死神と呼ばれる少年の仕事
特にな~し
血と土が混ざった臭いがする。
常人ならこの臭いで吐き気を感じるのだが、俺は何も感じない。
何というか慣れてしまったのだ。この臭いに。
目の前には何人もの斬殺死体が転がっていた。
そう、俺は今戦のど真ん中にいる。
俺は、周りの騎士や傭兵からは死神と呼ばれている。
戦場の嫌われ者。それが俺だ。
両手に持つは、数多の人間の生き血を啜った、両刃のショートソード。
特に装飾も施されていない。
おっと、前方に敵さんか。
鎧の金属が擦れる音が煩く、大地に響く。もし、これが黄色いお姉さんの声だったら大感謝大感激大歓迎で飛び込み、うはは!となるのにな。
双剣の柄を握りなおす。
敵さんの数はざっと三十といったとこで、距離は八百メートルくらい。
敵さんの足音は次第に近くなり、そして大きくなる。近づくにつれ、空気はざわつき、震え、大地も震え、その振動は俺へと伝わる。
異様な空気はその場を包んだ。
はあ、一人に対し三十は、ちと酷ではないかい?
まあ、別にいいんだけど。
俺も徐々に足を進め、敵さんまでの距離を詰める。
敵さんは俺を殺すためだけに編成された部隊らしく、皆、腕の立ちそうな者ばかりだった。
「ほう、今度くらい少しは骨のあるやつだといいな」
しかし、相手がくるのを待つのは不利になりかねないので、こちらから仕掛ける。
不意打ち。
一人でも多くの兵を殺すこと。
脱兎のごとく、地を駆け抜けて敵陣へと突撃する。
あまりの速さに、兵は反応することが出来ず、すれ違いざまに二人の命を刈り取った。
「な、なんだ⁉あの速さは⁉」
一人の兵が畏怖の声をあげる。
そして、スピードを殺さないために止まらず、大きく左に曲がる。
その時、遠心力のせいで身体が持っていかれそうになるため、身体を地面すれすれまで傾けることでなんとか持った。
その勢いのまま、また敵陣へと切り込む。
低い姿勢を保ち、敵の目の前で斜めに跳躍し、三つほど首を飛ばす。
そして、空中で回転しながら着地した。かなりの勢いがあったからか、地面を二メートルほど、滑った。
「おいおい、お前らはこんなもんか?期待して損した」
どうやら、俺の見当違いだったらしい。益荒男に見えた男たちはただの兵士で、強くもなんともなかった。
恐怖に駆られた男たちが一斉にこちらへと切りかかってくる。
「う、うわぁぁぁあ!」
なんとも情けない声。
袈裟斬りにかかってきた男の剣を弾き、顔面へとショートソードを突き刺す。
「ふっ!」
息を吐いて兵士の間を一瞬間にして移動し、兵士たちを切り伏せる。
鮮血が空を舞った。
残りは十人か。
「く、くそが‼死神にやられてたまるかっ‼」
ある程度は形になった構えで切りかかってきた兵士。
あんたは地元だと選りすぐりの兵士かもしれない。強者だったのかもしれない。
だが、俺の前ではただの木偶と一緒だ。
降りかかる剣を避け、右手のショートソードを逆手に持ち、兵士の腕を切り落とし、流れ作業で左のショートソードで片足も切り落とす。
そして、とどめに胴体を二等分にした。
同じく、残りの兵士も一人、二人と殺していく。
俺の身体は全身、返り血で真っ赤に染まっていた。
残りの一人に刃を向ける。
「汝の剣、しかと見させてもらった。ふふ、やっと我の死神が現れてくれたか……」
老練の兵士がバスターソードを構えて言う。
そういや、あの突進を唯一見切ってバスターソードで弾いてたっけかこの爺さん。
爺さんはバスターソードを両手で持ち、胸の前に出して、祈る。
「剣は我が絶望、幾多の者の夢を希望を食ろうてきた。我は戦場で鬼神などと呼ばれ、殺し殺し殺して。ふふ、やっと誰も殺さずに済むというところよ。さあ、我の死神よ。我の命を刈り取るがいい‼」
いや、あんたの死神じゃないんだがね。けどまあ、今というこの一瞬だけはあんたの死神になってやるよ。
剣を構えて、一歩ずつ爺さんに近づいてゆく。
確実に一歩、また一歩進み、両手に神経を集中して、爺さんの命を刈り取るために。
「おい爺さん。こんな呆気なく殺されていいのか?抵抗しないのか?」
……あれ?なんでこんなこと口走ってんだ?
「呆気なく……か。さっきも言ったが殺しすぎたのだよ。我は死にたくて戦場を彷徨っていたのに、逆に殺そうとしてきた者を殺し、誰も我を殺すことができなくなっていた。故にお主に会えて幸運だった。この老いぼれも身体が限界よ。抵抗する気すら起こらなくなった」
だから抵抗しないと。
なんとなく、なんとなくだけど俺はこの人に俺の未来を見た。いつか俺も戦場を彷徨って死を求めるんだろうか。
嫌だな。
もしかしたらこの人と旅でもしたら変わるのか?
マイナス同士だからプラスになるみたいに。
ふむ、俺ながらいいアイディアじゃねぇか。
「……なあ、一つ提案なんだが俺と一緒に旅でもしないか?どうせ、爺さんの老い先も長くはないんだし、最期の余生くらいは剣の道から外れたらどうよ?」
「……ほう。中々面白そうだな。良いぞ死神よ」
あら、案外早く乗ってくれたな。
まあ、いいんだけどな、俺も戦場から離れてみたかったし。
「そうか、だったら自己紹介といこうか。俺は〜〜だ。あんたは?」
爺さんはバスターソードを背中の鞘に戻し、こちらを向き言った。
「我は〜〜だ。まあ、爺さんとでも呼べばよい」
さて、どこに行こうか。
男二人旅何が待ってんだろうな。
俺と爺さんはとりあえず、近くの街へ目指して歩みを進めた。
後ろに振り返ると太陽が俺らの旅を祝うかの如く燦々と輝いていた。
どうです?