18日目 普通の苗字にあこがれるようになったのだ!
前回までのあらすじ!
私桐屋蘭子、15歳!4月10日に地球滅亡を予知したんだけどその前に死んだ!
でも私は『Agの鍵』だから別世界の蘭子に代わりに死んでもらえば復活できるって言われたから復活することに!『Agの鍵』が何なのかは明日までに考えて来といてください!
つーわけで平行世界の蘭子を殺そうと思ったんだけど可愛すぎて無理だったから私が産まれる前のお父さんとお母さんを破局させることで平行世界の蘭子誕生を阻止して間接的にぶち殺すことで復活!!
…………するのかはよく分からないんだけども…
「……ん?」
長い、長い眠りだった……気がする。
突然目が覚めた私のその先に待っていたのは白い…いや、ちょっと黄ばんだ天井だったのだ。
そして遅れて襲い来る全身の鈍痛。
なぜか知らんけど痛む体にイラつきながら私がそっと横を向くと……
「あ、おねぇちゃんおきた!」
「……っ!」
そこには我が血を引く母、志乃と究極完全無欠生命体である我が弟、こーちゃんの姿…
「蘭子……」
私とお母さんの視線が交わった瞬間、お母さんの目尻からじんわりと滲むような透明な雫がこぼれ出した…
「お母さん…」
「蘭子ぉぉぉぉぉぉっ!!」
「…小じわが増えたね」
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「全身骨折に内臓破裂に脳挫傷に人格の異常と私ももうダメかと思いましたよ」
と、驚きを隠せないのが病室に駆けつけた主治医さん。イケメンだった。コナンの風戸京介っぽいかんじ。
てか待って?人格の異常は関係なくない?いや、別に異常ないでしょ?
「先生、本当にありがとうございます!!」
と、母。私が産まれる前と比べるとやはり老けている……
しかしこうして死の淵から蘇ったということは並行世界での帳尻合わせは成功したということですか?
「おねぇちゃん、みっかも、ねてたよ」
「なんと…3日も?」
「うん」
「今日何日?」
「1がつ18にちだよ」
「えー!こーちゃん日付数えられて偉いっ!…てことは?地球滅亡まで…あと83日!?」
そうかっ!4月10日に地球滅亡だった!桐屋蘭子、貴重なカウントダウンを3日も無駄に…!?
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ら、蘭子!?」
「おねぇちゃん、げんきなった」
「あと…あと83日で地球が滅びるぅぅぅっ!!うわぁぁぁぁっ!?」
「……うーん、これは脳の検査が必要かもしれませんね…」
「先生、この子のこれは生まれつきです」
*******************
検査の結果に担当医が驚愕してた。
まず第一に死んでて普通レベルのダメージを受けながら復活した事…まぁこれに関しては私『Agの鍵』なので…
そんでもってそのダメージが既に回復しつつある事…これに関してもきっと私が『Agの鍵』だから…
しかしいかに『Agの鍵』だと言っても何度も痛い目には遭いたくない。医者達が裏で「あの回復力は人間じゃない…なんとかしてその秘密を調べられないものか」とか相談してた。あいつら私をモルモットにする気だ。
まぁそんな事はいいとして……
「お母さん、蘭子春雨食べたい。コンソメスープに入ったやつね♡」
「いいわよ、なんでも言いなさいね?」
桐屋蘭子、今この地点こそ人生の絶頂……
こんなにお母さんが優しかった事があっただろうか?私が去年37.2°の熱を出した時「お昼ご飯はチンして食べてね」と置き手紙だけされてたあの頃と比べて……
「おねぇちゃん、いたい?いたいのいたいの、とんでけする?」
「して♡」
そしてこーちゃん。あぁ…こーちゃんの優しさが染みる……さながら切断した直後の玉ねぎのように(玉ねぎ切ったことない)…
お姉ちゃんは育て方を間違えてはなかったという事か……
「お母さん、私桐屋家に生まれてよかった。産んでくれてどうもセンキュー」
「なに言ってるのよこの子は…本当に目が覚めて良かったわ…はいこれ、カップスープの春雨」
桐屋家ばんざい。桐屋蘭子ばんざい。〇
復活を祝う春雨スープを感涙と共に喉に流し込みながらこの3日間を振り返る。愛しのこーちゃんを今こうして抱っこしている事実、いと嬉しきり。
……それでもやっぱり、この宇宙のどこかの平行世界で産まれてくるはずだった蘭子とこーちゃんが消えてしまったという事実は、この春雨スープの味のようにじんわりと胸に染みてくるものがあった。
そう、死んでもおかしくない事故から復活できたのは私がフェニックスであるからではないのだから。
そう…私が平行世界の桐屋蘭子が産まれないようにあれこれ奔走した事により、宇宙に無数に存在する平行世界の全てでの「この世界で死ぬはずの蘭子」と「別世界で産まれてくるはずだったのにそうならないようにして存在しなくなった蘭子」のプラマイが調整された事による…
……?
まぁとにかく私は平行世界でお母さんとお父さんを破局させて来た訳ですけど……
若かりし日のお母さん……そしてお父さんを目にした私はあることを思い出してもいた。
それはお父さんがまだお母さんの乳に絶望するより前…桐屋家にまだ父が居た時の事。
否、桐屋家が桐屋家である前の話……
「こーちゃん、知ってる?お姉ちゃん達はその昔、桐屋じゃなかったんだよ」
「ふえ?」
その昔と言ってもほんの4年前の話……
「蘭子、突然どうしたのよ……」
「まだこの家族に父が居たあの頃……私達は呪いを背負ってたんだ」
「のろい?」
ずるずる……
「あの頃の私はずっとお母さんを恨んでた…」
「蘭子……本当に急にどうしたの……」
「……おねえちゃんとおかあちゃんには、ふかい、いんねんがあるんだな…」
「どうしてお父さんと結婚したんだろうって」
「蘭子……」
思い出した。いや、思い出してしまった。私の、私達の背負っていた業。我が父、輝幸が私達に背負わせた呪い。
生き返った記念に少し……昔話でもしようか。
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私は今でこそ才色兼備容姿端麗立てば何とか座れば牡丹歩く姿は百合の花、明るく賢く美しい人類の完成系そのものではあるんだけど……
忌むべき小学生時代……私は違った。
私は毎朝自分のつま先ばかり眺めて通学路を歩き、教室に入っても床の継ぎ目ばかりを見つめていて授業中は上履きのシミの形をスケッチするような…要するに足下ばかり見て生きている暗い女の子だった。
その原因…そう、それこそがお母さんがお父さんと結ばれた結果背負わされた呪い。
それこそが……
「はいみんなおはようございます。席に着いてー、出席を取りますよー。阿部くーん」
「来るぞ…」「くすくす……」「わくわく……」
「造字瑠氏さーん」
「はぁーい」
「--段田呂巣さーん」
これである。
毎朝の出席確認の時間から私の心は鬱だった。同級生達の嘲笑と好奇の眼差し。小学生の彼らにとって私は格好のおもちゃだったんだ。
お母さんが結婚して、苗字が変わって、産まれてきた私の苗字も必然的にお父さんの苗字になるわけで……
段田呂巣蘭子。
それこそが、憎き我が父が桐屋の一族に引っ提げて来た呪いの正体だったのである。
考えて?段田呂巣だよ?なんだよ。段田呂巣って。
「あれ?段田呂巣さーん、お返事してねー」
「もしもーし?段田呂巣ぅ?」「おいシカトこいてんじゃねーよ段田呂巣ぅ」「呼ばれてんぞ、段田呂巣ぅ」
毎朝段田呂巣コールなのだ。
「ほんっと変な名前だよなぁ!段田呂巣って!」「苗字がDQNネームってお前すげーよ段田呂巣!」
「こらみんな、揶揄うんじゃありませんよ!」「あそっれ!段田呂巣っ!」
「へい!」
「段田呂巣!!」
「へい!!」
「やめなさい、先生怒るよ?」
「段田呂巣!!」
「シャイッ!!」パンッ
「段田呂巣っ!!」
「シャイ!!」パンッ
……このクラスには猪狩も造字瑠氏もいるのにどうして私だけ…いつもそう思ってた。揶揄われ続けて、自尊心を叩き潰された蘭子はいつも下を向いて歩こうを実践する根暗な女の子になってしまっていたのだ。
やがて蘭子は自分はこの世のカスなのだろうか?と考えるようになっていた。
そんな時だった……
「……(ドン引き)」
「…………」
いつものように私が3階の女子トイレで給食のプリン(休みの安西君の分、本来ならジャンケンで誰が食べるのかを決めるはずのものだけど、私はデザート窃盗の常習犯だった)を貪り食らおうとトイレに入ったらそこに、死んだ目をした少女が壁にもたれて倒れてた。
生きてるのか?死んでるのか?わからなかったけれどもレイプ目だったから多分、レイプされたんだと思う。
違った。臭かった。
何事かと思って私は少女の股間辺りをみたら、彼女のスカートは清々しいほど濡れていたんだ。
それだけでこの場で何があったのかを私は察したよ。
少女の目はこの世のあらゆるものに絶望した目だった。目は虚ろで、焦点が合わず、腐敗臭がしてきそうな……そう、腐った魚の目みたいな目だった。
するとそこに別の女子達がわめきながら走ってくる。
あきらかにこの漏らした女子を捜している風だった……どんどんこっちへ向かってくる。
蘭子に質問してきた。
「ねぇ、あんた髪の長い女子見なかった?」「陽菜っていう子なんだけど…」
「……あっちへ行ったよ。ふぁっきゅー」
「え?…なんで今罵倒されたの?」
蘭子は嘘をついた…
恐怖はなかった。ただ、漏らしてる女子に対して「なんか惨めでみっともなくて私より情けない奴だな」と思っただけだった。
「……いや居るじゃん」
「陽菜が居たわよ!このトイレの中よ!」
でもすぐバレた。
しばらくして、漏らし女が私の前にあらわれた。
彼女は(辛うじて)生きており蘭子がかばってくれた事を覚えていたのだ……
そしてこう言った。
「……あなたが私を蔑んだ目で見てきた事は決して忘れない」
「んだとこの恩知らず」
なぜ漏らしていたのかそれは言わなかった。
ほどなくして同級生が蘭子を揶揄わなくなった。
「あいつ…体育館裏でヤモリと結婚式ごっこしてたぞ…」「段田呂巣やば…」「私この前、電柱引っこ抜こうとしてるの見たよ」「もしかしてヤベー奴なんじゃ……」「もうイジるのやめとこ…」
そんで死んだ魚の目をした女の子は私に付きまとうようになった。
「…君があの記憶を消し去るまで…私は君から離れない」
「そんな事より今日、アカムトルム狩りにいかない?」
女の子は近くからネッチョリと私に付きまとうだけだったが、他人の視線ばかりうかがっている根暗に対してひとりの人間として憎悪を向けてくれるつき合いをしてくれた。
クラスメイトから学ぶはずの「他人と親しくする」というあたり前の事を蘭子は目玉が腐乱してるストーカーから知ったのだ。
奇妙な事だが……
小便を漏らし学校中の鼻つまみ者にされた「死んだ魚の目をした女」が蘭子の心をまっすぐにしてくれたのだ。
もうイジけた目つきはしていない…彼女の心には梅雨時期のようなジメジメした風が吹いた……
女は決して蘭子を友達とは呼ばない厳しい態度をとっていたが……段田呂巣なんてふざけた苗字を抱えて生きる蘭子を止める事はできない…彼女の中に生きるための目的が見えたのだ…
こうして「段田呂巣蘭子」はセリエAのスター選手にあこがれるよりも……
『普通の苗字』にあこがれるようになったのだ!
ふざけた苗字を押し付けてきたクソ親父が地球と一緒に吹き飛ぶまであと82日……




