48日目 桐屋蘭子、オリジン
場所は手術室。手術は4時間にも及んでもまだ終わらなかった。
桐屋蘭子、眠い…
一体何が起こったのかというと…
白浜が発光した。目が見えなくなるほど強く。
んで外に連れ出そうとした。
そしたら鉄パイプが頭に刺さった。どうやら近くの工事現場から吹き飛んできたみたい。現場に元やり投げオリンピック日本代表選手が働いてたんだけど、突然血が騒ぎ始めて投げちゃった、と。
これも混沌の力だろうか。
「…蘭子」
現場に居合わせた死んだ魚の目、陽菜が隣で眠そうな顔をしながら声をかけてきた。ところてん、私達は何故ここに?
「…これ私達、なんとか罪に問われない?」
「白浜が死んだら問われるかもしれない」
「……死ななくても問われない?」
「問われるかもしれない」
迷惑防止条例違反とか……
「……蘭子、もし警察に捕まったら私とあなたは他人、今日たまたま知り合ったって事にしてね?私は何も関係ない」
「お前を主犯にしてやるからな?」
もう夜も遅い。居合わせた以上ここに居なきゃダメかなって手術終わるの待ってんだけど、そろそろ帰ろうかなって思って私達が腰を上げた時だった。
「もし、そこのお方」
「あん?」
非常灯の明かりだけに灯された薄暗い廊下。靴音が床を叩く音と一緒に真っ白な服に身を包んだ2人組のおっさんおばさんが現れた。首から鈴を下げててやかましい。
「もしや、白浜玲美のご友人ではないでしょうか?」
おっさんが問いかける。
「違います」
「……私達、何も知りません」
「私、白浜玲美の父です」
「母です」
らしいです。
「言っとくけど、慰謝料は払わないよ?うち、家の立て直しで家計が火の車なんだから」
「……蘭子、余計な事言わないで」
「やはりそうですか」と、何がやはりなのかおじさんが呟く。
「突然ですが我々、外なる世界の神々を信仰しておりまして……」
「は?」
「お二人は、混沌の力を信じておりますか?ありがとうございます。こちら、当教会の入信書になるのですが……」
「あなた、今はそれより玲美の心配を…」
「そうだった……混沌の器たる我が娘の身に何かがあれば、世界は無秩序なる混沌に埋め尽くされるでしょう…」
こいつらやべー。
「……あの、娘さんのご病気の事は知ってるんですか?」
「混沌からの贈り物の事ですか?」
「いや違くて……頭に出来てるオデキの事」
「……蘭子…オデキじゃなくて腫瘍」
「ははは、混沌なる神ナイアル様からの贈り物でございます」
「おほほほほ…ふたぐんっ!」
「……いや、余命半年なんスよね?」
「娘は混沌と化すのです」
「おほほほほ」
白浜は既に混沌と化してるけど…それにしてもこいつら何言ってんだ?話が通じねー。どうやら白浜の異常な思考回路はこいつらのせいらしい。
その時だ。
ガチャンッて手術室の扉が開いた。中から忙しなくストレッチャーが滑り出してくる。その上には頭包帯ぐるぐるの白浜が…
「ふたぐんっ!」
「にゃる!しゅたん!!」
「離れてください!」「離れて!」
イカれた両親がストレッチャーと共に走り去っていく……そして血まみれの手術服を着た先生が遅れて登場だ。
「終わりました」
と言うので…
「あ、ご苦労様です。じゃあこれで」
「……蘭子、薄情過ぎない?」
ようやく帰れると思ったのに「話くらい聞いたらどうだい?」と半ギレの先生に呼び止められた。一番聞かなきゃいけない2人は走り去って行ったけど、眠たいのを押し殺して話を聞くことにする。
「話ってなにさ」
「いや手術の結果ですよ……とりあえず、手術は成功しました」
「え?あいつ生きてるの?」
「なんかあんまり嬉しそうじゃないですね」
「いや別に……」
陽菜が腐った冷たい目を向けてる。
そりゃ嬉しいよ?あいつが居ないと易者のババア殺せないんだもの。でもさ?あいつが居ない方が世界は平和なんじゃないかって思うんだ。
あいつの頭に鉄パイプ刺さったのも自分の混沌のせいでしょどーせ。
「奇跡です。奇跡的になんかこう…上手いこと隙間に鉄パイプが刺さっていたようでして」
「なんスか隙間って」
「脳の……」
「脳って隙間があるんですね……」
「白浜さんの脳はなんか…穴空いたスポンジみたいな事になってるので。スカスカなんで」
「それって大丈夫なんスか?」
「もう一つ奇跡が起こりました。白浜さんの脳に腫瘍が出来てるのは説明しましたよね?」
「エレキテル?」
「出来てる」
話にならないと判断したのか先生は陽菜の方に向き直ってペラペラ喋り出す。先生の語る奇跡とは一体……
「鉄パイプがその腫瘍を貫通して刺さっていたんです。腫瘍が潰れてました」
「……えっ、なんか……大丈夫なんですか?それ(汗)」
「大丈夫です。鉄パイプを抜く時に鉄パイプに潰された腫瘍もくっ付いて取れました」
「…どういう事?(汗)」
「本来脳の腫瘍の除去は非常に難しい手術なのですが……運良く除去できたって事です。これで白浜さんは助かりますよ」
「……え?その…腫瘍は何が原因だったんですか?」
「なんか未知の病気です」
「未知の病気なのに……大丈夫って断言出来るんですか?(汗)」
「大丈夫です。断言出来ます」
「……蘭子、この病院大丈夫?(汗)」
とにかく、白浜の余命半年は無かったことになるわけだよね?お涙頂戴の映画の原作にならなくて済んだって事だよね?
つまり退院できるんだよね?
「じゃ先生、明日退院できる?」
「いやできるか。頭に鉄パイプ刺さってたんだぞ?」
「じゃあいつならいいのさ(怒)」
「検査して問題なくて抜糸できたらです」
「だからそれいつ(怒)」
「後遺症とかなければひと月くらいで」
長い(怒)
********************
桐屋蘭子15歳。まさかの朝帰り。2月17日金曜日、時刻は午前10時半。
遅刻確定である。
「……そんな…来週には入試が控えてるって言うのに……」
陽菜、絶望。
「こーちゃんただいま」
「おねえちゃん、いってきます」
こーちゃん、入れ替わりで幼稚園へ…
「陽菜!あなた一晩も帰らなくてどこに行ってたの!?」
「…ママ…違う……蘭子が……」
「なんでも蘭子ちゃんのせいにするんじゃないわよ!!」
陽菜ママ、激怒。
「……さて」
そして私は……
「蘭子、お母さん仕事に行くけどあんた今日どうすんの?休むなら学校に電話しときなさいよ?」
「今日は学校行く気分じゃないから休む」
言いながら私は陽菜の部屋の机の前に着席。正面の気持ちいい青空を映す窓を遮り鎮座するのは大きなディスプレイ。ディスプレイに接続されたゲーム機の電源を私は入れる。
公立入試目前の受験生、桐屋蘭子。私が今戦わなければならない相手…
それはRPGゲーム屈指の裏ボスと言われる『金剛阿修羅』だ。
こいつはRPGゲーム『ヤマノテ・オンライン』最強の裏ボスにして、あまりの強さとゲームの進行に関係ない裏ボスという立場故廃ゲーマーからすらスルーされるという悲しき存在。
どんくれーヤバいかと言うと…ヤバい。
陽菜がこのゲームをダウンロードしたのが4年前だけど今だにHPの一割も削りきれず心が折れたらしい。ちなみに陽菜の操作キャラはレベル、ステータス共にカンストのうえ限定最強装備+常時無敵状態付与チートアイテム装備だ。
~BOSSBATTLE~
「……蘭子、学校行かないの?」
「こいつっ!なんて硬さ…っ!!」
「……蘭子、そこ退いてくれる?私、受験勉強したいんだけど…」
「ヤバい!?ハメ技だとぉ!?」
「……蘭子」
「ぎゃあ!?バグって永遠に即死技から抜け出せないうえにチートアイテムで死なないから無限ループにぃ!?」
「……」
********************
……桐屋蘭子とは私、美堂陽菜の友達。時々怨敵。
日が暮れても即死技からのチートアイテムでダメージ無効ループから抜け出せないで怒り狂って私のディスプレイを叩き割ってる蘭子。
そんな蘭子は家族の帰宅にも気づかない……
「……ひな、きょうね、ようちえんで、つばめをうちおとしたよ」
「……え?なんで…?」
晩御飯の後、リビングでこーちゃん君を抱っこしながらテレビを観ていたら仕事から帰ってきた蘭子のお母さんが隣に倒れてきた。
「ぐはぁ!!」
……なんか吐いてた。
「…ちょっと、奥さん!?やだ、救急車」
「ご心配なく……奥さん。ごふっ!残業のストレスによる吐血ですから……」
「……あの、床…後で掃除しておいてくださいね?」
……私のママは無情にも言い残してお風呂に向かった。
蘭子のお母さん…まぁ、つまり…おばさんだけど……おばさんは倒れ伏して床とキスしたまま動かない。他人の髪の毛を食べる習性のあるこーちゃん君に髪の毛をしゃぶられながら、折角用意したご飯にも手をつける様子がない。
干からびたトドの死体みたいなおばさんの姿を見てると、嗚呼、やっぱり蘭子のお母さんだなって……
「……おばさん」
「今なら間に合う。撤回なさい?志乃お姉さん……と」
「…………おばさん」
「……いい度胸ね」
「…突然変な質問なんですけど…どうして蘭子はあんなに変なんですか?」
……血のせいなんだろうか?
我が家に突然転がり込んできたこの家族を見ていたらそう結論付けるしかない。
…蘭子に理不尽に振り回される日々に対して私は答えのない問いをおばさんにぶつける。
「……今日、また蘭子のせいで怒られたうえに、蘭子のせいで受験勉強できなくて、蘭子にPCのディスプレイ叩き壊されたんですけど…」
「……」
「……おばさん、蘭子は生まれた時から変なんですか?」
……友達として、出来れば矯正したい。そう、私が実害を被らない程度に…
……蘭子と出会ったのは小学生の頃。私が蘭子の存在を認識した時には、蘭子はもう変だった。
……おばさんはぐりんって不気味に首を回転させて、私を見た。こーちゃん君が膝の上でビクッてしてる。
「……もしかしたら、変なのは私達かも知れないわよ。陽菜ちゃん」
「……え?」
「普通とか変とか…それは一体誰から見た普通とか変なの?」
「……いや、常識で見ての…………」
「もしかしたら、蘭子の方が普通で、その普通という概念に縛られて息苦しい生き方をしている私達の方が、普通じゃないのかもしれない…」
「……あの…達を付けないでください。おばさんもその……充分……」
「…………まぁでもそうね」
……おばさんは遠い目をした。倒れたまま。絵面的には死ぬ直前。
「蘭子もずっと小さい時はあんなんじゃなかったわね…むしろ、内向的で、いつもムッスリした顔をした子供だったわ」
「……え?(汗)」
……蘭子にそんな過去が…?
「……あれはまだ蘭子がこーちゃんくらいの歳の頃…」
「こーちゃん?こーちゃん、よんだ?」
……よしよしこーちゃん君。今から蘭子の昔話が始まるんだって。
「あの子は暗くて、陰気で、じめじめしてて…」
「…実の娘にそこまで……」
「でも頭のいい子だったわ。今と違って」
「…さっきから娘への誹謗中傷がひどい…」
「小学校に入る前から2桁の掛け算も出来たし、漢字も小学3年生レベルまでなら難なく使いこなし…」
「……え?凄い…」
「お父さんの真似をして新薬の開発にも着手してた」
「え?…………凄い…お父さんが…」
「5歳の頃には地球が丸い事を知ってたもの」
「……それは…どうなんでしょう…知ってる子もいそう……」
……おばさん曰く、昔の蘭子は異常に頭が良くて、インドアで…
「ぼっち」
だったんだって…
『……森には妖精さんが沢山いて、お姫様は妖精さん達の舞踏会に招待されました』
『おかあさん。ようせいなんて、そんなものはそんざいしない』
『……蘭子、これは絵本よ?』
『こんな、きょうようのないほんはよみたくないし、だいいち、らんここれくらいよんでもらわなくてもよめる…』
『蘭子…子供はお母さんの膝の上で絵本読み聞かせてもらうものよ?』
『らんこ、ひかがくてきなそんざいはしんじないの。えほん、きらい』
『そういう発言してる人は一周回って馬鹿に見えるのよ?』
『らんこ、たかだいこうえんで、どじょうちょうさしてくる!さいきんの、まちのざっそうのせいいくじょうきょうあっかの、げいいんをさぐるの』
『蘭子、雑草の生育状況なんかより友達と遊んでらっしゃい』
『そんなことしても、じんせいになんのいみもない』
……とまぁ。嫌な子供だったそうで。
その日もおばさんに唾を吐きかけて高台公園の土壌調査に向かったそうなんだけど…
「……非科学的なものを唾棄してたあの子が、高台公園から帰ってきた途端、豹変してたの」
「……豹変?」
「…帰ってくるなりね?あの子こんな事を言ったのよ」
『おかあさん!うちゅうじんにあった!』
『……宇宙人?』
『たかだいこうえんに、うちゅうじんが、ふじちゃくしたの!!らんこみたもん!!』
『……あのね蘭子ちゃん?宇宙人なんて存在しないのよ?それはきっと、灰色の全身タイツを来たスキンヘッドの変質者よ?警察に届けましょう?』
『ちがうもん!ぐれいがたうちゅうじんじゃなかったもん!!でもらんこみたもん!!』
『どうしちゃったの…蘭子』
『うちゅうじんいたもんっ!!このせかいには、しんぴがみちている!!』
『……(汗)』
『うちゅうじんと、やくそくしたよ!またくるっていってた!!うちゅうじんとはなしたもんっ!!』
『……(汗)』
『あばばばばばばばっ』
『ら、蘭子……?』
『あぁーーーーーーーあぁぁーーーーーーーーーーぁーーーーーあーーーー』
『あっ…あなたっ!蘭子が発狂したわっ!!』
……おばさん曰く、蘭子が壊れた日、だそうで…
「宇宙人に会ったという日から蘭子の奇行は始まったの…お隣の家の物を使って勝手に工作したり、ブリッジしながら町内会のマラソンに出たり、選挙カーに鉤縄付けて引きずられたり、左手首の関節が360°回転したり…」
「……(汗)」
「きっと変質者に何かされたんだわ…ぐすんっ」
「……あの、おばさん」
「陽菜ちゃん…あんな子だけど、これからも友達でいてね?お姉さんとの約束よ?」
……お姉さん…
「……あの、なんというか…その……」
……私思うんだけど…
「……話を聞く限り、やっぱり…宇宙人に会う前から、だいぶ変」
「ちょっと陽菜ーっ!?地球滅亡まであと52日しかないけどそれまでにこの裏ボス倒せんのぉ(怒)!?!?」




