19日目 令和のノア爆誕
私は桐屋蘭子…そう、世界を見通す者、あの桐屋蘭子です。
4月10日に地球に超巨大隕石が激突し、この世界は唐突に終わりを告げるわけだけど、それを予知したこの15歳とは思えない完成度を誇る蘭子は残りの人生を悔いなく噛み締めて生きようと誓った…
矢先に電車の脱線事故で死にかけて入院なう。
死ぬか生きるか、というかもう死ぬしかない大ダメージを負いながらも『Agの鍵』としての力で不死鳥の如き復活を果たした私だが、今だに病院のベットとお友達状態である…
そんな私だけども、私を慕う人は多い。
今日も雪崩のように病室に見舞い客が……
「おはよう桐屋さん、今日もいい天気ね。昨日は誰かお友達来た?」
カーテンを開ける看護師の容赦ない一言が簡素な病室内に響き渡る。この女は分かってて言ってる。
「いやまだ入院2日目なんで…」
「いやいや、あなた3日も寝たきりだったわよ?御家族以外誰も来なかったけど……」
すみません、精神的苦痛による慰謝料請求は病院にしたらいいですか?この看護師個人でいいですか?
1月19日木曜日。今日も憎たらしいくらい空が青い……
それにしてもくそ……っ!死んだ魚の目とか舎弟とか誰か来てもいいんじゃあないか?やっぱり寝たきりの蘭子になんて魅力がないと?ふざけるな。
そしてこの看護師は退院したら亡き者にしてやる。
そんな悶々とした日々がいつまで続くのかと顔の堀を阿部寛にしてた昼下がり--
もう昼かいな私の1日内容薄っ!って驚愕してたら、唐突に来訪者によるノックの音が鼓膜にお邪魔した。
…………来たか。
私は最高のヴォイスを届ける為に喉を鳴らし、部屋いっぱいの花束を迎える準備を整えた。
「どうぞ…お入りくだちい」
誰かな?見舞人第1号は……死んだ魚の目かな?阿部波圭かな?滑舌おばけかな?
「入るぞい」「お邪魔します」
誰?
「誰?」
「わしじゃ」「どうも、易者のババァとその孫です」
「は?見舞い人第1号と2号がなんであなた達なんですか?ふざけるな訴訟だ、訴えてやる」
「誰をですか……お加減いかがですか?大変な事故だったと聞いてます」
この2人--私が電車事故に巻き込まれるその日会いに行った2人に間違いない。
私を煽り散らかして再び会いに来る原因となったババァと慇懃無礼な孫。つまり私がこんな目に遭った元凶と言っていい。
「殺す」
「見舞いに来てやってなんじゃその態度は…ほれ、見舞いのカスタネットじゃ。わしの力が篭っ「いらねぇよ食い物持ってこい」
なんだ力の籠ったカスタネットって…せめて数珠とかお守りにしとけ。
「よっこらせ」
「何座ってんの?帰って?帰ってよっ!!何しきたの!!」
「……面倒臭いおなごみたいに喚くな…今日はおぬしにとって、悪くない話を持ってきたんじゃ…」
「聞いてあげてください…この老いぼれの戯言を……」
「老いぼれの遺言を聞いてる程私、暇じゃないんですけど?」
「まだ死なんわ!暇な怪我人のくせして…まったく、なぜおぬしのような小娘があの時空の神ヨ--」
「なによ早く言いなさいよ」
「…………電車の脱線事故、正におぬしの予言通りじゃった。これには流石のわしも驚いたわ」
「バナナの皮で電車脱線なんてボケは吉本新喜劇でもしないでしょうから…」
……ほぅ。
つまりアレだ。「桐屋様こそが真の預言者です、すみませんでした」って土下座しに来たと…
そういうことなら聞いてやらんでもないわよ?
「あなた達この前なんて言った?「バナナの皮で脱線するか」って言ったよね?現実は?この私の痛ましい全身を見てさ、ねぇ?ねぇってば。真に正しきはどちらか分かった?令和のノアはこの私、桐屋蘭子。あれ?なんか頭が高くない?」
「……」「……」
「平伏せよ。さすれば、許してやらんでもない。さぁ。カモン」
「……まぁ、おぬしの話が世迷言でないのは分かった…そこでじゃ。そんな時空の神に見初められしおぬしに素晴らしい話があるんじゃ…」
「いやそんなんいいから、平伏。はよ」
「調子に乗るでないぞ?入院を長引かせたくなければ聞け」
「おばぁちゃんでは寝たきりの怪我人にも勝てないよ」
ババァが行き場のない怒りを堪えるようにぐっと何かを呑み込んでから、目に冷静さを取り戻し私に話とやらを切り出す。
「おぬしの未来をも見通す力…世の為人の為に使ってみんか?」
「みん」
「みんて……なんじゃみんて」
「私、こう見えて忙しい」
「そう言うでない……おぬし、わしの下で働け。その力で迷える人達を導こうじゃないか。わしはそう言うとるんじゃ」
「嫌だ」
そんな事より平伏は?
「お小遣いやるぞ?」
「ねぇ、さっきからなんで上から目線なの?平伏しに来たんじゃないの?」
「おばあちゃんはうちで働きませんかって言ってるんですよ」
と、補足説明してきたのは孫。しかし、孫の補足すら上から目線でなんか腹立つ。私よりチビのくせにっ!
「部下にしてくれの間違いでしょ?なんでこの令和のノアである桐屋蘭子が--」
「おぬし、うちでその力を使えばガッポガポじゃぞ?」
「ガッポガポ?」
なに?ガッポガポ?
「考えてみぃ……本物の預言者じゃ…世間が放っておくはずがなかろう?しかしおぬしの知名度は皆無……そこでわしの店でその未来を見通す力を使えば……」
「ガッポガポ?」
「ガッポガポじゃ。現代人は常に悩みを抱えとるからの…」
「……ガッポガポ?」
「そうじゃ。取り分は6、4。わしが6でおぬしが4じゃ」
「よく分からん。4円ってこと?」
「そうじゃな……月1000万は稼げるじゃろうから400万ってことじゃ」
え?よんひゃくまん……?
よんひゃくまんえんあったら、ぴえーるがんばってるまんかえる……?
かえる……?
ぴえーるがんばってるまん……かえる?
「ふっふっふっ…顔がバカになってきたな…孫よ、これからは光熱費に困ることはないぞ。エアコンも水道もガスも使い放題じゃ」
「この人は最初からバカな顔してるよ…」
「…………よかろう。この桐屋蘭子、月よんひゃくまんで、そなたらに力を貸してやろう」
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「つーわけで退院したら占い師やるからさ、月よんひゃくまんえんの女だからあんたとは住む世界違うから。二度と話しかけないでね?てかお見舞いくらい来い」
『……蘭子、可哀想に頭の打ちどころが悪かったんだ…』
易者のババァもとい私の部下が帰った後、あんまりにも顔を見せないもんだから我が友、美堂陽菜…正式名称死んだ魚の目にTEL。
そこで私のピエール・ガンバッテルマン計画を打ち明け、世界中の悩める人々の救世主となる令和のノアと死んだ魚の目との格の違いを見せつける。
桐屋蘭子の時代が始まった。
「そういう訳だから。道でピエール・ガンバッテルマン着た中学生居たらそれ私だから、話しかけんといてね?」
ピエール・ガンバッテルマンとは私、令和のノア--またの名を世界の導き手こと桐屋蘭子がこよなく愛する高級ブランド…
しかし高すぎて手が出ない。
そんな惨めな蘭子は今日でお別れ。さよなら昨日までの蘭子。こんにちはピエール・ガンバッテルマンな蘭子。
『……そっか……良かったね……元気そうで……頑張ってね?』
「頑張る?これから惨めな人生を頑張るのはそちらの方ではなくて?オーッホッホッホッホッホッホッ!!」
『……』
「おや?どちら様?ちょっと電話越しで呼吸しないでくださいません?貧乏が伝染りますので!」
『…………』
「私、月よんひゃくまんの女なので?おーーっほっほっほっほっ!!おーーっほっほっほっほっほっほっほっ!!」
『……二度と正気に戻る事はなさそうだね…さよなら蘭子。楽しかった…忙しいから切っていい?』
「てかお前さ、令和のノアがこうして入院してるんだから見舞いくらい来いよ」
『……ごめん、令和のノアってなに?』
「ノアの方舟の令和バージョン。つまり私。ワタシ、セカイノオワリ、ヨチシタ。オーケー?」
『……ごめん日本語で喋ってもらっていい?てか、蘭子と喋ってると受験直前で脳が溶けそうだから切っていい?』
まったくこの死んだ魚の目はこの世界の救世主となった桐屋蘭子を前に受験だのと--
……受験?
「……陽菜、いや死んだ魚の目」
『…言い直す必要あった?』
「今なんて…?ジュケンなる単語が聞こえた気がするようなしないような……」
『……したよ。ごめんけど、今忙しいから蘭子に構ってられないの…私立受験明日だし。蘭子の頭の容態より自分の将来が大事なの』
…………受験。
壁にかかったカレンダーに目をやろうと…したけどそもそもカレンダーなかった。
いやそんな事言ってる場合じゃねーんだ。
この死んだ魚の目、明日が私立高校受験だと言ったか?
そんなはずはない。
だって……
「…………だって、だとしたら志望校が同じ私も明日受験って事になるじゃあないか」
『……そうなるね』
「…………」
『…………』
…桐屋蘭子、いや令和のノア、自らの体を見る。
死の淵から復活したとはいえ、その体にはまだ包帯が巻かれていて、日課のジョギング10キロにもまだ行かせてもらえないほどの重症。
しかし迫り来る私立受験は明日……
そう、1月20日……
「………………え?」
『…え?』
桐屋蘭子の受験は……?
うっ……
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
『…えぇ?なにびっくりした!もう、勘弁してよ。私の目より蘭子の頭の方が重症だって』
待てよ!そんなっ!!私の未来は!?
いやどーせ地球吹き飛びますけど!?
じゃあなに!?4月10日までこの桐屋蘭子、中卒の肩書きで生きていくの!?
うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
私立高校入試が吹き飛ぶまであと1日…
地球が吹き飛ぶまであと81日……




