58日目 愚地〇歩です
超高性能カンニング用筆箱(風花作)
一見普通の箱タイプの筆箱だけど侮っちゃいけない。なんと蓋を開けたら蓋が二重になってる。スライドさせる事でメモスペースが現れてそこに試験の答えを事前に書き込んでおけばいつでもカンニングができるって優れものだ!
しかもこいつ、鉛筆削り機能付。
鉛筆も6本、M〇NO消しなら3つも入る大容量。鉛筆は65°持ち上がり簡単に取り出せる便利仕様。あと、30センチ定規も入ります。
「…しかも全面にバーニングドラゴンのイラストが…」
「かっこいいね、おねえちゃん」
桐屋蘭子、震えております。
「……おはよう蘭子。蘭子は今日受験よね?今度は倒れないでね?」
「見て陽菜、この筆箱」
「……え?なにその…小学生が使ってそうな筆箱…(汗)」
陽菜にはロマンってのが分からないらしい。
2月27日月曜日。公立青藍高校一般入試。
桐屋蘭子、出撃。
風花さんから授けられた秘策……
カンニング用筆箱には既にカンニングペーパーが装備されてる。無敵だ。これで首席入学も夢では無い。
「ふははは……」
「……っ!?」
「ふははははははははははっ!!」
電車の中で笑いが止まらない。隣のサラリーマンがびっくりしてるけど、見ていろ。私はお前のような冴えない人生は送らない。この試験に受かり、一流大学に入学して、一流企業に入社して六本木ヒ〇ズの最上階で暮らすんだ!
……いや、地球滅亡まであと43日しかないから無理か…
「…ふざけんなてめぇ」
べしっ!!
「痛いっ!?なんなんだ君はっっ!!」
*********************
公立青藍高校。偏差値75を誇る進学校。そのレヴェルはラサール高校にも引けを取らない。
さて、特別措置で試験日を設けてもらった私は2度目になる来訪を実行。月曜日という事もあって校内には生徒の姿がちらほら…
私がこの高校を選んだ理由は制服が可愛いから。見ろ、平均的JK達ですら制服のお陰でまるでトップアイドル。
敷地も広くて活気もあって…売店のラインナップも豊富だ。
「ここなら高校生活を満喫できるに違いない」
「桐屋蘭子さんですね」
「…なんだお前は?」
「突然すみません。自分、生徒会副会長の橘です。よろしくね?」
なんか壇蜜みたいな女がやって来た。
「今日受験する桐屋さんですよね?」
「だったら何?」
「いや…お迎えに来ました。会場まで連れていくから、一緒に来てください」
「…本当にお前に着いて行ったら私は試験会場に辿り着けるのか?」
「ええ…そうですけど……」
「だが断る」
「えっ!?」
「この桐屋蘭子が最も好きな事のひとつは…自分で強いと思ってるやつに「NO」と断ってやる事だ」
「あ…じゃあ今日は受けないって事で…いいですか?」
「受けるに決まってるだろ何しに来たと思ってんだ」
桐屋蘭子、入場。
試験会場として用意されてたのは多分使われてない空き教室。だだっ広い教室にポツポツと椅子と机が置いてあるだけ。
そして誰も居ない静かなる教室に遅れて甲高い怒号が響く。
「触んじゃねーし!!あーしに触んなし!!」
「左腕無し?」
そんなわけあるか……と思いながら入口を見たらそこから金髪ギャルが髪を振り回しながら入室して来た。
しかも左腕がなかった。
「え!?ガチ左腕無し!?」
「んだよテメー!見んなし!!」
「え?みんな死ね?」
「耳腐ってんのかし!!」
騒がしいギャルが背広姿のおっさんに詰め込まれ、私と並んで座る。
訊かずにはいられなかった。
「……あの、左腕どしたの?」
「カンケーねーし」
「……んだよ。心配して訊いてやってんだし。そんな言い方するんだったら友達辞めるし」
「友達なってねーし!」
「は?……お前……私の事忘れた?」
「いや知らねーし……」
「……事故に遭う前…私達親友だったじゃん」
「……まさか…この……左腕を無くしたあの事故の……?もしかしてお前、あーしの事知ってるし?あーし、実は事故に遭う前の記憶なくなったし」
「え?あ、はい……」
「教えてほしーし。あーしの事。てかお前名前は?」
「…………お、愚地〇歩《〇っぽ》です(汗)」
「はいはい、お二人共よろしいですか?」
ギャル子を連れてきた先生が手を叩く。偉そーなおっさんと私の目が……会った時。私達はビビーンとした!
「あれ?お前は……」
「きっ!君はっ!?」
昨日電車賃くれたおじさんっ!?
「昨日私のスカートの中覗いた(冤罪)おじさんだっ!!」
「違うっ!!俺はそんな事してないっ!!」
「……まぢ?お前あーしの友達に何してくれんし」
「違う!俺は断じて……俺は教育者だぞ!?」
「私はお姉ちゃんだぞ!!」
「あーしは記憶喪失だし!!」
……まぁそんな事はどーでもいい。
「……えー…じゃあ試験を開始します。まずは国語から……」
「……後で連絡先教えろし」
「え?……いや……友達だからもう教えてるし」
「愚地〇歩なんて名前登録されてないし」
「……じゃあ……あとで……(汗)」
今は試験に専念しよう。
私はカンニング最終兵器、バーニングドラゴンを起動する。そして問題用紙をめくった。
問題は全て把握済み……私の天国への扉は開かれ……
……あれ?問題が違う…?
「なにこれ、全然分かんねーし!」
「……あ、あれ?あの……え?これ……ちょっと、この前見た問題と違うんですけど!?」
「それでは試験時間は50分です」
「無視すんな」
「では始めてください」
「待てって」
バーニングドラゴンを顔面に投げつけてやってようやくおじさんは口を閉じやがった。
「何をする!!」
「問題が違うでしょーが(怒)」
「あーしこんなの分かんねーし!!」
おっさん曰く……
「問題は変えてます。なんか…ネットに拡散されてましたので……」
だそうです。
「は?意味分かんない、なんでそんな事するの?」
「いやなんでって……」
「戻して」
「いや戻してって言われても……」
「戻せ」
「いい加減にしてくれ!戻すわけないだろ!!」
んな事言ったってこんな問題解けるわけねーじゃんか!「面皰」の読み方なんか知るか!!
「あのさ……不公平じゃない?」
「な、なにが……っ!?」
「ギャル子はさー!事故に遭って記憶喪失になって今までしてきた勉強の内容全部忘れてんだよ!?ね!?ギャル子!!」
「……そ、そーだし(棒)」
「解けるわけねーじゃん!!」
「そーだし!!」
「本出汁!!」
「鰹出汁!!」
JC2人からの猛攻におっさんはタジタジだ。適当に主張してみたけど…もしかしたら押し切れるかもしれない。
ピンチをチャンスに……チャンスをピンチに。これが桐屋蘭子なのだ。
「そんな事言われても……じゃあどうしろってんだ?答えを教えろとでも言うつもりかね!?」
「……面接にして」
「はぁ?」
「受験を面接にしてって行ってんの!!早くやれよ!!」
「やれし!!あーし左腕ないんだし!!」
「今からそんな事出来るわけないだろう!?」
「じゃあお前が私のスカートの中覗いたのバラしてやる!!」
「おいよせ!!いや違う!!そんな事をした覚えはないっ!!」
口ではそう言いながらも、おっさんとJC…どちらの言い分を世間が信じるかは奴も分かっているはずだ。
このネット社会、言ったもん勝ちだもんね。
「じゃあいいよ。SNSで呟いてやる。青藍高校の男性教諭はJCのスカートの中を覗くド変態野郎ですって…」
「リポストして拡散してやるし!!」
「分かった!待てっ!!待ってくれ!!」
こうして特例受験日に緊急職員会議、開催。
「校長、私はやってませんよ!騙されないでくださいっ!!」
「しかしねぇ……どう思います教頭」
「ふむ……我が校の教師が未成年にわいせつ行為を働いたなどと知れれば130年の歴史を持つ我が校の名に泥を塗ることになりますでアマス」
「では飲むしかない…と」
「アマス。校長、ご英断を」
「待ってくれ私はやってないっ!!」
「…………仕方ありませんな」
という事で。
「……厳正なる協議の結果、今回の入試は面接となりました」
「やったぁ」
「やったし」
桐屋蘭子の勝利が確定した瞬間であった。
時間がないのか、もうとっとと私らを帰したいのか…面接は2人同時、集団面接。
つまり、互いが互いを刺激し合い、高め合う…そんな試験になります。
桐屋蘭子、ビジネスモードON!
「えー、それでは始めるでアマス」
面接官はセクハラ野郎と妖怪みたいな顔した教頭先生とマネキンが服きてるみたいな見た目の生徒指導の先生なんだって。
始めろと言われたので先ずは先手を取らせてもらう事にする。こういうのは早い方がいい。
「はい!私の長所は可愛くて頭がいいところです!」
「まだこちらは何も訊いてないアマス」
「私は幼稚園児の頃、父の仕事を真似して新薬の作成に勤しんでいました!私の完成させた新薬は父の務めていた会社を通じて販売され今では多くの人の頭痛、吐き気、腰痛、更年期の悩みを解決しています」
「息を吐くように嘘を吐くなでアマス」
「嘘じゃありません」
「証拠は?アマス」
「……おばさん」
「おばさん?(怒)」
「あなたはNNO・KRAを使ったことがありますか?」
「……まぁ、よくお世話になってるアマスけど…」
「NNO・KRAはアセトアミノフェンや抗ヒスタミン成分、ロキソプロフェン、ドンペリドン、エストロゲンが配合されてます」
「……確かにアマス」
アマス、自前のNNO・KRAのラベルを確認して呟く。しかしその目にはまだ疑念の色が……
トドメだ。
「薬の名前…NNO・KRAはアナグラム…並び替えると……」
「……っ!?……RANNKO…っ」
どや?
「……これは本物かもしれないアマス」
「教頭、いくらなんでも騙されやす過ぎません?」
この私がどれ程の秀才、否、天才か理解したようだ。
そして私の輝かしき経歴にギャル子も焦りを感じたのか残された右腕を思いっきり振り上げた。
「はいはい!し!!あーし!中学の時は陸上の棒高跳び?的なやつで全国行ったし!」
「……君は記憶喪失で過去を覚えてないんじゃなかったっけ?」
「……い、いや……今それだけ思い出したし(汗)」
墓穴を掘ったギャル子。ロリコン教師から容赦のない疑惑の視線が…
経歴をアピールする必要のある面接はギャル子には不利だったか。
「あーしを入学させたらこの高校も全国間違いなしだし!」
「……でも君、片腕で棒高跳びできんの?」
「……(汗)」
フォローも撃沈。ギャル子ピンチだ。でも生憎ギャル子はライバル。ギャル子を助けてやる義理もない。
このまま決めさせてもらうのみ。
「私、中学時代生徒会長でした(ドヤ)」
「生徒会ではどんな事したアマス?」
「主に学校の改革を……」
「具体的にはアマス」
どうしてもアマスを付けたいらしい。
具体的にか……そうだなぁ……えっと……
「あの……購買のパンを…全品30円値下げさせました」
「どうやってアマス」
「あの……パンの生地の…あの…卸してる工場変えて……あの、安いパン生地にしました。んで、家庭科室で……購買のおばちゃんにパン作らせてコストダウンして……」
「……」「……」「……」
「……んで、無人販売で人的コスト削減して…全品30円値引きで利益を5パーセントくらいアップさせました」
嘘である。
「……やるじゃないアマス」
「この具体性……この子もしかしてほんとうに…?」
「うーん……」
好感触。ここまで来たらあとはひと押し。私の有能さは伝わったはずだから…
「あと……」
「まだあるアマス?」
「……この前…どっかの国から飛んできたミサイル……あれ、海に誘導して人的被害ゼロに抑えたの私です」
「……」「……」「……」
「その時の動画、ネットに拡散されてます…」
入院中白浜のやらかした混沌の事なんだけど、あれもネットで拡散されて一時期私の顔と名前は世間に大々的に広まったんだ。
それがここで活きる。
スマホを目を皿のようにしてガン見したアマスが一言……零れるため息のような感嘆の声を発した。
「……やるじゃないアマス」
確実なる勝利を予感しました。
*********************
受験終了、私の足取りは軽かった……
もう直私もこの高校の一員となる。スキップを踏む私はその歩みも軽やかに…すれ違う在校生と早くも親友の様相だ。
「よっ!元気?」
「えっ?……あ、うん…」
「風邪ひくなよ!」
「ありがとう…(誰?)」
今日は月曜日だけど試験だから学校には来なくていいと舎弟の御嶽原が言ってた。
このまま帰って幼稚園に行こう。こーちゃんの髪の毛を吸わなければ……
「待つし」
全力でお姉ちゃんを全うするのに忙しい私を後ろから呼び止めた声があった。
振り返ったら左の袖を風になびかせるギャル子の姿があった。
「お前……すげー奴なんだし」
「……」
「お前みたいな友達があーしに居るなんて…チョット信じられねーし……けど…声をかけてくれて嬉しかったし」
「……」
「お前の事思い出せないけど…絶対思い出すから……だって、こんなすげー友達、他の奴らに自慢しないわけにはいかねーし」
「……」
「--これからよろしくし!愚地〇歩!!」
「……(汗)」
いつの間にか武神になってた桐屋蘭子…ほんの好奇心からめんどくせぇ奴に関わってしまった…
「つーか愚地〇歩って呼びにきーし。あーし、昔はお前の事なんて呼んでたし?」
「えっと…………オロチン?(汗)」
「じゃあこれからそう呼ぶし」
「……ギャル子…あのさ……過去に囚われず未来を生きるのも……大事だと思うけど?(汗)」
「つーか連絡先教えろし。約束したし」
「……あ、うん……えっと…今スマホ壊れてて……(汗)」
「さっきSNS投稿しようとしてたし」
「……(汗)」
ギャル子の追及を逃れる為、私のLINEの名前が「らんぽこ」から「愚地〇歩」に変わってしまった……
地球滅亡まであと42日…




