暮らす、アンラルス王国の隣国だ。領土は王国の半分以下だが、人口は十分の一以下。
王国の人口が一千万人前後だから、百万人前後。それなのに、領土は王国の半分なのだから、人口密度はここよりも低いのだろう。と、思っていたら、どうやら、そうでもないらしい。
なんでも、幾つか凶悪なモンスターの出現する、危険区域があるみたいなのだ。ソフィアも何度か行ったことがあるらしい。
中でも、ヤアス神殿は法国が管理する最重要指定区域であり、むしろ、ヤアス神殿を管理する為に、出来た国というのが、聖ナカル法国だというのだ。
さすがに、これには驚いた。ヤアス神殿がある事にも驚いたけど、国を築いて管理する程の危険な場所に指定されてるなんて思わなかった。
たぶん、ティアマットが関係してるんだろうけど、冒険に出れるようになったら寄ってみたいな、と思ったのに残念だ。
そんな危険区域をたくさん領土として保有している法国は、必然的に生活区域が少なくなる。その為、領土はあっても人口が少ないのは、致し方ないらしい。
そんな、常に危険と隣り合わせな法国には聖騎士団なる、独自の戦力があって、その騎士団を用いて危険区域を管理しているようだ。
独自も何も、法国で聖騎士団とかそのまんまじゃねーか、と思いながら話を聞いていると、俺のお世話になる予定のお師匠様が所属しているらしい。
しかも、隊長クラスの偉い人で、【千里眼の巫女】と異名を持つ、かなりの有名人だというのだ。
そんな、麗しい女性でありながら強さも兼ね備えた、世界でも有数の凄い人に弟子入りする事に、俺はどうしても内から湧き起こる感情を我慢できなかった。
「おかしいでしょ!」
淡々と説明していたルージュさんに、感情を吐き出すように叫ぶ。
「さすがに、気づいちゃうかぁ~」
俺の言葉に、おちゃらけた表情で肩を竦めながら答えたルージュさんは、右頬をポリポリと掻き始めた。
「当たり前でしょ! そんな詐欺みたいな話、真に受ける方がどうかしてますって!」
「まぁ、そうよねぇ~。普通なら信じられないでしょうけど、これは真実なのよ。
正直、わたしも困惑してるの。これは、あちらサイドからの要望だから尚更ね」
俺が詰め寄ると、ルージュさんは困ったように掻いていた指を止め、そのまま右頬に手を添えて首を傾げる。
いやいやいや、おかしい。全てがおかしい。
どうして、こんな寂れた町に住んでる冴えない男の俺が、そんな凄い人から指名で弟子入りしなきゃいけねーんだ!? どう考えても、ありえない話だろ!
そもそも、要望ってなんだよ! なんで俺の事知ってんだよ、そんな凄い人が! 異名に付いてる通り、俺のステータスを、そのご自慢の【千里眼】で見通したとでも言うのかよ!? そんなスキルねーよ! ゲーム運営かよ、お前は! チート使うな!
そのまま、混乱して訳の分からくなった俺は、しばらくの間呆然と立ちすくみながら、必死に無い頭を回転させ続けた。
※
俺の弟子入りが決まった日から、三日後。
俺は、聖ナカル法国に向かい、【千里眼の巫女】と謳われるお師匠様の下で、厳しい修行の日々を送った。品行方正で端正な容姿を持つ師匠は、時に厳しく、時に優しく、俺を導いてくれた。
最初に懸念していた、何故俺を指名してきたのかだが、なんてことない。お師匠様とソフィアが知り合いで、よく俺の話を聞いていたので、会ってみたくなったのが発端だ。
そして、幼馴染の俺がギルドの仕事で怪我をしないか心配するソフィアの、儚くて脆い印象を抱かせる姿に心を締め付けられ、自分に出来るのなら力を貸そうと決心してくれたらしい。
その後、ルージュさんに連絡を取り、そこから母さんに流れた。その提案に、俺が強くなるならと、母さんは不安な気持ちを押し殺して賛成くれたようだ。
そうだったのかと、安心した俺だったが、今度は修行が終わるまでステータスを隠し通せるか、不安になった。
だが、嬉しい事にその不安は杞憂に終わる。何度か危ない場面もあったが、師匠に悟られることなく一年間の厳しい修行に耐えた俺は、ようやくこの懐かしい町に帰ってきた。
「あっという間だったな」
そう、呟くように言うと、隣いるソフィアが眉を顰めて寂しげな表情で頷く。
「今日から──」
「言わないでくれ!」
俺がそう叫ぶと、ソフィアがびっくりとした表情で見つめてくる。
そうなんだよ! 今日出発なんだよ! 準備期間なんて、あっという間だったよ!
せっかく、心の中で修行を終えて帰ってきたのに、なんでまた行かせるの!? もう、俺は充分に強くなったよ! 元から、強いよ!
そもそも、なんでソフィアの為にそこまでしちゃうの、その人!? いや、ソフィアの為に何かしてあげたいって思う気持ちはすごく共感できるんだけど、行動力あり過ぎでしょ!
ちょっとソフィアが、「故郷にいる幼馴染のことが心配」って言っただけで、俺に修行つけるとかどんな思考回路してんの!? 回路焼き切れてるでしょ!
やべー、ステータス隠し通せるのかぁ……? モンスターと殆ど戦ったこと無いから、弱いふりするなんて無理だぞ……どうすんだ?
それに、今更だけどソフィアとあんまり会えなくなるじゃん! ソフィアは会えるって言ってるけど、今みたいに頻繁には無理でしょ!? 俺の人生、唯一の癒やしと楽しみがお預けだよ!
こんな事なら、もっと頑張って母さん説得して、早めに強くなったふりしちゃえばよかったよ! パパっと一人前の冒険者になっちゃえば、よかったよ!
あぁ、無理だ、俺。
死ぬかもしれない……。もしかしたら、ソフィア分が不足して死ぬかもしれない、俺。
もう、それだけがつらい……。
「一年も会えなくなるな……」
俺が叫んだことで、不安げな表情で見つめてくるソフィアに、そう伝える。
その言葉で悟ってくれたソフィアは、また寂しそうな表情で頷いた。
「元気でなソフィア」
目に涙が滲みそうになるのを必死に堪らえて、少し掠れてしまった声で言うと、ソフィアが目を丸くした。
「えっ? どうしたの、急に?」
「だって、ソフィアと会えなくなるから……」
「わたしとは会えるよ。わたしも、法国に行くもん。
会えなくなるのは、家族とでしょ?」
「……へ?」
あまりに驚きすぎて間抜けな声を出した俺を見て、ソフィアがクスクス笑い出した。
そして、未だ驚きから抜け出せず呆然とする俺に、チロッと舌を出して片目をつぶって見せる。
「ごめん、黙ってて。ギルドの仕事でね、一年ぐらいはあっちで過ごすことになるんだ」
「じゃ、じゃあ……」
「うん、会おうと思えば、すぐ会えるよ」
そう言って、ソフィアには珍しく歯を見せるぐらいに嬉しそうに笑った。
ソフィアの笑顔に一瞬見惚れてしまったが、沸々と湧き上がる歓喜に、さっきとは別の涙が溢れそうになる。
「よかったぁ~、俺、寂しくて死ぬかと思った……」
「なにそれ? 大袈裟だよ。ふふっ」
安堵のため息混じりにそう言うと、ソフィアは余程おかしかったのか、若干頬を上気させながら笑っている。
よかったぁ……ホントによかった……! こんなにタイミングよく、ソフィアもギルドの仕事で法国に行くことになるなんて、なんて運が良いんだ! 運なんて、ソフィアの幼馴染ポジションを獲得して使い切ったと思ってたけど、まだまだ余力があったんだな……。
それに、ソフィアも法国に行くなら、イケメン金持ちとの新しい出会いも増えるぞ! しかも、その出会いの近くに俺も居られる! 最高の展開だ!
ありがとう、修行! おめでとう、まだ見ぬイケメン金持ち! 世界一の美少女ソフィアが、もうすぐそっちに行くぞ!
ちょっと匂っちゃう男なんか捨てて、ソフィアに相応しい男をみつけるんだ! その為の助力に、俺は努力を惜しまない! 修行でも何でも、ソフィアの側に居られるなら続けてやる!
「よっしゃー! やる気出てきた!」
立ち上がって拳を突き上げ、そう叫ぶ。
急に立ち上がってしまったので、隣に座るソフィアがびっくりさせてしまった。
しまった、と後悔したが、驚いて目を丸くしていたソフィアの顔が、稀に見る嬉しそうな表情での微笑みに変わったので、ホッと胸を撫で下ろした。
どうやらソフィアも、俺がやる気を出すことに期待してたみたいだ。
でもそれは、俺の師匠になる人に心配だと不安を吐露したんだから、当然かもしれない。ソフィアが話題にした事が理由で、俺が修行することになったから、少なからず責任も感じてたんだろう。
だけど、責任を感じる必要は全くない。むしろ、ソフィアがギルドの仕事で一年も法国に行くことになったんだから、俺が法国に行けるきっかけを創ってくれて感謝している。
それに、修行で俺も鍛えられてるのを見れば、ソフィアも俺の心配をしなくて済む。安心して、イケメン金持ちとの恋愛を満喫できるのだ。
最初はどうなることかと思ったが、思わぬ幸運続きだ。
これから修行に向かう、聖ナカル法国での生活が、楽しみでしかたがなかった。