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出会い

「おはよう! 今日もいい天気だよ!」


 可愛らしいコロコロとした声が聞こえ、快音を響かせながらカーテンが開かれる音がする。


 ああ、夢か……。


 何度も妄想を繰り返した、可愛い幼馴染の女の子が毎朝自分の部屋まで起こしに来てくれるという、憧れのシチュエーションが、幻聴として聞こえるようになったらしい。


 素晴らしい能力を手に入れた。

 これはもう、特殊技能であると言ってもいいだろう。この能力のおかげで、今日から毎日清々しい朝を迎える事が出来るに違いない。


「ねぇ、早く起きてよ、シオン!」


 また可愛らしい声が聞こえてきたと思うと、控えめに身体が揺すられる感覚がする。


 最高だ!

 こんなオプションまで能力に付いてくるのか!?

 こんな素晴らしい感覚を味わえるなら、いつまでもベッドで寝ていたい!


「もぉ……おりゃっ!」


 呆れたようなため息が聞こえたかと思うと、掛け声とともに布団が捲られた。


 寒い。

 なかなか起きない俺を見かねて、幼馴染(妄想)が布団を取り上げたらしい。


 幼馴染は妄想なのに、布団は本当に無くなった。

 どういうことだ?

 自分の脚で蹴りあげたのだろうか?

 それにしては、脚が動いた感覚がまったくない。布団が無くなった感覚ははっきりとしてるのに、変な感じだ。


「ほらほら、寒いだろぉ~」


 バサバサと音を立てながらひんやりとした風が送られてくる。どうやら幼馴染(妄想)が、布団を使って俺を扇いでいるらしい。


 なんか余計なシチュエーションまで付いてるな。

 こんなのはいらないから、目覚めのキスとかにして欲しいわ。あとは、こっそりと布団に潜り込んできて、俺を抱き枕に添い寝して欲しい。

 ここは要修正だな。おそらく妄想が足りないのだろう。いつも幼馴染が起こすところで、目をこすりながら起きてしまうからな。


「……もしかして、具合悪いの?」


 なかなか起きない俺が心配になったのか、幼馴染(妄想)がちょこんと額に手を当ててそう聞いてきた。


 これはいいな。

 今までのはこのための伏線だったのか。さすがは俺の脳内! いい仕事するぜ!


「熱は無いみたいだけど……寝不足?」


 いや、大丈夫だ。昨日は早く寝たからな。寝すぎて眠いという、贅沢な状態だ。

 だから、そろそろ起きよう。いつまでもこのシチュエーションを満喫していたいが、妄想していて仕事に遅れたらシャレにならない。


「はぁ~、ねむた」


 ゆっくりと身体を起こして、大きく伸びをする。

 欠伸を噛み殺しながら、蹴り飛ばしたであろう布団を探そうと周りを見渡すと、笑顔の美少女が映った。


「やっと起きた、おはよっ!」

「ん?」

「お~は~よ~うっ!」

「あ、あぁ……おはよぉ……」

「うんっ!」


 挨拶を返すと、花が咲いたかのようにきれいな笑顔を向けてくれる美少女。


――ああ、そうだ。

 夢でもなければ、幻聴でもなかったんだ……。この子は、しっかりと実在する俺の幼馴染。


 ソフィア=グローツァ。

 お世辞にも栄えてるとは言えない田舎町で生まれた、絶世の美少女。こんなに可愛い女の子が俺の幼馴染であるのは、人生の運を全て使い果たしたとしても惜しくはない。

 


「久しぶり」


 久々に会った幼馴染に、自然とそんな言葉を投げかけた。

 幼馴染ではあるが、こうやって顔を合わせるのは一ヶ月ぶりだ。

 別に仲が悪いとかではない。ただ単に、ソフィアがこの町を出ていたので会わなかっただけだ。


「うん……久しぶりだね!」


 一瞬、笑顔に影がさしたように見えたが、すぐにまた満面の笑みを浮かべて返してくる。


 依頼で何かあったんだろうか?

 でも、ソフィアはあんまり俺にギルドの仕事について話したがらない。だからこそ、深くは突っ込まない。そこら辺は腐れ縁として、空気が読めるのだ。


 ソフィアは、この国始まって以来の天才だ。

 それこそ、ソフィアの能力の高さを知って、各地の権力者達がこぞってスカウトに訪れるほどに。

 だからこそ、いろいろと悩みがあるのかもしれない。腐れ縁の俺に話してくれないのは寂しくはあるが、凡人な俺に話したところで余計な心配を掛けるだけだと思ってるのかもな。

 というよりも、天才のソフィアにしか分からない悩みなのかもしれない。その能力を手に入れようと、あらゆる手段を使って懐柔しようとしてくる輩が後を絶たないだろうし。


 かくいう俺も、ソフィアのステータスを観て思わず、「チートだっ!!」と、叫んでしまった過去がある。しかも、初対面で挨拶を交した二言目がそれだった。

 まだ小さかったソフィアは、小首を傾げて「ちーとってなに?」と不思議そうに聞いてきた。内心ヒヤヒヤしながらも、「間違えた! シオンだっ!」と強引に自己紹介をして誤魔化せたので事なきを得た。

 “廃プレイヤー”であった俺が、思わず声を上げてしまうぐらいのステータス。まだ、2歳の小さな女の子が持っているには、あまりにも不釣り合いな能力だった。



 この世界が、俺が人生を掛けて金と労力をつぎ込んできたVRMMOの世界だと気づいたのが、3歳の頃だ。

 前世の記憶が蘇り、この世界が俺の愛してやまない『The World Of Infinity』の世界だと気づき、それはもう狂喜乱舞した。3歳で自室を与えられたのをいいことに、その部屋で騒ぎまくった。

 そしたら母親に鬼の形相で叱られ、自室は取り消し。再び両親と一緒の部屋に逆戻りとなった。


 しかし、ステータスだけは確認しておこうと、トイレに篭りながら母の目を盗んでメニュー画面を開いてみる。

 基本的な操作方法はゲームと同じようだ。メニュー画面も見慣れたものだったので、アイテムなどもついでに確認しておく。所持していたアイテムなんかも、そのまま引き継いでいるみたいだ。装備はさすがに違うが、メイン装備などはアイテム欄に入っている。

 しかし、ホームの倉庫にぶち込んでいたアイテムはどうなってしまったのだろう? 倉庫のアイテムまではさすがに引き継いでもらえなかったのだろうか。

 そうなると、残念だ。俺が汗水垂らして貯め込んだレアアイテムの喪失。考えるだけで、画面が滲んできた。


 グシグシと涙を拭い、気持ちを落ち着かせる。

 これだけ引き継がれてるだけでも儲けものじゃないか。これ以上は、贅沢言ってられない! ……はぁ。


 しばらく落ち込んでから、最大の目的だったステータスの確認をしようと、メニューを操作する。

 しかし、ステータスも俺の期待通りのはずだ。右上に表示されてるHPとMPがそれを物語っている。

 ワクワクしながら、ステータスを表示させる。


シオン=セフェル

Job:フリー

Lv:1

HP:2000

MP:2000

物理攻撃:255

物理防御:255

素早さ:255

魔法攻撃:255

魔法防御:255

知力:255

運:150


 そのままだった。

 基本能力は、俺が前世で最後に確認したステータスと全く同じだった。

 違っているのは、名前はもちろんだが、レベルも1に下がっており、ジョブも“フリー”になっている。

 だが、レベルはこれから上げれば良いし、ジョブも取得条件を満たせば簡単に変えられる。

 最高だ! 最高の人生になる!

 

 また叫んでしまいそうになる衝動をグッと堪らえ、ニヤニヤと自分でも気持ち悪いと分かるぐらいの笑顔を浮かべてしまった。

 しばらく悦に浸っていると、母がトイレの扉を叩いて心配そうに声を掛けてくる。

 それに返事をして、ホクホク顔で出て行くと、スッキリしたのかと聞かれてしまった。

 別に排便がよかったから、こんな顔してるわけじゃないやい。


 5歳になるまで親同伴でないと自室を使わせてもらえないという、なんとも精神年齢20過ぎの俺としては情けない状況を過ごし、ようやく両親も目を離してくれる時間が増えてきた頃。

 ふと、自分のステータスに不安を覚えた。


 このステータスは、危険じゃないのか?

 だって、物理攻撃255とか、軽く物に触れるだけでそれを握り潰してしまいそうだ。

 でも、今までの日常生活で手加減なんかを気にしたことは一度もない。食事の時は、スプーンやフォークを握ったが、何ともなかった。


 試しに、外に出て転がっていた小石を握り潰してみた。

 小石が、5歳児の小さな掌の中で粉々になった。


――恐怖した。


 自分のあまりの規格外っぷりに、自分で自分が怖くなった。


 そんな不安を振り払おうと、もう一つ小石を手に取る。

 今度は握りつぶさないようにと意識して、小石を握ってみた。


 結果は、小石はその形を保ったまま、俺の掌で握られ続けている。

 どうやら、自分の意識一つで制御が出来るらしい。


 その事実に、俺はほっと一息つく。

 そして、またニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべた。

 それはもう、小石をにぎにぎしながら歪な笑みを浮かべる我が子を、悪魔が取り憑いたと心配する母親に気付かないほど、嬉しかった。

 

 この世界、『The World Of Infinity』では、基本的なステータスをLv,HP、MP、物理攻撃、物理防御、素早さ、魔法攻撃、魔法防御、知力、運の10の項目で表示される。

 HPとMPの上限は999。その他の上限は100になっており、俺のステータスが上限を超えているのは、スキルと呼ばれる特殊技能による恩恵だ。

 【能力上限開放LV.10】というスキルを取得しているので、運以外は上限開放の限界である2000と255までステータスが伸びている。


 【能力上限開放】の取得方法は、指定されたボスモンスターを、一人だけで攻略する事。

 全ステータスを最初の上限である100まで上げてしまえばわりと簡単に達成できるクエストなので、『The World Of Infinity』の廃プレイヤーであれば、誰もが持っているスキルだ。

 そもそも高難易度のクエストでは、そのスキルありきの強さを持つボスモンスターが配置されているので、限られたアイテムを使わないと上限の開放が出来ないとなると、運営に抗議のメールが殺到してしまう。


 しかし、“全てのステータス”が上限を超えていた奴は真の廃人だけだ。

 このスキルは取得条件を達成する度に、レベルが上がっていく。最大でLv.10まで上がり、俺のスキルでは【能力上限開放Lv.10】となっているのだ。

 もちろん、高レベルの【能力上限開放】を取得する為に指定されるのは、凶悪なボスモンスターばかり。ボスモンスターを攻略する為だけに、10万円以上の課金をして強化・回復アイテムを揃えて挑まなければ勝てないため、運営の貯金箱モンスターなんて呼ばれていた。


 そうやって築き上げたステータスを持ったまま、『The World Of Infinity』の世界に生まれてこれたんだ。嬉しくないはずがない。

 前世では、不眠不休でログインを続けたせいで衰弱死するという失態を犯したが、この世界に生まれ存在しているなら、そんな心配も必要ない。

 果てのない俺の冒険が、今始まる!!


 と言っても、五歳児の俺が急に旅に出るなんて無理だ。

 すくすくと成長して、旅を認めてもらえる年齢になるまでは、この町で大人しく生活していよう。


「何してるの? シオンくん」


 決意を新たに小石をにぎにぎしていると、少し離れたところから声が掛かる。

 声のした方へ顔を上げてみると、不思議そうな表情で首を傾げている美人がいた。


「こんにちは、ルージュさん。

 握力を鍛えてるの」

「そ、そうなんだ……怪我しないようにね」


 俺のトレーニング方法に引きつった笑みを浮かべたルージュさんは、「それで握力つくのかな?」と、もっともな疑問を呟いていた。


 お隣に住むルージュ=グローツァさん。

 凛々しい顔立ちに、どこか品性を感じさせる立ちふるまいでこの町の男どもを魅了する美女だ。

 しかし残念な事に、彼女にはもうすでに生涯を共にすることを決めた男が居る。その証拠でもあり、愛の結晶でもある、可愛くて小さな女の子が彼女の脚の後ろから顔を覗かせていた。


「そうだ、ルージュさん」

「あら、何かしら?」

「ナルサスさん居ますか?」

「ナルサス? 今日はギルドに行ってるけど……何かご用?」


 冒険者になると決めたんだから、この世界の冒険者の平均的な能力を把握しておく必要がある。

 元廃プレイヤーのステータスを持っていれば、この世界でも問題なく冒険者になることが出来るとは思うけど、あんまり強すぎて目立つもの嫌だ。ひっそり、まったりと今世を謳歌したいのだ。

 その為にも、ナルサスさんのステータスを覗き見して、冒険者のステータスがどの程度なのか知っておきたい。


 誰もが羨む美人を射止めた幸運の持ち主。そして、この町の男どもに嫉妬の視線にさらされるナルサス=グローツァさん。

 ナルサスさんは、元Bランク冒険者。正確には、今も冒険者として登録してるみたいだけど、ルージュさんの妊娠をきっかけにこの町に永住することに決めたらしい。だから、ルージュさんが言っていたように、たまにギルドからの依頼で仕事に出て行くことがあるけれど、基本的には長期での仕事に出掛けるようなことはない。


「そっか、また冒険のお話を聞きたかったんだけど……」

「ごめんなさいね、また今度ナルサスがいる時に遊びに来て頂戴。あの人は冒険の話をするのが大好きだから、シオンくんが聞きたがってるって知ったら喜ぶでしょうから。ふふっ」


 そう言って綺麗な笑顔を浮かべるルージュさん。

 うん。本当にナルサスさんの事が好きなんだね。ごちそうさまです。


 まぁ、ホントはそんなに聞きたくないけどね。

 だって、元々冒険者仲間だったルージュさんとの惚気話ばっかりなんだもん。お互いの馴れ初めから始まって、危険な冒険をくぐり抜けて愛が生まれる。

 簡単に言ってしまえば、そんなラブロマンスだ。


 ナルサスさんのステータスは今度にしよう。

 とりあえず、今はルージュさんのステータスだけ確認しておこう。ナルサスさんと同じBランク冒険者だったみたいだから、平均的な能力は変わらないだろうし。


 そう思って、ルージュさんに【スキャン】を発動させる。


ルージュ=グローツァ。

Job:魔術師

Lv:20

HP:60

MP:80

物理攻撃:8

物理防御:17

素早さ:12

魔法攻撃:30

魔法防御:30

知力:25

運:10

 

 …………よわっ。

 え? たしかBランク冒険者だったよね? 聞き間違えたか? Bランクだったのはナルサスさんだけだったっけ?

 でも、そもそもこのステータスで冒険できるの? 現役引退してステータス下がったとか?


 首を傾げてあれこれ考えてると、ルージュさんがまたも不思議そうな顔でこっちを見ている。そして、下に視線を向けると、可愛い女の子も俺と同じ方向に首を傾げて不思議そうな顔をしていた。面白そうなので、今度は反対に首を傾けてみる。

 すると、女の子も俺と一緒の方向に首を傾けた。

 

 なにこれ、めっちゃ楽しい。


 もう一度、反対に首を倒す。

 女の子も釣られるように反対になった。


 なにこれ、めっちゃかわいい。


 二人で首ダンスをしていると、それに気づいたルージュさんが微笑ましそうに目を細めた。そして、脚元にいる女の子を抱き上げると、こっちに歩いてきて俺の前にその子を立たせる。


「シオンくんと会うのは初めてよね? 娘のソフィアよ、仲良くしてあげてね」


 パッチリとした大きな瞳に、プックリとした桃色の唇。癖のない綺麗で艶のある黒髪は、太陽の光でキラキラ輝いて見える。

 俺の目の前に連れて来られたのが恥ずかしいのか、モチモチしてそうな白いほっぺを可愛らしく朱色に染めていた。


「こんにちは!」

「こ、こんにちは……」


 モジモジしながらも、上目遣いでこっちを見つめながら挨拶を返してくれる。


 めっちゃかわいい。食べちゃいたい。


 将来はルージュさんを凌ぐ美人になるに違いない。きっとイケメンで性格の良い、お金持ちの男と結婚するんだ。同じ町で生まれて、たった数メートルしか離れていない場所で育ったのに、もうこれだけの差が出るのか。現実は残酷だ。

 それに、ナルサスさんとルージュさんの娘さんだ。きっと、ステータスも普通の子よりも高いんだろう。美少女で恵まれた才能も持ち合わせる、まさに人生の勝ち組。

 唯一の欠点といえば、こんな冴えない俺が隣に住んでいる事だろう。

 なんだ? 急に涙が溢れそうになった……。


「「?」」


 仲良く不思議そうな表情で首をかしげている親子に悟られまいと、目元をグシグシと拭う。

 そして、気になるソフィアちゃんのステータスを覗いてみた。


ソフィア=グローツァ。

Job:魔法戦士

Lv:1

HP:250

MP:400

物理攻撃:90

物理防御:75

素早さ:80

魔法攻撃:120

魔法防御:115

知力:100

運:200


 「チートかよっ!」


 ふ、ざ、け、ん、なっ!!

 なんだよこのステータス! もうすでに、3項目も上限開放されてんじゃん!

 なに? あの理不尽なボスモンスター、その歳で3体も倒しちゃってんの!? おかしいだろ! もうちょっと、お母さんの慎ましやかなステータス見習えよ!

思いつくままに書いてるので、特に深い設定とかはないです。

愚作ですが、よろしくお願いします。

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