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クエスト

「そうだ、ギルドに行こう!」


 淋しくなった財布の中身をぼんやりと眺めていると、急に使命感が湧いてきた。ギルドに行くと言っても、まだGランクなので、薬草を摘むだけの簡単なお仕事しか任せてもらえない。

 だが、俺の摘んできた薬草が薬師に調合され、回復薬となり、怪我をした人の役に立つのだと考えると、とても重要な仕事だ。回復薬の在庫が無くなるようなことは、絶対にあってはならない事態のはず。

 その為にも、俺みたいな真面目なGランクの冒険者が、定期的にギルドで仕事を請け負い、薬草を摘んでくることが大切になってくる。


「というわけで、クエストを請けたいんだけど」


 意気揚々とギルドまで行くと、父さんが受付にいたので要件を伝える。


「何が「というわけ」なのか分からないが、薬草採取のクエストなら無いぞ」


 俺の意味不明な言動にも、ちゃんと反応を返してくれる父さんを持てて俺は幸せだ!

 ……ん?


「無いの?」

「ああ、つい最近大量に仕入れたからな。当分は出てこないぞ」


 マジかよ!? ふざけんな! どこのどいつだ、俺の仕事を取りやがったのは! 大量に摘んでくんじゃねーよ! これだから素人はっ!

 薬草採取の仕事って言うのは、少量を小まめに摘みに行って、定期的に小金を稼ぐ為の仕事なんだよ! ちょっと今月ピンチだな……って思った時にうってつけの仕事なんだ! 大量に採取してきちゃったら、俺が今月ピンチだなって思った時に仕事がなくなるだろーが! 今みたいに!


「ソフィアちゃんがこの前の長期クエストで、たくさん手に入ったからって、持ってきてくれたんだ」


 ア、イ、ツ、かっ! 

 余計な事すんなよ! 長期クエストで充分稼いだだろ! 長期クエストの報酬じゃ飽き足らず、ついでに手に入れた不要アイテム売って小銭稼ぎか!? そんな事したら、お前らが“ついで”で手に入れられるようなアイテムを、クエストを請けて命を賭けて取りに行ってる、俺達下っ端の仕事がなくなるだろーが! もっと考えて行動しろよ!


「な、なにか俺が出来そうなクエスト無い?」

「無いな。Fランクのゴブリン討伐ならあるけど……母さんに怒られるぞ?」

「ですよねー」


 はぁ~、どうしよ……。ゴブリン討伐とか余裕で出来るのに、両親からの許可がないとやらせてもらえないなんて、お子ちゃまじゃねーか。

 でも、母さん怒らせてご飯抜きになったら、それこそ淋しい懐事情で餓死するかもしれない。ここは大人しく、質素な生活を心掛けて、薬草採取のクエストが出てくるのを待とう……。


 ガックリと肩を落としながら、父さんに手を振ってギルドを後にする。

 父さんの励ましの言葉が、今はツライ。


 ため息を吐きつつ外に出ると、ソフィアが騎士の鎧を着たさわやか系イケメンと談笑していた。

 チッ……ムカツク。

 俺から奪った仕事の報酬で、ぷっくりと膨らんだ財布に笑いが止まらんのだろう。どうせイケメン金持ちがデート代を持つんだから、アイツは懐が淋しくても問題ないだろ。


 ブツブツと文句を垂れてると、ソフィアが俺に気づいたようでイケメンとの会話を中断して、こっちに駆け寄ってきた。


「シオン! これからお仕事?」


 何がそんなに嬉しいのか、ニコニコと笑いながらそう聞いてくる。

 くそっ! かわいい……!


「……ちげーよ」

「そ、そうなんだ……。

 ……なんか、怒ってる?」


 俺の素っ気ない態度にビクついたソフィアは、恐る恐る上目遣いで下から覗き込んでくる。

 くそっ! 最高にかわいい!


「どーでもいいだろ。ほら、イケメンが待ちくたびれてるぞ、じゃぁな」

「ぁ……」


 寂しげなソフィア吐息に後ろ髪を引かれるが、素早くその場を立ち去る。

 そのまま早歩きで道を進んでいき、ソフィア達から十分に離れた事を確認してから、大きくため息を吐いた。


 こえー。めっちゃ睨まれたわ。ちょっと話したぐらいで、怒りすぎだろ。

 アイツは駄目だ。イケメンのくせに心が狭すぎる。今度ソフィアに忠告しとかないと。

 ソフィアと話してる間、殺気立った表情で俺を睨み付けていたイケメンを心のブラックリストに登録する。こうやって、振るいにかけることによって、ソフィアが玉の輿になる為の男を選抜するのだ。

 なんて重要なポジションなんだ、俺。


 やっぱり俺が居ないとソフィアはダメだなと、なにかと理由を見付けてそばに居る口実にしているという、少し残念な奴だと気づかないふりをしたまま歩いていると、後ろから誰に呼ばれた。

 声の主を確認しようと振り返ると、天使が手を振りながらこちらに駆け寄ってきている。


「シオンッ!」


 俺が振り返った事で嬉しそうに名前を呼ぶと、走るスピードが上がった。

 なんだソフィアじゃねーか。俺の人生、まだまだこれからだってのにお迎えが来ちゃったのかと思ったぞ。


「どうした?」


 追い付いてきたソフィアに声を掛ける。ギルドから走ってきたなら、そこそこ距離があったと思うが息一つ切らしていない。さすがは廃スペック。


「ゼニスさんに聞いたの。シオンがクエスト請けようとしてたって」


 眉をハの字にして沈んだ表情でそう言ったソフィアは、バッと頭を下げた。


「ごめんなさい! わたしがシオンのお仕事取っちゃった!」


 腰を深く沈めた拍子で絹のような黒髪が雪崩れて顔を覆ってしまう。そのせいで表情が確認できないが、目元を手で拭っているので泣いてるのかもしれない。


「気にしなくてもいいって」


 差し出されるように前に向けられたソフィアの頭を撫でながら、頭を上げるように言うと今にも破顔しそうな表情で見つめられた。

 ダメだ……泣きそうな顔もかわいい。ソフィアには悪いが、もうちょっと見てたくなる。

 そもそも、そんなに気にしてねーよ。俺だって余ったアイテム売っぱらってたし。薬草なんてそのまま使っても、HP10しか回復しねーからな。ソフィアが持ってても邪魔になるだけだ。


 泣くことないだろと戯けながら、ソフィアが落ち着くように頭を撫で続ける。


「うぅ……でも、シオン怒ってたじゃん……」

「そうだったか?」

「そうだよぉ……素っ気なかったもん」

「あぁ……」


 怒ってたんじゃなくて、イケメンの睨みにビビってただけです。


「別に怒ってねーよ。ちょっとあの男が……」

「ふぇっ? ……あの男って、マルクスさん?」

「名前はわかんねーけど、ちょっとムカついただけ」


 マルクスって言うのか、あのイケメン。なんか聞いたことあるな。騎士でマルクス……誰だったかな? まぁ、いいや。とりあえず、アイツはソフィアには相応しくない。あんまりストレートに悪口を言うのは良くないからな。それとなく、あの男はダメだぞって伝えておかないと。


「ムカついたの?」

「そうそう」

「話してる時?」

「そう、その時」

「えっ……えへへっ……!」


 うおっ!? 急に変な笑い声出しやがった!

 どうしたんだ? 壊れたのか?


「そっか……そうなんだ……えへへへへ」


 ヘニャリとだらしない顔をしたソフィアが、不気味に笑っている。

 ちょっと怖いけど、見方によってはかわいい。なんというか……うん、レア顔ってやつだ。

 まったく……こんなのでSランクのクエストが出来るのか? いや、ステータスが高いことは分かってるんだが、こんな顔してるやつがマンティコアとかバフォメットを倒してる想像が出来ない。俺なんか、ゴブリン討伐すらさせてもらえないのに。

 ……ん?


「ソフィアッ!」


 ガシッとソフィアの肩を掴む。


「は、はいッ!」


 急に肩を掴まれたソフィアは、何故かちょっと頬を赤く染めながら目を白黒させている。

 

「付き合ってくれ」

「……へぇ?」


 ボンッと頭から湯気が出そうなぐらい顔を真っ赤にしたソフィアは、素っ頓狂な声を上げた。口をパクパクさせながら、言葉にならないといった樣子で喘いでいる。

 ……どうした?


「そ、それって……その……」


 モジモジと身を捩りながら手を擦り合わせて、チラチラと俺に視線を送ってくる。

 どうしてそんな思わず抱きしめたくなる仕草をし始めたのか分からんが、俺の今後の為にも恥をしのんでお願いするしかない。


「Fランクのゴブリン討伐に、付き合ってくれ!」

「……えっ?」


 俺の言葉にピシャリと固まったソフィアは、錆びついた歯車のようにぎこちない動作で首が動く。そして俺と顔を合わせると、そのまま見つめ合った。

 確かにソフィアにとっちゃ思わず固まってしまうぐらい、簡単なクエストだと思うが、俺にとっては唯一請け負う事が出来るクエストなんだ。ソフィアには悪いと思うが、ちょっとの間だけ付き合って欲しい。

 俺の切実な想いが伝わるように、できるだけ真剣な表情でソフィアを見つめ続ける。すると、急にスッと色が抜け落ちたように表情を無くしたソフィアは、乾いた笑い声を上げ始めた。


「ハハッ……そうだよねー、シオンだもん。でも、ちょっとびっくりしたよ? 心臓飛び出るぐらいに。……あっ、それはちょっとじゃないか、ハハハッ」

「お、おい、大丈夫か?」

「うん、大丈夫、大丈夫。ゴブリン討伐だっけ? いいよ、一緒に行こう」

「そうか……! 助かる! やっぱ、持つべきものは幼馴染だな! これからもずっと俺の側に居て欲しいぐらいだぜ!」

「うん、ありがとう。その言葉は、別の意味で言ってくれたらもっと嬉しかったんだけどね」


 ソフィアの柔らかい手を取って上下に振りながら、感謝の気持ちを精一杯伝える。

 あまりに簡単過ぎるクエストに呆れているのか、力無く俺にされるがまま腕を振られているソフィアは、表情だけは取り繕ったように笑顔を浮かべていた。

 くそっ! その優しさが胸に沁みるぜッ!


 自分の情けなさに泣きそうになりながらも、ソフィアに負けないよう俺も顔面に笑顔を貼り付けた。











 ソフィアを伴ってギルドに再び訪れた俺は、父さんからゴブリン討伐のクエストを受注する。父さんも、ソフィアが付き添ってくれるなら安心だと、すぐに手配してくれた。

 さすがはソフィア様! 俺なんかとは信頼の度合いが違うぜ!

 それにしても、ちょっとランクが低すぎて不便だな……。いつまでも薬草摘みしかさせてもらえないとか、母さん過保護すぎるだろ。箱入り娘ならぬ、箱入り息子じゃねーか。ちょっと昔モンスターに襲われて怪我したぐらいで、ここまで肩身が狭くなるとは思わなかったわ。こんなことになるなら、わざと襲われて怪我なんかしないで、さっさと逃げるか、パパッと倒しちまえばよかった。


「はぁ~」


 この調子じゃ、いつになったらGランクからランクアップ出来るかわからん。


「どうしたの? ため息なんか吐いて」


 隣を歩くソフィアが、ちょこんと首を傾げる。


「いや、ゴブリン討伐ぐらいで、親の許可が必要なのが情けなくて……」

「何言ってんの! モンスターに襲われて怪我した事忘れたの!?」


 プクッと頬を膨らませて、プリプリと怒るソフィア。

 もうそれは耳にタコが出来るぐらい聞いた。そもそも、お前がバフォメット放置して、どっかの貴族とイチャイチャしてたのが悪いんじゃねーか! 確かに、討伐完了報告されてないのにクエストに出掛けた俺も悪いが、お前がさっさと倒してくれればよかったんだよ!

 って、言い返すと、めっちゃ落ち込んじゃうから言わないけど……。

 あの時は参った。それはもう、号泣だった。俺が怪我して死ぬ心配してるソフィア以上に、俺はソフィアが泣きすぎてミイラになって死ぬんじゃないかと心配した。怪我したら、みんな心配してくれるかな? とか、軽い考えでいた事が申し訳ない。本当に、ごめんなさい。


「忘れてないけど……でも、ゴブリンは大丈夫だろ! 子供でも倒せるんだぞ!?」

「ダメッ! 倒せるのは、ステータスの高い子だからだよ! シオンはまだまだ全然弱いんだから」


 うるせー! おめーより強いよ! ……って、言えたらこんなことで悩まなくて済むな。

 ちょっと、ステータス逆鯖読み過ぎた。つーか、ゴブリン討伐すらさせてもらえないから、経験値が全く入らない。一番弱いゴブリンすら倒したことないから、未だにLv:1のまんまだ。ソフィアなんかもうすぐ50になるっていうのに、ちょっと情けなさすぎるぞ! 俺!


「やっぱレベル上げないとダメだよな……。ソフィアは今レベルいくつなん?」


 俺の問いかけにギクッと肩を震わせたソフィアは、顎に指を当てて考え込む。

 別に知ってるから、聞く必要なんてないんだが、どうやらこの世界で【スキャン】のスキルは珍しいらしい。なんかどこかの法国で、【スキャン】のスキルを持ってる巫女様が居るらしいが、国の重要人物として重宝されるぐらい凄いらしい。ソフィアが教えてくれた。

 だから、基本的に自分のステータスは自分でしか確認できない。言ってしまえば、簡単にステータスが偽装出来る。まぁ、あんまり鯖を読み過ぎるとギルドで凶悪なモンスター討伐のクエストに駆り出されるらしいから、命が欲しけれりゃ嘘つく奴はそうそう居ないだろ。


 そんな事を考えてると、ソフィアが決心したように小さく頷いた。

 レベルを教えるだけでそんな心構えが必要なのかと首を傾げるが、ソフィアなりに事情があるのだろう。


「えっ……えっと……わたしのレベルは30だよ」

「ぉ、おお……やっぱすげーな、ソフィア」


 うわー。嘘つかれた。なんか寂しい……。

 なんだよ、ホントは48じゃん。18も逆鯖かよ……俺はステータスでHPとMPを1980、その他を250と145逆鯖読んでるけど。


「え、えへへ……ありがとっ!」


 嘘ついて気まずいのか、なんとなく言葉がぎこちない。

 ちょっと、意地悪しようかな……ぐへへ。


「でも、もっと高いのかと思ってたわ」

「へぇっ!?」

「50ぐらいあんのかと思ってた」

「えぇ~っ!? ないないない! そんなにないよ! 50なんて、人類じゃ未知の領域だよっ!?」


 ソフィアは、ブンブンと胸の前で手を振って否定する。かなり焦ってるのか、声がうるさい。


「へー、そうなんだ」

「うんうん! これまでの歴史の中で、38だった人が最高なんだから!」


 俺があっさり納得すると、ソフィアは安心した表情で大きく頷きながら説明してくれる。

 38で最高とか、低すぎね? じゃぁ、20あったルージュさんって結構凄かったんだな。


「俺も頑張ってレベル上げたいなー」

「そ、そうだね! 10になったら一人前の冒険者だよ! そしたら、旅に出るのも許してもらえるかも」

「そっか。なら、まずはレベル10を目指して頑張りますか!」

「うんっ! わたしもできるだけ協力するね!」


 俺が拳を突き上げて気合を叫ぶと、ソフィアはとびっきりの笑顔で応じてくれた。

 この笑顔が俺に力をくれる……! いつか誰かのものになってしまうのかもしれないが、それまでは俺が幼馴染特権で独占してやるッ!

 目標のレベルも決まって、俄然ヤル気が出てきた! 10とかよゆーなんですけど。こっそり、ティアマットでも狩りに行って、一気に上げちまいたくなるな。この世界にあるのか分からないけど、ヤアス神殿の無限湧きスポットがいいよな。レベリングに最適だ。


「ちなみに、ティアマットって強いの?」

「……あんなの、人間じゃ勝てないよ? わたしも一度お手合わせした事あるけど、軽くあしらわれちゃった。

 ……でも、ティアマットなんてよく知ってるね。聞いたことあるの?」

「あ……ああ、ちょっと小耳に挟んで……」

「ふ~ん……」


 訝しげな視線を向けてくるソフィアから、冷や汗を垂らしながら目を逸らす。ムッとした表情をしているが、深く追求してこないのでなんとか誤魔化せたらしい。

 ティアマット狩りは止めよう。氷属性の【アヴァランチ】を連発するだけの簡単なお仕事で倒せるけど、止めとこう。俺みたいな凡人は、ゴブリンを倒してちまちまレベル上げに励むのがお似合いだ。

こっちばかり投稿してますが、メインの方も頑張ってます!

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