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23日目 時空の神ヨ--

「いやぁ……ここに運ばれて来た時はもうダメかと思ったよ」

「先生、私みたいな超越者を助けられた事、感謝してよね?」

「……」


 私、桐屋蘭子15歳。

 4月10日に地球滅亡を予知した唯一の人類…だった。そう、私は人を超越した。


 時空のおじさんの力で予知した電車の脱線事故を見事的中させついでに巻き込まれた私はそのまま死ぬか…というレベルの大怪我を負ったんだけど、時空の超越者としての力でなんだかんだで復活。

 ついでに致命的だった大怪我も超スピードで復活。

 ついでに滅却師完聖体も会得。


 もはや私に敵はいない。

 地球滅亡までの残り78日…私は神として過ごす。決めた。


 さて、そんな神がいよいよ明日、退院です。

 理由は居る理由が無くなったから。


「ふははははははっ!ふはははははっ!!」

「桐屋さん、ようやくお別れですねー。正直私、ホッとしてますぅ」


 この女は黛。私の担当看護師だ。

 担当医の診察室から歩いて…そう、一度粉々になった脚で歩いて病室へ戻る私は隣を歩くそんな舎弟3号に吐き捨てる。


「……退院したら君に神罰を与えよう」

「わー、こわーい(棒)」

「あなたもこの令和のノアの面倒を見れたことを誇りに思いながら--」


 --その時、私はかつてない絶頂の最中にいた。

 なぜなら、私は神に選ばれた不滅の存在だと本気で信じていたから。


 時空を越えて、運命を越えて、人を超えたこの蘭子、もうどう考えても神であった。

 私は『Agの鍵』……

『Agの鍵』がなんかは知らんけど!私には特別な力がある!!


 退院したら易者のババァの所で占い師やるんだ♪ガッポガポなんだ♪


 なんて…………


「……あ、桐屋さん。足下にバ--」


 つるりっ


 全知全能を疑いもしなかったこの蘭子、はっきりいって今までの私ならばこんな凡ミスはありえない。

 油断した。完全に……


 桐屋蘭子、世界の時を超える力を持ってして尚、足下の悪魔に気づかない……


「あっ!」


 私の踏みしめたはずの固い床の感触はなぜか足裏と床が接地した瞬間に互いに反発する水と油のように離れ合う…

「つるり」というオノマトペがこれ以上ないくらい適切なそのアクションは足を前に前に出すその勢いのまま私の体を勢いよく宙に投げ出した。


 つまり、私は足下にあった『何か』に滑って盛大に空中回転をキメていた。


 そのまま地球の物理法則に従い私の華奢な体は固い床へと--



 ゴキッ!!




「……折れてるねぇ」

「ぎゃああああああああああっ!!!!」

「とりあえず、運んで」

「はぁい先生。桐屋さん、ついてないですね。床に落ちてるバナナの皮に滑るなんて」

「ぎゃあああああああっ!!痛いよぉぉぉぉぉぉっ!!おかぁさぁぁぁぁぁんっ!!」


 *******************


 おぬし…



 …むにゃ?



 こら、おぬし…



 ……っ!?



 そう、わしじゃ



 その声は…時空のおじさん!?なんか最近出現頻度高くないっ!?



 誰か見舞いは来たか?



 え?喧嘩売ってるの?



 おぬし、ちとカルシウムが足りとらんようじゃな…ざまぁみろ



 …っ!?ま、まさか…っ!!



 そのまさかじゃ…言うたであろう?お灸を据えると。人生でそう何度もバナナの皮で滑って病院の世話になるものか



 や、やりやがったな…っ!!



 わしが直接人の世に干渉する事はない…じゃがおぬしのようにわしをダシにふざけた真似をしようと企む馬鹿野郎にはこうして制裁を加える事もあるのじゃ。思い知ったか?



 ふ、ふざけやがって…入院が長引いたじゃない!!一体何万の人がこの桐屋蘭子の復活を心待ちにしてると思ってるの!?



 …………おぬし、あまり調子に乗るでないぞ?



 ……な、なによっ!ちょっと怖い声出したからってこの蘭子がビビると思ってるの!?



 …おぬしは世界の理をねじ曲げた…じゃがそれは本来人間如き貴様には過ぎた力じゃ。過ぎた力はいつか身を滅ぼす……今回はこの程度で済んだ。しかし、調子に乗っておるといつか取り返しのつかない事になるぞ?



 この程度って……あんたがやったんでしょ!?



 そうじゃ…並行世界で骨折予定じゃったおぬしを助けた帳尻合わせにおぬしは骨折したのじゃ…しかし、この程度で済んだのはわしの慈悲…その気になればおぬしがしたように、並行世界のおぬしの命と引き換えに、おぬしを殺す事も容易いのじゃぞ?




 --瞬間、真っ白だった私の世界がぼんやりと光り、まるで暗い海中の中から何かがこちらに迫ってくるように、シルエットが浮かび上がる…


 それは人が本能的に恐怖を覚えるような光景だった。


 靄のような世界から浮かび上がってきたそれは七色の輝きを放つ巨大な球体の集合体。

 集合体恐怖症という病を患っている私からしたらその幻想的でありながら玉の密集した謎の物体はひたすらに気持ち悪いものに見えた。



 うわぁぁぁぁぁぁっ!?




 桐屋蘭子、絶叫。


 その未知なる存在は生物的な要素が皆無であるにも関わらずまるでこちらを虫けらでも見るかのように蔑んでいるのを感じた--

 途端に思いがっていた私が酷くちっぽけな存在であるように思えた。


 分かる……


 これは感じたことも無い……しかし私達がよく知ってる感情……


 恐怖--




 身の程を弁えよ、人間--




 地球が吹き飛ぶまであと77日……

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