27日目 ロリコン最期の日
1月27日。金曜日。空は快晴。私は病院。
令和のノアこと桐屋蘭子。知らん間に占い師に就職してた私は同世代から一歩リードして職を得たわけだけど…
今頃みんな何をしてるのかなぁ……
病室の窓から眺める枯れ木の葉を数える日々…あの最後の1枚が落ちる前に私は退院出来るのかな…
通算3度目の骨折を経験した私の脚。何度折れてもめげないこの健脚は一晩でほぼ回復状態になった。昨日の夜青色い炎のようなパワーの奔流が噴き出したのは内緒だ。
何度も折れて強くなる…なんだか空手の修行でもしてる気分。
さてそんな私立高校受験を逃して7日が経過した私の所にお母さんとこーちゃん♡がやって来た。
「……蘭子、聞いたわよ、担任の先生から」
「御嶽原から?」
「呼び捨てにするんじゃないわよ。あなた…どうして私立の入試断ったの?」
ミサイル激突からの第三次世界大戦であわや今生の別れかと思われたあの日も記憶に新しいというのに、我が母はそんな感動の再会など知ったことではないみたい。
それに比べてこのこーちゃんの愛くるしさときたら……見ろ、私の膝の上(骨折中)で団子みたいに丸くなる可愛いの化身を。
「こーちゃんこーちゃんこーちゃん…はぁはぁはぁはぁっ」
「おねえちゃん、きもちわるい」
「無視してるんじゃないわよ、蘭子。どういうつもりなの?」
「あのね、私は断ってなんかないからね?あれは御嶽原が私の話を聞かないのが悪いんだから」
私立入試の日絶賛入院中にて参戦出来なかった私に学校側がオンラインで受けられるよって神の手を差し伸べてくれたらしいんだわ…
でもそれを私が聞いたのは全てが終わってからだった。
全部御嶽原のせい。
「ぬがーーっ!!」
「あなたこれで公立落ちたらどうするつもり?人生のレールから外れるのが早すぎるわよ。それとも、絶対受かる自信でもあるの?」
「いやいやお母さん(笑)どーせ今年の4月10日で地球終わりますから」
「まだ言ってるの?入院が長引くわよ。それと、SNSで話題沸騰中のあれ、なに?」
「おねえちゃん、うらないしになるの?」
……そういえばあんな事になってるのに易者のババア大嫌いな時空のおじさん、出てこないな…
あんなに怖い事言われたのになんだか時空のおじさんが恋しくなってきてるこれは…まさか……恋?
「こーちゃんどうしよう。お姉ちゃんに春が来たのかもしれない」
「?」
「あなたの頭の中は年中桜が咲いてるでしょ。とにかく、これで公立落ちたらお小遣い30年ないからね」
「30年後までお小遣い貰えるの?私」
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こーちゃん帰った。ばいばい。
「……はぁ…こーちゃんが居なくなった瞬間訪れるこの虚無感…虚しい……全てが…」
私の折れた脚の上で容赦なく体重をかけてきていたあの体温の余韻も消えつつある…虚空と化したベッドの上で私は1人……
「桐屋さーん、お見舞いですよ……げっ!」
「びぇぇぇぇぇんっ!!」
泣いていた。
「気持ち悪っ!なんで号泣してるんですか…えぇ……怖。呪わないでくださいね?」
「ぐすん……おや?あなたは黛。生きてたんだ。どうして昨日は居なかったのか説明すると共にこの入院食にプッチンプリンが付いてない事への謝罪を」
「私学生時代水泳部だったからでプッチンプリンは助けてくれなかったから無いです。あと、汚いからシーツで鼻かまないでください」
「ちーんっ!」
「どうしてやるなと言われた事をやるんですか?」
「うわぁぁんっ!!つまらないっ!孤独!!暇!!ご飯美味しくないっ!!早く退院したいっ!!」
「……こっちも早く退院してほしいんですよ。昨夜他の患者さんからこの病室から罵詈雑言が聞こえてくるって苦情が来てましたけど…」
「あれはあいつが悪いんだもん。私の事3回もリスキルしたからリスキルし返して言ってやったの。やい、この玉なし野郎。お前の母ちゃん小野小町って…」
「就寝時間にFPSしないで…あと、小野小町って誰か知ってるの?」
「知ってるけど?バカにしてます?アレですよ。ポットン便所に落ちて溺死したあの…」
「誰のこと言ってます?それ」
人のランチタイムを邪魔するこの女は一体なんのつもりなんだ…って、こめかみをピクピクさせる事にしたこの私の目の前に--
「あの、いいですか?」
ナースのケツの後ろからいやらしい顔つきをしながら出てきた冴えない三十路男性。中肉中背、顎にうっすら残る無精髭。シワの寄ったスーツ。かっこいいと思ってるのか首からかけただけのマフラー。
ロリコン教師もとい私の舎弟、御嶽原だ。
私はお昼ご飯の乗ったトレイをちゃぶ台返しした。
「あああっ!?何してるんですか!?今日は大根とさつまいもの煮付けですよ!?」
「黙れ!そいつを殺して私は強く生きる!!」
「落ち着け!桐屋!!」
いや!触らないで!!私は御嶽原の股間に蹴りを入れておいた。
「かはっ!?」
「ぐぅわぁぁぁっ!!」
脚折れてるの忘れてた!
「桐屋さん!?また折るつもりですか!?さっさと退院してくれないと入院費と私のストレス大変な事になるんですけど!?」
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黛逃げた。あろうことか中学生に手を出すロリコンと密室で2人きり……
私は箸を決して手放さない。
「桐屋……箸の尖った方を向けてくるのやめて」
「お前のせいで私の30年分のお小遣いがパーになるかもしれないんだぞ?お前自分が何したのか分かってる?」
「落ち着けよ、どうしたんだ?話聞こか?」
「うるさい死ね!!お前だけは今殺す!!わざわざ殺されに来るとはいい度胸だ!!面白い奴だから殺すのは最後にしてやる!!」
「どっち……」
「なんで勝手に私立入試断ったの!舎弟の分際で!!」
「落ち着けってば!え?なんかお前……体が燃えてるぞ!?」
あまりの怒りに『Agの鍵』の力の奔流が止まらない蘭子。今ならば御嶽原を小指で殺せる気がする。
が、遺言くらいは聞いてやらん事もない。
「あれはその話をしに来た俺の話を全く聞かないのが悪いんだろ?勝手に拗れた恋バナ始めてさ…いくら俺がモテるからってそんな話をされても困る」
「は?頭にウジ湧いてんぞ?」
「もっぺん言ってみろ」
「で?何しに来たの?死ぬの?」
「違う……ほら、今日はだな。今週期末試験だったろ?」
キマツシケン?なにそれ?
「また!!また蘭子聞いてないんですけど!?」
「嘘だ!てか!聞いてる聞いてないとかの話じゃなくない!?」
「うわーーんっ!!入試のみならず期末まで落とした!?内申点がぁぁ!!」
「……お前の内申点は既にフォロー不可なレベルで終わってるから心配するな。あと、そんなに悲観するな。これを見るんだ」
御嶽原が机の上にプリントを並べ始めた。汚らわしい。唾吐いとこ。
「ぺっ!」
「あっ!このクソガキ!折角期末受けさせてやろうと思って持ってきたのに!!」
「……え?私キムチ受けられるの?」
「キムチ……?」
つまりあれか?この鬼畜、入院中の私に試験受けさせる為にわざわざ押しかけて来たのか?ランチタイムに?
「良かったな桐屋、特例措置だぞ?」
「……これだから義務教育は…満身創痍の女子中学生をどこまでいたぶれば気が済むわけ?」
「さっき期末受けられなかったってショック受けてたくせに……」
「鬼畜ドS!原ともそういうプレイしてるんだ!変態!!汚らわしい!!」
「やめろ、俺は受け派だ!」
「教育委員会に訴えてやる……」
「許してくださいお願いします」
ようやく舎弟としての立ち振る舞いを理解したようですね。
「桐屋様、私ホームルームまで戻らなければならないのでお早めにお初めください」
「御嶽原……このあんぽんたん。ノー勉かつ小野小町の詳細も知らないこの桐屋蘭子。いきなり期末受けろなんて言われて解けると思ってるわけ?」
「勉強してないの……?」
「こちとら私立入試の勉強で手一杯だったんです!それも全て水の泡だけどね!使えない舎弟のせいで!!」
「だからそれはお前のせいだから……」
「ロリコン教師。もういい、教育委員会に言う」
「どうすれば許していただけるんでしょうか!?」
私は答案用紙を突き返す。答えは分かっているはずだ、2つの意味で。
「御嶽原がやってよ」
「いや……それは……桐屋。やっていい事と悪いことがあるぞ……」
「教師が生徒の代わりに試験を受けるのはダメで、教師が生徒といい関係になるのはOKだと」
「やらせていただきます!!」
……これで私の期末の成績は間違いなく学年トップだ。少しは気分が晴れたけど…こんなものでは許すことはできない。
桐屋蘭子プレゼンツ、地球滅亡までにぶち殺すリストに御嶽原(オマケで彼女の原)はきっちり入ってるんだから。
そして御嶽原は知らない……奴は自らの足で死地に踏み込んだという事を……
「ちょっとやってて。私用事があるから」
「なんて自由な奴……」
「ちゃんと私の美しい筆跡をトレースして書くんだよ!」
「ひぃぃ、はい……」
一昨日折ったのにもう松葉杖が必要ない蘭子ちゃん、御嶽原を残して病室を後にする。
この病院には魔物がいる。御嶽原はそれを知らない。
存在するだけで全てを破壊する狂気の存在。
という事で今から御嶽原にけしかけます。
「ふたぐん!!ふたぐん!!」
「……」
病室に訪れたら件の危険人物は懲りずにサバトしてた。
私の来訪に気づいた淡く光る発光体はキラキラした眼差しのままドドドッ!と駆け寄ってくる。
「桐屋さん!ちょうど生贄が必要だったところなんですっ!」
このサイコこそ白浜玲美。
ナイアルなんとかさんとかいう神に混沌の力を与えられた、存在するだけで混沌を呼ぶ悪魔である。
「ちょうど良かった。今私の病室に生贄が居るんだけど……ちょっくら混沌を呼んで欲しいんだよね」
「活き、いいですか?」
「ピチピチの30代、男性」
「……生贄には女性が好ましいのですが…」
ガチでしゅんとしてるこの女はきっと自宅でカラスとか猫とか解体して生き血を啜ってるに違いない。
……さて、なんで入院してるんだこいつはってくらい元気でなんなら寒中水泳できる患者を引き連れて病室へ帰還。
御嶽原が頭を抱えて問題用紙(中3用)とにらめっこしてたのは見なかったことにしよう…
「おい御嶽原、紹介してやる」
「うわぁびっくりした……」
「こちら白浜玲美さん。入院中出来たトモダチ」
「こちらが生贄ですか?」とメスを構えて観察する白浜を見て御嶽原、一瞬フリーズしたと思ったら目頭2:50を押さえて震えだしたんだけど。
泣くロリコン、汚らわしい……
「え?なに?(ドン引き)」
「桐屋に友達が……先生嬉しいよ…」
「あまり好ましくない生贄ですね桐屋さん」
「そうか……紹介してくれるんだな?ぐすん…はじめまして、桐屋の担任の御嶽原です」
「ふたぐん」
「……なんでこの子、メス持ってんの?」
「雌だからじゃない?」
「ふたぐんっ!!」
……さて、ここに居たら白浜の混沌に巻き込まれるに違いない。ターゲットは御嶽原のみ。あとは上手く混沌が起きて御嶽原が混沌に巻き込まれて死ぬ。それだけだ。
「じゃあちょっと2人で話しててよ…私、飲み物買ってくるからさ」
「にゃる・しゅたん!」
「桐屋、俺桃のジュースがいい」
聞いたか?教師が生徒にたかろうと言うのか?しかもピーチって…
ドン引きしながら吐き気を抑えつつ病室をあとにする私はロビーまで降りてきた。目的はリラックスルーム(椅子は硬く室温はちょい寒、あまりリラックス出来ない)に置かれているトリコである。いよいよグルメ界編なのだ。
「クッキングフェス面白かったなぁ…最推しのグリンパーチの活躍が少なかったのが悲しいけど……」
「校長先生の最推しはやはり光才老ですね」
「っ!?」
この私が背後を取られた……っ!?
臨戦態勢に入るまでに0.5秒かかって軽く10回は死んでる私の目の前に穏やかな微笑みを浮かべたご老体が居られた。
「こっ……!校長先生!?」
私の推しである。
「お加減はどうですか?桐屋さん」
「どうしてここに……っ!?」
「生徒を見舞いに来るのはおかしい事ですか?これ、良かったら…入院中は暇でしょうから」
なんて出来た人なんだ…校長先生はショートケーキの王様『ポール・パパイヤん』と正十二面体の謎の立体パズルをくれた。
パズルから邪悪なオーラを感じる……
「今日は御嶽原先生もいらしてますよね?そういえば、期末試験はもう終わったんですか?」
「えっ!?」
……まずい。
「御嶽原先生はまだ病室ですか?」
「あっあっあっ、いや!もう帰ったんじゃないかなー(汗)」
「そうですか……まぁ折角来たんですから、部屋に戻ってお話しましょう」
まずいっ!今病室では御嶽原が私の代わりに期末試験を解いているぅ!!…まだ生きてたらの話ですけど。
「行きましょうか。ところで桐屋さん、出歩いて大丈夫なんですか?」
「こーちょー!ちょっ……待って!!止まっ……とっ!止まらない!?つっ!強いっ!!まるでブルドーザー!?」
「ふぉっふぉっふぉっ」
校長先生に引きずられて病室へ……
なんて強引さ…この強引さが男らしくて好き。やっぱり推しだ、校長先生…
しかしまずい!!病室に入ったらバレてしまう!御嶽原が私の代わりに試験受けてるのが!御嶽原がロリコンである事実が!!
御嶽原!逃げてーーっ!!
「うわぁぁーーっ!!」
校長先生が病室に押し入ろうとしたまさにその瞬間、字にしたら茶色にひび割れに違いない汚い悲鳴が…
「おや?」
「みっ…御嶽原っ!?」
一体何が…!?混沌か?混沌が襲いかかったのか!?
どうしよう…凄く開けたくない。
「御嶽原先生、大丈夫ですかな?」
乾燥してひび割れたウ〇コみたいな悲鳴を受けて校長先生、果敢にも病室の扉を開ける!
私は逃げる準備に取り掛かった。
今、病室には白浜が…きっと想像を絶する混沌が……っ!
「……あっ、桐屋さんおかえりなさい」
「こっ…校長っ!!」
私が見た光景…
それはまさに混沌と呼ぶに相応しい地獄絵図だった。
まず白浜。彼女は床に仰向けになりその美しい白髪を広げ、何故か入院着は激しく乱れていた。蠱惑的な胸元が非常にセンシティブな状態になっている。
そして御嶽原。この男はそんな白浜の上でマウントポジションを取り、片手で白浜の胸ぐらを掴み、そしてもう片方の手には白浜の持参したメスを握りこんでいる。
混沌というか事案。
「……」「……」
「桐屋さん聞いてください。この人、生贄のくせに抵抗して……」
「ちっ!違うんですっ!この子が突然メスを持って襲いかかってきたから俺……俺っ!!」
気づけば野次馬が病室の前にぞろぞろと……
実に恐ろしい光景が眼前に広がっている。
私はそっと逃げる準備を整えていた。
「こっ……校長!俺は断じて……っ!!」
「……御嶽原先生…」
「校長っ!!」
御嶽原の黒歴史が抹消されるまであと73日……




