86日目 サイボーグ・ダイナソー2
3月27日月曜日。
地球最後の3月が終わろうとしてる…3月最後の1週間が始まった。
てか、週の始まりは日曜日かららしいけど、あれに意義を唱える者が居る。それが私、桐屋蘭子だ。
納得できない。月曜日からでいいだろ。
短いようで長い家出が終わり、本日。高校入学を控えた蘭子ちゃんは今、美堂宅で超大作に挑んでた。
朝からこーちゃんが大きな箱を持ってきたんだ。それなんだい?って訊いたら『サイボーグ・ダイナソー2』だという。
これは組み立て式の恐竜の玩具で完成したらなんと全長40センチを超える巨大メカ・ティラノサウルスになるんだって。しかも電池式で光ったり鳴いたりチョコチョコ動いたりするらしい。
昨晩また遅くに帰ってきた陽菜パパはお酒が入ってて上機嫌だった。なんの仕事してるかは知らんけど大きなプロジェクトが上手くいったんだって。
大仕事を片付けて機嫌が良かった陽菜パパは帰り道にト〇ザラスに寄る。そこでこのティラノサウルスと運命的とも呼べる出会いを果たしたわけだ。
今朝も早くから仕事に出かけた陽菜パパは一言「お姉ちゃんに作ってもらいなさい」と告げて出かけて行ったらしい…
この『サイボーグ・ダイナソー』シリーズ、対象年齢が5歳からである。こーちゃん4歳。
まぁそれはいいとして…ダイナソーを完成させるには実に1000以上にものぼるモーター等を含む部品を組み上げなければならないらしい。
繰り返すが対象年齢は5歳だ。
世の5歳児からクリスマスプレゼントとして圧倒的な支持を得ているこのハイテク玩具は日本中のお父さんのクリスマスの夜を潰す為の刺客と呼んで差し支えない。
こーちゃんが自分の体と同じくらいの巨大な箱を抱えて「作って♡」と言ってきた時には、今日という1日がこれで終わる事を覚悟したものだ。
そして現在……
陽菜と共に箱を開けたらそこに並ぶ膨大な数のパーツを前に、絶句。
しかし逃げる道はなかった。
地球滅亡まであと15日……時間はない。
「……蘭子、これ、今日中に終わるの?」
「ぐだぐだ言ってねぇで説明書を開くんだ」
工学部でもないと作れないんじゃねーの?ってレベルの難易度を遺憾無く発揮してくるこの見た目…しかし所詮は税込7,800円の玩具だ。『セクシー姉妹の日常』を日頃から見ている私に出来ないことは無いだろう。
それにしても結構高い。
陽菜パパに感謝を込めて、作らせて頂きます…
「……うわ、見て蘭子。油とか入ってるよ?ギアに塗るのかな?」
「…なんだこの配線みたいなの…(汗)これは想像以上の強敵だぞ」
「……ところで蘭子、どうするの?Y〇utube」
早速陽菜がトンチンカンなパーツを合体させながら気の重くなる質問。
「……お母さんにバレたんだよね?」
「お母さんは仲間達を呼べと言ってる」
お母さんから話します--我が母はそう言った。
今日にでもここに呼んで来いと…しかし我が母も多忙の身。帰宅も遅くなるだろう。『キリヤランコの炎上飯』はJK(予定)とJKとJSによる混合ユニットだ。
その旨説明させて頂きましたところ、次の休みにでも、というところで落ち着いた。
次の週末といえば月末だけど、その頃には地球滅亡までマジで秒読みだ。
まぁ時間を稼げたと考えよう…
それは今はいい。
「陽菜。そこ違うんじゃないか?」
「……違わないわよ。説明書に書いてる」
「その配線はこっちに繋げるんだぞ?それ、右脚のパーツだから」
「……よく見て?これは左脚」
「んなバカな…」
「……蘭子こそそれ、どこ作ってんの?」
「だから右脚でしょ」
「……いや、それは……あれ?それ、尻尾じゃない?」
「C-6だからこれでいいんだよ」
「……それG-21じゃない?」
「は?」
「……は?」
「……てかこれ、配線と基盤どうやって繋げんだ?まさかハンダゴテとか居るんか?」
「……まさか。え?……」
昼飯を前にして3分の1も完成しないまま時間が過ぎ……事件が起きた。
ここまでの所要時間4時間。既に2人のストレスは限界に達しつつあった時だった。
「……陽菜、蘭子ちゃん、ご飯できたわよ」
「おねえちゃん、できた?」
陽菜ママとこーちゃんが昼飯の呼び出しに来た時だった。
「ちょっと!なにしてんの!?陽菜ぁ!!」
「……いや、違うって…最初からだから」
「言い訳すんなよっ!!」
陽菜がギアパーツのひとつを破壊した。
60以上あるギアパーツのうち、恐らく最も重要なA-7を割った。
やりやがったこいつ。
「おいふざけんなっ!!」
「……大丈夫大丈夫…セメダインで……」
「ギアパーツだぞ!?それ!体の中心に入れる全部の基盤になるギアちゃうんか!?」
「……大丈夫だって…くっ付く…」
「おいっ!変な風に力入れんなっ!!」
バキッ
「……あっ」
「おどれ何晒しとんじゃ!?!?」
見事に2つに割れたA-7。それはここまでの4時間とこーちゃんの期待を全て水泡に帰す所業。
陽菜の顔から脂汗が……
「おねえちゃん、できた?」
「……で、でででで!出来た出来たっ!!いや!まだかかるけど……できるぅ!!もうちょっと待ってね!?」
「こーちゃん、これ、ようちえんにもっていってじまんするんだ」
「大っきいから…幼稚園には持っていかない方がいいかな(汗)」
……どうする?
予備パーツが付いてないか確認したけどなかった。こういう所で気が利いてない。ふざけるな。
一旦昼飯を腹に入れた後私らは考える。どうすべきかを…しかし考えたところで解決策はひとつしかない。そう、代わりのギアを用意する、だ。
ちなみにギアは諦めの悪い陽菜が修復を試みた結果、粉々になった。
「……これ、耐久性に難がある(怒)」
陽菜がブチ切れてる。
さて、では替えのパーツとは…それはもう同じ物を買ってくるしかないだろう…
母から返却されたばかりのスマホを使ってこの玩具を売り出してるTOYメーカーにTELしてみたが…
「あの……パーツをひとつ壊してしまったんですけど…代わりのパーツだけ送ってもらう事って可能ですか?」
『申し訳ございませんお客様。商品に不備があった場合に限り新品とのお取替えは可能ですが…パーツ単体の交換や販売は行っておりません』
「あ、そうですか…大丈夫です。ども(汗)」
まぁそうだろうな……
となればやはり選択肢はひとつしかない。
私と陽菜は手早く着替えて出かけた。ト〇ザラスへ…
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外は快晴、桜全盛。桜を見てると盛者必衰の理とかいう言葉を思い出す。
「……私は……衰退なんかしない。最期の時まで全盛期でいてやる!」
「……なんの決意表明?」
ギアパーツ1個の為に新しい『サイボーグ・ダイナソー』を買いに2人して出かけた訳だけど…
「……蘭子、お金あるの?」
「あるわけねーだろ」
こちとら落とした財布すらまだ見つかってねーんだ。
陽菜は眉を八の字にしながら自分の財布を覗く…が、その中身は健全なJK(予定)に相応しい貧相ぶり。
「……私、高校入ったらバイトしようかなって思う。お小遣い足りないもん」
「高校入っても10日もしないうちに地球滅亡すんだぞ?無駄だ」
「……その話だけど、こうして青空を眺めてても、そんな予兆何も感じないわ」
「そりゃ、気象変動とかじゃないんだから予兆なんてないわよ、おバカ。滅亡は突然やって来るの」
「……こんなに平和なのにあと20日もしないで地球終わるの?」
「結局信じてんのか信じてないのかお前次第です。どっちなんだ?」
「……だから、その話は終わったの。私は信じるも信じないもない。考えない。蘭子がそう言うならそうなのかもしれないくらいに頭の片隅に残しておく」
「それで後悔しない?」
隣の陽菜は死んだ魚の目…いや、人生最後を目前にした終末の人みたいな絶望レイプ目を私に向けてきた。
「……蘭子は後悔しない?」
「後悔がないように生き--」
瞬間、雅の顔が頭を過ぎった。
「……どーしようかな」
「……?」
「…バカやってしょうがない奴だと思われながら生きてれば、こーいう事とは無縁だと思ってた。でも…私は自分で思ってるより深く、周りの人と関わってたみたいだ」
「……」
「いっそ「桐屋蘭子なんてどーでもいい、怒る価値もない」って目で見られてたら楽だったのかも……」
無表情の仮面を突きつけられるような、そんな希薄で冷たい人間関係なら、迷いも後悔も生まれないで済む。
皮肉にも私のこのふざけた言動が周りの子達にとってはたまらなく「面白い」らしく、それだけで私と友達という重たい人間関係を保つ理由になり得てるらしい。
「……まだ言ってる。その話も終わったよ?」
陽菜が茶化す。でも、この悩みは生きてる限り終わらない。
……そして金欠という問題もだ。
迷った末に出した結論、私達はおかんの家の前に来てた。
陽菜から事前の連絡を受けてたおかんは私達の来訪に恵比寿様のような微笑みを浮かべてくれた。
「どうしたの?急に会いたいなんて…」
今日はどこにも出かけず家で高校入学に備えて予習してたんだって。眩しくておかんを見つめられない…
陽菜が切り出す。
「……おかん。実は玩具買いたいんだけどお金が足りなくて…」
「玩具?」
陽菜からこういう事頼まれる事少ないだろうから、おかんは心底戸惑った様子だった。
事前に打ち合わせしてた。私が言うといつもみたく呆れられて終わるから、陽菜から頼もうって。
それでもおかんを選んだのは、やはりおかんがおかん足る所以…その包容力にある。
「何買うの?」
「『サイボーグ・ダイナソー』」
「…何かは知らないけどそんなので遊ぶの?あんた達」
「……おかん、お願い。お金貸して」
「えぇー……いくら?」
「……7,800円」
「高っ」
「……完成したらおかんにも貸してあげるから」
「おい陽菜、あれはこーちゃんのだぞ?勝手な事言うな?」
「完成したらって……作る系の玩具?」
「……おかんも作る?」
「……え?(汗)」
ちなみに2人はいくら持ってんの?って訊かれたので私の所持金はゼロ。陽菜は770円だと告げるとおかんは天を仰ぎ……
そして私達3人はト〇ザラスに向かってた。
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--そして現在、時刻は午後14時半。
「……これ、難しいわね」
こーちゃんの為と聞いたおかんは、その包容力を遺憾無く発揮して快く制作に協力してくれた。
が、関取もかくやという肥満体型であるおかんに細かい作業は向いてないらしく…
「おかん、そっちできた?」
「わかんなーい。蘭子、これでいいの?」
「…なにしてんの?おかん」
「……おかん、それ全部逆さまに付けてない?」
クソの役にも立たない。
「ごめん、私こーいうの苦手だわ」
「何しに来た(怒)」
「なによ、ほぼ私がお金出したんだけど?(怒)」
「……お父さん…どーして誕生日でもクリスマスでもないのにこんな物を…」
まだ完成が見えない…このままでは今日が終わってしまう。
そんな予感はしてた私はある人物にも声をかけておいた。
いつ来るんだと待ちわびつつ、ようやく出来た左脚を間違えた所にくっ付けて30分ぐらいの努力を無駄にした頃、インターホンが鳴る。
しばらくして陽菜ママに連れられて来客が寝室のドアを開けた。
「お待たせ」
「「「風花さんっ!!」」」
ハイスペJK(予定)、風花灯さんだ。
「『サイボーグ・ダイナソー』だ。去年作ったな」
「……え?風花さんってこういうのにロマン感じる人?」
「いやいや、弟に買ってあげたんだ」
そういえば風花さん、兄弟姉妹が沢山いるみたいな話をしてた気がする。
経験者という説明書より心強い味方を迎え、戦いは終盤戦へ……
「そういえば桐屋さん、Y〇utube見たよ」
無駄のない手つきでダイナソーを組み上げていく風花さんが早速爆弾を投下した。
「地雷亜って人とコラボしたんだね。すごいじゃん、もうコラボなんて」
「あー……うん」
「なんか真面目に語ってたね」
「そうよ蘭子、あんたって奴は……」
おかんが説教モードだ。
「沖さん大変なことになってるんでしょ?なんか、私が連絡したら怒ってたわよ?蘭子とは絶交したって」
「……ごめん、おかん」
傷口を抉られて素直に謝る私に「私に謝ってもしょうがないでしょ?」ってクリームパン食べながら呆れ顔。もはやダイナソー完成を放棄してる。
「……沖さん大丈夫かな」
陽菜がまた間違った所にギアを入れながら呟く。
「桐屋さんのコラボ動画、早速再生数が伸びてるみたい。世間じゃ社長さんがすごい叩かれてたけど、あの動画で少しだけ擁護の声も出てきてるよ」
風花さん曰く、あのコラボ動画の効果は少しはあったらしくて、事情をよく知らずにオキサンフーズを…もっと言うなら雅パパを叩いてた世間の風当たりは少しマシになったらしい。
未成年Y〇utuberが積極的に発信してるのが話題性を呼んだらしく、早速ネットニュースでコラボ動画が取り上げられてるんだとか…
「で?沖さんとは仲直りできそうなの?」
おかんが訊いてくる。私はダイナソーに忙しいフリして無視した。
3人がため息混じりに視線を交わす。
「……しょうがないわね。都合の合う日にみんなで謝りに行こう」
「え?なんでおかん達が謝るの?」
「なんでって……あんたひとりじゃどうしようもないでしょ?沖さんも会ってくれないんじゃない?」
まるで全て知ってるかのようなおかんの予測。おかんは2つ目のクリームパンに手を伸ばしつつある。いや、マジで作れ。
「……みんな」
持つべきものは友、ということか……(涙)
その話はそこで終わって、クレイジーなダイナソーの制作に着手。
風花さん6、私2、陽菜とおかんが1くらいの割合でダイナソーのパーツが完成してく。
既に時刻は17時……
途中陽菜ママが部屋を覗いて…
「……みんなお疲れ様、晩御飯食べていく?」
「いただきます」
おかんが即決。仕事してないくせに飯は食らう。飯になるとおかんはがめつい。
それにしてもこれ…ホントにムズい。
経験者の風花さん曰く『サイボーグ・ダイナソー1』を作った時は父親と2人かがりで2日かかったらしい。
ちなみに1はアンキロサウルスだったんだって。2をティラノにしてまで1作目にアンキロサウルスを選んだ訳とは…?
「完成した時の達成感、ヤバいよ?感動する。めっちゃ動くから」
熱く語る風花さん。多分、弟さんと遊んだに違いない。
こーちゃんの喜ぶ顔を夢想しながら手を動かす。完成が見えてきた。
「……そういえばこれ、電池式だよね?」
「蘭子、用意してるの?」
「陽菜ん家のリモコンからパクる」
「……なんで?」
「これ単一だよ?リモコンで大丈夫?」
完成しても動かないのでは仕方ない。
もう集中力が限界らしい陽菜とおかんが逃げるようにコンビニに電池を買いに行った。
風花さんと2人きりの室内。
……悲しかな2人きりになった途端作業効率が爆上がりした。あの2人、必要だったのかな?
「桐屋さん」
風花さんが驚異的な効率で手を動かしながら声をかけてくる。
今だに2人きりになると緊張しちゃう蘭子ちゃん「はいっ」と元気よく返事。
風花さんは苦笑しながら……
「明日暇?」
「え?」
ダイナソー完成目前にして……
「もし暇なら明日……うち、来ない?」
風花さんからまさかのお誘いを受けました。
「まっ……まさか…お家デートっ!?」
「うん。デートしようよ」
地球滅亡まであと14日…




