22日目 隣の蘭子ちゃん
……おぬし
はっ!?その声はっ!?
そうじゃ、わしじゃ。全時空の神、ヨ--
時空のおじさん!!
そうヨ--
おひさー!元気してたー!?もーっ!チョーおひさじゃーんっ!!
……
んで?なんだよ?
…いや、色々あるんじゃが…まずはおぬし、易者のババアの口車にまんまと乗せられたようじゃな…
ん?何の話?
おぬし、占い師になるとかほざいておったが…
あぁ…あのババァが私の部下になるって話ね?
おぬし、令和のノアとかほざいておったが占いなんてできんじゃろ。あ?言っとくけどおぬしが電車事故を的中させたのは、このわしの力じゃからな?
……おじさん。もうそんな事言わせないよ?見て?この桐屋蘭子の神に選ばれた肉体を。蘭子、不死身になったの。もう、おじさんのオマケじゃないから
じゃからその神は誰なんじゃって話じゃ。なんかおぬし、自分の力と勘違いしとるようじゃから…あのな?思い上がるのも大概にするんじゃぞ?
私、『Agの鍵』だから特別なの。おじさん
話が本当に通じんのおぬしは!てか、その『Agの鍵』の力もよく分かっとらんじゃろおぬし!
これは蘭子の力なの!!
……いい機会じゃから教えてやるがの?『Agの鍵』というのはこのわしの力に接続する事が可能な器の事で、おぬしの中には『Agの力』が……
私の漲るパワーを見るがいい
聞け
ふんっ!!
まじシバくぞ?その漲るパワーが昨日暴走したじゃろ?おぬしはこの世に復活する時にようやく初めて『Agの鍵』としての力を使ったのじゃ。今おぬしの中にある『Agの力』は覚醒したてで安定しておらん。おぬし、この力を御し切れなければあらゆる時空と同時に接続し、その精神が負荷に耐えれず焼き切れ--
神の裁きっ!!
………………おぬし、天狗になっとる場合ではないぞ?そろそろお灸を据えるからの?分かったらわしの話を聞け
ふはははははっ!!我!全知全能なりっ!!
よく分かった覚悟せい
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「おはよう桐屋さん。昨日は覚醒してたわね」
--1月22日、日曜日。晴れが続く清々しい日々が続いている……
私桐屋蘭子--いや、その名は捨てた。令和のノア15歳。4月10日に滅亡する世界で絶望の渦中で迷える人々を導く救世主となる……
神に選ばれし存在であるこの桐屋…間違えた、令和のノア。その肉体は全身粉々からのぐちゃぐちゃでも、ものの4日で復活するレヴェルにある。
これが滅却師の力……
検診で担当医さんから「もう退院出来そうだね」って言われた。
シャバが待ってる……
「わーいわーい。わーいわーい」
「おねぇちゃん」
ベッドで1人舞ってると部屋のドアを可愛く開き可愛く可愛い足音を鳴らす可愛い生命体が入ってきたではないか。
まぁもう説明も必要ないだろう……
世界の唯一神である桐屋蘭子の弟、究極生命体。そう桐屋康太、またの名をこーちゃん。
「蘭子、どう?具合は?」
そしてこの女は救世主を産みし聖母……桐屋志乃。
浮気野郎と過ちを犯し娘に業を背負わせたクソ野郎好きかつ私からハワイ旅行を奪い取った女…
桐屋家が病室に集ったようだ。
「こーちゃん。お姉ちゃんもうすぐ退院だからね?楽しみにしててね?ね?」
「うれぴい」
「お姉ちゃんもうれぴい」
この瞬間、腕に抱いたこーちゃんを感じることにより蘭子の脳内では大量の脳内麻薬が分泌されていた…いわゆる、幸せホルモンってやつだ。
ホルモン焼き以上の幸せをホルモンするこの脳内物質の影響で、収まりつつあった私の中の力の波が再び押し寄せる。
「蘭子……?大丈夫?なんかちょっと光ってない?」
「おねぇちゃん、かっこいい…」
「問題ない。私は今、世界を知覚してる」
「……大丈夫かしらこの子…」
さて、久しぶりに今日は1日こーちゃんを堪能できる。
つまり、今日は祝日。こーちゃん記念日。
「こーちゃんこーちゃん、退院したら何して遊ぼうか?かくれんぼ?縄跳び?それとも太陽にほえろ!ごっこ?」
「こーちゃん、おねぇちゃんにかみしばいつくってきた」
「え?紙芝居?」
「お母さんと作ったんだよねー」「ねー」
なんということだ……これが世界か…
入院生活で暇をしてるだろうという姉への気遣い……この歳でこの気遣いは将来は大統領特別補佐官か……
…………いや、その前に地球滅亡するんだった。
「ぐすっ…こーちゃん、死ぬまで一緒だよ?」
「?おねぇちゃん。よんで」「お母さんとこーちゃんの、超大作よ」
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~紙芝居『隣の蘭子ちゃん』~
昔昔あるところに蘭子という娘が居ったそうな。
蘭子の家はとても貧しく、年貢が納められないほど困窮していたそうな。
蘭子はとても困り果てた。なにせいい歳して嫁の貰い手も居ない、村では腫れ物のように扱われている娘だから。
父も病に倒れて早くに他界。蘭子は女だてらに1人で畑仕事に精を出しておったそうな。
しかし蘭子の畑は何故かいくら待っても何も育たなかったそうな。
「なんでよ!!」
蘭子は大層キレておったそうな。
そんな時、とうとう年貢を納められない蘭子の元へ役人がやって来たそうな。
「おいてめぇっ!いい加減払うもん払わねぇと、吉原に売り飛ばすぞ!?」
「そんなこと言ったって畑が育たないんだからしょうがないじゃないっ!!」
「そんなもん知るか!年貢が納められないならお前、吉原で遊女として働いてもらおうか!?」
「何言ってんのよ!!」
「何もクソもねぇ。おめぇ、働かざる者食うべからずって言葉知らねぇのか?」
「働いても働いても畑が--」
「黙りやがれっ!!何が働いてもだっ!てめぇが怠けてるだけだろうっ!!毎日洗濯も風呂掃除も飯の手伝いもしねぇで学校から帰ったらゴロゴロし腐りやがって……てめぇみたいな穀潰しにいつまでも飯を食わせてやる気はねぇっ!!」
「……待って?」
「なぁに?」「おねぇちゃん、はやくつづき、よんで?」
「なにこれ?なんで私、紙芝居の中でディスられてんの?」
「脚本はお母さん、作画はこーちゃんよ?」
「よーく分かったよ。お母さん……お母さん日頃からそんな風に思ってたんだね……」
続き。
このままでは蘭子は吉原に売られてしまうそうな。
そこで蘭子は考えたそうな。こんなに頑張ってるのに畑の作物が一向に育たないのは村の誰かに嫌がらせをされているからに違いないと……
事実、蘭子は日頃の奇行から村人達に嫌われておったそうな。村八分を食らっておった。
その事に今まで気づかない振りをしておった蘭子だったが、とうとうその事実に向き合う必要が出てきたそうな。
そこで蘭子は、畑を荒らせるのは隣に住む蘭子しかいないと思ったそうな。
「……え?蘭子2人も居るの?」
「もう蘭子ったら。いちいち話を切らないでくれる?」
「おねぇちゃん!はやく!」
「蘭子が2人居るけど……」
「いいじゃないそんな事は……」
「おねぇちゃんっ!!」
……続き。
蘭子は隣の蘭子の家に殴り込みに向かったそうな。
しかし間が悪い事に隣の蘭子の家には村の者が集まっておった。村人の集まりにも蘭子は呼ばれなかった。
蘭子はその事実に密かに涙したそうな……
「やいっ!隣の蘭子っ!!」
「……お前は、隣の蘭子。何しに来た?」
「かーえーれ」「かーえーれ」「かーえーれ」「かーえーれ」
「…………」
村人達の帰れコールに挫けそうになりながらも蘭子は隣の蘭子に襲いかかったそうな。
何故襲いかかったのかというと、それが1番早いと思ったからだそうな。
「死ねぇぇぇ隣の蘭子っ!!」
「うんぁぁぁっ!?」
しかし、隣の蘭子は囲炉裏で温めておった鍋を蘭子に叩きつけた。
顔面を火傷した蘭子は床をのたうち回る。そしてそんな蘭子を村人達は武器を手に取り囲んだそうな。
「こいつ、いきなり襲いかかって来やがって…」「こんなイカれ女、もう生かしておけねぇ」「元々、畑仕事もしねぇ穀潰しだぁ」
村人達は蘭子を縛り上げて、村の古井戸に吊るしたそうな。
「うわぁぁぁぁっ!!ふざけんなっ!!お前らが畑を荒らすからだぁぁっ!!」
「黙れ」「そのまま餓死しろ」「この変人が……」
蘭子はそのまま井戸に吊るされ放置され、幾日と何も口にせず、みるみる痩せ細っていったそうな。
そしてしばらくして、村人達が蘭子の様子を見に来た時、蘭子は骨と皮だけになっており、ギョロリと恐ろしげに目を剥いて周りを睨めつけておった。
村人達はその様子に恐怖したそうな。
そんな村人達に、瀕死の蘭子は呪詛を吐き散らしたそうな。
「呪ってやる……お前ら……お前ら末代まで呪ってやる……お前らの一族、永遠に頭がパーチクリンになる呪いをかけてやる…一生周りから白い目を向けられながら生きていくがいいっ!!」
「…………待って?」
「おねぇちゃん、おもしろい?」
「面白いわけあるか。なにこれ?いじめ?」
「……桐屋家の成り立ちを紙芝居にしてみたんだけど…?」
「桐屋家の成り立ちなの!?これ!?なに!?私の頭は昔の蘭子の呪いでこうなったとっ!?」
「……自覚あったんだ…」
--その後蘭子は気味悪がった村人達から竹串で串刺しに……ってこーちゃんに読み聞かせられるかこんなの!
以上、桐屋家の歴史でした。
桐屋家が潰えるまであと78日……




