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28日目 キャスパリーグ

 世界の救世主、桐屋蘭子。15歳。

 地球滅亡まで残り73日にして怨敵、舎弟の御嶽原を抹殺することに成功した。


 1月28日土曜日。今日も快晴。こんなに世界が美しいなんて……っ!


「ふんっ!ふんっ!!」

「いいよ……っ」

「ふんぎぎぎっ!!」

「素晴らしい……っ」

「んぁーーっ!!♀」

「その調子よ!桐屋さんっ!!」


 3度目の骨折から早3日。桐屋蘭子、リハビリにてついにスキップまで可能にする。最早トカゲなみの回復力…


「いやぁ素晴らしい回復力だ…君、人間じゃないだろう?」

「失礼な先生。立派な人間ですよ…ある有識者の話によると人の体はストレスを受けるとより強く頑丈になるとかなんとか…つまりこの病院での生活というストレスが私を強くした」

「回復力とは関係なくね?それ…」

「先生、私実家に帰らせていただきます」

「じゃあ明日帰りなさい」


 担当医のゴーサインが出て私よりなぜか担当看護師黛が狂喜乱舞。


「ひゃっふーーっ!!バイバイ桐屋さんっ!!あなたと過ごした日々を忘れないわっ!!」





「……というわけで私、明日で退院だから。さよなら」

「寂しくなります…」


 今日も太陽より存在感を放つ発光美少女、白浜玲美が私の退院を受けて寂しそうな顔をしていた。

 病院の中庭で隣に座るこの混沌の母をまじまじと見つめるけどこいつはなぜ入院してるのか……

 いや、自分の混沌が引き起こしたバナナ脱線事故に巻き込まれたからなんだけどさ…こいつもうピンピンしてない?


「白浜はまだ退院できないの?見たところ私より元気なんだけど……」

「はい……私はまだ退院が許可されてません…なんでも頭部に重大な損傷があるとかで…しばらくは入院生活になりそうで……」

「……」


 何も言わないでおくよ…


「こんなに長いこと入院していたらクラスメイトから存在を忘れられてしまうのではないかと…不安です……2年に進級するまでに退院出来ればいいんですが……」

「お前のこと忘れられる奴、そんなに居ないと思うよ?」

「そんな事より桐屋さん、秘密結社『混沌の夜明け』の事なんですが…」


 お互いにその存在を認知しているような口振りではあるけどこの桐屋蘭子、『混沌の夜明け』なる秘密結社に覚えはない。


「なんの夜明けだって?」

「私と桐屋さんと、桐屋さんの神を信仰している同士のおばあ様とで立ち上げると約束した……」

「してねーよ」

「社長は私でよろしいですか?」

「よろしくねーよ」


 どんなふざけた戯言だったとしても私が人の下に付くなんてありえない。例え存在しない秘密結社だったとしてもそのトップの椅子に座るのはこの桐屋蘭子以外ありえない。


「……まぁ易者のババアには会わせてあげるからさ。早く退院しなよ?」

「はいっ!ありがとうございます!同士よっ!!」


 ……ナイアルなんとかの混沌の力。

 御嶽原は自爆した感があるけど、この女なら易者のババアを屠ってくれるだろう。

 ごめんなさいババア。あなたに恨みは無いけどこれ以上関わると私が時空のおじさんに怒られるから……


「そうと決まれば肉体復活のサバトの時間ですっ!サバトで健康になりましょう!」

「私、トリコ読まなきゃだから帰るわ」

「あっ!見てください桐屋さん!あんなところにちょうどいい感じの黒猫が!!」


 これ以上関わりたくない私を無視して白浜が敷地内に忍び込んだ不遜なる黒き獣を捕獲した。


「ニャーッ!!ニャーゴッ!!フシャーッ!!」


 白浜に捕まった黒猫…キャスパリーグと名付けよう。

 キャスパリーグは尋常ではない怯えようで必死の抵抗を見せる。一方白浜は猫が好きなのかいつもより3割増で発光してた。

 私帰る。


「じゃあね白は--」

「素晴らしい黒猫です。サバトの生贄にピッタリではありませんか」

「ちょいまち」

「おえっ」


 振り返った私の目の前でキャスパリーグを地面に押さえつけた白浜がメスを振り上げてる。ちなみに、今の「おえっ」はメスが喉から出てきた音。

 体内にメスを隠し持ってるなんて…これも混沌の力なの?


 そして病院内で起きてはならない事件が起ころうとしてた。


「くとぅるふ!ふたぐん!」

「おいおいおい待てーっ!!」


「やめてぇ!!」


 狂気のサバトが開催されようとしてたまさにその瞬間、甲高い悲鳴が響く。

 同時に拳大の石がどこからか投擲。エグい回転のかかったその一投は容赦なく白浜の頭部に直撃した!


 メキャッ!っていった。骨イッた。白浜逝った。こいつ、自分の混沌に巻き込まれて嫌にならないのか…


「くふっ!!…はぁっ!?なに!?」

「いやお前がなに?」


 ドン引きする私の前にスライディングで登場したのは小学校3、4年くらいの女の子。ニット帽を被ったきゃわわ♡な少女はキャスパリーグを華麗に救出。


 どうやらキャスパリーグの飼い主らしい。


「何するのお姉ちゃん!」

「こ…こちらのセリフですっ」

「いや向こうのセリフだよ」


 白浜玲美…この桐屋蘭子がツッコミに回らざるを得なくなるとは…なんて奴。身震いが止まらない。


 そしてこの少女……


 ピピピピピッ!!蘭子レーダー!!

 まず小さい。可愛い。

 声。可愛い。

 お目目くりくり。可愛い。

 勝ち気な表情。お転婆なのかな?可愛い。

 キャスパリーグを抱っこしてる。可愛い。

 総評、可愛い。


「This is サイコーに カワイー キミ」

「……(ドン引き)」


 やはり小学生は最高だ。蘭子、ヨダレが止まらないよ。


「ごめんね?ごめんね?実は入院生活でこーちゃん成分が不足してて…もう……禁断症状が……はぁはぁ……」

「きゃあっ!?お姉ちゃん燃えてる!?」

「桐屋さんっ!その炎…いや!パワーを感じますっ!!それがあなたの神の力なのですねっ!!」

「ああこれ?大丈夫大丈夫。炎ちゃうから。ほな、お嬢さん、ちょっっっとだけ…ちょっとだけ…ぎゅってさせてもろてええやろか?」

「ひっ…!」

「ええやんかええやんか。すぐや、一瞬やさかい…はぁはぁ…」

「……桐屋さん……あの…あなた頭おかしいんですか?(ドン引き)」

「ええやんええやん。後でお小遣いあげるさかい。な?ええやろ?な?」

「いやぁぁぁぁっ!!誰かぁぁっ!!」


 *******************


 警備員室に連行された私と白浜を対面で睨む少女の名前はアキホちゃん言うらしいわ。今警備員が名前聞いとった。


「違うんです。ちょっとハグするつもりだっただけですホンマに。そんな……なんもするつもりあらへんですわ自分」

「申し訳ございません。この方、少し変わってまして…」


 白浜からこれ言われるほど屈辱なこと、ある?


 事情聴取の最中、警備員室に舎弟その3、黛がやって来た。どうやら私達を連行しに来たらしい。

 入室した瞬間の黛の顔よ……


「またあんたのとこの患者さんだよ」

「すみません……」


 なぜか理不尽に怒られる黛。


 身元引受け人の登場で解放される私達だけど……この桐屋、目の前ににんじんがぶら下げられた状態で我慢出来るほどお利口さんではない。


 病室の部屋番号…聞いちゃったもんね……でゅふふっ


「……桐屋さん明日退院なんだから大人しくしてて。お願いだから。退院したら幼女誘拐でも強制わいせつでも何でもしていいから……あれ!?消えたっ!?」

「あら、桐屋さん。骨折してるのになんという早業」




 蘭子、侵入!

 大丈夫、ちょっとお友達になるだけだから……

 こーちゃんという年の離れた弟が居る私は小さな子の相手はお手の物なのよ。


 ということで、治りかけの脚を引きずることもなく普通に歩いてアキホちゃんの病室へ到着。

 何やら話し声が聞こえてくるけど、関係ないでしょう。


「おじゃましまんにゃわ」


 蘭子突撃!


「っ!?きゃーーっ!!」

「あら、お知り合い?」

「ニャーッ!!」


 病室に居たのはベッドで横になるキャンディちゃん♡と、お母様だろうか…?そしてなぜか病室内にキャスパリーグが……


「さっきの変質者!!」

「……変質者?」

「お母様誤解です。私、この病院に入院してる桐屋蘭子と申します。さてアキホちゃん。病室に猫を連れ込んじゃいけないなぁ……黙っててほしかったら、お姉ちゃんとお話しよう」

「きっ……きたないわよ!!」

「おいおいマドモアゼル。これは交渉さ。愛しいキャスパリーグと離れ離れになりたくはないよね?」

「この子の名前はキャロベティよ!!」


 どうやら交渉は成立したようでナースコールを押される気配はない。私は安心して病室に入室。

 お母様は実に優しそうな笑顔を向けてくれていたお(*^^*)


「初めまして。アキホの母です。いつもアキホと仲良くしてくださってありがとうございます」

「してないから!?ママ!?」


 どうやら好感触のようですね。


 病室内でもニット帽を脱がないアキホちゃん。ベッド脇に置かれた仰々しい機械。傍らに置かれた車椅子。

 アキホちゃんはどうやら重病人らしい。


「可哀想に……」

「あんたの頭がね!?」

「桐屋さん…でしたっけ?」

「蘭子ちゃんでお願いします」

「……蘭子ちゃんはいつから入院を?」


 お母様の質問に蘭子、自慢げに語ります。


「実は私…あのバナナ脱線事故の生き残りでして……その時からです、はい」

「えっ!?あの有史以来世界一ふざけた事故の当事者なんですか!?」

「もしかして!マリオカートのひと!?」


 もしかしなくてもマリオカートの人ではないけど、掴みは完璧だったみたい。やはりあの脱線事故は人々の記憶に深く刻み込まれているようです。

 ありがとうナイアルなんとかさん。



 ……まぁその後は事故の話で盛り上がって、アキホちゃんも随分と気を許してくれたようで、可愛らしい笑顔を見せてくれましたよ。ええ。

 平和な世界が目の前にありました。ええ。


 ……ところで、このキャスパリーグは一体なんなんだろだろ?


 アキホちゃんに抱かれたままずっとフーッフーッ唸って威嚇してくるんですけど…

 飼い猫……ってことはないよね?病院にペット連れて来れないよね?

 ……まぁいいか。


 さて、いい感じに緊張感もほぐれてきたし…そろそろ頬っぺを舐めさせてもらえそうだな…と、ハンターが獲物の油断を見逃さない。


 飛びかかる為に談笑しながら前傾姿勢に入ったその時でした。


「あははは…はは……っはっ……」

「……アキホ?」

「げほっ!げほっ!!ごほっ!!」


 アキホちゃんがベッドの上で体を丸めて激しく咳をし始め、呼応するようにベッド脇の機械が警告音みたいな怖くなる電子音を鳴らし始めた。

 アキホちゃんの腕の中のキャスパリーグがぴょんっとジャンプしてベッドから飛び出していくのを気にする間もなく、アキホちゃんの咳は激しくなって……


「アキホ!アキホっ!」

「はわっ……はわわわわ……っ」


 1人あわあわすることしか出来ない蘭子。

 とりあえず誰かに助けを求めようと病室の扉を開ける。


「あれ?今確かに廊下に猫が……」

「あっ」


 舎弟が居た。


「おい黛!大変だ!!」

「あっ!?桐屋さん!?小児病棟で何を!?」

「今すぐ人呼んでこい!!早くっ!!」


 *******************


 ……あの後私は小児病棟から引きずり出されて病室に軟禁。

 白浜は病室が爆発したとかなんとか…


 夜、私は1人布団の中で心配してました。


「……アキホちゃん、大丈夫だったかな…」


 まぁ入院患者であるからして、元気いっぱい健康体なんてことはありえないわけですけど…

 苦しそうに咳を繰り返すアキホちゃんの姿が聖母、桐屋蘭子の心を苛んでいた…


 そんな時。


 コンコンコンッ


 深夜、病室の窓が叩かれる。明らかにノックしてるような音だ。

 私は個室以外は認めない女なのでこの部屋には私以外存在しない。では風か?いや、今のは硬質な物がガラスを叩く音。風ではない。


 だとしたら……


「……誰かが窓の外から小石を投げて私を呼んでいる?」


 ラブロマンスの予感。私はカーテンを引きちぎった。


「オラァっ!!」

「……フニャー」


 窓際に座ってガラスを叩いていたのはアキホちゃんの飼い猫?のキャスパリーグだ。

 ……はて?ベランダも何もない断崖絶壁に取り付けられた窓際にこの猫どうやって……?


 深夜に黒猫。しかも絵面的にどう考えても浮かんでる……

 なんだか不吉な予感がビンビンしたので私はカーテンレールから引きちぎったカーテンをそっと戻して布団に戻る事にしたよ。

 私は何も見なかった。


『そりゃないじゃろおい』

「……?」

『開けて』

「…………な、なにやつ?」

『わしじゃ』

「………………(汗)」

『ニャーン』コンコンコン

「うぎゃあっ!!」


 猫が喋った!?四楓院夜一!?


 私がぶったまげてベッドからひっくり転ける間に何故かキャスパリーグは室内に侵入してきてるし!窓開けてないのに!!

 入れるなら開けてもらわなくてもいいだろ!!


「なななななな……」

『騒ぐな。お前に話があって来たんじゃ』

「なんじゃもんじゃ!?」

『わしはこの病院にずっと住んでおる…まぁ、他の猫よりちょっと長生きした不思議な猫じゃ』

「あれ!?よく見たら昼間は1本だった尻尾が2本に増えてる!?うぎゃあ!?」

『話を聞け』







 猫又--

 長い時を生きた猫は妖力を持つんだって。そんな猫さんは何故か尻尾が二又に分かれるそうな。

 人はそんな妖怪を猫又と呼ぶ。


「ははは!馬鹿な……妖怪なんてそんな…キャスパリーグ、お前はきっと突然変異かなんかで尻尾が2本あるだけの猫だ!」

『ただの猫が喋るか』

「うぎゃあ!!」

『何回驚くんじゃ、静かにしろ。人が来てしまうじゃろ』


 猫らしく毛繕いしながら不遜な態度で私の脚の上に乗ってくるキャスパリーグ。かのブリテンの王を苦しめた魔物は伊達ではない。


「……で?こんな夜遅くになんスか?」

『急にスンッてなるな。変なやつじゃな、お前。まぁいい……実はお前に折り入って頼みがあるんじゃ』

「頼み……?」


 見返りは?


『アキホの事じゃ』

「あなたアキホちゃんとどういう関係なの?」

『あの子はわしの友人じゃよ…この病院で1人孤独に生きておったわしに、あの子は優しくしてくれたんじゃ……じゃからわしはずっとあの子を見守っておるんじゃよ』

「……へー…………」

『反応薄っ』

「そういえばアキホちゃん、あの後大丈夫だった?」

『今は落ち着いておる……じゃが…………』

「………………バター?」

『やかましいわ。あの子は指定難病とかいう難しい病気を抱えておる』


 指定難病。要するに治療の難しい病気という事ですね。可哀想に……


『明後日手術が控えとるんじゃが…難しい手術になるそうじゃ。正直、成功するかどうか分からんと医者は無責任な事を話しておったのを聞いたわい』

「人の命を預かっておきながら分からんとか…ちょっと訴えてくるわ」

『やめんかい。医者達も必死にあの子を助けようとしておる』

「……そんなに深刻なの?あの子の病気」


 キャスパリーグは黙ってしまった。無言のまま私のギプスを齧ってる。汚い。


「……それで?私に頼み事して渡す予定の報酬ってなに?」

『先に報酬の話をするな、なんなんじゃお前は…はぁ、頼む相手を間違えたかもしれんな』

「おいおいまだ何も引き受けちゃないぜ?」


 キャスパリーグは遠い目をしながら語りだした。私は眠かった。


『……アキホは何年も前からこの病院にずっと入院しておる。内気でわしのような野良猫しか友達のおらん子じゃ……じゃが、ただ1人、この病院で仲良くなった友達がおるんじゃ』

「ボッチなんだ。陽菜みたいな子なんだね」

『陽菜が誰かは知らんが……手術の前にその男の子に会わせてやってほしいんじゃ』

「それが頼み?」

『うむ。その子が今どこで何をしておるのか、わしには分からん。わしも病院を探し回ったが、その子はもう退院してしまったようでな』

「へぇ……」

『わしは見ての通り猫じゃ』

「ガラスをすり抜けて喋れる猫ですけどね」

『じゃから人間の力を借りてあの子の友達と会わせてやりたいんじゃよ…あの子も本当は分かっとるんじゃ…手術が難しい事も……』

「……」


 急にシリアスな事言うもんだから思わず黙っちゃった。

 アキホちゃんのやせ細った体と毛髪のない頭を隠したニット帽が脳裏に蘇る。


「…………で、報酬は?」

『貴様……アキホの友達になってくれたと見込んでこうして頼みに来たというのに…』

「私、タダ働きはしないんだ」

『今の話を聞いておいてなんて奴じゃ…生憎わしはただの猫…人間のお前を喜ばせるようなものは持っておらんぞ』

「じゃあアキホちゃんの頬っぺを1年ハムハムする権利を所望する」

『……他をあたる。今の話は忘れるのじゃ』

「おっと待ちな!あてなんてあるの?それに私以上に適任な人、居ないと思うけど?」

『……どういう意味じゃ?』

「……私、令和のノアなの」

『……やはり忘れろ』

「待て待て待て。私は過去、現在、未来の全ての時空を見通す神の力を持ってるのよ。人探しなんて3秒で終わりますけど?なにか?」

『……』

「何その顔。喋る猫が生意気な顔してんじゃないわよ」

『任せていいんじゃな?手術は明後日じゃぞ』

「その代わり、頬っぺハムハムね?」

『それは本人に頼め』


 ……あれ?あと73日で地球終わるから1年はハムハムできない……のか?


 地球が吹き飛ぶまであと72日……

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