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24日目 第2の神話系女子

「うわぁぁぁぁぁっ!!!!」

「あら桐屋さん、今日は朝から元気ですねー」


 悲鳴と共に迎える朝…日付は1月24日、火曜日。

 ……不肖、桐屋蘭子。神から身の程を教わった15歳。


 地球滅亡を予知した私は新時代の神になったと信じてた…のだが、その傲りがどうやら時空のおじさんの逆鱗に触れたらしい。


 その結果が私の再び折れた脚……


「……どうやら私は大きな思い違いをしてたらしい…」

「何の話?ところでこの日本昔ばなしのトラウマ回みたいな紙芝居はどこに飾っておく?」


 自らと向き合うこの桐屋蘭子の横でピーチクパーチクうるせぇのが私の病院での舎弟、またの名を担当看護師の黛……


「ところで、例のセ〇レとはどうなったの?あれから連絡した?」

「吹き飛ばしますよ…?私はもう恋はしないんです」


 セ〇レとは小林蓮司の事である。恋次ではない。斬魄刀も卍解してない。そして元カレであって断じてセ〇レではない。


 そんな事はいいんだよ!


 電車の脱線事故で死ぬか生きるかのダメージを負った私だけど、不死鳥の如き復活を遂げたのになぜ脚をまた折ったかというと、時空のおじさんにお仕置されたから。

 そして入院が長引いた。


 私は夢の世界で時空のおじさんの姿を初めて見た。

 その時確信した。

 あんな感じだけどあれは紛れもなく神…しかも、私達の常識で計れるレベルのものでは無い。

 混沌と狂気の中に渦巻く、まさに邪神……


 私の中にはあんなに恐ろしげな存在の力が宿ってるのか……

 そりゃ地球も滅ぶわ。違うわ。地球が滅ぶのは私のせいじゃないわ。


「蘭子……もう二度と調子に乗りません。占い師でガッポガポも辞めます。この寝汗に誓います」

「1人でなにブツブツ言ってるの?頭イカれた?あ、元からか……」


 神様最後にお願いします。この看護師をぶち殺してください。


 *******************


 --さて、あんま調子乗んなよ?と釘を刺されはしたが、どうやら『Agの鍵』である私の回復力はデフォルトらしく、その脅威の治癒力を見込んだ先生から脚の折れた翌日からリハビリしよかと鬼畜な提案。


 ……ついでに治験かなんかの怪しいバイトを勧められたけど唾吐いといた。


 そして相変わらずリハビリのお供はこの黛…



「それじゃあ、松葉杖を捨てて歩いてみましょー」

「看護師さん、まだ脚に鈍痛が残ってるんですけど……てか、脚折ったの昨日なんですけど?」

「先生が言うにはもうほぼくっついたらしいので、ノープロブレム」


 この病院、大丈夫だよね?


 しかし流石の『Agの鍵』といえどやはりまだ歩くのは厳しいか…

 この前のリハビリと違って私の脚にはまだ痛みが残り、その痛みが歩行の邪魔をする。


「がんばれ!桐屋さんっ!!さっさと退院して居なくなれっ!!」

「ふんっ!!ぎぎぎ…っ!!」

「いけぇぇぇっ!!」


 ねぇこれほんとに大丈夫?めっちゃ脚痛いんだけど?これでリハビリが原因で粉砕骨折でもしたら訴えるぞ?は?


 なんて……平行棒に手垢を擦り付けながら必死に産まれた時以来の歩行練習に勤しむ私の視界の端に、何やら騒々しい連中の影が映る……


 それは見舞い客っぽくはない、タバコ臭そうな容貌の男達。

 彼らはリハビリルームから覗く廊下をそそくさと退散するように歩いていく。


 …彼らはなんだろう?


「黛さん、あの人達の情報仕入れてきて」

「いや知るか…あの人達は雑誌だか新聞だかの記者さんよ」


 知るかと言いつつしっかり情報をキャッチしてる黛看護師。面白い奴だから殺すのは最後にしてやろう。


「……?記者がなんで病院に?ところでやっぱりまだリハビリは無理っぽいんですけど」

「ほら、例のバナナの皮の脱線事故…あの事故の被害者がつい昨日くらいに意識を取り戻したのよ。多分それで取材かなんかに来てるんじゃない?毎日毎日鬱陶しいのよね……」


 …………なんだと?


 *******************


 --リハビリなんてしてる場合じゃねー。


 幾度か目にした私がこんな目に遭ってる事故の報道によると、この事故で意識不明の重体になったのは私ともう1人…


 つまり取材とやらに来てる連中は昨日目を覚ましたというそのもう1人に会いに来てるということだ…


 ……いや、私は?


 この事故、奇跡的に死者は出なかったようだけど、かなり危険な状態になったのが私…ともう1人。

 そして私はちょっと前に『Agの鍵』の力で復活を遂げたわけで……

 そして昨日、ようやくもう1人も復活を遂げたというわけなんだけど……


 いや、私は?


 私への取材なんて、一度もなかったんですけど?


 桐屋蘭子怒髪天。


 私は無視ですか?えぇ?

 そのもう1人とやらはこの令和のノアを差し置く程よっぽどお偉い方なんですかねぇ?えぇ?

 はぁん?


 なぜ私には記者の1人も面会に来ない?

 ついでになぜ私の友人達は1人も来ない?そろそろ蘭子、キレるよ?


 つーわけで桐屋蘭子、そのもう1人の生還者とやらの息の根を止めに行きます。


 一体どれほどの大怪我を負ったんですか?

 いたいけな中学生の身に降りかかった悲劇よりも悲劇なんですか?


 黛から聞き出した病室へ黛と殴り込む。


「やめましょうよぉ。私が怒られるんですからぁ。チクリますよ?「桐屋さんがまた暴走した」って……」


 なんとでも言えっ!!


「こらぁっ!ぼけぇっ!!」


 私が勢いよく病室のドアを蹴破っ……ろうとしたけどあいにく引き戸でレールにがっちりハマってた扉は私の脚力ではビクともしなかった。


「ぐおっ!」


 ついでに脚が折れてたの忘れてた…


 結果、軽く扉を蹴飛ばすに留まる。


「……どうぞ」


 しかもノックと間違われる始末だ……


 気を取り直して、黛と共に殴り込んだ病室の中には白いベッドに包まれた1人の少女が物憂げな視線を窓の外に向けていた。


 病的なまでの白さをその身に纏った少女は、肌も髪も真っ白。まつ毛も真っ白。雪女か。

 まるで袖白雪を卍解したかのような少女はその白い長髪を窓の外からの風になびかせ、なんとも言えない幻想的な雰囲気を漂わせていた。

 どんくらい幻想的かと言うとなんか輪郭がぽやぽや光ってぼやけて見えるくらい幻想的。


 精霊かと見紛う美少女だ。リアルで雅以上の美少女を見たのは初めての事だった(私自身を除く)

とても画になるが来訪者を前に窓の外を見てシカトとはどういう了見だ?


「…………あなたは?」


 部屋に割り込んだ私を見て、白いまつ毛に縁取られた瞳が少し丸く見開く。感情の起伏が読みづらいその表情にまた幻想的な美しさを見て、あぁ、モナ・リザ見た人ってこんな気持ちなのかなぁ……って…


 違うっ!


「あー……例の事故で入院してる桐屋っていう人です。同じ事故にあった者同士という事で挨拶でもってどーしてもって言うんで…私は止めたんですよ?」


 と、何やら言い訳がましい黛。


 ……しかし桐屋蘭子、それどころではない。


 なぜだろう……この人から目が離せない…

 確かにこの人はとてつもなく美しい。蘭子を1000だとしたら80をあげてもいい。こーちゃんの可憐さを10000だとしたら10あげられる。

 しかしそれだけでは無い……


 私には見えてしまった。


 美しさが故ではない…この人……輪郭が光ってる。ぽやぽやしてるっ!

 なんか……大いなる力の奔流をかんじるっ!!


 なんだ……この、私の中が熱くなる感じは……っ!!


 --それは対面する少女も感じているのだろうか。

 彼女は心底不思議な存在を目にしたかのように目をぱちくりさせつつ、痛々しくガーゼやら包帯やらの巻かれた体でベッドから身を起こしたんだ。


 感じる……

 感じるぞ……っ!

 私達は、大いなる力で繋がってるっ!!


「君は……」

「あなたは……」


 どちらともなく、声を発してた。


「…………え?なに?『君の名は』始まった?」


 困惑する凡人、黛をよそに私達はどちらからでもなく歩み寄る……


 そして、なんかぽやぽやした手を握る。

 手は、人のものと思えない程熱かった。



「君は…………神の力を受けし者か?」

「あなたは…………大いなる神の啓示を受けた方?」

「…………あなた達、とんでもないサブカル女子?」




 --バナナ脱線事故という前代未聞の大事件に巻き込まれたこちらの女性は白浜玲美しらはまれいみというらしい。高校一年の16歳だそうです。


 そして私も名乗る。


「私は令和のノア、地球滅亡を予知した神…だった人、桐屋蘭子」

「………………あ、はい」


 は?何その反応。


 互いにシンパシーを感じたはずなのになんか反応が冷めてるのは……まぁいいや。


 まったく2人の空気感に着いていけてない黛は放っておこう。


「私は今日、同じ事故に遭ったのになぜか私よりチヤホヤされてるあなたを粛清しに来た…んだけど……」

「…え?そんな……私、あれからなにがなんだか分からないのにそんな言い方……」

「そんな事はいいや……あなた、もしかして私と同じ?」


 同じ?とは、『Agの鍵』ですか?って事。


 その問いに対して白浜が返したのは私とまったく同じ問い。


「……あなたもやっぱり、私と同じなんですね?」


 質問を質問で返すな。爆弾にするよ?


「……やはりあなた、時空のおじさんのお知り合い?」

「あなたもナイアルなんとかさんからの啓示を受けた方……」

「「は?」」


 ほぼ同時に口にされたその単語は互いの意思疎通を阻害して脳内回路にバグを発生させる。

 は?って顔をする私を前に、なんか知らんけどキラキラした目をした白浜が語り出す。


「……あなたから私と同じ力を感じます…あなたもナイアルさんからの啓示を受けたんでしょう?」

「なんだよナイアルさんて…修羅の国のエセ中国人か?」

「……あれは、そう。事故に遭う前日でした…」

「ちょっとお待ち?訊いてないよ?」


 こいつやばい。



 白浜玲美は語り出す--


「そう……あれはあの事故の前日、私は自宅でサバトの儀式を開いていたんです」

「ヤッベェ奴だこいつ…帰っていい?」

「そのサバトの最中…私は出会ったのです…あの方に…………名前は…ちょっと思い出せないけど、ナイアルなんとかって言ってました」

「その前にサバトを開いてた理由を説明して?」


 白浜曰く、そのナイアルとやらは長身の男のような姿をしていたそうだけど、その貌は至近距離に居ても分からなかったんだとか…


 まるで貌に白い靄がかかってるような…そんな不思議な存在なんだと言う。


 ナイアルさんは白浜に伝えたそうな…




『--我、世界の外側の神々の啓示を伝える者……』

「世界の…外側の神……」

『我が望むは混沌……そなたは選ばれた。そなたこそ混沌を産む母足りえる器…我と我の主たる神王の愉悦の為にこの世に混沌をもたらすが良い…』

「……混沌…」

『左様……そなたに混沌の力を与えよう…そなたの居るとこ寄るとこ、そこに混沌が宿る……』

「力……」




 以上、白浜玲美の回想でした。



「……その翌日にバナナの皮で電車が脱線したんです」

「待て」


 そのカミングアウトは「私が電車に乗ったから脱線事故が起きました」ってカミングアウトしたようなもんだぞ?ないよ?こんなカミングアウト。秘密のケンミンSHOWでもないよ?


「……なので私の中には今、形容しがたい力の奔流が…混沌の力が宿ってます」

「それつまり私が入院したのお前のせいじゃん?」

「桐屋さん、私同じ空間に居たくないから帰っていい?」


 怒髪天な私の隣でするりと黛が退室。

 私がなぜ怒ってるのか分からない様子な白浜とやらは「え?」みたいなとぼけた顔。


「あなたからもよく似たオーラを感じるんです……分かります。あなたも魔女教徒なんですね?」

「誰が大罪司教じゃ。サバトやってるのあんただけだから…それよりこれ、あなたに怒ればいいの?ナイアルさんに直談判したらいいの?私の治療費誰が負担してくれるの?」

「あ…私達の治療費は鉄道会社が負担してくれるそうです」


 そんな事よりと、何がそんな事なのかと問い詰めたい私を呑み込む勢いでまだ傷の癒えぬ体であろう白浜が私の手をガッと取った。


「あなたも私と同じという事は…混沌の母に選ばれた器……共に世界に混沌をもたらしませんか?もたらしますよね?」


 こいつやべぇ……

 この桐屋蘭子、15年生きてきたけど私よりやべー奴初めて見た。


「……いや、一人でやって?てか、ナイアルさんの思うがままになってんじゃん。マジ、邪教徒じゃん……ごめんけどもう関わらないでもらっていい?」

「ところで先程言ってた時空のおじさんとはなんですか?もしかして、ナイアルさんは時空のおじさんという名前--」

「やめて触らないで?」

「私と一緒にナイアルさんを讃えましょう。選ばれし者よ。さぁ一緒に!にゃる・しゅたん!」

「やめて近づかないでっ!!」

「万歳っ!!」

「いやぁぁぁーーーっ!!!!!」


 邪教徒滅亡まであと76日……

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