52日目 Y〇utubeのtって大文字じゃね?今気づいたわ
こんちくわ。あたい、桐屋蘭子ちゃん。
今コーチョー室に居んの。
『『万華鏡』公式チャンネルにようこそじゃ。わしじゃ』
『……』
『こっちは孫じゃ。そしてこれが蘭子じゃ』
『アタイ、キリヤランコ』
『今日も早速、蘭子の占いコーナーからじゃ』
「……ふぉっふぉっ」
私の推し、校長が高らかに笑う。私の目は優雅に泳ぐ。
そんな今日…2月21日火曜日。
昨日の勉強会を経て、地球滅亡するけどその前にみんなと同じ高校に行きてぇな…なんて思ってみたり…
した矢先。
「桐屋…言ったよな?Y〇utubeやめろって…受験にも響くぞって」
校長の隣でイキるのがロリコン教師御嶽原なんだけど…御嶽原が見せてくる占いの館『万華鏡』公式Y〇utubeチャンネル…
そこで不自然に歪みながらカクカク喋る蘭子ちゃんの顔…
「まだ続けてたんだな」
「御嶽原」
「桐屋、もはやお前に俺を呼び捨てにする資格は無い」
「あ?舎弟の分際で偉そうに…焼き牡蠣買ってこいや」
「桐屋ァ!!」
バンッ!!
「ちょっと!机叩かないでよっ!」
「……っ…っつ……」
「……え?ちょっと…?」
「おやおや、御嶽原先生、大丈夫ですか?」
「ちょっと嘘、御嶽原?まさか今の台パンで手折れた?」
「…気にすんな」
「いや凄い汗だけど…」
「今はお前の話だ…桐屋」
「いやいやいやちょっと…」
「先生は真剣なんだぞっ…痛っ…」
御嶽原、教え子を思う余りの台パンにより手首骨折。
御嶽原無念の途中退室。彼の無念を胸に…「むねん」と「むね」をかけてんだよね。なんちゃって☆てへっ♪
「校長先生…先生は私の推しなんだよね」
「おやおや…」
「だから分かってほしいんだけど…」
「何をですかな?」
「この動画さ、よく見てもらったら分かるんだけど、どう見ても合成とAIだから。口元がふにゃふにゃ歪むみたいに動く以外微動だにしない私の姿に、違和感を感じない?」
「…えーあいとかには疎くてですね…つまり?」
「私、こんな動画出てません」
蘭子、高校行きます。
「ふぉっふぉっ…そうなのですか?」
「うん」
「説明してくださいますか?桐屋さん」
「校長!この人無断で私の写真とか名前を動画で使って金儲けしようとしてるんです!私嫌って言ったのに…無理矢理…(涙)」
「ふぉっふぉっ……(震)」
「……?先生?」
「…………(怒)(震)」
いつもの朗らかな笑顔の裏に隠しきれない怒気を感じる。小刻みに震える校長の姿に蘭子、衝撃を受けた。
「こーちょー…」
「どうしてもっと早く言ってくれなかったのですか?桐屋さん…辛かったですね」
推しの手が私の肩に触れているっ!!
「ハァハァハァ…(興奮)」
「後は先生達に任せてください。ふぉっふぉっ」
*******************
というわけで…
私と御嶽原(骨折)は忘ヶ崎にやって来てた。
「……電車に2人で並んで座ってっとさぁ…なんか私達、恋人同士に見えちゃうかもね」
「よせっ!!俺には愛する女が居るっ!!」
美少女蘭子ちゃんを意識しすぎなおバカ、さっさと先に行く私に置いてかれてただただ1人で叫んでるヤベー奴だ。
「くそっ…どうして俺が…」
「担任として、生徒を救うのは当然の仕事でしょ?私の不本意なY〇utube活動を辞めさせてくれるんだよね?」
ちなみに御嶽原は粉砕骨折だったらしいよ。教師には労災も有給もないんだって。
…私の名前を勝手に使って悪どく稼いでる易者のババア…ついに奴も終わる日が来たか。
白浜の混沌で息の根を止める算段だったけど、予定が変わった。大人の力を持ってして奴を叩き潰す。
……その後二度と令和のノアの威光に縋ってこないようにこっそりとどめを刺す。
奴のこってりな血を浴びて蘭子にっこり。なんちゃって。
さて…いつぶりだろう…あのバナナ事故の直前ぶりに私はこの家の前に立つ。
「たのもーー」
ドンドンッ
「桐屋、インターホンあるぞ?」
「たのもーーっ!!」
ドンドンドンッ!!
「おいよせって…!折れるって!!」
「たーーのーーもーーっ!!!!」
ドンドンドンドンドンッ!!
「たのんでんでしょ!?おぉいっ!!」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンッッ!!!!!!
「よせっ!!桐屋っ!!」
何回叩かせんだいまったく…と思ってたらようやくボロっちい扉が小さく開く。
そこから顔を覗かせたのは……
「……桐屋蘭子」
やつれて青白い顔色、目の下に隈を作った…易者のババアの孫。通称孫だった。
そして私が桐屋家借金返済の為設立予定のY〇utubeチャンネルのブレーンとして起用予定の、孫です。
Y〇utuber引退の為に来たのにY〇utubeデビューを画策する女、桐屋蘭子…
矛盾した企みを腹に抱え、いざ……
「マスかきに…間違えた助けに来たぜ」
「サイテーです」
……さて。
クレーム入れに来た蘭子一行を前に現れたのはカオス極まる惨劇の現場。
「それぢゃ来週はドキドキ質問コーナーの時間じゃから、質問どしどし待っとるぞい♡あっ、えっちなのは禁止ぢゃから♡バイバイチュッ♡」
梅干しに人体生えたみたいなしわしわババアがカメラの前で投げキッスしてるという、この世の悪夢のような光景。
「……うっ」
御嶽原吐きそうだ。
「……ふぅ…孫、すぐに編集しとくんじゃ」
「……ババア、私もう3日も徹夜…」
「何を戯けたことを…ここ数日再生回数が落ち込んどるじゃろ。おぬしが編集で手を抜いとるからじゃ。しっかりせい。こういうのは毎日の積み重ねなんじゃから1日も休む事は許されんのじゃ。今日の20時にアップするでの、それまでに間に合せい」
「…………うん」
これは新手の虐待ですか?
「お待たせしたの」
「あ……どうも……舎弟の御嶽原です」
あまりの恐ろしさに御嶽原、自分で舎弟とか言っちゃうくらい動揺してる。
一方の私はと言うと…
「……コメント読んでる?ババア。最後の挨拶がキショすぎてチャンネル登録解除するって来てるぞ?」
「バイバイチュッ♡の事か?バカな…嘘を吐くでない。さてはおぬし、ワシの人気に嫉妬しておるの?」
震えが止まらない。人の自意識はここまで肥大化するものなのか……
「あのですね…えっと……うちの桐屋の写真を動画に使ってる件なんですが…」
「そうだ!文句言ってやる!このオババ!梅干し!!」
「それは文句じゃのうて悪口じゃわい」
「私の写真勝手に使ってAIで喋らせないでもらっていいですか?(怒)」
令和のノアの力にあやかってボロく儲けようと画策する強突く張りオババ…しかしその返事は予想外のものだった。
「ああ、おぬしを雇うとか言うたな…じゃがもうええわ…」
まるで羽虫でも払うみたいにシッシッて…失礼しちゃうんですけど…は?なんスか?
「何がいいのさ」
「おぬしの『Agの鍵』の力でがっぽがぽを狙おうかと思っとったんじゃが…今のワシにはゆーちゅーぶがあるでの…おぬし、ここに顔も出さんしもうええわ。おぬしはクビじゃ、クビ」
「だから雇われた覚えないんですけど?(怒)」
「ゆーちゅーぶの方はの、このワシの人気のお陰で順調じゃて。もはやおぬしの力など必要ないのじゃ。ざまぁみろじゃ」
「さっき再生回数落ちてるとか言ってたくせに…」
「やはりの……若者はめんこい女が好きなんじゃ。そこにきてこのワシじゃ。わかる?おぬしのくだらん占いより、可愛いワシにみんな期待しとるんじゃよ」
「勝手にくだらねー占いしてんのお前じゃん」
「『万華鏡』公式チャンネルは占いチャンネルから方針転換して今後はワシのぶいろぐとか、メイク動画とか、下着紹介とかそっち方面で売り出す事にしたわ。おぬしのようなお子ちゃまぺったんがワシの大人向けチャンネルにこれ以上出ても、りすなーがシラケるだけじゃからな。今まではおぬしの顔を立てて出演させてやっておったが……おぬしなんて…クビじゃっ!!」
「……誰がお子ちゃまぺったんだって?」
「はよ帰れ!!」
「誰がお子ちゃまぺったんだって!?(怒)」
聞き捨てならねーぜ。しわしわ垂れ乳にそこまで言われるほどこの桐屋蘭子、落ちぶれちゃいねーぜ!!
「桐屋もうよせ。もうお前の写真使わないって言ってるんだろ?よく分からんけど…良かったじゃないか。話は終わりだ」
「離せ御嶽原!!」
「帰るぞ!!」
「お前は何か勘違いしてる!!お前みたいなババアに需要があるわけないだろ!!ババアの下着紹介なんてコンプラ違反だっ!!」
「桐屋っ!!」
ババアが鼻で笑った!!ムカつくっ!!死すべし!!
「私が動画出た方がぜーーったい再生数伸びるもんね!!」
「おい!話が違うぞ桐屋!!」
「小娘が…ゆーちゅーぶの事なんも知らんくせに」
「んだとこら!!」
「ゆーちゅーぶはええぞ?占い一筋78年…潤いのない人生じゃった…じゃがゆーちゅーぶに出会ってワシは変わったんじゃ。ワシの人生ここから始まるんじゃ」
「人生の終点間際で何言ってんだ(怒)」
「ゆーちゅーぶで広告収入入るし趣味の話とかできるし…りすなーが沢山ついて人気者じゃし……ワシは今人気者なんじゃ。分かる?」
「目を覚ませババア。何かを勘違いしてる。お前のようなババアがネットで人気者になれるもんか」
「ワシ、ゆーちゅーぶで生きていく」
「老い先短いクセに若者の真似事して若返った気になってんじゃねー!!(怒)」
「落ち着け!桐屋帰るぞ!!」
「取り消せよ!!お子ちゃまぺったん取り消せよ!!」
「桐屋ァ!!」
*******************
「……私のお父さんは…お母さんの乳より大きい知らん女の乳を選んだ…(怒)」
「分かったから落ち着け」
「私は巨乳と!貧乳をバカにする奴だけは許せねーっ!!そして私はぺったんじゃないっ!!」
「分かったから!お前はデカいよ!!」
「…………は?キッショ」
「なんなんだお前はもう…(涙)」
ババアの家の前で怒りが収まらない蘭子ちゃん。このまま帰るわけにはいかない。
それにしてもあのババア…私の『Agの鍵』の力にあんなに夢中だったくせに…一体どうしたってんだ。
あんな風に無下にされるとそれはそれでムカつく…
「……何とか『万華鏡』チャンネルに復帰して私の人気で再生数爆増させて見返してやらなきゃ気が済まない」
「Y〇utube辞めるために来てんだよな?桐屋」
どうしてやろうかと腸ぐつぐつな私達の前で玄関がそっと開いた。そこには私の小児性愛センサーに反応しない女、孫が立ってる。
孫はフラフラと頼りない足取りで私達の前に……
「桐屋蘭子……私……もう無理」
「孫っ!?」
「酷い隈だな、一体どうしたんだ?」
何も知らない御嶽原に説明してやろう。あのババアがどれだけ非情なババアかを…
「ババアは自分のチャンネルの運営をこの孫に丸投げして、酷使してるんだ」
「なんてババアだ……」
「桐屋蘭子……このままじゃ自分のチャンネルを作る前に過労死してしまう…ババアを殺すって計画はどうなってるんですか?」
「え?殺す?」と御嶽原が何かに勘づいたけど、まだ「またしても何も知らない御嶽原」のままで居てもらおう。うるさいから。
「……やはりババアを消すしかないな」
「桐屋、今なんて言った?」
「でも孫。金儲けの為に始めたY〇utube…なんでババアはあそこまでのめり込んでるの?」
孫はスマホを見せてきた。私が小学生の頃なんてスマホなんて持たせてもらえなかったのに…許せん。
孫のスマホには『万華鏡』公式チャンネルの動画、そのコメント欄が表示されてる。
曰く……
今日もババア最高です
ババア可愛い
パンツ見せて
ババア以外要らん。ババアもっと出せ
私は港区在住の72歳会社役員です。宜しかったらお茶しませんか?DM待ってます
「……なんだこれ(震)」
「『万華鏡』公式チャンネルの登録者のうち95%は男性…しかもほとんどが65歳以上の高齢者というデータが出てます」
え?そんなしわくちゃチャンネルで私、コンテンツとして消費されてたの?
「…最初はバナナ事故の生き残りというあなたのネームバリューで再生数を伸ばしてました…ですが、あなたが私達のチャンネルに出演してくれないせいでAIで偽造した偽桐屋蘭子ばかり出してたら炎上し始めて…何をとち狂ったのかババアはテコ入れだと言って自分を全面的に出すようになったのです。そしたらネットで「クレイジーなババアが居る」と少しバズったようで…」
「クレイジーなババアって……何したのさババア」
「行水しながら占ってみたとか個室サウナで明日の天気占って当たるまで出られませんとか…」
「出してんの肌ばっかりじゃん。シワシワの肌じゃん」
「そしたら高齢独居男性のハートを掴んだらしく……まぁ、高齢女性のお色気系動画というのはなかなかないジャンルですから…」
「ねぇよ。需要が」
「独身高齢男性のアイドルになってしまってその結果ババアが調子に乗ったんですよ」
だそうです。
孫は涙ながらに語る。
「来る日も来る日も動画制作…学校にも行けず……私はこのまま死ぬんでしょうか…」
「おのれババア…」
「桐屋蘭子……助けて……」
孫の震える手を振り払える者がどこにいようか…?私は正義の使者、桐屋蘭子。
孫が過労死したら私の借金返済Y〇utubeチャンネルの運営誰がするんでい。
……そして確信しました。
やはりこの孫は有能だ。次は私のチャンネルで馬車馬のように働いてもらおう。
「……任せろ」
*******************
私達がやって来たのは児童相談所って所らしい。
白浜が復活してれば今すぐババアを混沌で始末できるけど、まだ退院出来ないらしいし、悠長にしてたら孫が死にそうだし「いつになったらチャンネル作るんだい!?僕は衣装用意して待ってるんだけど!?」ってカンパルノ妹がやかましいし……
「桐屋落ち着け…あとは先生に任せるんだ」
「舎弟が意見してんじゃないよ。いい?御嶽原。これが任侠に生きるって事だから、よく見とけ」
「本当に落ち着け、桐屋」
たのもう。
「相談受付小金井です。ご要件をお伺いします」
「児童虐待が起こってます。私は怒ってます」
「詳しくお伺いします」
「易者やってるババアの所の孫なんですけどね…ろくな休養も与えずに過重労働させてるんですよ」
「……?」
「桐屋、職員さん困ってるだろ?」
ピンと来てないらしい。
そんな小金井君にはババアのチャンネルを見せてやる事にする。
「これを見てください」
「……これは?」
『どーもー♡『万華鏡』公式チャンネルの占いババアだよっ☆きょうわ〜っ…お楽しみの、コスプレ企画〜っ☆早速もう着てるんじゃけど、これ、かわいいじゃろ?『想像のフリーランス』のコスプレじゃ♡』
そこに映し出されるのはポップなBGMと字幕の付いた特級呪物だった。
動画投稿初期は登場してた孫の姿は一欠片もなく、ひたすらババアがコスプレしているという災害現場もかくやというグロテスクな光景…
カンヌのホラー映画祭とかで上位狙えるおぞましさがそこにはある。
「…………こ、これは…?(汗)」
「これが虐待してるババア」
「……はぁ(汗)」
「これ作ってるのが孫」
「……はぁ(汗)」
「これ作る為に毎日毎日強制労働。これ、虐待ですよね?」
「…………ちょっ…とよく…分からないですけど……(汗)」
「は?虐待されてんですけど?」
「これだけではなんとも…(汗)」
「おい、お前らがそんなんだから可哀想な子供が減らないんじゃないの?」
「よせ桐屋、帰るぞ」
「このままじゃ孫が過労死するんだけど!?」
日本の児童福祉に対して憤る正義の使者の剣幕に、小金井「ちょっと上の者呼んできます」って逃げた。
相談受付に取り残された私達と、流され続ける汚物。
こんなものを垂れ流してインターネットを浪費しながらついでに児童虐待までやってやがるババアに国の正義はどう答えるのか…
…………散々待たされた結果が「後日詳しく調べます」だった。
やはり孫を救えるのは私しか居ない……
孫を救うタイムリミットまであと48日…




