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55日目 試験当日!!

「…むにゃ…ふぁあ…ん?」


 薄暗い室内に呑気な欠伸が木霊する。寝ぼけ眼…いや、死んだ魚の目を擦りながら陽菜、起床。部屋の主であったはずの彼女が桐屋家の襲来により主導権を奪われて久しいが…今宵の夜はベッドの主としての権利を取り戻しあまつさえ、天使、こーちゃんと共に眠る事さえ成し遂げた。


 不浄なる眼を持ちし屍共の王、早朝5時半にその身を起こす。

 その理由は…


『All questions have been answered. The rest is about the reward…(問題は全て解答済みだ。あとは報酬の件だが…)』

「I want you to leave it to me. Transfer to the designated account at a later date(任せてほしい。後日指定の口座に振り込む)」


 この桐屋蘭子のネイティブイングリッシュがうるさかったんだと思う…


「……蘭子?こんな早朝に誰と……」


『No, it's today. I will not send an answer unless the payment is confirmed(いや、今だ。入金を確認しない限り解答は送らない)』

「What!? I can't make a deposit now! You have to wait a few days!(なに!?今から入金する事はできないわ!数日待ってもらわないとむりよ!)」

『Then the story is over(なら話は終わりだ)』

「Wait a minute!!No!!(ちょっと待って!!いやん!!)」


 2月24日金曜日。青藍高校一般入試当日…

 桐屋蘭子の長い夜は終わった……


 ********************


「陽菜、蘭子ちゃん。入試頑張ってな!」

「落ち着いてね。今までの成果を出せば大丈夫」


 美堂夫妻からのエール。


「おねえちゃん、がんばって!」


 こーちゃんからの応援。


「じゃあお母さん仕事行ってくるから…今日は残業で遅くなるからこーちゃんの幼稚園お迎えお願いね?ついでに大根買っといて」


 我が母、志乃からのおつかい。



 色んな言葉を受けながら桐屋蘭子、美堂陽菜を引き連れて青藍高校へ向かう。

 電車に揺られるそんな私の目は、徹夜の影響で陽菜より死んでた。


「Damn it!!Michael's bastard!!You're joking at the last minute!!(くそっ!マイケルの野郎!!土壇場でふざけたこと吐かしやがって!!)」

「…蘭子、昨日寝てないの?てか、誰と電話してたの?」

「I saw today's exam questions in a precognition dream!And I found someone who would solve it overnight!But he said he wouldn't tell me the answer if I didn't pay right now!!My night's hard work is par!!(私は予知夢で今日の試験問題を見た!そしてそれを一晩で解いてくれる奴を探し当てたんだよ!でもあいつは今すぐ金を払わないと解答は教えないと言いやがった!!私の一晩の苦労がパーだよっ!!)」

「……え?なに?(汗)」


 一晩かけて代わりに問題解いてくれる奴ネットで探して、アメリカでようやく捕まえて、国際電話して、問題送って、パーフェクト解答を手に入れられる手筈だったのに……っ!


 なんの為に時空のおじさん呼び出したんだまったく…っ!!


 ……とにかく、私の一晩は泡沫うたかたと消え、桐屋蘭子、自力での試験突破を余儀なくされる……

 科目は国、数、英、理、社…

 出題される問題は全て把握はしてる…予知夢の中で気合いで覚えた。


 まだ……諦めないっ!!


「……私は何としても…っ!!入試を突破する!どんなに困難な道だとしても…っ!!これはもはや私のプライドを賭けた戦いだっ!!」

「……それだけペラペラ英語喋れるなら大丈夫じゃない?試験中寝なければ…」


 地球滅亡は4月10日…たった10日前後の高校生活の為の……桐屋蘭子の戦いは始まった!!







 公立青藍高等学校こうりつせいらんこうとうがっこう。偏差値75を誇る進学校らしい。知らんけど。公立ってどういう意味か知らん桐屋蘭子が今、その高校の敷居を跨いだ。


「サインコサインタンジェント……いい国つくろう鎌倉幕府……赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ…ぶつぶつ」

「……え?まさか蘭子…今から勉強始める気?」


 道中入手した(電車内で発見した青藍受験生の鞄から失敬)参考書を読みながら、2月のまだ寒い青空の下、雲を置き去りにするスピードで二宮金次郎状態。


「受験生の方は前のボードで受験番号を確認して教室に移動してください」

「あのすみません…あなたはここの先生だとお見受けしますが?」

「……蘭子、受験前によしなさい」

「はい、どうしましたか?」

「ちょっとここ……分かんないんですけど教えてもらっていいですか?」

「入学前に教師に質問!?」





 三角形の面積の求め方は底辺×高さ÷2らしい。三角形の面積なんて求めてどうすんだい?って質問したら「いつか三角形の土地に家を建てる事があるかもしれないだろ?」との事…

 そういえば愛知県に三角の家っていう心霊スポットがあったっけな…




「陽菜」

「…おかん、教室一緒だね」

「蘭子は?」

「受験番号離れてるから別の教室」

「……で、今になってあの子は何してるの?」


「1867大政奉還。1876廃刀令。1637島原の乱……ぶつぶつ」


「……今朝から勉強始めたの」

「遅すぎない?はぁ…まったく…まぁやれる事はやったし…結果がどうあれ、恨みっこなしね。陽菜も大丈夫?なんだか眠そうというか…目に覇気がないけど」

「……それは元から」

「頑張りましょう」

「……うん」


「東京特許許可局隣の客は良く柿食う客だあおまきがみあかまきがみきまきがみぼうずがびょうぶにじょうずにぼうずのえをかいたすもももももも…………ぶつぶつ」



 未だかつてこれほどに脳を回転させたことがあっただろうか……?

 記憶に染み付いた問題用紙。その全てを出力し、独力で答えを弾き出し、それを頭に叩き込んでいく作業。

 都合5教科。途方もない作業量は私に時間の流れを忘れさせる。


 窓の外で小鳥が囀りながら飛んでいくのを、雲が流れていくのを、風が葉っぱを攫っていくのを…それら全ての時の流れから隔絶された私だけの集中世界にて、私は友の1人も居ない孤独なる戦場で頭を回転させる。


 ボタボタボタ……


「あのっ!?凄い鼻血出てますけど大丈夫ですか!?」


 すんごい鼻血が出てて隣の子に心配されるのも無視して…


 全身に熱が溜まって脳が茹だるような灼熱に襲われて…


 ボウッ


「きゃあ!?この子燃えてる!?」


 時間も時空も超越した『Agの鍵』の力かな?私の世界は私を緩やかな時間の流れに幽閉した。


 まだ……時間はある。


 秒針が1秒を刻む間に1問、2問と答えが頭の中にインプットされていく…


 まだ……まだ覚えられる。


 出題される問題の答えをただ覚えるだけだ…

 私は桐屋蘭子、地球滅亡を予知した令和のノア!


 私は……負けないっ!!


 私なら……出来るっ!!


 まだ……

 まだ……

 まだ……っ!!





















「まだいけるっ!!!!」



 ……気づいたら私は白い天井を見上げてた。

 そして私の視界の端から私を見下ろす顔。


「気がついた?蘭子」

「……?……?お母さん…?」


 何故ここに……?


「大丈夫?まだ起きなくていいわよ」


 次いで私に声をかけてくれたのは白衣を着たおば様だ。

 優しそうな顔をしてる。なんて優しそうなんだ…まるで本当の母親のような…

 嗚呼、この人の作ったマーマレードが食べたい……


「……あなたは?」

「養護教諭です。ここは保健室ですよ」


 保健室……?


 嗚呼……こんな優しそうな先生の居る高校なら通ってもいいかもしれない…


 ……?


「……何故私は保健室に?」

「蘭子あなた…試験開始前に鼻から大量出血して倒れたのよ?」

「……ふが…っ」


 鼻に詰められたティッシュを鼻息のみで吹き飛ばし、私は尋ねる。尋ねたくないけど、尋ねなければならない気がしたから……


「受験は?」

「もう終わったわ」


 母の言葉を受け窓の外を見ると、夕日が眩しいくらいに差し込んできてた。

 あの紅に染まった美しい空を眺めていたらもう、この世の全てが些細な事のような気がしてくるけど……


「……あれ?じゃあ私の受験は?」

「だから、終わったの」


 それは地球滅亡より先に私の人生が詰んだことを意味してた。


 ********************


 --否っ!!


 保健室に突如として現れたその人物が私の悲嘆を吹き飛ばす。


「失礼します」

「あら校長」


 なに?校長?


 保健室のお母さん曰く、この小太り丸メガネがこの学校の首領ドン、つまり私が打ち倒すべき存在という事になる。


「桐屋蘭子さん…ですね」

「他に誰だって言うんだい。悪いけど、この学校は私がいただく」

「すみません娘は錯乱してるんです」

「看板賭けてやるかい?」


 校長先生、初対面なら誰もが面食らわずにはいられない蘭子節を前に「私は強いよ?」と乗ってきた。

 なんだこいつ?


「で?なんスか?」

「…なかなか面白い娘さんですね」


 褒められてお母さんも鼻が高そうだ。そんな縮こまらんでもっとその薄い胸を張ったらいいのに…


「お加減はどうですか?今日は大変でしたね」

「地球滅亡まであと46日しかないってのにこんな所で無駄な1日を過ごす羽目になるとは思いませんでした。で?なんスか?」

「……いや、本当に面白いお嬢さんだ。そんな君に提案なんだけどね…今日の試験の事だよ」

「受けてれば首席入学でしたけど?」

「それはそれは…なら、もう一度チャレンジしないかい?」


 ……ほぅ?


「敵に塩を送るって…?」

「……敵?」

「蘭子、もう黙りなさい。お母さんが話す」

「母親面すんな。私のお母さんはここに居る。ね?お母さん」


 保健室のお母さん、どうしたらいいのか分からず困惑。これが私との初対面として正しい反応です。


 校長先生、私の事なのにお母さんと話す。


「今日は体調不良で試験を受けられませんでしたが…別日に改めて試験を受けることができます」

「まぁいいんですか?」

「明日明後日はお休みなので月曜日になりますが……」

「ありがとうございます」

「いえいえ、娘さんも今日まで頑張って来たでしょうから…こんな形で諦めるのは可愛そうですし……」

「ちょっと、勝手に話を進めないでよ」


 まさか水を差されるとは思わなかったのか私の声に2人がギョッとする。

 私自身も別に拒否るつもりないんだけどなんか流れで言ってしまった……

 どうしよう……


「……受けるなんて言ってないし」


 こういう時空気を読めるのが私の美徳かつ悪癖。桐屋蘭子、脳死状態で流れるまま提案を足蹴に……


「……嫌なのかい?」


 校長先生、こんな生意気な小娘にも優しい。


「私抜きで勝手に決めるとかありえないんですけど?私の受験でしょ?」

「桐屋さんは、このまま諦めるのかい?」

「……私は」

「黙りなさい」


 どうしよっかなーて考えながらオートマで口を動かしてたら隣から母の圧が。これ、本気のやつです。


「どうぞよろしくお願いいたします」

「……あの、娘さんはそれで構わないですか?」

「構いません」

「だから!これは私の問題だし!!部外者が口挟まないでくれるっ!?」


 蘭子、反抗期来る。

 そこに来たるは我が母からの殺気。


「…………あんたのせいで今日早退する事になったんだからね?分かってんの?」

「……ア、ハイ」

「大体日頃からコツコツ勉強してたら当日になってあんなに慌てることなかったんじゃないの?陽菜ちゃんに聞いたよ?あんた今日の朝から全部頭に詰め込もうとしてたらしいじゃない。一夜漬けならぬ、一朝漬けで」

「……スミマセン」

「私立蹴ってんのよ?あんたこれで落ちたら分かってんでしょうね?」

「………………ハイ」

「……小娘がチョーシ乗ってんじゃないわよ」


 桐屋蘭子の戦いはまだ終わらないっ!!


 地球滅亡まであと45日…

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