第四話 慌しい一日の終わり
この物語はフィクションです。
この物語の舞台はこの世界とよく似た別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
日も暮れて、それぞれの家屋に明かりが灯る時間帯の出来事である。
「主よ、これは美味しいぞ。シィーアもたくさん食べるから主も食べるがよい」
「ああ、ありがと……って、取ってはくれないんだな」
「それならわたしが取ろっか?」
「あ、コラっ。何で私のお皿から取ろうとするのよっ。中央にちゃんとあるでしょ」
謎の少女にオウカ、ミレット、そしてイリアの四人は、フォウント邸にて夕飯時にしては騒々しい光景を繰り広げていた。
オウカを含め、全員が昼時とは違う私服姿で、それぞれの個性が表れている。
もっとも、オウカの服装は変わったといっても昼の服装と系統がまったく変わらないことから、彼は服に関して無頓着のようだ。
そんなオウカはさて置き、女性陣はというと――
ミレットは動きやすさを重視したグリーンのタンクトップの上に大きめの白のシャツと、デニムのショートパンツ。開拓者として臨むときには分からなかったが、この軽装で圧迫されていた胸はその本来の大きさに落ち着いている。
正直のところオウカには目の毒であるが、戦闘時と同じく明鏡止水の心で迎え撃つ。
イリアは性格どおり落ち着いたモカ色のワンピースの上に、ライトブラウンのカーディガン。彼女もギルドで会ったときに気づいてはいたが、今は私服ということもあり、平均よりも豊かな胸を束縛するものは少ない。
これもオウカは明鏡止水の境地で受け流す。
そして謎の少女は足首近くまである烏の濡れ羽色の真っ直ぐな髪に漆黒の瞳、肌は雪のように白くてまるで異国の美しい人形かと思えるほどだ。背丈は一四〇くらいで線の細い体つきをしており、その幼さがより一層少女の人間らしさを薄れさせている。
服装に関しては少しサイズが合っていないのか、その華奢な身体には大きすぎる黒のワンピースを、腕や腰の位置で太目の紐を使って補整している。
彼女に関してオウカは普通に対応できる自信がある。その理由は言わぬが花であろう。
視線をフォウント姉妹に戻すと、ミレットがイリアの皿からオカズを取ろうと攻めており、それをイリアは防衛している。
姉妹というものは遠慮をしないものであるらしく、まずはミレットが火蓋を切った。
「いいじゃんか、お姉ちゃんのケチ」
「ケ、ケチですって?」
薄っすらとイリアのこめかみに青筋が浮かぶのを、オウカは傍観者然として見ていた。
「そうだよ、お姉ちゃんは事務職なんだから栄養管理には気をつけないと、その内……」
「ミレット! 言っていいことと悪いことがあるって知ってる!?
それにこれ作ったの私だから栄養管理もバッチリで、低カロリーなんだから安心なのよっ」
「……やっぱ気にしてんじゃん」
「!!」
姉妹の仲睦まじい(?)やり取りを見ながら、オウカは隣でひたすら食べている少女に声をかけた。
「それにしてもよく食べるよな。お前のその小さい身体にどうやって入っているんだか」
「もぉべぶぁぼぼべもびびぶば」
「あーもう、口の中に入ってるときに喋るなよ」
オウカは手元にあったテーブルナプキンで、少女の口を拭い、周りに飛んだ食べかすを拾う。
少女はゴックンと口の中の物を飲み込むと、
「それは乙女の秘密だ」
胸を張って偉そうに言った。
「乙女の秘密、かぁ……」
「そうだ。だから主よ、詮索してはダメだぞ? もししたら、明日の朝日を拝めないかもしれないぞ?」
「それは大変だな。でもよく噛んで食べるんだぞ?」
「分かった。シィーアにとって造作もないことよ」
「あと、きちんとフォークとナイフ、もしくは箸を使って食べるんだぞ?」
「それは主よ、いくら万能に見えるシィーアでも不可能なものは存在するのだ。察してくれ」
「ダメだ、ちゃんと使え。でなきゃ、飯は抜きだ」
「むぅ……仕方ないのぅ、了承しよう。しかし、今まで使ったこともないから上手く使えぬし、主が教えてくれぬか?」
「ほんとお前アレなんだな。いいか? これはこう使うんだ」
傍から見ると仲のいい兄妹に見えなくもないやり取りに、いつの間にか周囲は静まり返っていた。
無言のプレッシャーを放つ方向をオウカが確認すると、ミレットとイリアが難しい顔をしてこちらを見ていた。
「どうした?」
意を決したのかミレットが口にする。
「いや、今日会ったにしては何か親しすぎない?」
「そうか? ミレットやイリアとも今日が初めてだろ? 接し方は変わらないと思うけどな」
「いえ、そうではなく。何というか、その、距離が近いというか……面倒見が良すぎるといいうか……」
今度はイリアがオウカの言葉に反論を挙げる。
「それは仕方ないだろ。こいつは色々と分からないことが多いんだし」
箸の使い方で四苦八苦している少女の頭を、オウカはポンっと軽く叩く。
それを再びジッと見ていた二人はお互いに頷いて、意見を交換し合う。
「お姉ちゃん、アレをどう思う?」
「考えたくはないけど、可能性はあるわね」
そんな姉妹を気にせず、苦戦している少女にオウカが正しい箸の持ち方を教えていると慎重な様子でミレットは尋ねた。
「あの……オウカって幼女趣味があったりする?」
「……はぁ!? 今何って言ったっ?」
これに対してオウカは冷静を保つことができずに、大声で聞き返してしまう。
「だって、シィーアの手を握っているし」
「これはこいつが箸の使い方とか、人として一般的なことが分かっていないからで、好きでやってるわけじゃないっ」
「そうなのか? シィーアのこと、嫌い、なのか?」
オウカの隣にいる伏兵が、少し涙目でこちらを見上げてくる。
「ちょっと待て! 別に俺はお前のことが嫌いだとは」
「やっぱりそうなんですね!? まさかとは思いましたけど、信じたくはありませんでしたが、ギルドでもシィーアちゃんのことを見て鼻血出してましたし!!」
「あれは不可抗力だ! 突然、目の前にあんな状態の女がいれば誰だってそうなるだろ!?」
「なるほど、主は照れ屋さんなのだな。然らば、耐性を付けるためにももう一度シィーアが」
「だぁああああああああああああああっ! 誰でもいいから、俺の話を聞けぇええええええええええっ!!」
本当に、本当に騒がしい夕食時の光景である。
何故こういったことになっているかというと、時間は三時間前に遡る。
※※※※※※※※※※※※※※※※
「そこの魔物使い動くなッ! 名前と所属を言えッ!」
オウカたちが門に辿り着いたところで、門番の鋭い声が響いた。他にも何人かの門番が武装して、こちらへ武器を向けている。
無理もないだろう。突然森の中を通り貫けて巨大なシンフルベアに似た魔物が現れたのである。彼らの警戒レベルは最高潮に達しているはずだ。
「ミレット・フォウント! ケビン率いるパーティに所属しています!」
ミレットは門番に顔が見えるように、式神から身体を乗り出して答える。その声と名前に聞き覚えのある者たちが動揺する気配を感じる。
「ミ、ミレットなのか? どうしてそんな魔物を『使役』しているんだ?」
「それは後で報告しますから、今はここを通して下さい!
仲間が魔物に襲われて重傷を負ってるので、早くギルドの医療機関に運ばないといけないんです!」
ミレットの話を聞いた門番の数名は警戒しながらも式神に近づいて確認すると、その上に乗った満身創痍のパーティメンバーに息を呑んだ。
「分かった、門を開けよう。待っててくれ」
門番はそう言うとすぐに、門内にいる仲間に門と防壁を開放するように指示した。
「ありがとう」
ミレットは感謝の言葉を言うと、式神を『使役』してその門へと入った。式神は振動の少ない滑るような移動で走る。
「話が分かるやつでよかったな」
式神の顕現を維持するのは相当に疲れるものなのか、オウカは少し疲れた声でミレットに声をかけた。
「ええ、本当に。でも、医療機関に行くまでは安心できないから……。
ごめんね、オウカ」
「何が?」
「これを維持するのって、凄く体力使うんでしょ? 本当だったら、能力者のわたしがその負担を受けるはずなのに……」
落ち込むミレットにオウカは長い溜め息をついた。
「アホかお前は」
「ア、アホですってッ!?」
「ああ、そうだ。適材適所って言葉があるだろ? 今回の俺の役割はこいつを維持すること。そしてミレットの役割は、こいつを『使役』し、安全かつ迅速に彼らを医療機関まで送り届けること。何の問題もないじゃないか」
「……ありがと」
オウカから顔を逸らしたミレットは、小さな声で感謝の言葉を言った。
その表情は顔を逸らしているためオウカには見えなかったが、淡い栗色の髪から覗く耳が赤く染まっていた。
式神が門を抜ける手前で、オウカはミレットに疑問を提示した。
「そういえば、こいつを都市に入れても大丈夫なのか?」
「…………………………………………………………え?」
顔色が赤から青、そして真っ白になったミレットは悲痛な叫びを上げる。
「オウカのバカっ! 何でもっと早く言ってくれないのよー!!」
ミレットの感情を他所に式神は門を通り抜ける。次に来るのは人々の悲鳴だろうと、ミレットは目を瞑って待ち構えていた。
「ホントこの都市のレベルは高いんだな」
予想とは別にオウカの感心する声で、ミレットは恐る恐る目を開ける。
「……あ、そうか。防壁を開けるからには、都市のほうにも警戒用の知らせが入るに決まってるじゃない」
走る式神の周りには人っ子一人存在せず、まるでこの都市に誰も住んでいないような感覚になる。
通常、門のメイン通路を封鎖する防壁を開放する機会はない。あるとすれば、この世界では数台しかないといわれるロストテクノロジーを使用した武装型輸送車の出入りか、封印区域で何かが起こったときぐらいである。そのときの緊急マニュアルは存在し、この都市に住むものにとって絶対に守らなければならないルールの一つとして認知されている。
余談だが、もちろん都市の移動には乗り物を使うこともある。基本は馬車か、能力者によって『使役』された魔物の大型輸送車くらいしかない。武装型輸送車に関しても、製造や維持費に膨大な費用がかかるため、大都市と呼べる場所でしか所有されていないのが事実だ。もっとも、商業都市ブルドオムスでも所有はされているが、ここ数十年稼動されたことがないことから無用の長物として倉庫に眠っている。
移動する景色と無人の商店街をオウカが物珍しそうに見ているのを見て、ミレットはくすっと笑った。
「もう、オウカが変なこと言うから焦ったじゃない」
「すまん。だけど、ここまで徹底的に街から人がいなくなるなんて凄いな」
「まぁ、月に一度は避難訓練もやっているから、これくらいはできないとね。
できない人から真っ先に死ぬ可能性が高くなるわけだし」
そういうものか、とオウカは自分の住んでいた場所と比べる。確かにこれまでオウカのいた場所でも、避難訓練などの組織的な行動を行ったことはある。しかし、ここまで皆が真剣に取り組んでいたかというと、答えは否となる。それだけ、この都市の人々には封印区域という危険と隣り合わせでも住むなりの理由と、生存意識を高く持っているということだろう。
「何はともあれ、これだけ道がひらけていることは幸運よ。急いでギルドに向かいましょ」
「そうだな。もし揺れても俺が彼らを支えるから、よろしく頼む」
決して遅くはない速度で走っていた式神はミレットの『使役』を重ねて受け、大地を駆ける黒い風となるが、その術者の気持ちを慮ったのか揺れることはなかった。
目的地であるギルドには式神のお陰もあり、それから五分ほどで着いた。
ギルドの前では十一人の白衣を着た者と、護衛のためか開拓者らしき重装備を固めた五人のパーティがいた。皆がオウカたちを待っていたようで、シンフルベアに似た式神を見たときにはさすがに驚いていたが、彼らもプロである。
「門番から既に患者の人数について連絡はもらっている。後は我々に任せてくれ」
白衣を着た一人の男はそう言うと、周りの医師たちに的確な指示を出しながら、重傷者であるミレットの仲間たちをストレッチャーに乗せてギルド内へ運ぶ。
それについて行こうとしたミレットだったが、上背のある屈強な開拓者に呼び止められた。髪は短く刈り上げており、歴戦の者特有の雰囲気を滲ませていた。
「フォウント、すまないが何が起こったのか事情を聞かせてもおう」
「でも、今はッ」
ミレットは離れていく仲間たちの方を気にしながら拒絶しようとするが、男は厳しい顔で首を左右に振る。
「それも理解している。だから後日、君の仲間が話せるようになってから一緒に事情を聞かせてもらおう。
そこのお前もそれでいいか?」
ミレットたちとは少し離れた位置で立っていたオウカに男は声をかける。
「へぇ、何故俺も?」
「お前も当事者の一人だからだ」
男の答えは簡潔で、オウカはその回りくどさない言い方が気に入った。
「分かった。俺はオウカ・ライゼス。ギルドを通してもらえば連絡が取れると思う」
「協力に感謝する。私はゴルディエス・ハーグラン。この都市の警備隊隊長を務めている」
用事は済ませたとばかりにハーグランはオウカたちに背を向け、ギルドの中へ入っていった。それに続く四人の開拓者たちも只者でない風格を漂わせていた。
「隊長、ミレットへの尋問を先延ばしにしてよろしかったのですか?」
ハーグランたちがギルド内部の職員用通路を歩いていると、五人の中で一番若い女性隊員がハーグランに先程のことを確認した。
「ガーネット、君は気付かなかったのか?」
「一体何をでしょうか?」
ガーネットは、ハーグランの含む言い方に更に疑問を重ねる。
「まぁーだまだだな! ガーネットの嬢ちゃん!」
「ササトさん、私を嬢ちゃんと呼ばないで下さい。
それで何がまだまだなんですか?」
ササトと呼ばれた黒色の肌をした三十代の男性隊員は、白い歯をにかっと見せて答えた。
「ホント、クールな女だねぇ。ま、後輩に教えるのも先人の務めってな。
まぁ、簡単にいうとライゼスって名乗ったガキな。俺らの隊長に殺気を飛ばしてたんだよ」
「なッ!?」
知らなかったとはいえ、あまりにも不穏な内容にガーネットは驚愕した。
「あの男ッ! 今すぐにでもッ」
「おぉいおいおい、落ち着けって。話の続きがあるんだからよぅ」
激情に任せガーネットがオウカの元へ走り出そうとするのを、ササトは独特の口調で止める。
ガーネットはハーグランの方を見るが、彼はいつもと変わらず厳しい顔をしていた。
「でぇ、そのガキが殺気を放ったことに関して気付いていないのは、あの中でいうとお前ぇさんとミレットの嬢ちゃんぐらいだな」
眉間に皺を寄せる彼女を流して、ササトは続ける。
「その後は俺らも警戒してたんだが、あのガキって結構面白いのな。
隊長の話を聞いてからパっと殺気を消して普通に話してたし、ありゃ中々出来るな」
周りの隊員の評価も大体同じようで、オウカ・ライゼスという個人に興味を持ったようだ。
「しかし、隊長はそれでいいのですか?」
「こちらにとって不利益なことは何もない。それに門の方にも何かあったらすぐに連絡しろと伝えてある」
「……了解しました」
不承不承であることは間違いないが、ガーネットはハーグランの意見に従った。
「あと、非常事態の解除を頼む」
「了解しました」
離れていくガーネットを見ながら、彼は先程のことを思い出す。
(オウカ・ライゼス、面白い男だ)
ハーグランは近いうちに会うであろう日を思い、静かに微笑むのだった。
あの後、仲間の容態を見に行くミレットと別れることになったオウカは式神の顕現を解除し、残った木の円柱をギルドの出入り口の脇に立てかけると中に入った。
ギルド内部は先の非常事態という知らせで少し前まで騒然としていたのか、主に開拓者たちが武装したまま、今回の警報について話合っている。
彼らの話の大半は憶測に過ぎないが、負傷した開拓者たちがストレッチャーで運ばれるのを見た後である。笑い話では済まないことが起きたのだと理解し、それに向けた今後について検討をしているようだった。
オウカはその中を悠々と歩き、目的の人物を見つけた。
「何だか忙しそうだな」
書類を抱えて、何やら職員と慌しく連絡を取り合っていたイリアは声に反応して振り返るとオウカに駆け寄った。
「オウカ! 無事だったんですね!」
「俺は問題ないがどうした?」
「今はもう落ち着いてきてますけど、門から警報が鳴ったときはここも騒然としていたんですよ。
聞いた話によるとミレットが負傷者を運ぶため大型の魔物を『使役』していたとか、そのためにメイン通路の防壁を開放することになったとか色々情報が錯綜していて……って、オウカはミレットと一緒にいたんですよね?」
こちらから聞くまでもなく、イリアはオウカに矢継ぎ早に説明した。よほどミレットのことが心配だったに違いない。
「さっきミレットと分かれたが、それまでは一緒にいたな」
「ということは、あれは間違いだったのかし、ら……」
何かに気付いたようにオウカを凝視するイリアに、彼は訝しげに確認する。
「どうした?」
「どうしたって、オウカあなた怪我しているじゃないですか!」
そう言われて服を見ると確かに血が付いている。着ている服が黒色だったため分かりにくかったが、結構な量が付着している。
「ああ、これは俺のじゃなくて、ミレットと一緒に負傷者を運ぶ際に付いた血だ」
「そうだったんですか……。でも、そうするとオウカは現場にいたんですね?」
「だから、こんな格好になってるんだが」
真剣な表情でイリアはオウカを見つめる。
「私がいうのもなんですが、ミレットの所属しているパーティは実力者が多く揃ったところです。その彼らや同等のパーティがここまで負傷するケースは、ここ最近じゃ見られなかったことです。
確認しますが、あなたとミレットはどうやってここまで来たんですか?」
話をはぐらかすこともできたが、イリアとは良好な関係を保っておきたいオウカとしてはできるだけ正直に話すことにした。
「俺の顕現させた式神をミレットに『使役』させてここまで移動した」
「では、その式神とは?」
「書類でも書いたように一年ほどある道場で教えを受けていた。そこで習得した技術で、魔物などに近い行使できる擬似生命体だ。今はその顕現を解いている」
「分かりました。次の質問です。
あなたとミレットが負傷した彼らと会ったのは、戦闘前ですか? それとも後ですか?」
「正しくは戦闘中だ。危機的な状況だったから、俺が魔物を倒した」
「……証拠はありますか?」
オウカはズボンのポケットを探って、目的の物を取り出した。
「結晶が三個、つまりは魔物を三体倒したということですか?」
「まぁな。それに開拓者になるための条件もそうだったはずだ」
できるだけ正直に話すと決めてはいたが、馬鹿正直に話すつもりもなかった。イリアが勘違いしてくれるのならそれでいいし、多分妹のミレットから詳しい話を聞くのだからここで敢て訂正する必要もない。
そんなオウカの内情を知ってか知らないでか、イリアは今まで固い表情だったのを呆れたものに変えた。
「あなたを初めて見たときに、この人は何かやりそうだと思っていたけど、まさかここまでとは……。
しかも、きちんと課題をクリアしてくるあたり、なんてゆうのか本当に非常識な人よね」
「そこまで言われると、何だか俺が本当に非常識みたいじゃないか」
「みたいじゃなくて、そうなんです。
ところでこの結晶ですけど、魔物の種類などを特定するのに少し時間がかかるので、ギルドへの登録と報酬はその後にしましょう」
「つまり?」
「合格ということです。また報酬は魔物の種類で金額も変わるし、特定の依頼というわけでもないからあまり期待しないで下さいね」
(なるほど、魔物の強さや依頼などによって報酬額は変わるか)
ギルドの料金システムについて少し学んだオウカはそこで、突然表れた強靭な気配に気付く。魔物とも清浄とも言えない気が交じり合ったような不思議な気配に身体が戦闘状態へと移る。
気配の出所はギルドの出入り口のようで、近くにいる開拓者たちがそちらを見て動揺している。オウカは背中越しなのでその姿は確認できないが、イリアの愕然とした顔から相当の相手だと分かる。
ダッ――
相手がこちらを捉え、走ってくるのを感じる。距離が間合いに入った瞬間、オウカは隙なく振り返った。
そして、その飛び掛ってくる相手がどう行動するのか見極めようとした。いや、してしまった。
ガバっとオウカの頭部は飛来してきた者に包み込まれる。
いつものオウカなら避けることも迎撃することも容易かっただろう。しかし、結果として彼は何の行動も取ることができずに終わった。
「な、なっ……」
後ろではイリアの声が聞こえる。
それでもオウカは動けなかった。
(今、自分は何を見た――)
一瞬の内に見た光景を一つ一つ丁寧に思い出す。
並みでない気配をした者がギルドに入室。そして、周りが騒ぐ中、そいつはこちらを対象と定め、疾走。振り返った先にあった光景は――鴉の濡れ羽色の真っ直ぐな長髪と光を飲み込むような漆黒の瞳が印象的で、雪のように白い肌をした華奢な身体をした裸体の少女だった。
「はぁっ!? はぁあああああああああああああああああああああああっ!?」
もう意味が分からない。何故? どうして? 幾つもの疑問がオウカの頭に浮かぶ。
きっと顔面は真っ赤になっていることだろうが、その原因がこうも近くにいては落ち着く術もない。
そして鼻から流れ出る熱いものを感じ、混乱した頭で最悪だと思った。
「お、この味は……やっぱり貴様が主だったか!」
少女は自分の姿をまったく気にせずに、身体を少し離してオウカの鼻血を舐めると意味深なことを言った。
この言葉が理解不能な状況に陥っていたオウカを救う、一つの閃きとなる。
「主って、お前もしかして……」
「何やってるんですかッ!!」
周囲の騒然とした状態も忘れて話し合うオウカと少女の二人に、ついにイリアの感情は爆発した。
無理もない。傍から見ると、白昼堂々とこのような行為に及ぶ彼らは新手の変質者と同義である。
「ちょっと待て! イリア俺はっ」
「黙りなさい! そして、離れなさい! そこの子も早く服を着なさい!」
「……なんじゃ、服とは?」
「ええええええええええええええええええええええぇ!?」
少女から発せられる爆弾発言に誰もが驚きの声を抑えることができなかった。まさかこの現代社会で服を知らないとは、今までどんな環境で暮らしてきたのであろう。
イリアは貧血に近いふらつきを感じながら、まずはこの場を治めることにしたらしい。
「だ、男性の方々は目を瞑って下さい! 見てはいけません!!」
遅過ぎる注意に急いで目を閉じる男性たち。中にはまだ茫然としている者もいたが、彼らは近くにいた女性職員や開拓者たちに強制的に意識を奪われていった。
「オウカ、あなたも目を閉じなさい」
イリアの声に魔物以上の殺気を感じたオウカは無言で何度も頷く。彼の頭部にしがみついていた少女は「お、おおぉ?」と言いながらも、驚異のバランス能力で離されないようにしている。
「あなたは離れる気はないのかしら?」
「離れる必要を感じんしのぅ」
オウカに会ってから何回目だろう。数える気も失せた溜め息をついてイリアはオウカの手を引いた。
結果、少女はオウカから離れることはなかった。
オウカと少女の二人を別室に移動させ応接用ソファーに座らせると、イリアは息をついた。
何だか、この数分で一気に老け込んだ気がする。
(まだ私、二十二なのにこんなに疲れるだなんて転職した方がいいのかしら……)
自問自答しながらもイリアの動きは的確で、この部屋に常備されている薄手の毛布を取り出すと少女に渡した。
「いつまでもその格好じゃ風邪ひくわよ。あと、ソレははしたないから場所を変えなさい」
「すまぬ」
イリアのどこか諦めた声にオウカは「諦めんなよ!」と言おうとしたが、毛布を受け取った少女が頭の上でもぞもぞやっているので何も言えずに終わった。
定位置が決まったのか、少女は毛布を身体に巻きつけてオウカの頭上で体育座りをしている。少女の平衡感覚も凄いが、細い体つきとはいえ少女一人を頭の上に乗せたまま微動もしないオウカの身体能力も並の人間ではありえないものだ。
「もう目を開けていいわよ」
「助かる」
目を開いたオウカは目の前に座るイリアを見て少し怯んだ。彼女の目は据わっていて、どこか達観した者の雰囲気を醸し出していた。
「どうしてこういうことになっているか教えてもらえるかしら?」
「あ、ああ、分かった」
この場の主導権は完全にイリアの掌握するものとなっている。逆らうような馬鹿な真似はしないでおこうと決心し、説明しようとした時、カチャっと扉の開く音がした。
「あの~、お姉ちゃんとオウカがここにいるって聞いたんだけど……」
オウカが扉の方を向くと、ミレットが室内を窺うように顔を出していた。
(また、一騒動あるな。……それにしても、腹へったな)
現実逃避を始めるオウカの予想したとおり、ギルド内に響くほどの悲鳴が聞こえた。
三十分後、イリアが騒ぐミレットを落ち着かせると同時に、オウカはこの少女について自分の予測を話した。
しばらく室内を沈黙が満たしていたが、ミレットがおずおずと確認する。
「つまり、この子はわたしたちが乗っていた式神だと?」
「俺はそう考えている。違ったら反対の頬も叩いてくれて構わない」
「ううぅ、ごめんなさい」
オウカの左頬には真っ赤な手形がくっきりと浮かび上がっている。もちろん、実行したのはミレットだ。彼女は悲鳴を上げるや否や、真っ直ぐにオウカの元へ向かい、利き手である右手をフルスイングした。彼としては避けるのも簡単だったが、このような事態を招いてしまった自分への罰の意味を込めて敢てその張り手を受けた。
その後、オウカの話を聞くうちにミレットの態度は恐縮したものへと変わっていったことは言うまでもない。
「それでオウカ、確証はあるの?」
「あるにはあるが、ここは本人に聞いた方が早いだろ」
今度はイリアの疑問を頭上にいる少女へと振る。
少女はそれまで口を閉ざしていたが、オウカの催促に鷹揚と答えた。
「そうじゃな、主の考えは概ね間違ってはおらんよ。ただ一つ訂正させてもうらうとすれば、我は式神だったが今はそうではない」
「というと、やはりその気配から感じたとおり」
「うむ、依り代となった二つの物質と主の生命力から新たに転生したわけじゃの」
「なるほどな。しかし、俺は今までそんな話聞いたことがないぞ」
「無論、我もじゃ」
残りの二人を置いて、お互いの推論を語りだすオウカと少女にミレットは慌てて声を上げた。
「ちょっと! 全然話が読めないんだけど、それに依り代ってあの木のことでしょ?」
「仕方のない娘じゃのぅ。お主もあの場におったであろうが」
「そ、それはそうだけど! お姉ちゃんはあそこにいなかったんだし、初めから説明してよ!」
どうやらミレットは姉のイリアを盾に、詳しい説明を聞く作戦を立てたようである。妹を見るイリアの視線が突き刺さるのが分かるのか、冷や汗を浮かべている。
「ごめんなさいね。実際私はその場にいなかったから教えてもらっていいかしら?」
「主よ、よいか?」
「俺は構わない」
オウカが了承すると少女は話し出した。案外、面倒見がいいのかもしれない。
「娘よ、お主らはあの場で何と戦っていた?」
「何って、シンフルベアよ」
ミレットから出た強大な魔物の名前にイリアは大声を出しそうになった。それでも抑えたのは、自分以外が周知していることだと認識したからだった。
「ほぅ、我らはそのような名でお主らに呼ばれておるのか。
まぁいい。簡潔に言おう、我はあの獣たちの女王じゃ」
「「えっ!?」」
オウカと少女を除く二人が今度こそ声を上げる。それほどまでに信じられないことを少女は言ったのだ。
「まぁ聞け。お主らは我らを倒すとイシを手に入れるであろう」
「イ、イシって、結晶のこと?」
「それじゃ。ここで話が戻るが、あの場で我を倒した主は我の力の宿木となる霊木を用意し、そこにイシを、我の意思を入れ、顕現させるため自分の生命力を分け与えた。
そのときにはまだ現在のような自我はなかったが、茫洋とした意識の中でお主の声も聞いておる。娘よ、仲間を思う気持ちは良いことじゃ」
ミレットは目前にいる少女が、本当にあのときの式神なのだと実感する。
「でも、どうして今の姿になったの?」
「その疑問は当然よな。だが、それに関しては我にも主にも分からぬ。
現に我も顕現を解かれた際、再び永い眠りにつくのだと思ったがそうもならなんだ。違和感を感じて目を開けるとこの姿になっておったというわけよ。
まぁ、近くに主の気配を感じたから行ってみたら、このようなことになっておるしの。
ちなみに今の我は式神でも魔物でもなく、言うなれば魔人かの」
意味深な言葉がよほど気に入ったのか、満足げに少女は話を終えた。
フォウント姉妹は話の内容の重大さに気付いてどうしようか迷っていたが、少女の様子と今の言動から最悪の事態にはならないと判断し、この場で聞いたことを秘密にすると誓うのだった。
もっともこんな話、誰が聞いてもこちらの正気を疑うに違いない。
「ちなみにお前の名前は何っていうんだ?」
マイペースさを取り戻したのか、オウカは少女に聞いた。
「我らに名などないよ。強いてあげるなら、先程娘が言っておったシンフルベアかのぅ」
「そうか、なら俺が名付けてもいいか?」
「いいのか主よ?」
「ずっとお前とか言うよりはいいだろ。
……決めた。お前の名はシィーアだ」
「ほう、いい響きじゃな!」
シィーアと名付けられた少女は嬉しそうに微笑みながら、自分の名前を大切に心に刻む。
思わずもらい泣きをしてしまうミレットと、微笑ましそうに見つめるイリア。
「ところで、ミレットは何か用があったんじゃないのか?」
「え? ……あ、そうだ! オウカに報告があったんだよ!」
他人に涙を見られるのが恥ずかしいのか、ミレットはいつも以上に声を明るくして言った。
「さっき、仲間たちの治療が終わってね。医者が言うには、命に別状はないんだって!」
「それは本当に良かったな」
オウカが素直に答えると、ミレットは花が咲いたように微笑んで頷いた。
「それで、一瞬だけ意識が戻ったリーダーから伝言を頼まれたんだけど……」
恥ずかしそうに俯く彼女に、オウカは疑問を浮かべる。
「どうしたの? 黙ってては何も分からないわよ」
姉の後押しでミレットは踏ん切りがついたように一気に言った。
「自分たちの療養中はオウカに面倒を見てもらえって! それから、彼の戦い方は今後のわたしのためにもなるから、必ず一緒に行動するようにって!
不束者ですが宜しくお願い致します!」
何だか別の意味で申し込まれた感じのする内容だったが、自分のペースを取り戻していたオウカは、
「別にいいんじゃないか」
「ホントに!? やったー!!」
喜ぶミレットを見ながら、一時的な弟子みたいなものだろと軽い気持ちで納得した。
それはそれでなんだか面白くないと思う人物が二人ほどいたことに、オウカ自身まったく気付いていなかった。
「主よ、我々はそろそろ行くとしよう。夜が近づいておるし、シィーアは腹が空いたのだ」
オウカの頭からシィーアは降りると、彼の手を引っ張るように扉へと向かおうとする。シィーアの背中からオウカを何かから早く引き離したいといった意志を感じるが、腹がへったのはオウカも同じことだったので抵抗することなくソファーから立ち上がった。
「それもそうだな。またな、イリアにミレット」
突然の展開に目を白黒させる姉妹。
「え、オウカはどこか泊まる宿のあてはあるの?」
「特にないが、何とかなるだろ」
「確認なんですが、その子と二人でですか?」
「まぁ、こうしてここにいるのも俺のせいでもあるわけだし」
「ちょっと待ちなさい! あなたはその子をその格好のまま行かせるつもりですか!?」
部屋から出て行こうとするオウカたちにイリアの鋭い指摘が入る。
シィーアの現在の服装は、薄手の毛布一枚。かなり防御力の低い装備である。これにはオウカも固まった。
「なんじゃ、このふわふわしたのを返せというのか? 肌触りがよくて気に入っておったが、それならば仕方がないのぅ」
上半身から足元まですっぽり包んだ毛布を外そうとするシィーアだったが、それは雷速で動いたオウカに阻まれる。
「シィーア、一つ人間の常識というものを教えてやる」
「なんじゃ?」
「俺らが着ている服というのはその身体を包むための物だが、実はもう一つの意味を持っている」
「それは、なんじゃ?」
オウカの静かに染み込む声に、シィーアは真剣な表情で先を促す。
「それは、その人の権威だ」
フォウント姉妹はオウカが何を言っているか分からなかったが、常識を知らない彼女は驚愕の事実を知ったように自分の身体を見た。
「そ、それではもしやシィーアは……」
「ああ、もし人前で服を着ていなければ、そいつは女王でもなんでもない。ただの人だ」
シィーアはオウカの言葉を真に受けてしまったようで、愕然としながら自分を包む毛布をぎゅっと握り締める。
姉妹はオウカを半眼で眺めながらも、正しくはないが間違ってもいない答えに腹黒だという認識を強めた。
「すまんが、娘よ。これは返せなくなってしまった……」
本当に申し訳なさそうに謝る彼女を見て、イリアは慌ててフォローした。
「い、いいのよ、気にしないでっ。それよりも行く当てがないのなら、その私たちの、家に」
「今からわたしたちの家に来ない? 泊める部屋も二人分なら余っているし」
次第に尻すぼみになっていく姉の言葉に被せる形でミレットは言った。
(男らしいわ! ミレット!)
(男じゃないけど、褒め言葉として受け取っておくっ)
姉妹だけに通じるアイコンタクトでやり取りしているのを見て、オウカは少し勘違いしたようだった。
「あー、迷惑だろ? 俺らのことは気にしないでい」
「「迷惑だなんて思ってません!」」
さすが姉妹と言うべきか息もぴったりの反論で、オウカに全てを言い終わらせない迫力があった。
「……それじゃ、世話になるかな。宜しく頼むよ」
「主よ、それは」
「シィーアちゃんも美味しい料理があるけど食べるわよね?」
「……」
「お姉ちゃんの作る料理、ホントに美味しいんだよ」
「……し、仕方ないのぅ。人間が作る料理というものを食べてみようかのぅ」
最大の難関であるシィーアを、料理という名の攻撃で攻め落とした二人は急いで準備をすることにした。
その後の展開は慌しかった。
まずはシィーアの着替えを用意するとのことで、ミレットは自分のお古を候補に挙げ、徒歩十分の距離にフォウント邸が建っているとの説明すると止める間もなく部屋を飛び出した。
ミレットは開拓者のギフトを最大に使ったのか往復を五分で戻ってくると、その手にはシィーアの髪と瞳に合わせたのか黒色のワンピースとオウカが今着ている服と似た男性用の服。
彼女は「お父さんのだから、勘違いしないでよね!」と念を押すように言ってきた。オウカが空気を読んで自主的に退室し、着替える場所を探している間、シィーアがこちらに助けを呼ぶ声が聞こえた気がしたが、気のせいだ。
もう入っていいよ、というミレットの声を受け、オウカが入室するとそこには少し大きめのワンピースを見事に着こなしたシィーアが立っていた。生地が余ったりし易い場所は太目の紐を使って補正代わりにしているようだ。
「へ、変か?」
「いいんじゃないか?」
質問に質問で返す朴念仁。ミレットがその不届き者の頭を叩いたのは無理もないことだった。
イリアはというと、その間に退勤を済ませるとすぐに自宅へ戻り、料理の準備をしていた。実のところ、家には現在、イリアとミレットの二人しかいない。別に両親と死別したわけではなく、お互いに仕事の関係で家を留守にしているのである。久しぶりに多めに作ることもあって気合いを入れると、イリアは顔を赤くして微笑んだ。
「何だか、これって、……さんみたい……」
包丁が刻むリズムで少し聞こえずらいところがあったが、彼女は幸せそうに料理を作っていた。
オウカたちがミレットの案内でフォウント邸に着くと、彼はまずその家、いや屋敷の広さに驚いた。ミレットに聞いてみると両親が仕事で成功しているお陰らしい。この都市には驚かされてばかりだと思いながらオウカが屋敷の中に入ると、いい匂いが漂っていた。
シィーアは我慢できないとばかりに匂いの元へ駆け出し、オウカとミレットは苦笑しながらそれを追いかける。
キッチンに入ると私服姿に着替えたイリアが料理をしており、その後ろでシィーアはそわそわしている。
イリアはオウカたちに気付いたようで「あ、お帰りなさい。もう少しで料理が出来上がるからもう少し待っててね」と優しく歓迎してくれた。
モカ色のワンピースの上に、ライトブラウンのカーディガンと落ち着いた服装になっており、その仕種と合わせてどこかしら若奥様を感じさせる。
「お姉ちゃんのあの姿を見てどう思った?」
「いいんじゃないか?」
再度、同じことを言った朴念仁に容赦なくミレットは頭を叩く。そして、それに追随する一撃を放ったのはシィーアであった。女同士何か固い結束が生まれたのか、二人は健闘を称えるように拳をこつんと重ねたのであった。
その後、夕食時にミレットも私服に着替えてきたのだが、何が起きたかは言わずもがなだろう。
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そして現在に至る――
今、オウカは自分用に当てられた個室のベッドで横になっていた。部屋の明かりは消しており、窓から入る月の光が部屋を照らしていた。
就寝前にシィーアが「主と一緒に寝る」という爆弾発言をしたのにはさすがに驚いたが、そこはフォウント姉妹の頑張りで未遂に終わった。
(今日はホントに色々あったな……)
しんみりと彼が思いに耽るのも無理はない。彼だけではなく、彼を取り巻く人々も同じように考えていた。
今日は驚きの連続だったが、明日は何があるのだろう――
彼らは思い思いに就寝するが、オウカは何かを忘れている気がして眠れないでいた。
(…………………………………………思い出した)
何だかんだで結局は自分も疲れていたのかもしれない。
オウカは頭をかいて呟いた。
「開拓者の登録、まだだった……。
明日にでもイリアに登録してもらうか」
思い出したことで気掛かりがなくなったのか、数秒で彼は深い眠りについた。
こうして、オウカの慌しい一日が幕を閉じたのである。
今回もお読みいただき誠にありがとうございます。
大体一週間に一回の投稿となっております。
今回は少し話が長いので少し文章などに雑なところがあるかもしれません。
それもこれも私の文章力のなさが原因です。
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