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お節介の

 なので、イケメンを避けて前に進もうとすると、横にずれて俺の行く手を阻む。仕方ないので、半回転して来た道を戻ろうとすると、走って俺の前に来て立ち止まる。

 そんな事をしているのに、イケメンはまったく俺に喋りかけてこない。ただ、睨んでるだけだ。

 正直不気味すぎるが、話をしないことには始まらない。

 そう思ったので、恐る恐る話しかけてみる。


「あの……なんですか?」


 俺に用がある事は明確なので、そう問いかける。


「君か? ミディアと同棲しているというのは」


 そう聞かれたので、少し迷ってから頷く。

 同棲といえば同棲になるのだと思う。まぁ、他にも二人居るけど。


「君とミディアはどういった関係なんだ?」


 俺が頷くと睨み度を増したイケメンは、少し苛ついた樣子で聞いてきた。かなり怒っているみたいだ。


 ミディアさんの家に知らない男が居る事がそんなに気に入らないのだろうか?

 やっぱり美人さんだから、ソフィアみたいに好意を持たれる事が多いのかもしれない。ソフィアだけでも大変だってのに、ミディアさんやセリナさんの事を好きな人から恨みを買わなきゃいけないのか……ちょっと憂鬱だ。


 あの楽園は良い事ばかりでないことに気づいて、ため息を吐きたくなった。

 それと、あんまり睨まれ続けるのも嫌なので、イケメンの質問に答えることにする。


「どういった関係もなにも、師弟関係ですけど」

「師弟? 君はミディアの弟子なのか?」

「はい。ほらっ、これが証拠です」


 そう言って、ミディアさんから貰った女神の下僕の証であるペンダントをイケメンに見せる。

 俺が手に乗せて見やすいようにすると、イケメンが顔を近づけてマジマジとそれを眺める。

 なんていうか、イケメンがめっちゃ近いからドキドキする。早く離れて欲しい。


「……確かに、ハヴェル家の家紋が入っている」


 そう呟いたイケメンは、ペンダントから視線を外して俺からも離れる。

 それに小さく息を吐いて、緊張を解いた。

 だが、今度はそんな俺の顔をイケメンがマジマジと眺めてくる。

 

 もう嫌だ。帰りたい。


 この場から逃げ出したい気持ちを抱えながら、イケメンに凡顔を眺められる羞恥プレイに耐える。


「君は見たことのない顔だ。聖騎士ではないのか?」


 俺の凡顔を眺めていたイケメンは、記憶を巡らせているような表情をしてからそう言ってくる。

 口ぶりから、聖騎士の人達の顔を覚えているらしい。関係者なのだろうか?


「違いますよ。小遣い稼ぎで冒険者に登録してる程度の、ただの一般人です」


 首を振って否定した俺は、そう説明した。

 すると、イケメンは訝しげな表情をして首を傾げる。


「ならば何故、そんな君がミディアの弟子に?」

「俺の幼馴染の紹介なんです。

 ソフィア=グローツァって知ってますか?」

「勿論だ。ミディアの仲介で、何度か言葉を交わしたことがある。

 そうか……光剣の……」


 そう呟きながら顎に手を当てたイケメンは、ジロジロと品定めをするように俺を見てくる。

 また羞恥プレイが始まった。とても落ち着かない。お外怖い。


 今更だけど、この人は誰なんだろ? ミディアさんを呼び捨てにするぐらいなんだから、知り合いなんだろうけど……彼氏さんかな?

 ミディアさんは聖騎士の中でも上の立場みたいだから、そうそう関係者で呼び捨てにする人は居ないはずだ。だから、仲の良い同僚の人とか、恋人とか。あとは、兄弟のお兄さんとか弟さんかな?

 似てないけど、美形だからそう言われても驚かない。羨ましい遺伝子だって思うだけだ。

 まだミディアさんと会ってから一日しか経ってないし、そういう個人的な情報が一切ない。

 

「すまないな。ミディアが男と暮らし始めたと聞いて、居ても立ってもいられなくなったんだ」

「はぁ……。でも、よく俺だって分かりましたね?」

「当然だ。ミディアの家からつけて来たからな」


 そう言って、イケメンは何故か胸を張る。

 なにそれ、怖い。ミディアさんの家知ってるのかよ!? 引き篭もっても、このイケメンから逃げられないじゃん! どうすりゃいいんだよっ!? 


「み、ミディアさんの家を知ってるんですか?」

「部下の家を知っているのは当然だ。それに、何度か招待されて訪問したこともある」


 ミディアさんを部下だと言ったイケメンに、俺は完全に恐縮する。

 明らかに偉い人だ。ミディアさんみたいな偉い人より偉い人とか、とんでもなく偉い人だ。

 今後聖騎士の本部に行くことになるだろうから、失礼な態度は取れない。ここは媚を売っておかないと……!


「そ、そうなんですか……ミディアさんの上司の方だったんですね?

 申し遅れました、シオン=セフェルです。よろしくお願いします」


 そう自己紹介をすると、イケメンは満足気に頷いた。


「ああ、リガニス=ユニヴェールだ

 聖騎士団総長兼第一部隊長を務めている」


 その紹介に俺は心臓の鼓動が早まるのを感じる。緊張して急に喉が乾いてきた。


 総長って聖騎士の中で一番偉いってことだよな? わざわざそんな人が身辺調査に来るぐらいミディアさんって凄い人なのかよ……。

 荷が重いよ! 女神の下僕の証が、急に重たく感じてきたよっ! どうすりゃいんだ!?


──助けて、ソフィアッ!!


 ソフィアが隣に居ないと偉い人と話せない駄目人間っぷりを発揮しながら、俺は縮こまるように身体を小さくする。ミディアさんの弟子の肩書をフル活用して、イケメン金持ちと友好関係を築いていこうと考えたけど、幸先が不安になってきた。

 そもそも、友好を築く相手はイケメンで“金持ち”なんだから、偉いんだ。そう、偉いから“金持ち”なんだ。勿論みんながみんな偉い訳じゃないんだろうけど、偉い立場な人の方が可能性が高い。

 そして、俺は偉い人が苦手だ。ソフィアの仲介があって、その過程で話せるようになれば苦手意識もなくなるんだけど、今は居ない。それに今まで偉い人と話すことがあっても、大体ソフィアが隣に居た。貴族とか、大商会のお偉いさんとか、ソフィアに会いに来てて挨拶をする程度だったけど、それでも問題なく話せた。なのにソフィアが居ないと、このザマだ。緊張して、心臓がバクバクする。顔が俯きそうになる。俺は権力に弱い、一般市民なんだ。


 そう悟った俺は、引き攣った笑みを浮かべてる。

 そんな俺を不思議そうに見ていたリガニスさんだったが、急に真剣な表情をした。


「ミディアの弟子である君に頼みがある」


 そう言って、一歩前に踏み出してきた。


「は、はいっ! なんでしょう?!」


 緊張している俺は、思わず声が大きくなる。

 頼むから近づかないでくれ……!


「内密に、ミディアが私を避ける理由を調べて欲しいのだ。

 どういう訳か、最近はあまり会話を交わしてもらえない。

 何か気に障る事をしたのかと問いただしたのだが、『何でもありません』の一点張りだ。

 惚れた女に避けられる事ほど辛いことはない。

 それを悩んでいるところに、ミディアが男と同棲を始めたと耳にしたのでな。居ても立ってもいられなくなった。

 だからこうして会いに来たわけだ」

「そ、そうなんですか……」


 俺はビクビクしながらリガニスさんの説明に相槌を打つ。

 さらりとミディアさんの事を『惚れた女』とか言っちゃうところが、なんというかイケメンだ。しかもイケメンだから、その台詞が物凄く様になる。

 俺が好きになった女の人を『惚れた女』とか言ったら鳥肌ものだ。これが、イケメンと凡顔の違いか……恐ろしい。


 とりあえず、緊張するからちょっと離れたい。

 だけど、俺の方から一歩下がるなんて失礼だ。だから、リガニスさんに離れて欲しいけど、凄い真剣な表情で見つめてくる。それほど、真摯にお願いをしているって事なんだけど、今は怖いだけだ。

 それにしても、ミディアさんはなんでリガニスさんを避けてるんだろうか? 上司を避けて、仕事に支障をきたしたりしないのか心配だ。何か事情がありそうだけど、あんまり踏み込んで個人的な事を聞きたくない。

 ミディアさん程の優れた人格の持ち主なら、理由もなしに人を避けるなんて事しないはずだ。だから、よっぽどの個人的な事情があるんだろう。

 だけど、ここで断ったら聖騎士の本部に通いづらくなる。なぜなら、相手は聖騎士の偉い人だ。そんな人の頼みを断ったら、出入り禁止になるかもしれない。

 それならそれで俺はいいけど、弟子が聖騎士の本部に出禁だなんて、ミディアさんの顔に泥を塗るようなもんだ。女神の顔に泥を塗るなんてこと絶対に出来ない。

 いや、しちゃいけない。

 俺のせいでミディアさんの評価を下げるなんてことになったら、自分で自分が許せない。俺だけなら何も言われてもいいけど、ミディアさんに迷惑を掛けたくない。

 だけど、リガニスさんの頼みを受けるのも難しい。俺の事を信用して家に置いてもらってるんだ。それなのに、こそこそとミディアさんの個人的事情を嗅ぎまわるなんて事したくない。


 板挟みだけど、とりあえず協力はしよう。

 だけど、リガニスさんが直接ミディアさんに避けている理由を聞けるように、協力するだけだ。俺からは何も聞かないし、調べない。二人の仲介をするけど、それ以上は踏み込まない。あとは、リガニスさんに頑張ってもらって、ミディアさんから理由を聞いて欲しい。


 そう提案すると、リガニスさんは嬉しそうに笑って頷いてくれた。

 そして、その方が自分自身も最善だと思ってくれたそうで、意気地のない頼み事をして申し訳なかったと謝罪をしてくる。

 偉い人から頭を下げられることに慣れていない俺は、慌てて両手を振る。そして、頭を上げてもらえるようお願いすると、ニカッとしたイケメンスマイルを見せてきた。


 このまま立ち話もなんだと、リガニスさん行きつけのカフェに連れて行ってもらった。

 ちょっと隠れ家的なお店で、ゆったりとした雰囲気を満喫できる心地良いお店だ。

 ギルドの仕事帰りに寄るのはここにしようと思いながら、二人で向かい合って席に座る。イケメンの来店にウエイトレスのお姉さんが顔を赤くしながら、チラチラと視線を送って対応してくる。そんな熱い視線に慣れている樣子のリガニスさんがコーヒーを二つ頼むと、注文を受けたお姉さんが下がっていった。

 人払いが出来ると、さっそく作戦会議がしたいと言ってくる。作戦もなにも、俺がリガニスさんとミディアさんを合わせるように、本部で振る舞えばいいのではないのかと言うと、そうではないらしい。

 元々接点の多い二人だけど、ある日を境にミディアさんが意図的にその接点無くしてきた。だけど、仕事の関係でどうしても会話を交わす機会が出来てしまう。そんな数少ないチャンスでも、ミディアさんは事務的に報告をするだけで、そそくさと立ち去ってしまい、リガニスさんが引き止めても苦しげな表情をさせて断るそうだ。

 俺が知っているミディアさんからはとても想像がつかないけど、リガニスさんの淋しげな表情を見ると嘘だとは思えない。


 考え込みながら腕を組んで首を傾げていると、ウエイトレスのお姉さんがコーヒーを持ってきた。俺の前に素早くコーヒーを置いてから、ゆっくりとした動作でリガニスさんの前にコーヒーを置く。

 あまりの接客の違いに苦笑いしか出ないけど、そんな事どころじゃないリガニスさんは悩ましげに表情を曇らせているだけだ。

 そんなイケメンが憂う表情に目をキラキラとしているお姉さんは、リガニスさんへの対応をなるべくゆっくりとした動作で顔を眺めながら終えて、この場を去っていった。

 すると、リガニスさんが大きなため息を吐く。


「ようやく行ったか……まったく。

 コーヒーぐらいさっさと置いて戻れんのか?」


 お姉さんが去って行くと、ミディアさんの事で頭がいっぱいなリガニスさんは、苛ついた樣子でそう言った。


 本当はさっさと置けるんですよ。俺の前に置いたのは早かったでしょ? これが、イケメンと凡顔の接客の違いってやつですよ。わかります?


 そう心の中で捻くれながら語りかけて、両手を胸の前で上下して落ち着くよう身振りをする。


「まぁまぁ、まだ慣れてないんですよ。

 店員さんへの態度が悪い男性は女性に嫌われるらしいですから、ミディアさんに嫌われちゃいますよ?」

「そ、そうなのか? それは困る。

 今度から気をつけるとしよう」


 俺が宥めるように言うと、リガニスさん焦った樣子で答える。


 本当にミディアさんの事になると単純だな、この人。なんていうか、ミディアさんをダシに使えばなんでもしてくれそうだ。

 恋はイケメンを弱くする……なるほど! イケメンの弱点は惚れた女性だったのか! 素晴らしい発見だ! これでイケメンに──勝てない!


 何もやってもイケメンに勝てないことを再確認してから、リガニスさんの情報を聞いていく。

 二人は聖騎士になってからの出会いで、若く実力もある事から何かとペアを組んで仕事をさせられていたらしい。その過程でミディアさんと親密になり、恋仲とはいかないまでもそれに近い関係であったそうだ。

 羨ましいと思いながら聞いていると、リガニスさんの表情が苦しげになり、急に避けられるようになった時期の話になった。

 お城で催されたパーティーに出席した日の翌日から、ミディアさんの態度が急激に変化した。

 話しかけようとしても避けるように逃げられる。逃げるミディアさんを強引に引き止めて理由を聞いても、顔を歪めて苦しそうな表情で見つめ返されるだけ。そんな表情を向けられて、リガニスさんも強く出れずに勢いをなくして逃げられてしまう。

 そう、俯きながら両手で頭を抱えて話すリガニスさんを、俺は面倒くさそうにしながら見た。


 これって、アレでしょ? よくあるすれ違いでしょ? いや、お城のパーティーって時点で嫌な予感がしてたんだけど、どうせそうなんでしょ?

 どうせ、リガニスさんが知らない美女に抱きつかれて、その現場を都合よく断片的に見たミディアさんが、ショックを受けて逃げちゃったんでしょ? それで、避けるようになっちゃったんでしょ?

 しかも多分、そのシチュエーションだとミディアさんはリガニスさんのこと好きだよ?

 両想いじゃないですか、おめでとう。


 俺の中で二人の問題は解決したので、後は確認をするための簡単な言葉を吐いてやればいい。


「リガニスさん、そのパーティーの時に知らない女性と抱き合いましたか?」

「だ、抱き合ってなどいない! 彼女の方から抱きついてきたのだ!

 ……いや、待て。何故そんな事を知っている? 見ていたのか?」

「俺は見てないですけど、ミディアさんが見てたんじゃないですか?

 好きな男の人が他の女と抱き合ってたら、避けたくもなりますよ」

「な、な、な、な……なんだと!? そうなのか!?

 ミディアは私を愛しているのかっ!?」


 そう驚愕の表情で立ち上がって叫んだリガニスさんに、店中の視線が集まった。


 止めてください。凄く恥ずかしいです。人の前で『愛しているのか』なんて言葉よく言えますね。イケメンですか? ああ、イケメンでしたね。


 俺が周りを見るように顔を動かすと、リガニスさんもようやく状況を思い出したのか、周りの人達に謝罪をして腰を下ろした。

 だけど、興奮冷めやらない樣子のリガニスさんは、鼻息荒く俺に顔を近づけてくる。

 ちょっとうざいので、離れて欲しい。


「さ、さっきの話は本当かっ!?」

「あくまでも俺の予想ですけど、その可能性が高いです。

 なので、誤解を解いて、そのまま勢いで告白してください」

「こ、告白もかっ!?」

「ミディアさんを他の男に取られたくなかったら、その方が懸命です」

「そ、そうか。そうだな……他の男になど取られてくないっ!

 そうしよう!!」

「よかったです。

 それと、静かにしてください」

「す、すまない……」


 告白に意気込んだせいでまた声の大きくなったリガニスさんを注意すると、申し訳無さそうに謝ってくる。そして、落ち着こうとしているのか、コーヒーを一口で煽った。

 それなりにまだ熱かったのか、顔を顰めたリガニスさんだったけど、噴水はまぬがれた。

 俺もリガニスさんに倣って、ミルクをタップリと注いでからコーヒーを飲む。


 すごく美味しい。ギルド帰りはここに寄ろう。決定だ。


 素晴らしい発見があったことにリガニスさんに感謝しながら、ゆっくりとコーヒーを飲んでいく。

 俺がコーヒーを飲んでいると、時計を見たリガニスさんがギョッとした表情をする。そして、慌てた樣子で俺にお礼を言うと、お金を置いて店から出て行った。

 どうやら、仕事中に抜け出して来たみたいだ。聖騎士の偉い人がそんな事でいいのかとため息を吐きながら、仕事のない俺はゆっくりとコーヒー飲む。

 ずっとのんびり飲んでいたいけど、お昼を過ぎてお腹も空いてきたので、家に帰ってセリナさんの手料理を振る舞ってもらう事にする。

 ちょっと新婚さんみたいな感じだなと、鼻の下が伸びそうになるのを耐えて、会計を済ませた俺は家へと向かった。

タイトルは次話と繋がります。

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