魔石
(ふぅ……)
口に付けていたカップを離して、静かにテーブルの上に置く。
俺はミディアさんの部屋でまったりと紅茶を飲んでいる。
一日一回はこの機会があり、大体は俺とソフィアとミディアさんの三人になる。セリナさんは仕事が忙しいので、あんまり顔を出さない。
そして今日は、ソフィアが居ないので俺とミディアさんの二人だけだ。
ソフィアはギルドの仕事で疲労が溜まっているらしく、最近は早く寝てしまう。
ステータスが高くてギルドで天才なんて呼ばれてるけど、まだ十四歳の女の子だ。毎日ハードな仕事を熟しているから、夜は眠くなってしまうみたいだ。
あんまり忙しくしてると身体が心配になるけど、本人の話ではそんなに深刻でもないそうだ。まだ法国に来たばかりで仕事をよく頼まれるが、次第にそれも落ち着いてくるらしい。
ソフィアにしか出来ない仕事とかも多いみたいで、今回はそれがたまたま複数重なってしまい、あっちこっち引っ張りダコになっている。
そう、疲れたような拗ねたような表情で言うソフィアに、内心仕事の話をしてくれる事を喜びながら、元気付けるために励ました。
イケメン金持ちとの出会いもあるだろうから、辛いかもしれないけど頑張ってると良い事があるぞと言うと、ムッとした表情で睨まれる。俺の励ましは、あまりお気に召さなかったみたいだ。
まぁ、ソフィアがムッとするのは無理もない。俺は経験がないから、その辛さの一割も分かってあげられない。
だから、部外者に外野からグダグダ言われても、思春期の女の子には口うるさく聞こえるだろう。将来的にはやっておいて損はないのは間違いないけど、なかなかそこまで割り切るのも難しい。
それに、ソフィアは充分頑張ってる。普通だったら遊びたい年頃だろうに、文句を言うだけで真面目に仕事をしてるんだ、口うるさく説教するのもなんか違う気がする。
だから、多分俺の励まし方が間違っていたんだ。
こういう時は、ちょっと先にご褒美というか楽しみをつくってあげれば良い。
法国に着いた日に、二人で一緒に聖都を見て回りたいと言っていたので、その話題を振ってみた。
多忙な時期が終わったら一緒に法国を巡って遊びたいと言うと、嬉しそうに頷いて了承してくれた。
ソフィアは、俺と行きたい場所を色々と考えていてくれたみたいで、軽快にスラスラと口を動かながら法国のおすすめスポットを教えてくれる。嬉々として話している姿に、内心ホッとしながらも、ソフィアの行きたい場所を巡るのは大変そうだと苦笑いが漏れそうになった。
だけど、俺もソフィアと出掛けるのは楽しみなので、その日を心待ちにしている。
「さて、シオンくん」
紅茶を飲みながら目の前に座っている、優雅で美しい女性を眺めるといった至福の時間を満喫していると、声を掛けられた。
「はい、なんですか?」
ぼんやりモードから頭を切り替えた俺は、そう返事をして要件を窺う。
『さて』と付けていたので、恐らく何か大事な話が始まるはずだ。もうすぐ、ミディアさんと出会ってから一ヶ月になるので、なんとなくパターンが掴めてきた。
まぁ……『さて』も何も、特に話をせずにまったりと時間を過ごしていたので、話でもしましょうか的な接続詞だったのかもしれないけど。
「リガニスから聞いてると思うけれど、最近きな臭い動きがあるのよ」
「はい、聞いてます。ドレマーレ商会の件ですよね?」
「そうよ」
俺が確認すると、よく出来ましたという表情でミディアさんが頷いてくれる。
褒められて嬉しいけど、なんとなく恥ずかしいので照れ笑いを浮かべていると、小さく笑われてしまった。
ドレマーレ商会とは、聖ナカル法国の東側に広がる【モールの樹海】という危険区域の森を挟んで隣接する、【ティストゥー帝国】に本店を構える大商会だ。
各国に支店を点在させて、この聖都にも戦略拠点であろう大きな店舗がある。
そんな大商会が、経営の軸とする商品は【魔石】だ。
それに加えて、“魔石を使った装置”も専門的に扱っていて、装置を動かす為の魔石もほぼ独占的に扱っている。
ミディアさんの話では、この商会だけが、大量に魔石を仕入れる技術を門外不出で持っているらしい。
魔石の正式名称は魔力鉱石。
そのまんまな名前の通り、魔力の塊が石になって出来た代物だ。
俺の知識では、小石程度の小さな物から、普通の一軒家ぐらいある巨大な物まで、倒したモンスターの強さに応じて手に入る。
しかし一般的に手に入る魔石はビー玉程度の大きさの物が殆どだそうで、大きくても拳ぐらいしかないらしい。
この世界では、生活に必須なインフラ設備を維持する為のエネルギーを魔力でまかなっている。
そのため、MPを大量に使う。
だけど、そんな事にMPを使っていたら、とてつもない数の人間が必要で、人件費が掛かり過ぎて維持費がバカにならない。
そこで代用されるのが魔石だ。
魔石を使うことによって自分のMPを使うことなく、火を起こしたり、水を出したり、明かりを付けたりと出来るようになる。
まぁでも代用も何も、魔石と魔石を使った装置のお陰で、生活の利便性が急速に加速したらしい。
俺達が普段使っている生活用水も、魔石をセットして水を成形する装置を動かすことによって、潤沢に確保できている。
俺とソフィアの故郷は寂れた町だったので、共有の井戸に魔石を投げ入れて水をつくり、そこから汲んで必要な量を確保してたそうだ。だけど大きな街だと、各家に小型の成形装置があって、そこに小さな魔石をセットすると水が出て来る仕組みになっているらしい。
そんなことさっぱり知らなかった俺は、あまりの衝撃に声を上げて驚いた。
故郷では勿論、ここに来てからも普通にMPを使って魔法で水を出したり火を起こしたりしていたので、装置の使い方を聞くまでは飾りかなんかだと思っていた。
そんな俺の発言に、ミディアさんは勿論、ソフィアやセリナさんにまで可哀想な人を見る目を向けられてしまった。
都会を夢見ない田舎者なので、そういう最新の物に疎いというと、ソフィアに呆れた顔で、井戸の水とかギルドやお店の照明なんかにも使われてた、と教えられる。
最初に聞いた時は(やっぱ都会ってすげーな)と関心していたので、故郷でも魔石が使われていた事を知らされて、再び声を上げて驚いてしまった。
それにソフィアが、『シオンってやっぱり特殊だね』と言って、バカにしてきた。
かなり悔しいが事実なので言い返せず、親友(紅茶)に傷ついた心を癒してもらった。
そもそも、魔石装置って便利だけど不便な仕組みだと思う。
だって、MPを使わないようにする為に魔石装置が普及されたのに、その装置はMPを使っても動かせない。魔石でもMPでも動かせるような仕組みにしたらいいのに、どうして魔石限定にしてしまったのか。
それに、井戸水なんて水脈掘り当てて確保するもんじゃねーの? 俺ずっとそう思ってたもん。魔石投げ入れてるなんて、全然知らなかった。火を起こすのだって、ライターはさすがに無いだろうけど、火打ち石とかで付けるもんじゃないの? 俺は面倒くさくてMP使ってたけど、少ない人はそうすればいいじゃん、ランタンに火を灯すだけなんだから。
魔石使って水が補給されるなら、井戸じゃなくていいじゃん!
もっと水を汲みやすい装置にしてよ! 最新型に変えてよ!
と、ソフィアとミディアさんに八つ当たりしてたら、頭の上に疑問符を浮かべながら俺の話を聞いていた。そして、『土の中の水なんて飲めなよ』とか『石で火は起こせないわよ』って、また可哀想な人を見る目を向けられた。
えっ? 俺がおかしいの? 俺が常識知らずなだけなの?
そう、納得出来ない表情で拗ねていると、ソフィアが母さんの話を持ち出してくる。
なんでも、母さんがよく昼寝をしていたのは、MPが少ないからだそうだ。毎日家事に追われて、料理をしたり洗濯をしたりして、更には夜になると部屋の明かりを付ける。父さんはギルドの仕事で同じようにMPを使って帰ってくるので、どうしても家の事は母さんがやらなくてはいけなかったらしい。
そのせいで、MPがすぐに切れてしまい回復する為に、昼寝をして頑張っていたそうだ。
『シオンがぐーたらだから、リアスさんも苦労してた』と、説教までしてきた。
ぐーたらなのは否定出来ないけど、水を貯めておく樽にはこっそり水補給してたよ! 『汲んできてくれたの!? ありがとう!』って、いつもピョンピョン跳ねながら喜んでたよ!
それに、自分の部屋の明かりは自分で付けてたし、洗い物とかも貯めてる水使わないで魔法で出しながら洗ってたよ!
それに母さんだって、井戸に水汲みに行くの面倒くさいって、横着するから余計にMP使ってたんだよ! 自己責任でもあるよ!
さらに、昼寝は母さんの生きがいだよ! ヨダレ垂らしながらいつまでも寝てるよ! それで夕食が遅くなるのが日課だったよ!
まぁでも、色々納得出来ない事があるけど、魔石装置は便利だと思う。魔石さえあれば魔法使わなくて済むから、母さんはさておき、一般的な人達が飛びつくのも分かる。仕事でもMPを使ったりするんだから尚更だ。
だから、ここは引こう。悔しいけど、変人扱いされるよりはマシだ。天才は得てして受け入れがたい存在だ。
郷に入れば郷に従う。凡顔の俺は、ただの一般人なんだから。
そんな事を思いながら話を聞いていくと、魔石はエネルギー資源として各国で重宝されているのだと気づき、その仕組をつくったドレマーレ商会の商才っぷりに舌を巻いた。
魔力を動力源とするあらゆる装置が動かせるようになり、それによってライフラインが維持され、飛空艇や転移装置なんかも動かせちゃう。
しかも、魔石は消耗品なので使ってると切れる。
だから、毎日大量の魔石が各地で使用され、消費されているので、需要がものすんっごく高い。
そして、そんな需要のものすんっごく高い魔石をほぼ独占的に扱っているので、もうウハウハだ。
ドレマーレ商会はウハウハだ。ウハウハ商会だ。
そんなウハウハ商会は、最近ウハウハのし過ぎで、ミディアさんたちにきな臭がられている。
元々、魔石を得る技術をほぼ独占しているので非難を買う事の多い商会だそうで、あまりにもウハウハし過ぎてて、とうとう怪しまれるようになった。
そもそも、ウハウハの要因である魔石を動力としている装置は、ドレマーレ商会が開発して販売を始めた。今まで自分たちのMPを使って得ていた生活に必要な資源を、魔石で誰にでも簡単に作り出せるようになる画期的な製品だ。これならばMPが少ない人でも多い人と同じように、いろんな事に魔力を使えるようになる。明かりを付けたり火を起こしたり水を出したりと、魔力に依存する生活基盤が確立されているこの世界では、無くてはならない製品だ。
しかし、そのせいで魔石が無いと非常に困る。
ドレマーレ商会は半永久的に魔石を取得する術を持っているそうだが、このままどんどん需要が高くなれば消費量も増える。それに対応する絶対量を確保できるのであれば問題ないが、そうでなければ魔石価格が高騰する。となると、家計が痛い。
それを裏付けするように、最近じわじわと値上がりしてるらしい。わかりやすく言えば、俺がお得意の薬草摘み一回分の報酬で、一般的に用いられる一番小さな魔石を百個買うことが出来る。だけど十年前は百二十個買えたそうだ。価格上昇は微幅だが、不満を感じる人々も多く、ドレマーレ商会に対して非難の声も高まってきている。
大体一般家庭での魔石消費量が一ヶ月に百個。裕福な層はもっと多く使うし、国も魔石を大量に使用して飛空艇や転移装置を稼働させたりするから、供給が追いつかず魔石不足になる。という事の無いように、値上げをし利益を出して安定供給の形成に努めているとは、ドレマーレ商会の見解だ。
「シオンくんが気にする事はないのだけれど、ハイリヒッターで働く者として知識だけは持って置いて欲しいの。
わたくし達聖騎士が存続する意味の一つが、それである事を」
そう、真剣な表情で言うミディアさんを真っ直ぐに見つめ返して頷く。
なんとなく師匠と弟子っぽいなと思って、内心嬉しい。
そんな俺の気持ちに応えてくれるかのように、
ミディアさんもニッコリとした微笑みを返してくれた。
聖ナカル法国で聖騎士が必要とされる要因の一つが、魔石取得手段の究明だ。
ドレマーレ商会がほぼ独占する技術を各国が欲しがるのは当然だろう。だけど、
「魔石の取得方法教えて?」
「いいよ!」
なんて教えてもらえるはずもない。
ならばと、ドレマーレ商会が“ほぼ”独占しているので、その“ほぼ”になる原因に取得方法を学ぼうとすれば、国益を脅かす経済的侵略と見なされティストゥー帝国の反感を買う。
そうなれば、魔石の流通はストップ。ドレマーレ商会は帝国に反感を買われた国から撤退。以後、その国は魔石の無い生活を余儀なくされる。
という具合に、ドレマーレ商会はティストゥー帝国の国営商会なのだ。なので、魔石の取得方法は帝国が“独占”している。
まぁ、実際はそんなに簡単な話じゃないけど、魔石が帝国にとって各国に有効な外交カードになっている事は間違いないので、脅威的な存在だ。
そういう社会的背景から、聖ナカル法国は聖騎士に魔石の取得方法を調査させている。
だけど、簡単に判明すれば苦労しない。今まで何百年と調査をしているそうだが、目覚ましい成果を挙げられていないようだ。
それは他国も同様で、いまだドレマーレ商会、もとい、帝国に依存したままだ。
そしてここにきて、魔石の価格がじわじわと上昇。ドレマーレ商会の見解通り、魔石を安定供給する為に値上げをしているのであれば問題ない。
だけど、魔石は元々大量に手に入るのに利益追求だけをして、それで集まった資金を帝国が得ているのだとしたら問題になるそうだ。そして、その可能性があると、リガニスさんとミディアさんは感じている。
なので、『きな臭い動き』とは、帝国が魔石で得た潤沢な資金で侵略戦争を仕掛けるのではないかという事。危険区域のモールの森を挟んでいるとは言え、法国と帝国は隣接している。
だからこそ、法国を守る聖騎士はその動向を注意深く探っているのだ。
しかし! そんな魔石によるウハウハ商法も今日までだ! 残念だったな! ウハウハ商会ならぬ、ウハウハ帝国! 金貨風呂に入れなくなる時期も近い! 今のうちにせいぜい堪能していろ!
なぜなら、この俺が居るからだ!
この世界をゲームの中で知り尽くしている俺は、魔石の取得方法を知っている!
大事なことなので、もう一度言おう。
──俺は、魔石の取得方法を、知っているッ!!
「シオンくんは知っているの?」
「ミディアさんもかよ!」
俺が心の中で高らかに宣言していると、ミディアさんまでそれを読んでいるかのような質問をしてくるので、思わず突っ込んでしまった。
「な、なに? どういう事?」
俺がいきなり叫んだので、ミディアさんは目を見開いて驚いている。どうやら、今度は本当にたまたまだったみたいだ。ミディアさんまでソフィアみたいに俺の心に入り込んでくるのかと思った……本当によかった。
「あっ、こっちの話です。気にしないでください。」
「そ、そう……わかったわ」
俺がそう言うと、戸惑いつつもミディアさんは頷いてくれる。
そんなミディアさんに申し訳ないと思いながら、額から出てきた嫌な汗を拭った。
そして、勿体ぶるように大きく深呼吸してから、少し胸を反らして言い放つ。
「魔石はですね、モンスターのドロップアイテムなんですよ」
ふんぞり返った俺は、鼻を高くして魔石の取得方法を伝えた。
「やっぱりね……その可能性が高いと思っていたわ」
そう納得した表情で頷いたミディアさんは、思考を巡らせているのか顎に手を当てて考え込む。
もっと驚いてよ! こっちが恥ずかしいじゃん!
「どんなモンスターが落とすのかしら?」
イマイチな反応にガックリと肩を落としていると、そんな俺の姿を不思議そうに見ながらミディアさんが聞いてくる。
「ミディアさんが考えてる、可能性が高い奴です」
驚かせられなくてつまらないので、唇を突き出しながら答えた。
拗ねるなんて情けないけど、もう少し驚くような素振りが欲しかったので、意地悪をする。
「もぉ……」
そんな俺の態度に、ミディアさんはちょっと呆れるような戸惑うような表情でため息を吐いた。
最高に素敵です。もっと見ていたいです。
こう、大人のお姉さんがちょっと困ってますって表情がたまらいない……! たまらなく良い!
そんな事を考えながら思惑通りに行ったのが嬉しくて、ヘラヘラとミディアさんを眺めていると、キッと睨まれた。怖い。
「すいません……」
「よろしい」
一瞬でミディアさんとの立場が入れ替わり、
俺が小さく頭を下げて謝ると大きく頷いて許してくれた。
それに俺がホッと胸を撫で下ろしていると、ミディアさんは微笑みながら首を傾けてる。それが、『はやく答えて?』と言っているように見えた俺は、コクコクと頷きながら魔石をドロップするモンスターを記憶から掘り起こした。
「えっとですね……ゴーレム系とかドラゴン系のモンスターです。
……あっ! あとは、デーモン系とかもそうです!」
上に目線をやって、確かそうだったよなと思いながら答える。
「ゴーレムとドラゴンは調査をしていないから何とも言えないけれど、
デーモン系統は落とさないわよ?
グラスターデーモンのドロップアイテムに魔石なんて出ないもの」
やや困惑気味言うミディアさんに、俺は苦笑いを浮かべながら手を振って否定する。
「あんな雑魚じゃ落とさないですよ。もっと、強い奴です。
最低でも伯爵級のデーモンじゃないと。
ヤアス神殿の奥の方に居る、ロゼンデーモンなら落としますよ? 伯爵級ですから」
「そ、そう……」
俺が勘違いを正すようにそう言うと、ミディアさんは歯切れの悪い返事をして引き攣った表情をしたまま瞳を彷徨わせている。
そう! 今まさにミディアさんが困惑している通り、魔石を落とすモンスターはそこそこ強い! Sランクの討伐クエストにグラスターデーモンがあるという事は、それ以上強いモンスターとなると、例え聖騎士であろうとも手も足も出ない!
なので、取って来るのはソフィアでないと無理なのだ!
そう思いながら、ニヤニヤとした気持ち悪い笑顔を浮かべてミディアさんを見つめる。口元をピクピクと痙攣させ、必死に笑顔を浮かべながら悔しさを隠している姿に、笑いが止まらない。
このままずっとミディアさんの悔しがる表情が見ていたいけど、ちょっと気になる事があるので、ふざけるのはここまでにしておこう。
そう思った俺は、真剣な表情で少し俯く。
「なので、ドレマーレ商会がどうやって魔石を手に入れているのか気になりますね?」
俯きがら腕を組んで、すごく考えてますよって思わせる素振りで、ミディアさんに同意を求める。
「えっ? ──ぁ……こほん。
そうね、シオンくんの言う通りだわ」
一瞬、間の抜けた表情で聞き返してきたミディアさんだったが、咳払いをしてすぐに表情を引き締めて大きく頷いた。ほんのりと耳が赤いことを弄りたくなるけど、そうするといつまで経っても話が前に進まないので自重する。
ミディアさんが戸惑う通り、魔石をドロップするモンスターは、普通なら倒すことが出来ない。
ソフィアだったら問題なく手に入れる事が出来るだろうけど、それでも【小さな魔石】が限界だ。もっと大きいサイズの魔石を手に入れるには、それこそソフィアが軽くあしらわれたと言っていたティアマットを倒すしかない。そうすれば、【巨大な魔石】が一体につき五個は手に入る。
「帝国には、ソフィアより強い奴が何人も居るとか?」
そうなら納得がいくと思いながら、ミディアさんに訊ねる。
そいつらが、定期的に【巨大な魔石】を落とすモンスターを狩って入手し、細かく砕いてから、商会を通じて各国に流通させる。
そうなら、ドレマーレ商会が半永久的に魔石を取得出来ると言っているのも筋が通る。無限湧きスポットさえ見つけられているのであれば、倒せるようなステータスの高い奴らが居なくならない限り取れ続ける。半永久的になんて言ってるぐらいだから、強い奴を育成する教育機関とかも整ってるのかもしれない。
もしくは、能力を上昇させるアイテムを量産出来たり、激レアな装備を持ってたりと色々と可能性がある。
そうやって、色々と可能性を考えてミディアさんに質問してみる。
「いいえ、そのような情報聞いたことがないわ」
そう、ミディアさんは難しい顔をしながらも首を振った。ミディアさんたち聖騎士が情報を掴んでいない可能性もあるけど、そこまで疑ってたらキリがない。
なので、ここは帝国よりソフィアより強い奴がいない前提で推察したい。
そうすると、【小さな魔石】を毎日大量に入手しているか、別の方法があるのかのどちらかだ。
前者はあまりにも効率が悪すぎるし、経費がかかりすぎて魔石を低価格で流通させるなんて無理だ。 後者は、さっぱり分からない。
なので、俺の情報も役に立たない。残念だ。
「情報を漏らさないように強い奴を匿ってるって可能性もありますけど、
だったらさっさと侵略戦争仕掛けてるでしょうからね」
「ええ、その通り。
うふふ、弟子が優秀で、わたくしも鼻が高いわ」
「うっす、光栄です」
お褒めの言葉に恥ずかしくなった俺は、恒例の体育会系のノリでお礼を言う。
そんな俺の答えに、ミディアさんはクスクス笑い始めた。
あの日からお互いぎこちなかったけど、今ではこうやって褒めあったり、ふざけあったり出来るようになった。まだまだ色々とこれからだけど、俺の自己満足はさておき、ミディアさんとは良好な友好関係を続けていきたい。
聖騎士の人達にも、俺はミディアさんの弟子として期待されたり嫉妬されたりしてる。だから、期待に応えられるように、嫉妬を吹き飛ばすように、認めてもらえるよう頑張るしかない。
そんな事を、ハイリヒッターに初めて行った日のことを思い出しながら心に誓った。
お読みいただきましてありがとうございました。
次回はストックが切れたので、遅くなりそうです。