夢
新作小説第三章をアップできることを
嬉しく思います。では、
本編スタートです!
一方保健室で眠る大樹は小さい頃の夢を見ていた。
大樹がまだ小学校に通っていた頃の夢を。
大樹は家で父(大作)と共に学校の宿題である貼り絵をやろうとしていた。
大樹はハサミが見つからず家の至るところを探し回り、
2階にある父の部屋にまで押し入った。
父の部屋にある小さなタンスの一つを開けると赤い石を見つけた。
「・・・・」
大樹が光を浴び綺麗に輝く石に見とれていると、
いつまで経っても1階に降りてこない大樹の様子を見に来た父がいつの間にか背後に立っていた。
「ほぉ。珍しい物を見つけたな。まだあったのか・・」
父は大樹が見とれている妖石をそっと摘み、引き出しから取り出すと自分の手の平に乗せた。
それに合わせて大樹の視線も移動する。
「父さんこれ・・・」
「ん?これか?これは妖石って代物だ。滅多にお目にかかれない代物だぞ?」
父の「滅多にお目にかかれない」と言う言葉が利いたのか、大樹は一層興味津々で石を見つめる。
「妖石?って何の石なの?」
大樹の質問に父はまだ小さい大樹になんて説明すればいいか迷った。
「大樹は神様や妖怪、幽霊を信じているか?」
幼い大樹は父の質問に唖然とした表情を見せた。
父は言い方を間違えたかと苦笑いを見せる。
「いるの?!妖怪や幽霊や神様ってほんとにいるの!?」
大樹は心の中の何かが弾けた様に父に言い寄る。
白けたとばかり思い込んでいた父は、あまりの反応に驚いた程だ。
「まぁ、まてまて。落ち着け」
父に肩を軽く抑えられるが、大樹の興味を持った目が父に向かっていく。
「それじゃ、少しその話をしてやろう。あんまり長く話してると宿題ができなくなるからな。
それでいいな?」
父の言葉に大樹は目を輝かせ深く頷いた。
大樹の父は歴史に基づく物が大好きで、部屋には古びた本が沢山棚に納まっていた。
部屋の片隅には小さなお城も飾ってある。
それだけで部屋に入った者なら、部屋主が歴史か骨董マニアだと想像がつくだろう。
もちろんそれだけに限らず、古びた筒や黒い布で包まれた刀らしい物まで放置されていた。
そんな物々しい部屋の中央にあるテーブルを挟んで、大樹と父は向かい合い座った。
テーブルの上には先程見つけた赤い石が置かれている。
良く見れば赤い石は六角形に綺麗に形付けられていた。
父は大樹の顔を真剣に見つめる。
大樹もさっきとは打って変わり、正座で手を膝の上に乗せ父の話を真剣に聞く体勢を取った。
「良いか大樹、今から話すことは本当にあった話だ。それを信じるかどうかは大樹が決める事だぞ。
分かったな?」
「うん。わかった。」
父の話に大樹は真剣に答える。
「ずっと前の話だが、町外れの一角に神社が建っていたんだ。
その神社はいつ建てられたかわからないが、とても古かった。
神社に毎日と言って良いほど夕方になると現れる青年がいた。
彼は毎日神社でこうお願いしていた。
”テストと剣道で良い成績が取れますように”ってな。」
父の話に大樹は静かに耳を傾ける。
その様子を見て、父も話に力を入れていった。
「青年は全国でも優勝候補クラスの実力者で、やはりそれだけの努力はしていた。
家でも練習、学校でも練習。強さを誇るだけの事はやっていた。そして、何よりも剣道が好きだった。
しかし、剣道の努力をする度に学力は徐々に落ちていった。
ある日を境に、剣道部の顧問である先生が青年に言う様になった。
”学校の勉強もちゃんとやりなさい。君は有名人なんだから成績もしっかりしてもらわなければ困る”と。
青年は先生に注意された日から、勉強を意識するようになった。
だが、剣道の猛練習をした後に机に向かえば眠気も襲う。
青年は勉強を意識する一方、成績は中々伸びなかった。
青年は顧問の先生に毎日の様に言われるようになり、剣道の腕も段々と落ちていった。
それからしばらく経ち、青年は部活に来なくなった。
学校には勉強しに来るが、終わればすぐに下校した。
青年は帰り道にある神社の前の公園で剣道の練習をしていたのだ。
自分で練習メニューを立て、それを毎日きちんとこなす。
それでいて、家に帰ればちゃんと眠気と戦いながらも勉強をした。
青年には前と変わった所があった。それは毎日神社でお参りをして帰る事だった。
そんなある日の事、青年は中学生程の女の子と出会ったんだ」
季節は秋。
青年は、今日も学校帰りに神社前の公園に立ち寄り剣道の練習をしていた。
公園の近くには大きな木が沢山生えており、日中は良いが少し日が傾くと暗くなるのが早い。
その為かはわからないが、公園は広く沢山の遊具があるがあまり子供達が遊んでいる気配がない。
「俺は絶対剣道でも勉強でも負けねえ!教師共に絶対うるさく言われねえ様にしてやる!」
青年は一人ぼやきながら過酷なメニューを繰り返す。
日が暮れ青年は今日のメニューを終わらせた。
「今日はここまでだな」
青年は風が少し強くなる中、汗をタオルで拭き早々と着替えた。
「今日も拝んでおくか」
そう言うと青年は学校の鞄と練習道具を持ち、最近通い始めた神社を見つめた。
「剣道は大好きなんだけどな・・・。勉強がなぁ・・・。
学校じゃ教えてくれる奴もいねえし。教師は教師でうるせーし。
ほんと不幸だぜ・・・」
青年はぼやきながら軽々と階段を上っていく。
階段を上りきると、いつもと違って薄っすらと霧がたち込めていた。
夜で霧が出ている風景は、普段見慣れている風景とは切り離された空間にさえ思えた。
「なんか出そうだな・・・。早く済まして帰るか・・」
青年が賽銭箱の方へ向かっていくと、霧の中から微かに人の影が見えた。
青年は一瞬立ち止まった後、警戒しつつ歩を進めていく。
青年からしてみれば、御賽銭泥棒くらいしか検討が付かなかったからだ。
近づくにつれて霧が薄れ人影が鮮明になっていく。
そして、霧の中から現れたのは着物を着た幼さが残る中学生位の少女だった。
少女は切りそろえられた肩程の髪をゆらゆらと風に靡かせる。
青年はその少女の持つ瞳に気を取られた。あまりにも綺麗な瞳をしていたからだ。
青年は思わず声をかけた。
「何者だ?」
青年の声に気付き少女は振り返った。
「何者だ?、とは初対面なのに失礼じゃないですか?」
少女は少し怒った表情で青年をじっと見つめる。
「す・・すまねぇ。悪気は無いんだ」
青年が謝罪すると、ケロリと顔色を変え笑顔になった。
「いえ、いいんです。お参りですか?」
「ん?ああ。少しな」
青年はそれだけ言うと少女の隣に並んだ。
青年は荷物を置き、いつも通り財布から硬貨を取り出し賽銭箱に放りこむ。
そして、手を合わせ目を瞑った。
その姿を少女はじっと見つめていた。
青年はお参りを終え、荷物を再度持ち上げると少女に目を向けた。
「さっきはすまなかったな。俺はもう行く。時間がないんでな」
それだけ言うと青年は足を階段へ向かわせた。
そんな青年の背中を何か言いたそうに少女は見つめた。
少女の視線に気付いたのかわからないが、青年は足を止め再度振り返った。
「お前も早く・・・」
そう言いかけた時には少女は既に消えていた。
これが青年と少女の始めての出会いだった。
それ以来青年が神社へ行くと、少女は青年を待つように必ずいた。
今日も青年は練習後に神社へ向かう。
青年が神社へ着くと少女は決まって賽銭箱の横に座っていた。
「お、今日も来たね」
「当たり前だろ。こういうのは継続しなきゃ意味ねぇんだからよ」
青年の言葉に、少女は楽しそうに笑顔を作る。
青年と話をすることが楽しみな様に。
「いつもニコニコして気持ち悪い奴だな」
「えー。じゃあいつも怒ってたほうが良い?」
「俺が悪かった。そのままでいい」
「でしょ?」
少女は賽銭箱の前へ歩いていく青年を目で追う。
青年がいつも通り賽銭箱へ硬貨を投げ手を合わせる。
すると、少女が口を開いた。
「その願い叶えてあげる」
青年はゆっくり目を開け、賽銭箱の横で自分をじっと見つめる少女を見た。
「今のはお前か?」
「そうだよ」
青年は少女の返答に対して何か思うところがある様に少女をじっと見つめた
「俺は自分で願いを叶えるからいいよ」
「じゃあ、その手伝いならしてもいい?」
少女は真っ直ぐな瞳で青年を見つめる。
青年は黙り込み真面目に少女を見つめる。
だが、少女は悪戯っ子の様な笑みと共に背後から1枚の紙を取り出した。
紙には数学9点の文字と青年の名前が・・・。
「おまえ!?それどうした!?」
「神社前の公園に落ちてたよ」
青年は少女から奪うようにテストの答案用紙を取った。
「勉強教えるよ。絶対に貴方を一番にさせてあげる。
私は手助けしかしない。後は貴方の努力次第」
少女はさっきとは打って変って真剣な眼差しで述べた。
青年は少女の真剣さに押され、考えた末に了承した。
「わかった。力を借りる。
だが、この借りはきっちり返すからな」
「うん。わかった」
青年の言葉に少女はすっきりした面持ちで応えた。
青年にはこの時わかっていた。この少女が人ではないと言う事を。
それと同時に、この少女にも何かお願いがあって此処にいるという事を。
「それはそうと、高校生の勉強わかるのか?」
「馬鹿にしないでくれる?高校生くらいの勉強簡単だよ」
「ほんとかよ・・・」
青年は少女を疑いつつも、学校の鞄から教材を取り出した。
少女は教材をパラパラと捲り中身を見ていく。
その様子をじっと見つめる青年。
読み終わったのか少女は本を閉じ顔を上げた。
「昔とそんなに中身変わってないかな。大丈夫」
「昔って・・。まぁ、わかったよ。
勉強は教えてもらう。でも今日はちょっと家に帰らないといけないから、明日からでいいよな?」
「うん。全然大丈夫」
青年は鞄の中に教材を戻し、ふと少女を見た。
「そういや、名前聞いてなかったな。俺の名前は―――。
お前の名前聞いてもいいか?」
少女は名前を唐突に聞かれ、何故か表情を曇らせた。
その様子に青年は触れてはいけない事だったと思い謝罪する。
「すまん。誰にでも言いたくない事はあるよな。それじゃ、また明日な」
青年は少女の気持ちを察してか足早に神社を後にした。
少女は青年がまだその場にいるかのように見つめ、呟いた。
「私に名前は・・・」
少女は青年には見せた事がない悲しそうな表情で、
雲の合間から顔を覗かせる月をしばらく見つめていた。
少女と少年は、それ以来夕方以降に神社の敷地内にある小さな木の椅子と机で勉強した。
屋根が付いていない為、晴れた時限定で勉強した。
青年は剣道の練習後、時間が許す限り彼女と勉強に充てた。
その為、少女といる時間が圧倒的に増えていた。
木の机を挟み、少女は真剣に教科書を読む青年を見つめた。
「もうじき、テストの日だね」
「ああ。これだけやれりゃあ。誰にも負ける気がしねえ」
「明日からはもう家で勉強して。天気も悪いから」
「そうなのか?」
「うん」
少女は青年を見つめた後、不安げな表情で袖から何かを取り出し手の平に乗せた。
「これ、お守り」
青年は少女の差し出した手を握った。
しかし、そこに実態がなく空を切り、お守りだけが青年手の平に納まった。
青年の突然の行動に少女は変な声を上げ、すぐに自分の手を引いた。
「そんな慌てるな。わかっていたさ。お前が人間じゃない事くらい」
少女は慌てふためき立ち上がり逃げようとした。
「逃げんな!」
青年の声が神社に大きく響き渡る。同時に少女も足を止め青年の方へ振り返った。
「俺は逃げねえ!何からも、お前からもだ!
また、来て良いか?お前のいるこの神社に」
青年の言葉に、少女は体を震わせ涙しながら強く頷いた。
そして、神社の中へ向かって静かに消えていった。
その日以来少女が言った通り雨が降った為、青年は家で試験日まで勉強した。
少女のくれたお守りを傍に置きながら。
少女との勉強が功を奏してか、試験が終わり青年は見事に全国模試で高順位を叩き出した。
更に、全国剣道大会では個人戦一位を取った。
青年は勉強や部活を学校で行うことになり神社へ寄る事がなくなった。
誰かが青年から記憶を奪ってしまったかのように。
では次回4章でお会いしましょう(*´ω`*)




