青年と少女
新作を読んでいただきありがとうございます。
早速ですが本編へどうぞ!
1年後・・・。
青年は下校途中によく剣道の練習をした公園を横切った。
「そういや、1年前に此処でよく練習したな・・・。ん・・?」
公園を道路から見渡していると、奥にある神社の入り口に立ち入り禁止の看板が立っているのが見えた。
青年は気になり公園の中へ入っていく。
しかし、あまり寄り道している時間がないという意識が頭を過ぎる。
青年は神社へあがる階段を見上げただけで引き返し家へ帰った。
青年は家に着き、自分の部屋へ戻るも何故か落ち着いて勉強ができなかった。
ふと椅子から立ち上がると、棚の隅に置かれ埃を被ったお守りを見つけた。
「これは・・・。」
お守りを手に取ると、青年の頭に薄っすらと見覚えのある少女の顔が浮かんだ。
青年は記憶を鮮明に思い浮かべようとじっと立ち竦む。
「このお守り・・・あの子がくれた・・。どうして今まで忘れてた!?」
青年の頭に立ち入り禁止が掲げられた先にある神社が頭を過ぎった。
青年はお守りを握り締め、何故か無我夢中で神社に足を向けていた。
青年はあの時の願いを成就させた。それはあの子の助力が大きかった。あの子の願いは成就したのか?
それとも、まだ成就していないのか?青年はそれが知りたくて懸命に走った。
走れば走るほど青年の気持ちの中に湧き上がる思い。
本当にそれだけか・・・?と青年の心に自問する。
青年は公園を通り過ぎ神社への階段を上っていく。
一番上まで登り切ると、そこには1年前とは違い荒れ果てた神社があった。
建物は半壊し、外から中が見えるほどに崩れていた。
青年は少女を探し神社の周りを歩き回る。
「おーい、誰かいないか?」
静けさ漂う空間に虚しく青年の声だけが木霊する。
青年が少女を探していると1年前に勉強した木の机と椅子を見つけた。
青年は机をなぞる様に手を滑らせる。
同時に悲しそうな少女の顔を思い出した。
青年が思い出に浸っていると、背後から近づいてくる気配があった。
「おやおや、こんな夜更けに珍しいお客さんですね」
青年が年老いた声に気付き振り返ると、神主の格好をした御爺さんが立っていた。
「夜分遅くにもうしわけ・・・」
青年は御爺さんの中に何か別の存在の気配を感じた。
同時に手の平にあるお守りが少し赤く光った。
「そんな驚いたような表情でどうしたんですか?何か嫌な物でも見ましたか?」
「いや・・」
御爺さんは話しかけながらゆっくりと近寄ってくる。
それに伴い青年は嫌な気配が心の中に満ちてきていた。
その時青年の耳に微かだが少女の声が聞こえた。
青年は耳を澄まし声の元を辿る。
そして、青年は微かだが声をはっきりと捕らえた。
「だめ、・・・危ない!」と。
その瞬間、神主の格好をした御爺さんの顔が打って変り化け物になった。
化け物はトカゲのような顔で口が大きく、獲物を見定めたような表情で青年に向かって口を広げた。
青年は後方へ飛び跳ね間一髪で避けた。
「ひゃははは。人間にしては鋭いじゃないか」
そう言うと、トカゲの化け物は両手を広げ長い爪を青年に向けた。
「ひき肉にしてやるよ」
トカゲの化け物は言葉と同時に青年に素早く詰め寄る。
あまりの速さに青年は背筋に冷たい汗が伝う。
青年は更に後方へ追いやられ確実に追い込まれていく。
体について来なかった青年の右腕が、化け物の攻撃範囲に入った瞬間を相手は見逃さなかった。
化け物は容赦なく口を大きく広げ、青年の右腕に向かっていく。
青年は右腕が食われたと思った。しかし、右腕は無くならなかった。
青年の右手にあったお守りが裂け、赤い閃光を解き放つ。
青年は驚愕しつつも自分の手の平で光る赤い石を見つめる。
それに対し、化け物は呻き声を上げながら地面を転げ回った。
青年が赤い石に見とれていると、荒れ果てた神社の内部から物音がした。
青年が物音のする方へ振り向くと1年前の少女が立っていた。
少女は着物が切り裂かれ所々に怪我を負っている。
「おい、大丈夫か!?」
青年は、少女の下へ瓦礫を書き分けながら神社の内部へ進んでいく。
少女はふらつきながらも青年の声に反応し顔を上げた。
「どうし・・て・・・来た・・・の・・・?」
「お前の願いを叶えに来た!」
青年の言葉に唖然とする少女。
打って変って青年は少し怒っていた。
「それよりもだ。何で俺の記憶を消した?消したのお前だろ?」
少女は、何でわかったの?と言う表情をした。
「あのな。俺は・・・お前を好きになった。それが理由じゃ不服か?」
「え?え・・・え〜〜〜〜〜〜!?」
少女はどっきりテレビに出演した様な声をあげる。
そんな少女をお構いなしで、青年はどんどん話を進めていく。
「まあ、そんな事はどうでもいいとして。この状況は一体何なんだ?あの化け物は?」
「どうでも良くないんですけど・・・・。まあ、いいです。
あれは私を追ってきた妖怪です・・・。私を殺す為に・・・」
少女の答えに青年は、少しむっとした表情をした。
「殺す為?何かやったのか?」
「私は禁忌を犯しました・・・。死ぬはずの人間を生かしたんです・・・」
「俺からしてみれば、お前は人間を守ったって事だろ?」
「そ・・そうなりますね・・・」
「サンキューな。人間を守ってくれて」
笑顔で淡々と言う青年に見とれ、少女は言葉を失った。
「それよりもだ、俺はお前の願いを叶えに来た」
「それよりもって・・・。ぷっ・・あはは。
貴方マイペース過ぎます!」
マイペース過ぎる青年に少女は笑った。こんな時に、むしろ、こんな時こそだろうか。
少女の笑みに青年は少し表情を緩めた。
「そうか?それよりもお前の願いを知りたい」
食い下がる青年に少女は少し困った表情を見せた。
そこへ、先程の化け物が正気を取り戻しゆっくりと立ち上がり叫ぶ。
「お前ら!絶対許さんぞ!」
怒り狂った様な低い声が地響きと共に神社を包み込む。
青年はゆっくりと化け物のいる方へ顔を向けた。
「俺達を殺すらしい。さあどうする?」
青年は再度少女へ視線を戻すと、何か悩んでるような表情を見せた。
「俺はお前をむぐむぐ・・・」
少女は青年の口を途中で塞いだ。
「私から言わせて・・・。助けてください!」
青年は口元に笑みを浮かべた。
「オッケー!そこで座っててくれ」
青年は何か吹っ切れた表情で立ち上がり化け物を見た。
「お前を倒す許しがでた。さっきまでの俺だと思うなよ。」
それだけ言うと、青年は化け物に向かって突進していく。
化け物は化け物で青年を小ばかにした表情で返す。
「人間風情が調子にのるな」
青年は剣道仕込で鍛えた体を駆使し、左右に素早くステップを入れながら化け物に接近していく。
その勢いで化け物の大きな顔に横蹴りを入れた。
しかし、攻撃をした側である青年の方が驚愕の表情を見せた。
蹴りは見事にヒットしていた。だが、全く手ごたえが感じられなかったからだ。
それとは対照的に、化け物は薄っすらと口元に笑みを浮かべた。
「やはり・・・、お前はまだ妖石と契約を交わしてないな」
化け物は確認するかの様に青年に言い放つ。
同時に青年の右足を掴み、上下に振り回し地面に叩きのめした。
青年は吐血し、あまりの激痛の為か呻き声をあげる。
その様子を見ながら下卑た声で笑う化け物。
少女は青年を助けようと、体中の痛みを堪えながら体当たりをしかける。
だが、化け物に左手であしらわれ倒れると動かなくなった。
その光景を目の当たりにした青年は口から血を垂らしながら吼えた。
「そいつに手をだすんじゃねえ!」
同時に青年の右手の中にある赤い宝石が輝きはじめる。
化け物は赤い光に怯えるように青年を瓦礫の山に投げ飛ばした。
激しい音と共に瓦礫の中へめり込んでいく青年。
青年の心の奥にある暗い精神世界。
そこで青年は激痛と共に自分は死ぬかもしれないと思った。
虚勢だけでは倒せない相手がいる現実。
そんな中、青年の魂に訴えかけるように響く低い声。
”お前の望みを言え。それが我との契約となろう”と。
青年は目に見えぬ声の主に素直に応えた。
”望みだ?契約だ?ふざけんな!今の俺はあの子を守る事が全てだ!
あの子を守るだけの力を・・・よこしやがれ!”
”契約は完了した”
青年の心の声に、目に見えぬ主は応えた。
化け物はゆっくりと倒れたまま動かない少女に歩み寄る。
「一年以上も振り回しやがって。やっとお前を殺せる。これであの人間も終わりだな。
妖石と契約した者は必ず不幸になる。それをその身で知るんだな」
化け物の言葉に割り込むかのように、背後にある瓦礫の山が吹き飛んだ。
化け物はすぐに後方へ振り向く。
瓦礫の山だった場所の中心には、青年が先程は持っていなかった赤く燃える刀を携え立っていた。
「不幸になるのはてめえだ。くそ野郎が」
青年の体からは大量の血が出ているのか、着ている服に血が沢山滲み出ていた。
信じられない者を見ているかのように、化け物は固まったまま動かない。
青年は高速で移動し化け物と少女の間へ割り込む。
そのまま刀を動かぬ化け物の背中へ突き刺した。
「お前も妖石と契約した者だな。この子を狙ったお前の方が不幸だ」
青年の言葉を受けても、化け物は何処かを見つめたまま動かなかった。
化け物は刀が刺さったままふらふらと前へ歩き出す。
手を前に出し何かを求めるように。
化け物は一滴の涙を零し、そのまま床に倒れこんだ。
その光景をじっと見つめる青年。
化け物の体から生気を感じなくなると、青年は少女へと視線を戻した。
青年は、ぼろぼろの着物姿の少女を抱きかかえるように上半身を持ち上げる。
少女は多少顔に傷があるものの顔色は悪くなかった。
「おい、おい、大丈夫か?」
青年は少女が目を開けてくれるよう信じながら声をかける。
少女は時折苦痛の表情を見せながらも目をゆっくり開けた。
青年と少女は瞳を合わせる。
「お・・終わったの?」
「ああ」
「そう・・・」
青年の応えに、少女は少し寂しげな表情を見せた。
「どうした?」
「ううん」
少女はゆっくりと青年の腕から離れ体を起す。
そして、少し離れた場所で倒れている妖怪をじっと見つめた。
「貴方も妖石と契約したのね」
唐突に少女が口を開く。
「妖石ってのは何なんだ?」
「別名、不幸の石」
青年の質問に少女は淡々と応える。
「そうか」
「え?”そうか”で終わり?!」
青年の屈託のない答えに少女は戸惑う。
「まあ、俺には関係ない事だし。何か問題あんの?」
「え、いや・・ないけど・・きゃっ!?」
青年は少女の答えを待たずに少女を抱き上げる。
「ちょ!?どうするつもり!?」
「どうするって・・家に帰る」
「帰るって・・・私も?!」
「あたりまえじゃん。怪我してるし。手当てしないといかんだろ?」
青年の応えに少女は恥ずかしそうに顔を赤らめ動揺を見せる。
「ムリムリムリムリムリ・・・」
少女の反論を無視して青年は歩き出す。
「俺以外の人に見えるの?」
「見えない・・・と思う」
「ならいいじゃん」
そういう問題じゃないと少女は思った。
何処の世界に妖怪をつれて帰る人間がいるのかと。
そして、二人は荒れ果てた神社を後にした。
「今日の話は此処まで!」
「えー!」
父の言葉に大樹は嫌な顔をした。
「これ以上話してて、大樹の宿題できなかったら父さんが怒られる!」
「いいじゃん。怒られたって」
「良くない!」
父に説得され渋々立ち上がる大樹。
「父さん」
父は急に話しかけられ大樹を見た。
「これだけ教えて。不幸の石はその二人を不幸にしたの?」
大樹の質問に父は中々口を開かなかった。
「大樹はどう思う?」
「うーん・・・わからない。でも不幸にならなかった気がする」
「そうか。そうかもな」
父は笑顔で大樹に応えた。
その後、父は本当の事をせがむ大樹に、「また今度な」とだけ言って煙に撒いた。
父は大樹が部屋を出て1階へ行った後、机の上に置かれた赤い石を手に取った。
「こいつは、まだ大樹には早すぎる」
父はそれだけ言うと、小さな引き戸を開け赤い石をしまった。
「あいつが大きくなった時・・・。まあいいか。先の事はわからん」
父は部屋の中心にある電気を消す為、壁に備え付けられたスイッチに手を伸ばす。
同時に父は部屋の片隅を見つめていた。
その視線の先には、埃をかぶり年季が入り混じった刀が立てかけられていた。
次回の更新はぼちぼちやっていきます。
よろしくおねがいします。




