プロローグ
この物語はフィクションです。
この物語の舞台はこの世界とよく似た別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
いつも通りの代わり映えのない日常。
ほとんどの人々はそう思っていただろう。
その日、一つの巨大な隕石とそれに連なる大小様々な複数の隕石が世界に衝突した。
衝突による影響は大きく、止むことのない地殻震動に津波、その後に訪れた大気汚染と氷河期の再来は生きとし生けるもの全ての脅威となった。
人類と動植物の生態系は乱れ、総人口の半分が一ヶ月で死に絶えた。
生き残った人類もただ死を待つだけ。それは救い難いほどに逃れることのできない事実だった。
しかし、何の因果か。墜落した隕石のいくつかには自浄作用があったらしく、空を閉ざしていた粉塵と有害物質をその身に取り込み、浄化していった。
大気汚染の軽減により半月ほどで氷河期も終わったが、人々にとって決して生活できる環境とまではいかなかった。
劣悪の環境の中で生きていかなければならないのである。衣食住はもとより、生き残った人類が猜疑心に溺れるのも無理のないことだった。
ただでさえ少なくなった人口が日々争いによって、また飢えによって減少していく。
中にはコミュニティを形成し、その中だけで生活する術を模索する者もいたが、人の不満というのは際限なく、そのほとんどは内部の抗争で瓦解していった。
そんな中、一つの出来事によって人類は再度協力し、生き残らねばならない境地に立たされる。
それは環境の変化からか、今までに見たことのない異種の生物が時折出現し、その生物の本能なのか人を襲い喰らう。
自衛のため、人々は集団での行動を取るようになった。一対一では殺される確率が高かろうが、集団戦、それも罠などの安全策を幾重にも張った状態での戦いでは下手を打たない限り死ぬことは少ない。
戦い。改善。戦い。改善。と繰り返すうちに数年が経った頃、またしても変化が訪れた。
苦境の中で新しく生まれた子供たちの中に常識では考えられない力が授けられてた者が確認されたのである。
のちにギフトと呼ばれる能力とそれを使役する能力者。彼らの能力は物理的なものからオカルト的なものまで様々で、これまでの戦いをより安定化してくれるものであったが、一つの大きな問題もあった。
能力の暴走。心身への負担がある一定レベルまでくると能力はその方向性を失い、周囲に脅威をもたらす。謂わば、ギフトとは諸刃の剣であり、いつ自分たちにその刃が向くか分からない状況では結果として仕方なかったのかもしれない。
次第に能力者たちは管理されていくようになる。
人が人を管理する。通常の社会的構成であればごく普通のことだが、この管理とは通常の意味合いとは大きく異なった。
彼らを一種の道具として管理することにしたのである。当初の能力持ちの人口は非常に少なく、それぞれのコミュニティにより管理されることで解決策を導き出した。
どれだけ非人道的であろうとギフトの効率的な運用により、人類という一つの種の生存率が飛躍的に向上したのが事実だ。
人々はゆっくりとだが仮初の平和を受け入れつつあった。
それから――千年の時が過ぎた。