51日目 あと半分
昨日は何もありませんでしたね?
そりゃそうさ。休日ってそんなもんだろ?
桐屋蘭子15歳。
4月10日に地球に巨大隕石が衝突して滅亡する未来を予知した中学生。
2月20日月曜日…地球滅亡まであと、50日…
地球滅亡までの100日間……折り返しとなりました。
そんな記念すべき?今日。何すんだい?って話で……
べんきょきゃいすりゃ!って事で……
今宵、放課後に乙女達の宴が開催されるは忘ヶ崎駅最寄りのバーガーショップ。なんか期間限定のトリュフバーガーが販売されてるんだって。
残り50日…そんな運命を背負った友人達が1つのテーブルを占領してた。
「……蘭子、あんた口どうしたのよ」
おかん、阿部波圭。こいつなんで居るんだ?
「……とりあえず、声掛けられる子には声掛けといたから…蘭子、これも全て蘭子の為だからね?」
べんきょきゃい進行役、死んだ目玉こと美堂陽菜。
「りょうしちぇ知りゃりゃい人来てりゃ?」
滑舌おばけ、沖雅。べんきょきゃい発案者がおかんに喧嘩売ってる。
「……とりあえず、トリュフバーガー食いたい」
そして主役、桐屋蘭子ちゃんだ。あ、マスク代わりに顔の下半分を包んでる包帯は昨日の激辛ラーメンにやられたせいだから。
でも、トリュフバーガーは食うから。
「ごめんお待たせ」
そして……VIPの登場だ。
「っ!?陽菜!!風花さんまで呼んだの!?失礼じゃん!?」
「……呼んではないけど、話したら行っていい?って訊かれたから…」
「……邪魔なら帰るよ」
「滅相もございません。お座り下さいっ」
我が校の不可侵領域、風花灯さんである。
桐屋蘭子公立受験合格祈願べんきょきゃいのメンバーは以上だ。
「……私ぎゃ言い出しちゃにょに私ぎゃ一番アウェー……」
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「お待たしゃ。ビャーギャー持ってぁ来ちゃ」
パシられた雅が噂のトリュフバーガーを受け取って戻って来た。バーガーショップの主役とも言えるバーガーの登場を出迎えるには、今の机の状況は悲惨だ。
なぜなら、つまらない文字と数字の羅列された参考書に埋め尽くされていたから…
「あーーっ!!飽きた!!もうやめる!!」
「蘭子…まだ3分も経ってないわよ?ほら、せめて1問だけでも解いて?」
「おかん!目の前にバーガーがあるのに勉強なんてしてる場合なんスか?」
「もぐもぐ…誰の為に集まったと思ってるの?」
「……もう食ってるし…」
「……おかん、美味しい?それ」
「陽菜、トリュフって食べた事ある?私は初めて食べたんだけど…」
「……うん」
「これがトリュフなんだって感じ」
「……?」
おい、私が頼んだコーラがゼロじゃないか。
「おい雅、私のコーラがないぞ?全部ゼロじゃないかこれ」
「どりゃぎゃジェロときゃ分きゃるのにゃ?」
「確か上のフタの星みたいなのが潰れてんのがゼロだ」
「……全部潰れてる」
「どういう事だ雅」
「でゃってりゃんこ、キョーリャとしぇきゃ言わりゃっきゃっにゃ?」
「お前さ…コーラ頼んで糖類ゼロのやつ飲むバカが居るか?」
「ごめんね?ゼロで」
「あっ…すみません風花さん、全然いいッス。意識高いっス」
これ以上は風花さんをディスる事になってしまうからゼロで我慢する。
…そして蘭子はひしひしと感じてた。
この空気感。ファストフード店で駄弁る女学生…これはこのままなし崩し的に勉強会という名だけの放課後女子会にシフトするに違いない、と…
「ふはははははははははっ」
「ほら、蘭子。重要なポイント纏めたから、解いて」
「おかん空気読も?」
「私は蘭子と同じ学校に行きたいのよ。心を鬼にしてこうして勉強見てるの。ほら頑張ろ?」
「……ウン( . . )"」
「私と陽菜と同じ学校行くんでしょ?」
「……ウン( . . )"」
私達のやり取りを風花さんが頬杖ついて、微笑みながら見守ってる。ガヤガヤとやかましいこの空気感を楽しんでるみたい…
もしかしたら風花さんはこういうの初めてなのかもしれない…
「…気になってるんだけど、阿部波さんのその「おかん」って呼ばれ方はなに?」
「ああ……これは蘭子と陽菜が私の事お母さんみたいだからって…なんか恥ずかしいな」
「それは体型的な意味で?」
「え?喧嘩売られた……?」
「私もおかんって呼んでいいかな?」
「風花さんが……?えー…なんか恥ずかしいな…」
「もう少し仲良くならないとダメかな?」
「そんな事ないけど……」
こうして話してみれば風花さんは案外普通の女の子なんだ。ただ美少女で(蘭子と並ぶレベルで)近寄り難い雰囲気があるだけで…
「……沖さんは蘭子との付き合いは長いんですか?」
ここで唯一学校の違うアウェー、沖雅に陽菜がメスを入れた。そしてこの滑舌おばけに質問を投げるとは陽菜もなかなか度胸があるな。
「私ちょりゃんこにゃ…中学にゃにゃってぇ知りゅ合っちゃ」
「……なんて?」「本当に何言ってるのか分からないわ」「流石、桐屋さんの友達だね」
「……( ・᷄ὢ・᷅ )」
仕方ない…雅語の解読にはもう少し修練が必要だから私が翻訳してやろう。
「雅とは中学になってから付き合い始めたの。偶然どっかのどっかで一緒になってね」
「情報がまるでないね」
「いやぁ……風花さんだってさ?道端歩いてる蟻んこの顔、いちいち覚えてないでしょ?私にとって雅との出会いって、蟻んこと大差ないから」
「しゅばきゅじょ?」
「あれはねー……多分マルイウィークのフードコートだったかな?ほら雅って喋れないじゃん?まともに…」
「にゃんだど?」
「私の隣でさ何言ってんのか店員さんに伝わってないトンチキがいてさ、優しい蘭子ちゃんが助けてあげたわけよ。それが出会い…その後知ったんだよね。雅の家が金持ちって」
「……へー…」
「お金持ちなんだね」
「じゃあここも奢りかな?」
「……え?割りゅ勘…」
しかし……そんな雅が一人でバーガー注文して持って来るなんて…
「あの雅が店員とコミュニケーション取れるようになった事が……あたしゃ嬉しいよ。成長したね?雅」
「……じゃあ次は蘭子が成長して?」
空気を読めない腐った目玉、略してKYKM、陽菜。私のバーガーを押しのけるように押し出してきた参考書を網膜に1ピクセル入れただけで体が拒絶反応。
「うっ!!無理っ!!」
「蘭子、ほら頑張れ?」
「……おかん、甘やかすから蘭子がどんどん勉強しなくなる」
……大体さ?この世界は4月10日には消え去るってのにさ?
「……そもそも高校生になっても通うの10日くらいだし…なんかもう……そこまで真剣にやる意味感じなくなっちゃった…私、Y〇utuberになるし……」
「……また蘭子がバカなこと言ってる」
「あのさ、陽菜。そろそろ信じようか?4月10日に地球に隕石落ちるんだから」
「そりゃ、他にょ人にゅも言っちぇたりょきゃ!?」
「……もしかして、沖さんも聞きました?この戯言」
陽菜と雅のやり取りにおかんは呆れながらハンバーガーを丸呑み。お前の食い方の方が呆れるわ。
そして風花さんは「何その話」って興味を示してきた。
……風花さんとも友達になった訳ですし…やっぱり友達には伝えとかないとね…
「……風花さん、実はね…私元旦の初夢で見ちゃったんだよね…地球に超巨大隕石が落ちる予知夢」
「……」
「4月10日にこの星は滅亡するんだ……」
さっきまで声が途切れなかったテーブルが周りの喧騒に呑まれた。ポカンとする風花さんの反応をみんなが見守っているんだ。
でも、私は信じてる。
他のあんぽんたんは信じなくても、この聡明な彼女はきっと常識的感性で受け止めてくれるって……
彼女の人生があと50日で終わる。その事実を告げるのは心苦しいけど……
「……桐屋さんはその夢を、信じてるの?」
「だって、私予知夢見れるもん」
「……へぇー…」
「え?なんスかその反応……」
「……地球滅亡クラスの隕石ってどれくらいの確率で降ってくるものなのかな?」
「もしかして……信じてない?」
「…………信じてるよ?」
いや、今の間は信じてないよね?
「残念なのは分かる。でも現実を受け入れて前を向く事も必要だ。私達はあと50日後に死ぬ」
「大変だ」
「信じてよぉ!!!!」
読める……友の心の声が。また蘭子がご乱心だ、みんなきっとそう思ってる…
「ほら蘭子、もう分かったから勉強しよ?」
「黙れおかん」
「これ解いたら黙るわよ。ほら「(1)一般角θに対して、sinθ、cosθの定義を述べよ。
(2)一般角α、βに対して、次の式を証明せよ。
sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ
cos(α+β)=cosαcosβ−sinαsinβ」」
「(1)単位円(半径1の円)を考えたとき、円周上の点をP(x、y)とする。OPとx軸のなす角をθとするとx=cosyθ=sinθと定義される…etc(怒)」
「……え?凄い…(汗)合ってるか知らんけど…」
「なんつったおかん。ふざけんな答え用意しとけ?」
「……なんだか難しい問題やってるけど、君達の志望校ってどこ?」
おかん特製問題集にドン引きする風花さんが尋ねてくれました。お答えしますよ。ええ。今の私は、どんな問題にも答えますとも?ええ。
「青藍」
「え、すごいね……難関校だ。青藍を目指すなんて桐屋さん実は頭いいでしょ?」
「いやぁ……それほどでもありますけど?ちなみに、風花さんはどこなの?もしかして進学せずに起業とかするんスか?」
「しないよ。実はね…私も青藍なんだよね」
えーっ!という声が上がる。ここに居る4人が同じ高校志望だなんて。
そして青藍を持ち上げる事でサラッと自分の頭の良さをアピールしたのを私は見逃さなかった。
「……私だきゃまちゃアウェー…」
「……じゃあ風花さんも試験日一緒なんだね。当日はみんなで待ち合わせて行こう」
「腐った目玉のくせに珍しく協調性のある事を言いやがる…」
「……蘭子と二人で朝一緒に家出て試験会場まで向かうのは嫌なの」
「は?」
「ごめん美堂さん……私は推薦入試でもう決まっちゃったんだよね」
「……あっ、そうなの…」
「陽菜、私も当日は一人で行くわ。大事な時は一人で集中したいから」
「……おかんまで…」
「陽菜……そんなに私と一緒に受験行くの嫌なわけ?(怒)」
「……そんな事より、ナゲットのソースマスタードにしたの…誰?私、BBQソースじゃないと嫌なんだよね…」
「無視すんな、陽菜。おい」
親友からの裏切りに心傷つけられながら…
友達と同じテーブルを囲んで勉強会とは名ばかりのワイワイした時間を過ごして…
友達同士の輪も広がって…
……嗚呼。
こんな時間がずっと続けばいいのにな、なんて柄にもなく思う私は、もしかしたら少し疲れてるのかもしれない。まぁ受験生ですから?
みんなの楽しそうな笑い顔を眺めながらふとそんな事を考えて、そして地球最後の日までのタイムリミットを意識する…
白紙のままのノートを抱えて店を出る頃にはもう夜。1日がまた過ぎていく。
地球が滅亡するまであと49日…




