メモ帳
掲載日:2026/07/12
スマホのメモ帳の一番下に、見覚えのないファイルが増えていた
「ひさしぶり」とだけ題名がついている
開いてみると一言目で手が止まった
「先に死んじゃってごめん。たぶん、これを読む頃には三年くらい経っていると思う」
亡くなった人の名前はどこにも書いてないけれど、言い回しや句読点の打ち方で、誰からなのかはすぐにわかった
「もしまた泣いてたら、少し休憩して」
「ちゃんとご飯を食べてるかな?」
「心配性なあなただけど、あなたが思っているより大丈夫」
スクロールすると日付が遡っていく
入院した日、検査結果を聞いた日、最初に弱音をはいた夜
生きていた頃のあの人が未来の私に向けて「その日」の気持ちを少しずつ残していた
最後の行だけ日付けが空欄になっていた
「ここから先のことは分からないけれど、あなたが誰かに優しく出来ているのならそれで十分です」
その一文の後ろには余白だけ
続きは書かれていない
気付けば、指が勝手に動いていた
「今日はちゃんとご飯を食べました」
「少しだけ、あなたの真似をして、人に優しくしてみました」
書き終えて保存すると、メモ帳の題名が変わっていた
「ひさしぶり」から「いってきます」
その後にいつもの顔文字がひとつ
私は、くすりと笑った




