二人分の骨のお話
あるところに恐ろしい鬼が居た。
たちの悪い鬼だ。
なにせ、普段は醜悪な姿を隠すため美しい女人の姿をしているのだから。
鬼であったが故に悪さをしたのだろう。
故に戦士が訪れた。
首を刎ねろと命じられたのだ。
「あぁ、待っておくれ」
首を刎ねられる寸前に鬼は戦士へ束の間の猶予を求めた。
「どうせ死ぬならば美しい姿で死にたい」
勝敗は既に決し、より強い姿になるならばともかく弱い姿になるならばと願いを聞き入れると鬼は感謝して美しい女人に姿を変えて刃を待つ。
しかし、刃はいつまで経ってもやってこない。
目を開けてそちらを見ると戦士は一目惚れをしたとのたまい、あまつさえ婚姻さえ願い出た。
しめたとばかりに鬼はそれを受け入れる。
とりあえずは生きることが出来る。
いや、もしかしたら寝首をかくことが出来るかもしれない。
さて。
鬼は戦士と共に生きたが寝首をかくことはなかった。
単純な話だ。
夫が人間以外の肉を持ってきてくれるから、わざわざ人間を狙って喰う必要もなくなったのだ。
「鬼の姿を忘れたか? まさか、まさか。お前さんが守ってくれるのだ。戻る必要もなかろう」
鬼はそう言って夫の前で笑う。
「醜い姿より美しい姿で居たいのは鬼も人も変わらぬ」
鬼は花を愛した。
景色を愛した。
時を愛した。
そんな鬼を夫は愛した。
愛し続けた。
「愛されたならば女は美しくなるのだな」
鬼の言葉の通り、鬼はいくつになっても美しいままだ。
対して夫は老けていく。
人と鬼の寿命は違う。
ただ、それだけだ。
「お前さん。どこで死にたい?」
妻の腕の中。
「馬鹿か。それは当然だ。どのような景色を見て死にたいかと聞いておるのだ」
妻の顔が一番見える場所。
「馬鹿か。ならばどこでも良いではないか」
そう。
どこでも良かったのだ。
故に鬼は自分の一番好きな場所で夫を見送った。
この場所ならば自分が最も美しく居られると良く知っていたから。
「この丘の上ならば。花は見下ろせるし、景色も見える、それに四季の移り変わりもよく見える」
そんな場所が最も好きだ。
好きだから、きっと自分は美しくなる。
そう鬼は確信していた。
皺ばかりの夫を腕に抱き鬼は過去を詠う。
骨と皮ばかりの夫を抱きしめながら鬼は目を閉じる。
骨となり、隙間の出ないよう必死に抱き留めながら鬼は泣く。
「あぁ、さて。どうしたものか」
どうすればこれから先も美しくいられるのか。
などと、考えてもいないことを考えて――。
「夫を想い、呆ける妻などどうだろう」
聞こえぬはずの骨に言い。
鬼はいつまでも、景色を見つめることにした。
いつまでも。
*
これは。
二人分の骨のお話。




