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68日目 デッッッカ♡

 長い…長い1日だったっ!!

 都内感染症センターに搬送された私達は数時間にも及ぶ検査、検査、検査!

 血を抜かれ尿を舐められ体の中を覗かれ…


 んでもって途中で桐屋蘭子の容態は悪化した。


 発熱、咳、鼻水…


 致死率90%。オマエ・クタバルゾ菌感染症によるものか…?

 嗚呼神よ…地球滅亡まで33日を残して私に死ねというのか……


 そして……




「検査の結果が出ました。陰性でした」


 3月9日木曜日。午前7時。桐屋蘭子に春、来る!!


「え?…じゃあ……これは?」

「ただの風邪でしょう」

「うわーーーーいっ!!」


 そうと決まれば抗生物質をぶち込んでいた不遜なる空洞の蛇(点滴の管)をぶち抜いて舞い踊る。

 いかせて頂きます。狂乱の舞い~桜演舞~


「んだ〜ったらったったっ〜らら〜♪」

「……(汗)」

「あ、せんせー。うちの家族は…」

「ご心配なく、皆さん陰性です」

「ついでに陽菜とかおかん…私の友達は…」

「陰性です。白浜玲美さんに接触した人の中に感染者は現時点では発見されていません」

「じゃあ生きてんの?」

「一足先に退院されてます」

「ちっ!」

「…え?(汗)」



 まぁそんなこんなで…

 お前はただの風邪だからさっさと出ていけって言われた。抗生物質も打ってもらって得した気分になりながら…


 ……帰る前に白浜の様子でも見ておくか。


「あの、白浜に会いたいんですけど…見て?震えてる…会いたくて会いたくて」

「申し訳ございませんが…白浜さんは今面会謝絶。お会いする事はできません」

「やだ」

「ご家族の方しか面会できません」

「…家族だし。私の弟と白浜は婚約関係だから…義理の姉妹だし…」


 忌々しい嘘を吐いてしまった…


「…それでしたら、どうぞ。ただし、病室には入れません」




 白浜の病室はドラマとかで見るような、ガラス張りで外から中の様子が伺える仕様になってる。ガラス扉の奥、透明な暖簾みたいなやつの更に向こう側…怪しい機器に繋がれた白浜が薄暗い病室内で途切れ途切れの呼吸音を心電図の音に混じらせて…


「ふだぐん“!!!!」


 死にかけてた。


「話せます?」

「……」


 難しいらしい。


 おっと、半死人が私に気づいた。

 神々しい程に発光する体を引きずってベッドから飛び降りた白浜。そのままガラスの前までやって来た。

 べたんっ!てガラスに手垢(赤い)をへばりつけて荒い呼吸を繰り返す様は隔離されたゾンビ化秒読みの死人のようで、光ってても誤魔化せないホラー感が満載だ。


「ぎ…ぎりやざん…おぶふぁっ!!」


 吐いた。血を。


「おう白浜、元気そうだな?」

「混沌が…混沌が私を殺しにぎでる…」


 今回ばかりは懲りただろ?お前の混沌の力に…


「ずばらじいでず…」


 違った。


「ナイアルざまの…神の恩寵をがんじまず」

「重症ですね」

「見ての通りです。しかし…この全身の発光は一体…」

「デフォルトです」

「デフォルト…?」

「こいつ、大体いつも光ってます」


 可哀想な白浜…もう長くはないな。私は涙を飲んで最後の別れの挨拶を告げる事にした。


「白浜…お前と過ごした忌々しい日々…明日には忘れるように務めるよ。お前が死んだら、もしかしたら地球滅亡しないかもしれないから」

「わだじには…まだじめ…使命が残っでまずので…ごふぉっ!!…はぁ……っはぁ……っこんな事ではじにまぜんっ」

「こーちゃんは諦めろ」

「ぐるじい…だずけで…」

「さよなら」

「わだじはがえっでぎまぶはぁっ!!」


 私は隣の先生に深々と頭を下げておく。


「先生…くれぐれもよろしくお願いします」

「全力を尽くします」

「あいつを野に放ってはいけない。せめて楽に死なせてやってくだちい」

「え?(汗)」


 *********************


 退院。

 空が清々しい。なんて晴れ晴れした空!これが世界か!

 あと少しでこの空ともお別れだ。この澄んだ空気を今のうちに肺にいっぱい貯めておこう。地球が吹き飛んで宇宙に飛ばされても3分くらいは生きてられるように…


「きゅぅぅぅぃぃぃぃぃぃぃんっ」

「きゃあ!?吸い込まれる!?」「なんだっ!?この吸引力は…っ!ぐはぁぁ!!」「助けてっ!!」


 カ〇ビィ顔負けの吸引力で半径5メートルの酸素を吸い尽くして、誰も待っててくれない家路を一人で帰ろうとしたその時だった。


「マイプリンセスっ!!」


 災厄の種がまたひとつ…


「カンパルノ妹!?」


 病院の前に待ち構えていたのは何を隠そうカンパルノ妹だった。

 血相変えたカンパルノ妹は私に襲いかかってくる。ので、ここはひとつ…


「近づくなっ!!私は死病に感染してるっ!!お前も死ぬぞ!!」

「だったら出てこれやしないじゃないかっ!!」


 感染症センターを指差しながら実に鋭い指摘を突き刺してくる。こいつ…出来るな…


 で?なんスか?


「桐屋さんどうして連絡を返してくれないんだいっ!この一大事にっ!!」

「いや…お前の目の前の建物が全ての答えだ」

「僕らのY〇utubeチャンネルが乗っ取られてるんだよっ!!」


 知ってる。


 カンパルノ妹はスマホ(一世代前)で開いたY〇utubeで私らの開設したまだ活動前のチャンネルを表示。

 何も撮ってないはずなのに既に動画が投稿されているホーム画面。驚いたことにチャンネル登録者は既に1万を超えていた。


 チャンネル名は『セクシー姉妹の日常』


「大変だよ!乗っ取りだよ!!」

「らしいな。でも、どうやって?」

「分からないけど…」

「どうすんの?」

「とりあえず…チャンネルにログインできるか確かめたいんだ」

「すれば?」

「ログインIDは君が姉さんから預かってるだろ?姉さん…あろう事か忘れたって言うんだよ。IDをメモった紙、持ってる?」


 あいでー?

 そんなもの…


 ……あっ。



 --カンパルノ姉からアカウントのログインパスワード?ローリングパンパース?なんだか知らんけど大事なものだからって渡されたメモを財布に突っ込んで……




「財布の中だ」

「財布は?」

「…落とした」


 カンパルノ妹が涙目でビンタ。しかしそれを喰らう蘭子ではない。華麗なエスケープ。美しい…完璧な動きだった。


「そのせいで乗っ取られたんじゃないの!?」

「そんな事言われても…」

「うわーんどうするんだいっ!!」

「…運営に掛け合って何とかしてもらえるんじゃない?」

「ぐぅ…それしかないか……(涙)僕の人気者への道は前途多難だ…」

「だから言ったろ?功名心に駆られる奴ほど栄光を掴めない」


 …それはそれとして、だ。


「そのセクシー姉妹の日常ってのはどんな動画を投稿してんの?」


 チャンネル開設から数日で1万人もの登録者を獲得したその手腕…気になる。


「見てないよ忌々しくて」








 ならば見ようということで近くのバーガーショップへ。


「ご注文は?」

「スマイル2つ、店内で」

「……スマイル単品でのご注文は受け付けておりませんが」

「桐屋さん、ここは僕が出すよ」

「じゃあいちばん高いやつ、セットで」




 喫食スペースのど真ん中、4人かけの席を2人で占領するという暴挙に出つつ…問題の偽物の動画を再生してみた。




『こんちゃび〜♪セクシー姉妹の姉!みーたんと…』

『妹、うーたんです♡』


 みーたんは黒髪ボブカットのたぬき顔でうーたんは茶髪ツインテ。2人ともデカかった。何がとは言わないが…チャンネル名に偽りはなかった。


『今日はこの、人気のない山奥からお送りま〜す♡なにするの?みーたん』

『今日はうーたんの好きそーな企画用意してきたよ』

『なんだろ?』

『じゃじゃーん♪』

『デッッッカ。なにこれ!えー!?戦闘機?』

『零戦のプラモデル〜!なんと1/3スケール』

『デッッッカ♡』

『今日はこれを組み立ててぇ〜なんとこれね、実は飛ぶんです…』

『スッッッゲ♡』

『作って飛ばして遊んでいこーと思います♪』

『ちなこれ…どこに売ってるん?え、リスナー絶対欲しいっしょ♡』

『これは〜…じ・さ・く♪』

『エッッッグ♡』

『みーたんは工学部の現役大学生♪こ〜んなデッッッカ♡なおもちゃも作れちゃいま〜す♪』

『ヤッッッバ♡』

『じゃあ早速…恒例のセクシータイム、いっちゃお♪作業着に〜お着替えターイム♪』


 そこからはスッッッゴかった。

 際どいお着替えタイム。見えるか見えないかのギリギリを攻める生お着替え。野外でやってるっていう背徳お着替えタイム。てかやっぱりデッッッカかった。背中越しですら膨らみが分かるレヴェルで…

 ……顔もいい。

 甘ったるすぎる声が少し気になるけど…


 なるほど…短期間でチャンネル登録者が増えるわけだな。


『溶接してくよ〜♡』


 ヂュィィィィィィィィンッッ


『アッッッツ♡』

『リスナーのみんなは〜、溶接する時はちゃあんと手持ち面で顔を守ってね♪』

『ちな零戦はスポット溶接とリベット留めの両方の工程でぇ〜……』


 完成した零戦(1/3スケール)は圧倒的完成度を誇ってた。これが…空を飛ぶ?


『『はっし〜〜んっ』』


 ブロロロロロロロッッ




 ……動画のオチとしては勝手に飛ばして警察に怒られるってので終わった。パンチも効いてて、ロマンもあって、エロかった。

 零戦がちゃんと飛んだのにも感動した。


 偏見では男性視聴者に媚びを売りまくった内容のクソみたいなチャンネルだと思ってたけど…



『今日の内容は〜みーたんの愛車、ヤマハFJR1300Aでドライブデート♪』

『カッッッケ♡』

『これは〜FJ1100とかFJ1200の後継機になるんだけど今までのFJシリーズで使われてたのは空冷エンジンで、この子に使われてんのは水冷エンジンで〜アルミダイキャストフレームを〜』



『今日の内容は〜…うーたん自慢の家族のしょ〜かいだよ♪』

『じゃじゃーん♡タランドゥスオオツヤクワガタのラッキー君で〜す♡テッッッカテカ♡』

『ヤバ、顔反射してんじゃん♪』

『アフリカ大陸のクワガタで〜、アフリカではいっっっちばんデッッッカ♡なクワガタさんだよー♡この子はブリード個体なんだけどぉ〜』





 いちいち内容が私のハートに刺さりまくりっっ!!


「……ふーっ(怒)ふーっ(怒)」


 怒れるカンパルノ妹。


「はぁっはぁっ///」


 興奮せし桐屋蘭子。


 同じ画面を共有せし同士、その心交わり難く…


「この人達……人のチャンネル乗っ取って何がしたいの?(怒)桐屋さん…これ、警察に届けようっ!!」

「……まぁ待てカンパルノ妹」


 冷静なる蘭子が猛るカンパルノ妹を制止した。目を血走らせた自称イケメンが「何を待つって言うんだい」と私に詰め寄った。

 詰め寄られた分退いてから提案する。


「考えてみれば私らはまだひとつの動画だってあげちゃいないじゃないか」

「……(怒)」

「そんなにカリカリするなよ。乗っ取られたって言ったってそりゃ、空っぽのチャンネルでしょーが」

「……つまり?(怒)」

「ここはキッパリ諦めて、このチャンネルはこの子らにくれてやろうって話。なに、チャンネルならまた作ればいい」

「プルプルプル(怒)」

「なんなら新しく作ったチャンネルでコラボっちゃったり?」

「桐屋さん…(震)」


 どうした?震えてるぞ?寒いのか?


「…私のカーディガン着る?」

「もしかして…この盗っ人の事…(怒)」


 ……///


「…………流石カンパルノ妹…///実は…推しに…なっちゃった…かも?///」


 カンパルノ妹がマ〇クポーク投げつけてきた。口でキャッチ!入院明けのマ〇クポークが体に染みるぜっ!!


「なにすんのさ(もぐもぐ)」

「あいつら泥棒だよ!?人のチャンネル乗っ取ってんだよ!?」

「いいじゃん別に(もぐもぐ)どーせ1本もあげてないチャンネルなんだし(もぐもぐ)」

「そういう問題じゃないじゃん!?僕らの…僕らの夢はどーなったのさっ!!(怒)」

「…もぐもぐ(汗)」


 ……必死だねこの子も。


「だからまたチャンネル作れば--」

「だから!そういう問題じゃないでしょ!?」


 ついに目を充血すらさせながら感情のまま吠えるカンパルノ妹の迫力と、あまりにも重すぎる気持ちにこの蘭子をしてたじたじ。

 瞳には涙が溜まって震えてる。


 この感じ久々に…踏み抜いてしまったか?他人の地雷を…


 ……こういうのが面倒臭いから私はこういうキャラクターでやらせてもらってんだけどなぁ…


「…そもそも、桐屋さんが財布落とすからこんなことに…」

「……まぁ…そッスね……」

「桐屋さんはさ…僕らとの活動とか…どーでもいいんでしょ?」


 気づいたらマイプリンセス呼びすらされてないこの異常事態。私の超高性能脳みそはフル回転しながら事態の収束を試みる…


 ……が、この手のトラブルには不得手でして…


「……落ち着けよ、響…」

「もういいよ…ごめん。僕が悪かった…」


 店内の視線を釘付けにしたこの一幕はカンパルノ妹の沈んだ声と共に幕になる。

 そしてそれは地球最後の日まで残すところ32日というタイミングで幕を開けた、超〜面倒臭いトラブルの開幕の狼煙でもあった。


 桐屋蘭子の弱点…

 対人トラブル!!


「…桐屋さん…さよならっ!!」

「ちょっ…おいっ!ちょ待てよ!!」


 カンパルノ妹との関係修復か、地球滅亡か…どちらが早いか…

 地球滅亡まであと32日…

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