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59日目 男1人と女2人寄れば姦しい

「白い光のな〜かに〜♪」


 2月28日火曜日。2月最後の日……

 そして中学生活最後の登校日……


 体育館で見事なハモりを魅せる3年生一同、後輩達と過ごす最後の日。


「山並みは「ぶぇぇぇぇぇんっ(泣)」


 予餞会の合唱で桐屋蘭子は泣いてた。

 思い出の詰まったこの学舎から巣立ち、私達は今から人生のネクストステージへと向かう…

 過去との別れ……青春は思い出の1ページとなり、永遠に私達の胸に刻まれるんだ。


 おお愛しの後輩達よ……

 私達を見送っておくれ。これからの人生、大きな荒波を超える勇気を私達におくれ。


 …まぁ4月には地球吹き飛ぶんですけどね……


「ぶぇぇぇぇんっ!!(泣)」


「なんか…めっちゃ泣いてね?」「桐屋先輩だ」

「あれが噂の?」「体育祭のリレーでブリッチして負けたっていう……あの?」「なんで泣いてんだ?」「卒業式まで取っとけよ…」「泣き声デカすぎて合唱聴こえねぇよ」


「みんなぁぁ!!ありがとぉぉぉぉっ!!」


「……あの人ヤバない?」「知らないのか?この街一番の狂人だぜ?」「担任が言ってた。今年一番嬉しいのは桐屋が卒業する事だって」「あの人、なんかネットでバズったらしいよ」「まじ?」


「アリィィィィナァァァァァっ!!(涙)」


「……(汗)」「……(汗)」「……(汗)」「……(汗)」「……(汗)」「……(汗)」


「もう一曲いきますっ!!アンコーーー」

「桐屋ぁ!」「お前こっち来い!!」「先生方気をつけて!こいつ噛みますからね!!」


 *********************


 感動の予餞会、まさかの強制退場。

 職員室に連行されなぜか説教を食らった後、解放された時にはもう体育館はもぬけの殻だった。


 蘭子、憤慨。


「ぬふぅぅぅ(怒)」

「……蘭子…唯一の取り柄の歌声、結局それを披露する事は叶わなかったわね」

「陽菜ぁ……いや、死んだ魚眼……私の感動を返せ……っ!!」

「……そんなに泣けるなんて蘭子は感受性が豊かでいいね…ところで昨日の試験はどうだったの?」


 公立受験の事か?


「間違いない」

「……なにが?」

「私もう、制服改造する裁縫セット用意してるもん」

「……あ、そう…」


 さて……


 3月からは登校がない。あとは卒業式に出席するだけ。クラスメイトともしばしのお別れだ。

 桐屋家支援の募金箱を拡張したので忘れないように廊下に置いておかないと……と、縦80センチ、横77センチの募金箱をよっこらせと抱え教室に戻ろうとする私へ……


「桐屋さん」


 何者?


「んだてめー。喧嘩なら買うぞ?」

「いや違うけど……」


 誰かと思えば委員長じゃない。


「よう委員長、元気してた?なんかエボラ出血熱に罹ったって聞いたよ?」

「え?……誰から?(汗)」

「松前君」


 松前君とは野球部の元キャプテンだ。実はこの蘭子、中一の冬告られた事がある。ニキビがあったから断った。


 私、モテるんです。


「……まぁいいや。今ちょっといいかな?」

「募金お願いします」

「……その募金、お金入れても桐屋さんチョコレート買っちゃうじゃん」

「次はホワイトデー用のマシュマロだもん」

「桐屋さん…チョコ誰かから貰ったの?」


 んだその顔は!!失礼しちゃう!!


「風花さんからもろたし!ふーんっ!!」

「えっ…すごい」

「で?何?用なら陽菜が聞くけど…」

「……なんで私?」


 さっきから要領を得ない委員長。この焦ったさ、これでよくうちのクラスの委員長が務まったものだ。

 そのメガネに痰でも吐いておこうかと思ったけど私の痰を止めたのは委員長の後ろからひょっこり出てくる女生徒だった。

 黒髪で、短髪で、そばかすがあって、眉が太かった。


 何奴?


「き、桐屋先輩……」

「なんスか?」


 一旦陽菜の後ろに隠れながら様子を伺う…敵意は感じられない……けど、その眼光は何かを決意した者の目だ。油断出来ない。

 私は隠し持ってる熊撃退用スプレーを手に握る。


 委員長が間に入った。


「桐屋さん、この子2年の大狼おおがみさん。桐屋さんに話があるんだって」


 誰やねん。


「……貴様なぞ知らん。とく失せよ」

「……そ、そうですよね…ごめんなさい…」


 警戒心の強い現代人の代表みたいな私、威嚇。そしたら委員長が威嚇し返してきた。威嚇を食らった蘭子、3ターン行動不能に…


「そんな事言わないであげてよ。この子は女子野球部の子で……まぁ、桐屋さんとは接点ないとは思うけど…」

「委員長」

「……なに?」

「委員長って敬語キャラじゃなかったっけ?登場する度に敬語になったりタメ口効いたり…はっきりしてくんない?」

「…………っそれは…」

「キャラ、ブレてるよ?」

「……わっ……私は……っ」


 私の追求にたじろぐ委員長の後ろで「やっぱりいいです。ごめんなさい」って大狼なる曲者が逃げようとする。

 蘭子は熊と同じ習性を持っているので背を向けて逃げ出す獲物を追いかける本能がある。


「待てやこらぁ!!」

「ひっ!?」


 野球部の健脚をもってしても私からは逃げられない。体育祭のリレーの時、足を挫くまではブリッチ走法ですら2位をキープしていたのだ。


「おらぁ!!」

「速いっ!?助けてっ!!」

「……蘭子、やめなよ」


 間に入った陽菜。それが運の尽きか。

 私が反射的に噴射した熊撃退スプレー(カプサイシン入)が陽菜の既に生体機能を失った眼球直撃。


「うっ!?うぁぁぁあああああああっ!!」

「みっ!?美堂さん!?」


 転げ回る陽菜に駆け寄る委員長。現場は混沌と化す。

 完全に腰の抜けた大狼にもはや逃れる術はなかった……


「……貴様…」

「きっ…桐屋先ぱ……ひっ!」


 大狼、捕獲完了。


 *********************


 体育館裏、それは決闘の聖地。


「方法はピストルか剣…あるいは拳。私はどれでも構わない」

「……(汗)」

「決めいっ!!」


 戦いを前に闘志を新たにする私に大狼は既に戦意喪失だ。ならば敗者として金を払うがいい。


「4000円で勘弁してやる」

「あの…桐屋先輩……話、聞いてくださいっ」

「……果たし合ってください?」

「話聞いてくださいっ」


 私にはいつでもその用意がある。さっさと言えばいいものを…


「聞こう」

「……き、桐屋先輩…あの……まず、卒業おめでとうございます」

「まだしてない。ダブるかもしれない」

「え?……中学でダブり……?いっ!いやっ!!桐屋先輩っ!!」


 私に口を開かせたら主導権を奪われ話が明後日の方向に飛んでいく事を理解した大狼は意を決して声を大に本題を切り出した。

 それは……


「ずっと前から好きでしたっ!!」

「……( ゜Д゜)」

「私と……つっ…付き合ってくれませんかっ!!」

「Σ(゜д゜;)」


 一世一代の大舞台。大狼、吹けば飛ぶような薄っぺらき人生の中での最大出力。渾身の告白が桐屋蘭子にダイレクトアタック。

 300のダメージだ。




「ちょっと待てよっ!!」


 何奴か?この大事な時に…

 殺気を込めて振り返った私の眼光が捉えた先にいた狼藉者……その名は--


「れっ!蓮司っ!?」


 小林蓮司。元カノ。


「お前ここでなにしてる!?」

「お前を探してたんだよ!蘭子っ!!」


 ズケズケと割って入ってくる蓮司。大狼は「え?え?」って顔で私と蓮司を交互に見つめて固まってしまった。今なら仕留められる気がしたけど、その気はないのでそっと五寸釘を袖に仕舞う。


 そして蓮司。お前はなんだ?


「久しぶりに出てきたかと思えば…無粋にも程がある!!取り込み中なのが分からないの!?」

「今の告白!聞き捨てならねぇ!!」


 か弱き(野球部)乙女に大の男が情けなくも牙を剥きながら吠え、噛み付く。この光景、早とちりで蓮司を現行犯逮捕しても文句は言われない。


 そしてまさか……


「蘭子は俺の女だっ!!」


 五寸釘は蓮司の後頭部に打ち込まれた。


「痛っ!!?」

「舐めんのも大概にしろよ?蓮司…馴れ馴れしい。気持ち悪い。生理的嫌悪。破滅的不快感。圧倒的殺意」

「そんなに言うなよ……」

「……お、おふたりは交際されてるんですか?」


 大狼の言葉に「そうだ」と言いやがった蓮司の後頭部の釘をさらに押し込み、私は一旦この場を収める必要がある事を察した。


「こいつは元カレ…いや、人類の負の歴史。そして蓮司、お前とはヨリを戻すつもりはない。消えろ」

「……俺は諦めてねぇ」

「こいつ私と付き合ってる時浮気したんだよ!?許せなくない!?」

「不純ですっ」


 後輩を味方につけた私の勢いにヘタレ蓮司は耐えられない……かと思われたけど。


「お前には俺が必要だっ!!そんな…よく分からん女と付き合うくらいなら!俺にしろ!!」


 なんだか今日の蓮司は強引だった。

 私は強引な男は好きじゃなかった。


「……( ・᷄-・᷅ )」

「……そんな目で見るなよ。勇気出したのに…」

「浮気する時より?」

「……きっ!君!!君は蘭子のなんなんだ!?」


 浮気について言及された蓮司は追求から逃れるように大狼に牙を剥く。でも私と蓮司の問題において浮気を避けて話す事は不可能。


 そういえばこの後輩は何者なんだ?


「……私は桐屋先輩とは今まで面識はありませんでした」

「だったらなんで蘭子なんだ?」

「しょうがないじゃないですか…好きになってしまったんだから」


 可憐なるJCが瞳をうるうるさせながら私を見つめている。ち〇かわみたいだ。でも私はああいう消費者に媚びるようなキャラクターは好きじゃない。私が好きなのは聖帝サ〇ザーみたいなやつだ。


「初めて見た時から…素敵だなって…」

「……(ドン引き)」

「おい蓮司、なにその顔」

「悪い事は言わない。こいつだけはやめておけ。こいつはな、人の家に勝手に入ってきてローストビーフ強奪する悪魔みたいな女なんだぞ?」

「おい(怒)」

「そんな桐屋先輩が……好きなんです」


 それでも大狼の心は揺るがなかった。


「奇想天外で摩訶不思議で狂気的で…誰にも考えつかないような奇行を実践する…誰よりも自由人で、誰よりも恐ろしく、誰よりも美しい…そんな桐屋先輩と同じ学び舎で同じ空気を吸える日々……私、幸せでした……でも…それももう終わってしまうっ」

「……蘭子、こいつ頭大丈夫か?」

「お前こそ大丈夫?蓮司。頭に釘刺さってんよ?」

「お前が刺したんだろ」

「ならば叶わぬとしても…最後にこの想い伝えたいと思ったんですっ!!」


 大狼の真摯な心が晴れ渡る空に吸い込まれていく。

 …そうか、お前は見る目があるな。

 よく分かった。


「……大狼、お前の気持ちは分かった」

「おい蘭子…お前には俺しか居ないっ!!」


 返事は決まってる--




「見つけたっ!!マイプリンセスっ!!」


 その時新たに割り込んでくる無粋な輩の声がした。

 首を360℃回転させ一瞬だけ振り返ってまた正面に向き直った私の目に映ったのは--


「カっ…カンパルノ妹!?」


 芸能人、路端カンパルノの妹、通称カンパルノ妹だった。


「お前なに部外者が入ってきてんだよ!!」

「蘭子…誰だこのイケメンはっ!!」

「マイプリンセスって…もしかして桐屋先輩の事ですか!?」


 いよいよおかしな展開になってきちゃった。

 カンパルノ妹、取り込み中なのも分からないKYっぷりで私の所に詰め寄って来た。そして一喝。


「マイプリンセス!どうして連絡のひとつもくれないのさ!!僕との関係(Y〇utube)はどうなったのさっ!!」

「…落ち着けよカンパルノ妹」

「僕、我慢できなくて来ちゃったよ!!」

「その話は後だって。お前の事忘れたとかじゃないから」


 ぐいぐい来るカンパルノ妹を物理的に引き離すのは蓮司。イケメン(女子)にも果敢に挑む男。


「おい、今こっちが話してる」

「…誰だい君は?僕はプリンセスにしか興味はない」


 2人の間に火花が…


「もしかして桐屋先輩…今はその人とお付き合いを…?」


 大狼が瞳をうるうるさせていた。しかしその質問は名誉毀損ってもんじゃない?私に対しての。


「いや違--」

「ごめんよハニー…でも大丈夫。泣かないで?僕はみんなの王子様だから」


 あろう事か突然学校の敷地内に侵入して話に割り込んできたこの不審者は大狼を口説き始めた。

 しかもお姫様抱っこし始めた。


「さぁ泣き止んで?嗚呼っ!君みたいな可憐なプリンセスを泣かせてしまうなんて僕はなんて酷い奴なんだっ!!」

「桐屋先輩っ!!なんですかこの人はっ!!」

「おい蘭子!これは浮気じゃないのか!?」


 …どーすんだよこれ。


「お詫びの口づけを……」

「桐屋先輩助けてっ!!!!」

「おいやめろ!!」


 助けてくれたのは蓮司でした。

 不躾にも程がある王子様が無理矢理チューしようとしてたのを蓮司が体当たりで阻止。しかし反動で大狼は放り出されて地面に腰を強打!


「ああっ!!♀」


 ヤバい悲鳴が…


「……君は一体何者なのかな?いきなり酷いことをするもんじゃないよ」

「酷いのは貴様だ…この変質者めっ!!」

「……僕と戦おうというのかい?」

「やってやろうじゃないか。この浮気野郎っ!!」


 浮気野郎(確定)が浮気野郎(誤解)にファイテングポーズだ。

 大狼は腰を押さえて苦しそう…


 よく分からん事態になってる体育館裏……

 私は……





「……帰ろ」


 男同士(片方女)の熱い戦いが勃発し、怪我人を放置して肉を打ち合う鈍い音が響いてるのを背中越しに聞きながら私は一人家路に着いたのだった。


 おバカ共が宇宙の塵になるまであと41日…























 その日の夕飯の時…陽菜曰く。


「……蘭子知ってる?小林君、2年の大狼さんと付き合う事になったんだって」

「えっっ!?!?」

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