『婚約者交換で格下げされたと思ったら、配置転換でした─王家、算数できますか?』
ルクレール伯爵家の領地は、地図に名前が載るには載るけれど、指でなぞれば終わる程度の大きさしかない。
収穫量は堅実、税収は慎ましく、戦力は「いる」くらい。要するに、目立たない。
目立たない家は、王家にとって便利だ。
派閥の匂いが薄く、口が軽くなく、何より――こちらが思っている以上に、こちらの人生を王家の都合で動かしやすい。
私、フィオナ・ルクレールは、その“便利さ”の最終形として育てられた。
王子妃教育。王妃補佐教育。しかも前倒しで修了済。
伯爵家の娘にしては、やりすぎだと周囲に言われた。私も内心ではそう思っていた。王城の大理石の廊下で、何度自分の足音を数えただろう。礼法は姿勢より先に呼吸を整えるところから始まる。政務は感情ではなく記録で動く。王族とは人ではなく制度――そういう話を、私は早い段階で叩き込まれた。
その結論が、これだ。
「フィオナ、婚約者が替わる」
父がそう言ったのは、晩餐の途中だった。ナイフもフォークも揃ったまま、食事が凍るタイプの宣告。
母はすでに笑顔の準備を終えていて、妹のミレイアは泣き真似の準備も終えていた。
「カイル殿下が、ミレイアを望まれたのよ」
母が先に“結果”を祝う。父が“家の未来”を肯定する。妹が“勝者の権利”を受け取る。
順番がきれいすぎて、私は一瞬、呼吸の置き場所を間違えそうになった。
「……そうですか」
声は柔らかく出た。自分でも驚くほど。
怒りも悲しみも、ないわけではない。ただ、ここで感情を出すと、家族はそれを“問題”として処理する。そう教えられて育ったのは私の方だった。
妹が、椅子から少し身を乗り出す。
「お姉さま、大丈夫よ。あなたには、別の婚約が用意されるんでしょう?」
言い方が上手い。慰めに見えて、確認だ。
自分が奪ったものの価値を、奪われた側の顔で確かめたいのだ。
父が咳払いをして、次の札を切った。
「ノイエンクロイツ侯爵家の令息、ヴァルター殿とだ。先方も了承済みだ」
“格下げ”という単語が、頭の中で勝手に立ち上がる。
王子から侯爵令息へ。世間は必ずそう言う。
けれど同時に、もう一つの単語も立ち上がった。
“配置転換”。
王家は人材を切らない。配置を変える。
それが王妃補佐教育の基本だった。
母が、いかにも善意の形にして言う。
「フィオナは賢いから、どこへ行っても大丈夫よ。ね? ミレイアは繊細なの。殿下のような方が支えてくださらないと」
私は微笑んだ。何度も練習した微笑みだ。
「承知いたしました。家のために」
家族は安心した顔になった。
“便利な娘”が、今日も予定通り動いたから。
その夜、妹が私の部屋に来た。
侍女を下がらせたあと、ミレイアは鏡台の前に立って髪を梳き、わざとらしく首元に指を当てた。装飾のない仕草ほど、人は意味を読む。
「ねえ、お姉さま。もう遅いよ?」
声は甘いのに、言葉は残酷だ。
「殿下がね……私を部屋まで送ってくださったの。すごく優しくて。……戻れないところまで、行っちゃった」
私は、頷くだけにした。
意味は十分に伝わる。彼女はそれで“勝った”と思っている。
「だから婚約は、揺るがないの。あなたがどんなに立派でもね」
最後の一言だけが、彼女の本音だった。
私は息を整え、淡く答えた。
「よかったですね」
妹は目を細めた。勝者の目だ。
けれど勝者という生き物は、勝っている間にしか勝者でいられない。
「あなた、悔しくないの?」
私はほんの少しだけ首を傾けた。
「悔しいかどうかは、計算が終わってから決めます」
妹は意味が分からず、笑った。
私も笑った。軽く。今夜は、それで十分だった。
───
ノイエンクロイツ侯爵家の屋敷は、王城の近くにある。
近いというのは、距離ではなく、機能のことだ。
門をくぐった瞬間から、私は理解した。ここは社交の家ではない。仕事の家だ。人の流れが無駄なく、声が低く、物音が少ない。要するに、事故が起きにくい。
応接間で待っていたヴァルター・ノイエンクロイツは、噂通りの人だった。
王太子アルベルト殿下の側近。後宰相候補。実務貴族の代表格。
そしてもう一つ、噂より確かな事実。
彼は元々、妹の婚約者になる予定だった人だ。
「お久しぶりです、フィオナ嬢」
ヴァルターの挨拶は丁寧で、感情が薄い。
でも目だけは忙しかった。こちらの姿勢、呼吸、言葉の温度――そういう細部を拾っている。
「ご無沙汰しております。ヴァルター様」
私は柔らかく返した。いつもの自分で。
彼は一拍置き、淡々と言う。
「……状況が飲み込みづらい、と言うのが正直なところです。王子殿下の婚約者が、こちらに来るとは」
世間が思うことを、本人が言ってくれる。ありがたい。
私が答える前に、彼は続けた。
「ですが、先に結論だけ申し上げます。ノイエンクロイツ家は、あなたを歓迎します」
歓迎。
そこに“同情”の響きがない。
私は、少しだけ肩の力が抜けた。
侯爵夫人であるヘレーネ様が穏やかに微笑む。
「フィオナ様。お疲れでしょう。お茶を」
お茶の香りが、静かに胸に落ちた。
この家は、騒がない。それが何よりありがたい。
ヴァルターが、ふと視線を落として言った。
「以前、ミレイア嬢と婚約が取り沙汰された際、あなたとも何度か席をご一緒しました。あなたはいつも、控えめで……正直に言えば、存在感が薄かった」
言い方が失礼にならないギリギリを、彼は狙っている。
たぶん悪意ではない。単に彼の“事務”だ。
私は微笑んだまま頷いた。
「はい。そう見えるようにしていました」
ヴァルターの眉がわずかに動く。ほんの少しだけ。
「意図的に?」
「ええ。目立つと、仕事が増えますので」
軽い言葉で返したのに、空気が一段落ち着いた。
この家の人間は、“仕事”という単語に反応する。
その日から、私はノイエンクロイツ家での生活を始めた。
生活と言っても、半分は職務だった。
侯爵領の陳情の整理。式典の席次の確認。王太子派の貴族会合の準備。
ヴァルターの机には紙が積み上がり、私の手元には小さな整理箱が置かれた。
「どこから手を付けますか」と尋ねると、ヴァルターは当然のように答えた。
「優先順位を付けてください。あなたの基準で」
私は少しだけ考えた。
王妃補佐教育で教わった基準は一つだ。感情ではなく、影響度。
「民政に直結するものから。次に外交上のリスク。最後に体面」
言い終えた瞬間、ヴァルターが小さく息を吐いた。
「……なるほど」
彼が“なるほど”と言うのは、評価だ。たぶん。
その日の夜、彼がぽつりと漏らした。
「あなた、王妃補佐教育を……前倒しで終えていると聞きました」
「はい」
「それは、本来なら――」
言いかけて止めた。
“本来なら王家の中枢職だ”とでも言いたかったのだろう。
私は淡く笑った。
「本来の話をすると、人生が長くなります」
ヴァルターが初めて、ほんの少し口角を上げた。
「確かに」
それだけで十分だった。
私はこの家で、余計な説明をしなくていい。
そして、彼の中で何かが確定していくのを感じた。
最初は「押し付けられた」だった視線が、次第に「拾った」に変わり、さらに「失われていた」に変わっていく。
ある朝、彼はいつもの無表情で、でも言葉だけは軽く言った。
「正直に言います。最初は尻拭いだと思っていました」
「ええ、普通そう思います」
「ですが……どうも違う。これは尻拭いではなく、王家の損失補填です」
私は手元の書類を揃えながら、さらりと返した。
「王家は損失を認めません。配置を変えるだけです」
ヴァルターの視線が、私に止まる。
「あなたは……それを、怒らないんですね」
私は少しだけ考えた。
「怒っても帳簿は変わりませんから」
その言葉に、彼は笑わなかった。
代わりに、声を低くして言った。
「……こちらの帳簿は、あなたで黒字になります」
儲けた。
そう言いたいのだろう。
でも、言い方が妙に真面目で、私は困ってしまった。
───
王城では、妹が順調に“勝者”をやっていたらしい。
噂は、風より早い。
しかも悪意と砂糖を混ぜるのが上手い。
「ミレイア様は、殿下のお心を射止めた」
「フィオナ様は、格下げ」
「ノイエンクロイツ家は、押し付けられた」
どれも分かりやすい。分かりやすい話は、皆好きだ。
ただ、分かりやすい話を信じる人ほど、分かりやすく落ちる。
王家主催の春季儀礼の夜会。
私とヴァルターは、王太子アルベルト殿下の随行として出席することになった。
私は淡い色のドレスを選んだ。派手にすると、視線が増える。
でも夜会は“見られる場”でもある。控えめで、しかし粗末ではない。計算の範囲で美しく。
鏡の前で、私は自分に言い聞かせた。
今日は、声を張る日かもしれない。
王城の広間は光で満ちていた。
シャンデリアの輝き、絹の衣擦れ、笑い声。
そこに混じるのは、人の欲だ。
アルベルト殿下は、遠目でも分かった。
静かに立っているだけで、空気の中心になる。王になる人間とはそういうものなのだろう。
その少し後ろ、エレオノーラ王女殿下がいる。
姉姫。王家の“表の顔”。
視線が鋭く、優雅で、感情を見せない。
そして――反対側に、妹がいた。
ミレイア・ルクレールは、勝者のドレスを着ていた。
色が強く、飾りが多く、声が大きい。
隣にいるカイル王子は、落ち着かない笑みを浮かべている。視線が揺れて、手が忙しい。承認されたい人の癖だ。
さらにその少し離れた位置に、側妃クランベル様が控えていた。
息子の成功を喜ぶ顔ではない。
むしろ、静かな諦めの顔だった。
私と目が合った瞬間、クランベル様の瞳がほんの少し揺れた。
“あなたがいなくなった”ことの意味を、彼女だけは理解している。そんな顔。
夜会が始まると、噂は現実になる。
人は噂を確認するために集まるのだ。
妹はまっすぐ私に近づいてきた。
周囲の視線を引き連れて。わざとだ。
「お姉さま」
声が甘い。周囲に聞こえるように調整されている。
彼女は私のドレスを一瞥し、薄く笑った。
「侯爵家の色に染まったのね。お似合いよ」
“格下げ”の札を、堂々と切る。
私は微笑んだ。言い返さない。ここでは。
妹は満足げに続ける。
「私はね……殿下のお子を授かったの」
広間の空気が、目に見えない形で震えた。
妊娠。最強の札。
そして最も、扱いを間違えると自爆する札。
妹は勝ち誇った顔で、周囲に向けて言う。
「だから婚約は揺るがないの。もう、誰にも止められない」
カイル王子が得意げに頷く。
その瞬間、私は理解した。彼は今、この場で“王子”をしているつもりなのだ。
でも王家は、彼にその役を与えていない。
私が何も言わないのを見て、妹はさらに畳みかけた。
「お姉さまは、どれだけ教育を受けても――結局、選ばれなかったのよね?」
痛いところを突く言い方が上手い。
でも痛いところほど、手順で守れる。
私は一歩だけ前に出て、ほんの少しだけ声を張った。
怒鳴らない。感情を乗せない。
ただ、広間の端まで通る声にする。
「その件は、正式な手続きを経てからお話しになるべきかと存じます」
ざわめきが止まった。
柔らかい声のまま、芯だけが硬くなる感覚。
私はこの切り替えのために訓練されてきた。
妹が眉をひそめる。
「なによ、負け惜しみ?」
その瞬間、ヴァルターが前に出た。
声は低く、淡々と。叱る教師ではなく、記録を読む書記官の声。
「ミレイア嬢。あなたが今、何を根拠に“揺るがない”と仰っているのか、王家は確認を必要とします」
妹の顔が一瞬、固まる。
「確認って……おめでとう、じゃないの?」
ヴァルターは微動だにしない。
「王家において、妊娠は祝福である前に管理事項です」
言い切った瞬間、空気が冷えた。
これが制度の温度だ。
アルベルト殿下が、ほんの少し顎を引いた。
それだけで、周囲の動きが変わる。
王家医官長のクラウス・ヴェルナーが、静かに前へ。
書記官ハインリヒ・シュタインが、分厚い記録束を抱えている。
“管理対応”の布陣。
妹は笑おうとした。勝者の笑みで押し切ろうとした。
でも笑みは、管理対応の前では役に立たない。
クラウス医官長が、淡々と言う。
「ミレイア様。申告を受理するには、医官の確認が必要です。手順に従ってください」
妹が反射的にカイル王子を見る。
彼は肩をいからせて言った。
「俺の子だ! 確認なんて必要ない!」
その瞬間、アルベルト殿下が口を開いた。
「必要だ」
短い。
短いから、絶対だ。
カイル王子の顔が赤くなる。
「兄上! 俺は――」
アルベルト殿下は視線だけで切った。
「判断主体は君ではない」
言葉が刃にならないのに、刃より痛い。
王家の序列が、この一言で可視化された。
妹の顔色が変わる。
彼女は初めて、自分が“勝者”ではない場所に立っていると理解し始めた。
「でも、私は……!」
彼女は札を守るために、さらに札を出した。
「殿下は私を選んだの! お姉さまより私が――」
そこで、ハインリヒ書記官が記録束を開いた。
「ミレイア・ルクレール様。あなたの宮廷規律違反の記録を確認します」
広間の空気が、さらに冷える。
噂は風だが、記録は石だ。動かない。
読み上げは淡々としていた。
無断外出の未遂。許可なき面会の要求。侍女への暴言。
王家の名を使った商人への不当要求。
医官の指示無視。
そして――“妊娠申告の正式手順を踏まず、外部の治療師に相談した記録”。
妹が叫ぶ。
「だって、早く確実にしたかっただけ!」
クラウス医官長が、感情のない声で言う。
「確実にする、という言葉の意味が不明です。妊娠は手順では作れません」
その一言で、妹の目が泳いだ。
彼女が何をしたのか、周囲が察する。
察した瞬間に、距離が生まれる。
カイル王子が吠える。
「お前たち、ミレイアを侮辱するな!」
エレオノーラ王女殿下が、初めて口を開いた。
声は穏やかなのに、空気が変わる。
「侮辱ではありません。確認です」
王女は目を細め、妹を見た。
「あなたは祝福を盾にして、規律を踏み越えた。踏み越えた理由は、勝ち誇るため。――そうね?」
妹は言い返せない。
勝ち誇るため。まさにそうだったから。
アルベルト殿下が言った。
「クラウス。結論を」
クラウス医官長は頷き、淡々と告げた。
「現時点で、殿下のお子を授かった可能性は確認できません。週数の整合性が取れません。再検査が必要です」
広間が、ざわめいた。
勝者の札が、札でなくなる瞬間の音だ。
妹は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「嘘! 私は……私は――!」
彼女が“私”を繰り返した瞬間、私は理解した。
王家の場では、“私”は弱い。
ここで強いのは“手順”と“記録”と“序列”だけ。
カイル王子が妹の肩を掴み、必死に庇う。
「俺が選んだ! 俺が――」
アルベルト殿下が静かに言った。
「君は、選ぶ立場にいない」
そして続けた。
「カイル。君は今夜をもって、療養名目で公務から外れる。王城の外にも出ない。君の母上、クランベル側妃のもとで管理される」
側妃クランベル様が、目を閉じた。
“終わったわね”という諦めが、静かに頷きに変わる。
アルベルト殿下は、妹へ視線を移した。
「ミレイア・ルクレール。婚約は白紙。王家は君を受け入れない」
妹の顔が崩れた。
涙が出る。声が出る。
でも王家の場では、泣き声は手順を覆さない。
最後に、父母へ。
「ルクレール伯爵。王家は当面、貴家との関係を縮小する。君たちは“軽率さ”で王家の場を乱した」
父の顔が青ざめる。母の唇が震える。
妹を勝たせたつもりで、家を落とす。
分かりやすい計算ミスだった。
ここまで決まっても、私は勝ち誇らない。
勝ち誇ると、彼女と同じになるから。
ただ一度だけ、声を張った。
今度は広間ではなく、自分の胸の中に届くように。
「――確認、ありがとうございました」
その言葉に、アルベルト殿下は一瞬だけこちらを見た。
目が合う。
王太子の目は冷たいのではなく、正確だった。
「フィオナ・ルクレール。君の配置は、正しかった」
たったそれだけ。
でもその一言で、私はようやく理解した。
私は捨てられたのではない。
外されたのではない。
最初から“運用”だった。
そして今、“運用先”が変わっただけ。
夜会が終わり、人が散っていく。
広間の光が少しずつ薄れる頃、ヴァルターが私の隣に来た。
「お疲れさまでした」
「はい。思ったより静かに終わりました」
「静かに終わったのは、あなたが声を張ったからです」
私は小さく息を吐いた。
「声を張るのは、得意ではありません」
ヴァルターは首を傾ける。
「得意ですよ。怒鳴らずに、場を止めた。普通はできません」
褒め言葉なのに、妙に実務的で、私は笑ってしまった。
笑うと、肩の力が抜ける。
軽い文体の人生で助かる瞬間は、こういうところだ。
ヴァルターが、ぽつりと言った。
「……結局、これは格下げではありませんでしたね」
「ええ」
「配置転換です」
「ええ」
ヴァルターは少しだけ口角を上げた。
その笑みは、勝者の笑みではない。
理解した人の笑みだ。
「王家は損失を認めません。ですが……算数ができないと、こうなる」
私は一拍置いて、さらりと返した。
「王家、算数できますか?」
ヴァルターが小さく笑った。
初めて、ちゃんと笑った。
「できるからこそ、あなたがここにいる。……こちらとしては、正直、儲けました」
「儲けた、は失礼です」
「失礼を承知で言います。国家級の人材が、侯爵家に降ってきた」
私は空を見上げた。
夜会の光が消えて、やっと夜が落ち着いた色になる。
「降ってきたのではなく、落とされたのかもしれません」
ヴァルターは、頷いた。
「落とされた宝石は、拾った者のものです」
言い方が重いのに、声が軽い。
その温度差が、この人らしい。
私は、いつもの柔らかい声で答えた。
「では、拾ってくださってありがとうございます」
ヴァルターが一瞬、言葉に詰まった。
実務屋が感情に追いつかない顔。
それだけで、少し愉快だった。
――明日からも、帳簿は続く。
でも今夜だけは、少しだけ人の話をしてもいい。
私の人生は、格下げではなかった。
ただの配置転換だった。
そしてたぶん、ここから先は。
誰かの都合だけでは動かない配置になる。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は「婚約者交換=格下げ」という分かりやすい構図を使いながら、実際には「人事異動」「配置転換」「制度運用」の話として書いています。
誰が正しくて、誰が悪いかというよりも、「感情で動いた人間」と「仕組みの中で動いていた人間」の差が、そのまま結果になった物語です。
フィオナは最初から“選ばれる存在”ではなく、“使われる存在”でした。
そしてその使い方が、王家からノイエンクロイツ家に変わっただけ。
だから彼女は泣かず、叫ばず、勝ち誇らず、ただ静かに場所を移っただけです。
一方でミレイアは、「選ばれた=勝ち」と信じてしまった。
けれど制度の中では、妊娠も恋も、祝福より先に“管理対象”になります。
その残酷さと無機質さを、できるだけ軽い文体で包むのが今回の狙いでした。
タイトルの
「王家、算数できますか?」
は皮肉でもあり、同時に評価でもあります。
王家は計算ができるからこそ、フィオナを手放さなかった。
ただ、配置を間違えただけでした。
軽く読めて、あとから少し冷える。
そんな後味を残せていたら嬉しいです。




