54日目 スチューピッド・ジーニアス
2月23日木曜日。はっぴばーすでー、天皇。
「天皇陛下、ばんざーい」
「ばんざーい」
「ばんざーい」
「ばんざぁい」
美堂家で迎える初の祝日という事で私もこーちゃんもテンションが上がってる。朝っぱらから陛下のご生誕記念を祝う日本国民の鑑のような私達の姿に美堂一家も感嘆の眼差しだ。
「蘭子、お母さん仕事行ってくるから」
「痴れ者がぁ!!今日は陛下の誕生日を祝う日ぞ!?ケーキを買ってこんかぁぁ!!」
「…あんたが家吹き飛ばしたせいで休日返上で働いてんのよこっちは!!」
偉大なる母上、出撃。
そして美堂パパはテレビの前で寝転び、こーちゃんが真似し、美堂ママが洗い物を片付け、陽菜が部屋に引きこもり…
「やだやだやだケーキ買って買って買って買って!!」
私は陽菜にごねていた。
桐屋家はお隣の松浦さん家を巻き込んで吹き飛んだおかげで莫大な借金を背負ってる。家もなく、美堂家の狭い家で我慢して居候する程度には金がない。
桐屋蘭子、必殺のおねだり。
「ケーキ食べる食べる食べる食べる食べる食べる食べるっ!!」
「…蘭子」
床で回転する私に陽菜が蔑んだ眼差しを向けてくる。しかも目が死んでる。その上腐敗してる。
「明日なんの日か知ってる?」
「明日なんてどうでもいいっ!!私達は今を生きてるっ!!」
「明日受験」
だそうです。
「……へー……」
「……蘭子」
「何度も言わせるな、陽菜。4月10日に地球滅亡だ。私達の高校生活は開始と同時に終了する」
「……蘭子、一緒の高校行くって言ったじゃん」
震える陽菜の懇願。まぁ……友がそこまで言うのなら……
「分かった。明日何時起き?頑張って起きる」
「……勉強しなよ。ここが最後の正念場なんだから…」
「ふっ……陽菜…直前で焦ったって何も変わらないんだよ?こういうのは日々の積み重ね」
「……私は積み重ねた。その上でのスパートなの。蘭子は?分かってる?偏差値75だよ?」
「私、頭いいもん」
「……昔は良かったらしいね」
聞き捨てならねぇ。
「舐めんてじゃないわよ。この桐屋蘭子、昔は震度8って呼ばれてたんだから!間違えた!神童って呼ばれてたんだから!」
「……じゃあこれは?」
問題
次の計算式を解きなさい
8+9=
21+15=
18-7=
31×3=
18÷2=
2 個のサイコロを同時に投げるとき目の和が 7 となる確率を求めよ。
「……青藍ってこのレベルなわけ?これで偏差値75?」
「……青藍じゃない。今の蘭子のレベルだよ」
「舐めんじゃねーっ!!」
8+9=19
21+15=2115
18-7=31.3
31×3=√298
18÷2=1,289,667
2 個のサイコロを同時に投げるとき目の和が 7 となる確率を求めよ。
(解答)
目の出方は全部で 6×6=36(通り)
このうち目の和が 7 になるのは(1,6)(2,5)(3,4)(4,3)(5,2)(6,1) の 6 通り。
よって、求める確率は6/36=1/6
「……これが正解」
正解回答
8+9=17
21+15=36
18-7=11
31×3=93
18÷2=9
2 個のサイコロを同時に投げるとき目の和が 7 となる確率を求めよ。
(解答)
目の出方は全部で 6×6=36(通り)
このうち目の和が 7 になるのは(1,6)(2,5)(3,4)(4,3)(5,2)(6,1) の 6 通り。
よって、求める確率は6/36=1/6
「…………(汗)」
「……蘭子…なんで最後だけ合ってるの?」
「バカな……あれ?陽菜ちゃん?これもしかして……まずいのでは?」
桐屋蘭子15歳。公立高校入試前日にして自分の学力不足を……予感した。
*******************
「陽菜のパパン♡」
「ドキッ」
「私、パパが居ないから…ずっとパパに憧れてたんだよね……」
「蘭子ちゃん……いいんだよ。本当のパパだと思ってもらって……」
「パパン♡お願いがあるの」
「なんだい?///」
「うち家が吹き飛んで貧乏でお小遣い貰えないんだ…」
「いくら欲しいんだい?///パ、パパのカード…使うかい?」
「贅沢は言わないよ……ただ…ヨーグルトソース食べたいな♡」
「パパが買ってきてあげるよ///」
娘の友達のリアルJCとひとつ屋根の下…陽菜のパパを陥落させるのは容易かった。
そうして手に入れたヨーグルトソース…そう、受験対策だ。
陽菜からの洗礼を受けて危機感を覚えた桐屋蘭子。勉強会でちょっとみんなと同じ高校に行って少しでもJK生活、満喫してみようかなって気分になってるこの蘭子、このままじゃいけないと一念発起。
私は地球滅亡を予知する令和のノアだ。
ならば……明日の試験の問題くらい予知してみせる。時空のおじさんの出番だ。
ということで……
「ただいまー」
「…桐屋さん、あの……蘭子ちゃんが……」
「どうしました?奥さん。晩御飯は?」
「…蘭子ちゃんがうちのフローリングに魔法陣描いてるんですけど…油性ペンで……」
「うんばばふんばば!うい!うい!」
「うんばばふんばば!うい!うい!」
「うんばばふんばば!うい!うい!」
「うんばばふんばば!うい!うい!」
時空のおじさん降臨の議、開催。
「蘭子っ!?またサバトやってるの!?しかもこーちゃん巻き込んで!!」
「奥さん。ここ賃貸なんで…ちゃんと消しといてくださいね?あと晩御飯は鯖の味噌煮です」
易者のババア直伝、時空のおじさん降臨の為に必要なもの…
まず魔法陣。
そして供え物。これはヨーグルトソースだ。毎回儀式のあとヨーグルトソースどうするかで悩むんだけど…私は近所の野良猫、ジャバウォックにあげてる。ただ、陽菜の家の近くはテリトリーじゃないらしくてジャバウォックが居ない。
パパにあげよう。
「うんばばふんばば!うい!うい!」
「うんばばふんばば!うい!うい!」
「……蘭子」
「うんばばふんばば!うい!うい!」
「うんばばふんばば!うい!うい!」
*******************
……おぬし
…むにゃ…
起きんか
んん……うるせぇ……誰だお前…
誰だっておぬしが呼び出しとんじゃろが
……はっ!?時空のおじさん!?
わしじゃ
会いたかった訳じゃないけど会いたかったっ!!
貴様……このわしをパシリみたいに呼び出せると思うて--
あのね、明日受験なんだけど全く勉強してないからさ、明日の試験問題予知して
貴様……どこまで腐っておるんじゃ
私が合格しないと友達が泣くの。分かる?それともおじさんが泣く?
このわしを脅かす人間なんぞおぬしが初じゃわい…今まではいいように使われておったがわしとて外宇宙の神……貴様ごとき人間に…
私と毎晩会いたいならそう言えばいいのに。毎晩呼び出して般若心経唱えてあげるのに
分かった分かった。分かったから二度と呼び出すでない。はぁ…こんな奴を『Agの鍵』にするんじゃなかったわい…
あ、そーいえば易者のババアはちゃんと片付けておいたから。良かったね。金儲けのダシにされなくて
全部おぬしが撒いた種じゃろうが…全く。特別な『Agの鍵』の力を今度はカンニングに使うって話じゃったか?
そう。地球滅亡見せたみたいにぱぱっと明日の試験問題見せて?
時空の渡り方は教えたはずじゃ……勝手にせい。二度とわしを呼び出すな
時空のおっさんがなんだか素っ気ないから一人でやる事にする。初夢の時みたいにちゃっちゃか見せてくれればいいのにさ。
道端カンパルノじゃったか?あやつの居場所を探った時過去に戻ったろ……その要領で未来の時空に接続するのじゃ
簡単に言うけどさぁー……
……集中。
私の意識が深く広い時空の流れへ…時間のトンネルを潜るように私の意識のみが加速していく時の流れに乗っていくのが分かる。
簡単に言われただけあって簡単だ…
そして……
……明日の…朝…8時半!ここだっ!私はこの時間試験会場でまさに試験を……っ!!
『くかーーっすぴーーっ』
『おねえちゃん。おきて。ひなねぇちゃん、もういっちゃったよ』
……
どうした?
おじさん。明日の試験日、試験時間に私、家で寝てるんですけど……
寝坊じゃな
え?これも予知に入るんですか?
訪れる未来という事じゃ。おぬし、寝る前に目覚ましをセットしたのか?
ガタガタガタガタ
おぬしという奴は…
助けておじさんっ!!
いや助けてって言われても…わし知らんし……
寝坊とかシャレにならんから!どうすんの!?
だからわし知らんし
うわーーんっ!!
そんな事よりええのか?問題は見んでも
寝坊してんだから意味ないじゃん!?
…未来とは確定されたものでは無い。無数にある世界の可能性のひとつじゃ。おぬしの行動ひとつで、その結末は並行世界の未来へと移り変わる…おぬしが正月、弟を火傷から守ったのを忘れたか?
はっ!?未来は変えられる!?
そういう事じゃ…何も難しくない。起きればいいだけなのじゃから…
でもどうやって…?私目覚ましかけてないのに…
知らんがな
…えっと……じゃあ時間になったら時空のおじさんが起こしてくれるって事で…
なんでわしが
おじさんが言ったんだよ?未来は変えられるって
だからってわしがなんでそんな事せんといかんのじゃ。自力で起きろ。起きるだけじゃろがい
……あのさ?分かってる?私が寝坊するのは夢の中でおじさんとこうして話してるからだからね?夢見が悪いから、寝坊すんだからね?
知るか
責任取ってよね?
だから知るか
じゃあ毎晩呼び出してやる。般若心経唱えてやる
ええ加減にせえよ?いつまでもその脅しだけでわしを脅せると思っとるんか?
それだけじゃないし。お前の呼び出し方色んな奴に言いふらしてやるから
それがなんじゃ。おぬしの戯言など誰が信じるか
私の知り合いの混沌の母にも言ってやるから。あいつきっと、毎晩呼び出すぞ?お前の事
混沌の母…?まさかっ!あやつの眷属か!?ナイアルラト--
もう毎日騒がしいんだから!!
分かった分かった。分かったから。起こしてやるから……おぬし、くれぐれもそやつにわしの呼び出し方教えるでないぞ
…お前も怖いのか。ところで、あいつの信仰してるナイアルさんっておじさんの親戚?
ナイアルさんってあやつの事じゃったのか。あやつはそうじゃな…千の貌を持つ無貌の神…そして我らが主神を嘲りながらその意志を伝える--
まぁいいや。さっさと問題を見に行こう。出題される問題が分かればこの蘭子、勝ち確だもんね
聞け
眠りこける破り去られし未来の蘭子を無視して私、時空の旅へ…
『Agの鍵』の力は全ての時空、全ての空間に接続できる存在。
私の意識は志望校、青藍高校の試験会場へ…
時間はピッタリ…そして当日の試験会場。
陽菜…おかん…居た。みんな頑張って問題を解いてるのが見える
その俯瞰した景色をズームするのじゃ。手元にピントを合わせてズームすれば、問題用紙が見えるじゃろう。意識を集中するのじゃ
神様がズームとかピントとか言うな。イメージが狂うでしょ
やってみよう…
私が集中させたその場所…確かに上から俯瞰した試験会場の景色が拡大されていき、私の視界には答案用紙にペンを走らせる陽菜の手元が鮮明に映し出される。
見える…見えるぞっ!明日出題される問題の全てがっ!!
ふははっ!あーっはっはっ!!これで試験は大丈夫だっ!!事前に問題が分かってる試験なんてうさぎと亀の競争に等しいわっ!!つまり負ける確率ゼロ!!
…おぬしはうさぎなのか?亀なのか?
……いや、待って?
なんじゃ?
…今陽菜が書いてる答えってさ…これ、合ってんだよね?
…そんなん知らんわ。ここで見れるのは出題される問題と受験生の解答だけじゃ
…私は陽菜を信じていいわけ?
だから知らん
…いくら問題が分かっても…私が解けなきゃ…意味が無いのでは!?
ようやく気づいたのか。愚かな…
ぐっ!!…くっ…くそっ!私はどうしたら…っ!!いや…そうかっ!!
なんじゃ
分かる人に解いて貰えばいいんじゃん。ネットとかで訊けばいいんだよ
そうじゃな。じゃが桐屋蘭子。おぬしがどういう作戦を企てようとじゃ…まずこの場で目にした問題を全てここで暗記せねばならん。それは分かっておるな?
…はっ!?
ここは言うなればおぬしの意識のみの世界。当然メモなんかできんぞ?
……
覚え切れるのか?全5科目、100問以上の問題を…
…………(汗)
まぁ時間はある。頑張るのじゃな
冷徹に突き放す時空のおじさんの言葉に、実体なき世界で垂れるはずのない冷や汗を感じた。
桐屋蘭子の長い長い暗記の時が幕を開ける…
地球滅亡まであと46日…




